やがて少女は心の傷が深くなり、傷つきやすくなる――
*第一話「其れは儚い少女の心」
学校の教室で苛められている可憐な少女がいた。少女の名前は結城 茜(ゆうき あかね)。そして、茜を苛めている女子のグループは四人で、苛めっ子のリーダーである眼鏡でブスの少女・五十嵐 司(いがらし つかさ)。司は三人の悪友と共に茜を苛めていたのだ。
「ふん」と鼻で笑うと司は茜の胸を掴み、強くつねる。茜は顔を歪め、可愛らしい声を上げる。にやにやと司は嘲笑うかのように其の儘強くつねった。そして彼女は茜に対して見下すような態度で言った。
「ふん、何さ。その大きな胸は。それで男子の虜になるってわけ? 生意気にも程があるんだよ!」
そして司は右手で茜の胸を、左手で茜の頭を掴んで壁に叩き付けた。ガツンと固い壁に茜の後頭部にぶつけて茜は激痛が走り、顔を歪め、小さな悲鳴を上げる。
「あっ……、あぁ……!」
「いい気味だね。あんた達、この乳牛をやっちまいな」
「あいよ、司」
「任しときな」
司は連れである三人の少女に命令をすると、三人の少女は机や椅子、箒を持って茜を衝いたり叩いたりしていた。茜は司達に酷い仕打ちを受けてただただ抵抗できずに耐えていたのである。司は茜の事が大嫌いで、彼女の存在が非常に邪魔であるため、消し去ってほしいから茜を苛めているのである。
茜は泣きそうな顔で司達を睨みつける。顔も赤く腫れていて、体中も痣だらけになっていた。睨まれた司は怒りを覚えたものの、茜の頭を掴んで壁に押し付けた。彼女は力強く茜の頭を押さえつけながら怒鳴りつけた。
「何だ、其の目は。生意気なんだよッ!」
「きゃあっ!」
「大体あんたは其の存在が気に入らないんだよ! あたしにとってあんたは目障りな存在だ。姿を見るだけでヘドが出る!
其の牛のような胸をして、其の胸をブルンブルン揺らしてさ、男子の虜にするなんてムカつくんだよ! あんたなんか消えちまいな!」
ガンガンと壁を押し付けては離し、押し付けては離してと暴力的な行動をした後、茜をぶんと乱暴に突き飛ばした。茜は何も抵抗できずにただただ耐えているだけ。何をされても抵抗せずに其の日まで耐えていたのである。
うるうると瞳を潤いながら茜は教室の床に座り込み、涙を流して泣いていたのである。司はそんな彼女の顔を見てはぁ、と溜め息を一つ吐いた。ずっとやっていた手を止めて三人の連れに声をかけると、其の儘去っていったのである。
*
結城 茜 十六歳。身長百六十四センチ、体重四十七キロ。高校一年生の中でも最も成績が優秀で、容姿端麗、運動神経抜群である。また、美術も得意であるという何でも出来る『天才』であった。しかも、最も驚くのは茜の大きな胸である。妊娠十ヶ月くらいの大きな胸である。否、赤ちゃんを四人ぐらい抱えた感じの大きさである。
クラスの女子は皆巨乳であるが、特に茜の胸が仰天するほど大きかったのであろう。其のため、クラスの女子に散々苛められているのであろう。特に司に散々苛められたいるのであろう。
苛めっ子の司は茜と同じく十六歳の高校一年生。身長百六十九センチ、体重七十キロ。体育と英語は苦手だが、それ以外は全て成績優秀の少女である。音楽も得意なため、其の顔に似合わず、ピアノもヴァイオリンも出来る。
一番のコンプレックスは勿論体型と顔。女子の中では太っている方で顔が丸く、二重顎になっているのである。太っているためなのか胸も大きいのである。デブとガリ、対照的な二人の因縁は出会ってから三ヶ月過ぎた頃に始まり、今の状況になっていったのである。
*
毎日のように司や男子などに苛められている茜を思ってくれているのは小柄で可憐な少女である。彼女の名前は真田 美樹(さなだ みき)。彼女もまた、茜と同じいじめを受けている哀れな少女だ。身長は百五十五センチ、体重三十八キロ。其の細身に似合わぬ大きな胸が特徴である。境遇は何処か茜に似ているのか、其の大きな胸のことが影響で『いじめ』を受けていたのである。
そう、美樹もまた、茜に次ぐほどの大きな胸の持ち主だったからである。其の大きな胸のせいで、茜と同じような仕打ちを受けていたのであった。ある時は教室で掃除道具の倉庫に閉じ込められ、またある時は黒板消しで大きな胸のところに当てられたりして、哀れな生活を暮らしてきたのだ。
其れから美樹と茜はクラスは違えども、中学からの親友であったため、放課になれば二人は出会い、話し合っていたのであった。今の美樹はクラスの友達がいるのだ。いじめについて話し合い、理解しあえる仲間を見つかったのである。それに対して茜は友達が誰一人いない。寧ろ友達になろうともしないというクラスの皆がいるから哀しいのである。
すると、美樹の友人が彼女に声をかけてきたのである。声をかけたのは二人の男女である。彼等こそが美樹のクラスでの親友である。
「美樹ちゃん、この子、どうしたの?」
「ああ、葵(あおい)ちゃんに和哉(かずや)君。茜がクラスの女子からずっといじめを受けているんだよ。それなのに先生にも言わないんだよ……」
「そうなんだ……。茜ちゃん、いい人柄だと思うんだけどね……」
少女の名前は後藤 葵(ごとう あおい)。美樹のクラスメイト。身長は百七十三センチと大柄であるが、体重が五十一キロと細身なのだ。彼女は美樹のクラスの中でも最も背が高く、成績が優秀なのである。また、大人しい性格であるため、滅多に怒らない。
少年の名前は宍戸 和哉(ししど かずや)。葵と同じく美樹のクラスメイト。身長は百八十センチといった高校生の中では大柄である。体重は六十七キロ。運動神経は抜群、成績は男子の中でも学年トップで何でも出来る『天才』なのだ。また、紳士的な性格であるため、女性には優しいのである。
また、和哉は男なのに女のような美しい顔立ちをしているため、女と間違えられやすいのである。
すると美樹は葵と和哉に茜から聞いた事を全て話すと、二人は驚きを露にしていたのである。「まさか……茜ちゃんが其処までされてしまうなんて……!」と葵は驚きを露にしながら言い、あんぐりと口を大きく開く。当然、和哉と葵は茜が苛められている事すら知らなかったのである。
和哉は茜に心配そうに声をかける。彼の声も高めだ。
「ねぇ、茜ちゃん。大丈夫なの? 辛くない?」
茜は黙ったまま縦に首を振った。そう、茜はこれまでどんないじめを受けていてもずっと我慢をしてきた。抵抗もせず、ずっと苛められているのにも拘らず我慢をしていたのである。苦しくても、哀しくても、最後まで耐え抜くところが茜の忍耐力の凄さである。
普通の人にはない忍耐を持ち、今まで耐えてきたのである。いじめを受けていても、辛い事をされていても、今まで耐え抜いてきたのだ。普通の人ならば精神的に大きなダメージを受けてしまい、鬱病になってしまう事だろう。あるいは、ニュースでよくあるように不登校や自殺をするといった行動が多いだろう。
茜は顔は笑っていても目が死んでいるような表情で美樹達に見せた。
「うん……大丈夫だよ。うち、そういうの慣れてるから……」
やはり、茜の顔が笑っていても目が死んでいるというのは相当司達に苛められて精神的に大きなダメージを及ぼしているに違いない。我慢強い茜でも、其処まで残虐な行為を受けてしまっては普通の人は立ち直れないほどの鬱になるのだろう。
司の言動や行動に重い罅が入ってしまったのだ。彼女の言動を振り返ってみる。
『大体あんたは其の存在が気に入らないんだよ! あたしにとってあんたは目障りな存在だ。姿を見るだけでヘドが出る!』
「存在が気に入らない」、「目障りだ」、「姿を見るだけでヘドが出る」という言葉が茜の心を深く突き刺したに違いない。普通の人ならば鬱となって不登校になる。彼女は司の言葉を受けて、精神的に大きなショックを受けていたのである。とても辛い事になるだろうし、哀しい事になるのである。
しかし、いじめを受けていた茜は「大丈夫」と言っているからいいと思うのだが……本当に大丈夫なのだろうか? もし、茜が辛いと思ったときには美樹達は彼女に協力をしたいという思いが大きいのだ。
美樹は茜の手を当てて、彼女にいじめの件について訊ねた。
「茜、ずっと黙ってないで、其の事を話しな。あたし達、茜の力になるから……」
「…………」
茜は口ごもったまま暫くすぎた後、そして口を開いたのである。いじめの件のことも全てを話した。
「……ずっと言わなかったんだけど何時か話そうとそう思ったんだ。うち、今もそうだけど五十嵐 司さんと連れの女子にいじめられているんだ。
例えば、うちの胸を鷲掴みにしたり、揺らしたり、うちを蹴飛ばしたりして……其れから教室の椅子で頭を殴ったり、箒で突っついたりしてね……」
「…………」
「本当は辛い……辛いの。でも、ずっと耐えなきゃと思ったの。中学校のときからそうやってうちを……」
話していくうちに茜の目からぽろぽろと宝石のように輝いた一筋の涙が頬に伝った。両手で顔を覆い、廊下の床下に座り込み、喘ぎ声のような声を発して泣き始めた。泣いている茜の傍にいる美樹、和哉、葵はただただ黙り込んでいるだけだったのである。
こんなにも辛い思いをしているのに、この少女は――茜は辛くても其処まで我慢をしているのだ。そっと手を差し伸べたいほどにもう精神的なダメージを酷くなっていた。
普通の人なら現実逃避をしたいほど。自殺をしたいほどの限界に達しているのだ。
――其の傷ついた体と心を癒してもらえるものはありませんか?