新学期がはじまってすぐの身体測定で、去年と1ミリかつ1グラムも変わっていない数字をつきつけられた。重い息をはく。
「どうしよう、ぜんぜん育ってないよー」
わたしの声が聞こえたのか、紅葉ちゃんが近付いてきた。同じくらいの目線の高さ。
「あたしもだよ。どうしよう楓ちゃんー?」
背の高さ順で並ぶと、先頭と二番目はいつもいつもわたしか紅葉ちゃんになる。
ブラジャーのふくらみは、やるせなくなるくらい平坦だ。人には絶対いわれたくないことだけど、ブラの意味が全然ないと思える。
「大丈夫だよ紅葉ちゃん。きっといまはわたしたちしゃがんでるだけなのよ。大きくはばたくために!」
「そっか、そうだよね! きっとそのうちに!」
えいえいおーと天井へグーパンチ。
とはいうものの、このまま死ぬまでしゃがみっぱなしだったらどうしよう。
紅葉ちゃんの声もわたしの声もそろってから元気っぽい。
「あーら、まな板が二枚集まって、魚をさばく相談かしら?」
後ろから聞こえた声に、ムッとしながらも振り向く――見上げる。見下ろす顔と目があった。ホホホと手を口にあてている。生意気なことに、わたしから見ると相手のあごの先が胸のふくらみに隠れている。
「そっちこそ。牧場にでも就職する気なの?」
わたしたちの成長がしゃがんでいるというなら、彼女のそれは棒高跳び中だ。クラス一番の胸が大きくて、Gカップある。
「ぼ、牧場ですって――」
わたしの言い返しにムッとしたようだったけど、
「うふふ、口の達者さと同じくらい身体の方も成長すればいいのにねえ」
上から目線に頭を撫でられた。
「うるさいわよ。大きければいいってもんじゃないんだから!」
悔しい!
それから一週間くらいして、紅葉ちゃんと一緒に帰っているときだ。紅葉ちゃんが向こうを指さした。
「ねえ、楓ちゃん――あれ」
指さす先を見て、あっと声をあげた。
河原に、透明なビンが転がっている。それだけならどうしたということもないのだけど、中でなにか黒いものが動いたのが見えた。
遠くてよく見えないけど、とがった耳としっぽを持っているように見えた。
「黒猫かも。助けなきゃ!」
紅葉ちゃんと顔を見合わせてうなずきあうと、ビンのところまで走った。近付くと、ビンの大きさは味付けのりがたくさん入った入れ物くらいだった。わたしと紅葉ちゃんはビンの中を見て、
「――えっと、なにこれ?」
「――猫?」
持ちあげたビンの中には、黒くて、とがった耳と、しっぽと――おまけにちっちゃな翼を生やしたこびとが入っていた。
腕をまくらに、あおむけになって寝ている。どうすればいいんだろうと見ていると、それまで膨らんだり縮んだりしていた鼻ちょうちんが音をたてて割れ、こびとの目が開いた。こびとは長々とのびをして、目をこする。
「おや、どうも明るいと思ったら土砂崩れでもあったのかな。久しぶりの陽の光だ、ああ気が滅入る。いっそ夜を呼び寄せようか?」
こびとはひとしきり辺りを見まわして、わたしと紅葉ちゃんに気付くと親しそうに手を振った。
「やあやあこれはこれは。こんにちわお嬢さんがた」
ついこんにちわと返してしまった。
「やあいい挨拶だ。俺は悪魔さ」
いったいなんなのだろうと思っていると、向こうから自己紹介してきた。
――悪魔? でも…………ああ、なるほど。と、思ってしまった。
だって、あまりにもそれっぽいかっこうをしていたものだから。
「悪魔? 悪魔って、あの?」
紅葉ちゃんがビンの中へ問いかける。
「ああ、そうとも。“あの”といわれても他にどんな悪魔がいるものか知らないが、俺は悪魔さ」
こびと――悪魔が指を振ると、わたしたち二人の腕の中に花束がぽんと現れた。図鑑だけでしか見たことのないハエトリグサやウツボカヅラ、根が人間みたいな形をした大根なんかがぎっしりと束ねられている。
「つまらないものですが、お近づきの印にどうぞ」
悪魔は歯を見せて笑いながらいった――悪魔でも歯は白いんだと思った。
「楓ちゃん、すごいよ。本物の悪魔だよ!」
紅葉ちゃんが興奮しだした。なんで?
「お話で聞いたことがあるの。三つお願いを叶えてくれるんだよ! そうでしょ? ねえ?」
「おや、随分俺たちも有名になったもんだ。その通りさ」
悪魔の言葉を聞いた紅葉ちゃんは、迷わず悪魔の入ったビンのふたを開けようとしはじめた。ふたと瓶にまたがって貼られたお札をはがそうと、爪をひっかけている。
「……あれ紅葉ちゃん? なにやってるの?」
「閉じこめられてる悪魔を外に出すと、願いを叶えてくれるんだよ! ……たしか、お話だと壺だったけど」
「おお、これは話が早い。何千回も同じ説明をするのには飽き飽きしていたんだ」
「そのお話はわたしも知ってるけど、願いを叶え終わったら魂をとられるんじゃなかったっけ?」
危ないよといおうとしたら、悪魔はわたしにウインク。
「なに、今回は特別に、願いを叶えても魂はとらないことにしよう。ただし、叶える願いは二つまでだ」
なんてご都合主義なといったら、
「はっはっは、なんてことはない。実は、君たちで願いを叶えようとする人間は一万組目でね、こちらも出血大サービスというわけだ。もちろん、くれるというならやぶさかではないが」
なんてご都合主義な。
ともあれ、そうとなれば紅葉ちゃんをとめる理由がない。わたしも手伝って、二人がかりでビンのふたを開けた。ふたをビリビリはがして、きつくしまったふたをまわす。
少しふたが緩むと、悪魔は煙になってそこから出てきた。
「やあやあ、久しぶりに外へ出られたぞ。さて、願いをきこうか」
わたしと紅葉ちゃんは、同じ願い事をした。
「はっはっは。そんなこと、お安い御用だとも」
次の身体測定では、わたしと紅葉ちゃんを中心に進んだ。
「うわー。150センチだってぇ。すごーい」
座高が、だ。身長が大きくなりすぎて、座高計じゃ座高をはかれないので身長計の根元に体育すわりして座高をはかっている。
「えへへぇ、そんなことないよ」
どうもくすぐったい。
座っているのに、立っているみんなと同じくらいの高さにわたしの目線がある。
「ほんとにどうしちゃったの、あんた達ってば」
わたしの座高より身長よりさらに大きくなったおっぱいは、体育座りの膝に持ちあげられている部分があるのにほとんどが床にべったりとくっついている。
興味本位で半年前の体操服を――見るからに着ることはできないので――胸の上にかぶせてみたら、片方のふくらみにちょこんと乗っていた。お風呂に浮かぶ洗面器みたいだった。
片方だけでもクラスメイト何人分かの体積があるおっぱいが、背の低いクラスメイトならまたげる長さの脚の、生え際からつま先までにずっしりのしかかっている。お腹と膝の間にびっしり詰まっているおっぱいの感触がやわらかい。くっついている床がひんやりしている。
いま正面から見れば、わたしの身体はおっぱいがついたてになって見えないと思う。
立てば膝にひっかかる大きさで、さっき測ったら860センチもあった。大きさを測るとき、巻き尺の輪の四ヶ所を背伸びした四人に持ってもらわないとうまく測ることができなかった。
このままじゃ、バスト10メートルになっちゃう日も、今年中にきちゃうかもしれない。上の服に使う布地は、テントくらいは楽につくれる量だ。
机の上に胸を乗せるとなにも見えなくなる――を通り越して机が潰れてしまうので、いまは床に座って、胸にのせた板の上で教科書とノートをひろげている。それは机四つをあわせたのと同じくらいの面積を奪ってしまう。
座った姿勢から見ると、地面がひろがっているようにも見える自分の胸について、少し考えた。
その隙をつかれた。
「それ、隙あり。ダーイブ」
「あたしもあたしもー」
手のひらにおさまるとかおさまらないとかの大きさがあるけれど、わたしの場合は大の字になった友達を何人も寝そべることができる大きさだ。
上に人が乗ったせいでブラのホックが背中に食い込んできて、キツキツにおっぱいがつまったブラジャーのふちから、お風呂の水が溢れるみたいにおっぱいが乗り出す。
「あ、ちょっとやめてよぉ」
「いいじゃんいいじゃん。あー、気持ちよすぎ」
「これはもっと活用しなきゃ損だってば」
頬ずりしたり、おもいきり抱きしめたり。三人がかりでおっぱいを揉みしだかれちゃう。あ、一人増えた。上からかかった重さで、おっぱいがいくらか潰れて床へ拡がる。
「――もう!」
頭の奥をしびれさせるみたいな気持ちが怖くなっちゃって、ちょっと強引に立ちあがらせてもらった。
立つと、ぐんぐん床が遠くになっていく。みんなが、スキー場みたいにおっぱいからすべり落ちていく。そして、
「あいたたたた」
勢いよく立ったから、天井に頭をぶつけちゃった。痛いところをおさえてしゃがみこむ。
「うわー。潰されちゃうー」
うるさいよもう足下。
あー、失敗した。前かがみしないと天井に頭ぶつかるようになったのは先週からだから、まだ慣れないんだよね。でもこれじゃ、そのうち学校の中は這って移動することになっちゃうかもしれない。やだなー。
「えへへ、楓ちゃんってばドジだねえ」
しゃがんだわたしの、みんなのつむじのかたちがよく分かる頭の高さの上から声がかかる。わたしはあごを上に向け、その声に抗議した。
「そんなこといったてぇ」
紅葉ちゃんだ。ちゃんと前かがみしていて、天井に頭をぶつけていない。いまの紅葉ちゃんはわたしと同じくらいの身長で、わたしと同じくらいおっぱいが大きい。
前かがみの身体のおっぱいは、振り子時計みたいに揺れている。床から教科書一冊分の厚みを浮いていて揺れていて、いまにも下端がこすれちゃいそうだ。背筋をのばして立っても乳首がお尻の下になっちゃうスタイルは、大玉転がしの玉がそのままおっぱいになったみたいな迫力だ。
まあ、それはわたしもなんだけど――人のを見るとすごい迫力だ。わたしたち二人のせいで、クラスの平均バストがすごいことになっている。
背の高さ順で並ぶと、最後と二番目はいつもいつもわたしか紅葉ちゃんになる。
「さあさあ、次はわたしが座高はかるからみんなどいてどいて」
背が高めの草はらをかきわけて進むみたいに、手を振りながら胸を揺らしながらみんなをどかしつつ進む紅葉ちゃん。
歩くとどうしても膝が当たるから、どうしても前後に揺れてしまうおっぱいが後ろ姿からでも見える。
重さに負けて足どりがふらつくことはないけど(たぶん悪魔のおかげだと思う)、慎重に歩かなきゃいけない。――歩くときに脚を動かすのを間違えると、お肉でできたダンプカーみたいにおっぱいが前にあるものを跳ねとばしちゃうのだ。机とか椅子ならまだいいけど、自動車にも負けないおっぱいが人にぶつかったりしたら大変だもんね。
身長計まで歩いた紅葉ちゃんが座り、座高を測ろうと身長計によりかかると、車の背もたれを倒したみたいななめらかさで身長計の棒が倒れてしまった。そのまま寝そべる紅葉ちゃん。
紅葉ちゃんの身体が倒れて起こった風で、机に置いてあった身体測定の数字を書く紙がばさばさばさーっと浮きあがった。
きょとんとした顔であおむけな紅葉ちゃんの、左右に山みたいなおっぱいが寝そべっているのが、遠くに見える山と山みたいだ。
寝ている紅葉ちゃんの、中華まんみたいにそびえるおっぱいのとんがった部分がみんなの頭くらいにある。
あーあ、ああなると自分の腕がおっぱいの下敷きになって動かせないからなかなか立てないんだよね。うん、経験者は語っちゃう。起き上がろうと身体を動かしている紅葉ちゃんの、ふくらみ全部がやわらかそうに震えていた。
わたしは紅葉ちゃんのぐるりをまわって――おっぱいを避けて――紅葉ちゃんの顔をのぞきこむと、笑いかけた。
「紅葉ちゃんも人のことドジっていえないねえ」
「謝るよ。謝るから起きるの手伝ってー」
わたし以外のみんなでは紅葉ちゃんを起こすのに力が弱すぎるのだ。つかんだ手によいしょっと力をいれる。
前かがみに立ちあがった紅葉ちゃんは、片手で軽々と身長計を片付けた。
測りなおすと、座高151センチ――わたしより1センチ高い。
――わたしたちはいったいどこまで大きくなるんだろうか。正直困るのだけど、どうしようもない。なにしろ、悪魔に願ったのだから。
あの日、わたしと紅葉ちゃんは――だいたい予想はついていたけど――同じ願い事をした。
「世界で一番スタイルのいい女の子になりたい」と。
悪魔はしっかり願いを叶えてくれたようだった。次の日から、寝て起きるたび目に見えてわたしと紅葉ちゃんはぐんぐんスタイルがよくなっていった。
ただ、予想していなかったというか、たぶんあの時悪魔はこれを考えて笑ったのだろうと思えることがあった。
わたしと紅葉ちゃんの身体は、お互い世界一を目指して発育しているのだった。
クラスの身長くらべが、ほとんど二人で独走状態になってから気付いた。
わたしが紅葉ちゃんに追いこすと、次の日にはわたしが追いこされている。そのあくる日にはわたしが追いこしている。どうしてもぴったり同じ数字にはならない。
つまり、わたしと紅葉ちゃんの身体は常に相手を追いこそうと日々成長を続けているのだった。
ずっしりと肩にかかる重さ。
そりゃあ困ることも多いけど、楽しくないわけじゃないこともあるのだ。例えば――
「ふーん、Hカップかぁ。ふーん」
いまやクラスで三番目の胸サイズになった彼女――瑞樹ちゃんへ近付いたら、苦労もなく上から記録用紙をのぞき見ることができた。記録用紙を胸に押し付けて隠すHカップさん。紙切れ一枚で隠せる部分がそんなにあっていいなあ。いまじゃクラスの平均バストサイズより小さい胸を隠しながら、
「うるさいわよ。大きければいいってもんじゃないんだから!」
あれあれ? いつだったかにいった覚えがある言葉をいわれたよ? でも、いわれても悔しくないなんて全然知らなかったなあ。ますます勝ったって気分にまでなっちゃう。
よし、決めた。いい気分にしてくれたお礼に、おっきいおっぱいのお姉さんがHカップの貧乳ちゃんと遊んであげよう。
「でもね、瑞樹ちゃん。大きいと、こういうこともできちゃうんだよ?」
そういって、手のひらを瑞樹ちゃんの頭へ下ろしていく。
「ほら、な〜で〜な〜で〜」
「ちょ、ちょっと、やめてよ!」
逃げようとする瑞樹ちゃんを、壁際へ追いつめるのは簡単だった。逃げ場をなくして、それでもなでなでに抵抗しようとしているのかバンザイしてわたしの手を押し返そうとしている。
……そのおかげで、もっといいことを思いついた。
まず、瑞樹ちゃんへおろしていく手の指と指をなるべく広げる。
次に、瑞樹ちゃんのバンザイした右手と左手を指と指の間――中指と薬指、中指と薬指にはさむ。
最後に、そのままぐいっと持ちあげる。
前かがみのわたしと目線が同じ高さになるまで持ちあげると、瑞樹ちゃんの足はもう床についていない。
「大きいと、こういうこともできるんだよ?」
なでなでしようとする前にいったことと同じことを改めていうと、わたしは瑞樹ちゃんを胸の谷間へ沈め、はさんだ。
のみこまれるみたいにつま先から肩まで谷間へ沈んだ瑞樹ちゃんは、わたしが手をはなすと一気に首まで沈んじゃった。まるで溺れたみたいだ。瑞樹ちゃんの重さにおっぱいがたわんで、元に戻る。
ぴっちりあわさっている谷間は、瑞樹ちゃんを左右からはさみこむ。
860センチのおっぱいがぎゅうぎゅうに詰まっていたブラが、人間一人分大きくなった包む体積に悲鳴をあげる。
「ん……ふぁ。すごい、動いてる」
うわ……はじめて人をはさんでみたけど、なんかすごく気持ちいい。瑞樹ちゃんは谷間から抜け出ようともがいているけど、圧倒的に大きなおっぱいが暴れるのを吸収して完全に受けとめている。
瑞樹ちゃんは必死に溺れ続けている。それを見ながらわたしは考える――
――内側から揉まれるのが、こんなに気持ちいいなんて、思わなかった。もう、いっそこの中で人を飼ったらどうなっちゃうんだろうって、やっちゃいけないことを考えちゃう。
疲れたのか、頭しか見えないままぜいぜいと息をはく瑞樹ちゃんへ話しかけた。
「うふふ……どう? 瑞樹ちゃん、わたしのおっぱい、羨ましい? 気持ちいい?」
「だから、大きければいいってもんじゃ……」
肩から下を使っておっぱいを持ちあげると、上がった水かさに瑞樹ちゃんは頭のてっぺんまで埋まってしまう。……がんばって息をしようとするあらい息遣いが溜まっていくのを、おっぱいの中に感じちゃう。
しばらくそうしてから、おっぱいの水位を下げてあげる。と、さっきより息が弱々しくなった瑞樹ちゃんの顔が谷間からあらわれた。
今度こそよしよしとなでなでしてあげたあと、大きく息を吸っては吐く瑞樹ちゃんの、額を指さしてゆっくり問いかけた。
「どう? いろんなことができるわたしのおっぱい、羨ましい?」
「……だから、大きければいいってもんじゃ……」
「ふーん。そういうこといっちゃうんだぁ」
瑞樹ちゃんを、もう一度谷間へ沈めようと身体を動かす。おっぱいが、別のいきものみたいにぶよんと動いた。
「ま、待って。それはやめてえ。お願い!」
「じゃあ、どういえばいいか分かるよね?」
うつむいた瑞樹ちゃんは、それでも口を開こうとしなかった。わたしは瑞樹ちゃんの頭をつかまえて、くるりと回れ右させた。
瑞樹ちゃんとわたしは同じ方向を見ることになる。瑞樹ちゃんの後頭部へ、なるべく優しい声で話しかけた。
「どう? こうやって見ると、わたしのじゃなくまるで自分のおっぱいみたいじゃない? ……もしそうだったら、素敵だと思えない?」
瑞樹ちゃんの首すじがぴくりと震えるのを、わたしは見逃さなかった。
「ねえ? わかるんだよ? ちょっと前のわたしと同じだもん。そしてわたしは、ちょっと前の瑞樹ちゃんと同じだもん」
瑞樹ちゃんには、もうわたしの声は聞こえていないみたいだった。
「なんて……大きいおっぱいなの……もしこれが、私のだったら……」
「たしかにこれだけ大きいと困ることもあるけど――ねえ、分かるでしょ?」
後ろから見る瑞樹ちゃんの横顔、そのうっとり上気した表情が、分かるといっていた。
瑞樹ちゃんが自分をはさむお肉を持ちあげると、胸肉が顔の横へ洗面器ほども盛り上がる。そこへ、夢を見るように瑞樹ちゃんは頬ずりしてきた。
「あぁっ、すごい。こんなに大きいおっぱいにはさまれることができるなんて、私、なんて幸せなの? うん、自分のでないのが残念だけど、こんなに近くで触れあえるなんて、考えられるうちで二番目に幸せ」
輪を描くように動かれる感触が、こちらこそ気持ちいい。さっきまでは谷間から抜け出そうと暴れる乱暴な動きだったのが、だんだんと、おっぱいの柔らかさを楽しむような優しい動きになってきている。
それはそれで、気持ちいい。
「ううん、違うわ。もしこれが自分のおっぱいだったら、こんな風に全身で楽しむことなんてできない。これが一番いいかたち、一番幸せなかたちなんだわ。なんて素晴らしいおっぱいなの。それを一番近くで味わっている私はどれだけ幸せなの?」
どれだけぽぅっとしているのか、瑞樹ちゃんは考えていることをそのまま声にする。張り付けにされた身体を、一生懸命に動かしている。
……うん。それ、その揉み方、すごい気持ちいい……
瑞樹ちゃんは、手近なところにかぶりついた。赤ちゃんみたいに歯をたてず、吸盤みたいにお口を使って胸の肌を吸う。
――ふぁ、吸われて瑞樹ちゃんのお口の中で乳首みたいにぷっくり膨れたおっぱいが、舌にいじめられている。ふぁぁあ。
なにより、瑞樹ちゃんの動きが、表情がいやらしい。
頭を白いものが閃いて、背筋が震えて、つい腕に力がはいってしまう。谷間が寄せられて、瑞樹ちゃんはますます強く、解放したら型がとれそうなくらいの手加減なしに柔肉と柔肉とにはさまれる。
「ああ、瑞樹のご奉仕へのご褒美、すごいパイ圧、最高、最高です。楓――お姉さま」
でも、楓ちゃんは喜んでいた。
お姉さまとかいう単語が気になったが、こっちもそれどころじゃない。膝に力がはいらなくて、くたくたと座りこんでしまう。おっぱいが床へ拡がっていって、肩にかかる重さが減っていく。自分の胸へしなだれかかって座った。
座ると、脚が地面にくっついてる面積より胸が地面にくっついてる面積の方が大きい。
「ん……はぁ」
ここまで我慢していたけど、わたしも大きく深呼吸。
おっぱいの下に地面ができたので、いまなら瑞樹ちゃんは楽に谷間から抜け出すことができる。しかし、そうしようとしない。それどころか、胸の谷間を手でかき分け足で踏みしめ、無理矢理つくった通路を進みながらわたしの首もとめがけて近付いてくる。
「……素敵。もう、ここから出るなんて考えられないわ。ねえ、ずっとここに住まわせてお姉さま」
瑞樹ちゃんはそういうと、自分の胴くらいもあるわたしの首に腕を巻きつけ顔を寄せてきた。
――うーん、どうしよう。ちょっとからかうだけのつもりだったのに。……しかも、
「うん、いいよ。その代わり、わたしがおっぱい揉んで欲しいっていったらいつでも揉んでね」
と、わたしはよく考える前に瑞樹ちゃんに返してしまった。なぜだか、嫌では、なかったのだ。
「ああ、幸せですお姉さま。ええ、もちろんおっしゃることに従いますとも。瑞樹は楓お姉さまのペットですから」
こうして、わたしにペットができた。
学校を卒業するころには、わたしも紅葉ちゃんもますます大きくなっていた。
どのくらい大きいかというと、秘密なんだけど。
一年くらいをめどにして、紅葉ちゃんと二人で日本中ぶらぶらしようと決めた。
自分になにができるかをよく考えてみようと思う。
そして、瑞樹ちゃんの進路はわたしのペットということでいいらしい。いいのだろうか。
「お姉さまとご一緒できないなら瑞樹は誰の谷間にはさまればいいのですか?」
いいらしい。
……嬉しいと感じた。むしろ、いまでは瑞樹ちゃんが谷間に挟まっていないとどこか落ち着かないのだ。
ずっとわたしの肌と触れあっていたせいか、瑞樹ちゃんもずいぶん大きくなった。座高を身長計で測るくらいは背も高いし、腕がブラの肩ヒモの細さにしか見えないくらい胸も大きい……ノーブラだけど。
とはいえ、瑞樹ちゃんがひとつ大きくなる間にわたしはひとつと半分とかふたつ大きくなるのでわたしから見た瑞樹ちゃんはますます小さい。
卒業式を終えたわたしと紅葉ちゃんがいつか悪魔と会った場所を通りかかると、悪魔が現れていった。
「やあ、お嬢さんたち。実はいい忘れたことがあってね、ビンから出してくれてありがとう!」
完