おとぎストーリー天使のしっぽ ルミの守護日記

美咲 作
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第3話「牛乳(うしちち)娘七変化っ!」

「せっかく…あんなに頑張って来たのに…たった一日で終わりなんですか…」
「…」
泣き崩れるルミに対して俺がかけられる言葉は無かった。もし彼女が知らずになにかの掟に触れてしまっていたとしても何の説明も警告もなしにその力を封じられてしまうのはあまりに可哀想だ。…いや、掟ではなく地上に当たり前にある物のなかで守護天使にとっては猛毒になるようなシロモノに知らずに触れてしまったんだろうか…。
そう言えば神話のなかにも死者が一度でもあの世の食べ物を口にしてしまうと例え神の力をもってしてもそのまま地上に連れて行く事は出来ない…なんて話しが結構あったような気もする…。
俺は暫く迷った末に泣き崩れるルミを後ろから椅子ごと抱きしめた。そして頭やうなじを軽く撫で続ける。お風呂から上がり立ての少女からの独特の甘い香りが俺の鼻腔を擽った。そう言えばいままで、抱きつくのは基本的にルミの方からで俺からは頭を撫でるぐらいしかしていなかったんだ。
俺の腕の中で次第にルミは落ち着きを取り戻す。
「…ご主人様…」
「少しは…落ちついたかい…ルミ…」
「いえ…まだ…ドキドキしてます…でも…さっきまでと違ってイヤな感じじゃないです…」

 後ろから覗き込んだルミの表情はこの世の終わりのような…いや、『めいどの世界』とやらに呼び戻されると言うのであればこの世にいられるのが終わりということになるが…絶望的なぐらいの蒼白から、さっきのお風呂で見せた以上に真っ赤になっていた。
「1回ぐらいの失敗がどうしたんだよ…それを言ったら今日のルミは失敗続きじゃ無いか」
「すみません…」
「謝らなくていいよ、お陰でルミの水着姿が見れたんだし」
「…別に失敗しなくても…あのぐらいのお手伝いをするのは当然です…」
ルミは恥ずかしいのか真っ赤な顔のままうつむいた。少なくともさっきみたいに悲痛な表情で泣かれるよりはよっぽどいい状態だ。でも、神でも天使でもない俺にいったい彼女に何がしてやれるのか…正直困ってしまうのだが…。

結局、俺に出来るのはルミの話しを聞いてやり、一緒に考えることくらいだ。ルミはとりあえず落ちついて服を出そうと集中し始めて見ると、どうやらルミの能力は完全に使えなくなっているのではなく、サイズの調整が上手くいかない状態であるらしい事だけは判ったのだ。
そう言えばお風呂の時に出した水着もサイズはやや小さかったような気がしたが、今着ているものほどではなかった。いや、今着ているものでもとくに問題なるのは下着…しかもブラジャーの方だけだ。
使うこと自体は出来るので試しに、さっきの水着にもう一度変身してもらう。さっきのならイメージしやすいのではないかと思ったからだ。
「どこか…変な所ありますか?…」
「…いや、お風呂の時にはそこまでじっくり見たわけじゃないけど、さっきと変わらない…」
正確にはさっきよりも一回り…とくに胸の部分はお風呂で見た時よりもむしろ食いこみが減ってサイズがしっくりと来ている様に見える。…しかし改めて近くで見るとルミの胸の膨らみのサイズは凄いものだ…メジャーを当てて測ったわけではないが、140センチを少しだけ越えた小柄な体に反して90センチは楽にあるんじゃないだろうか…。
「…ご主人様…やっぱり恥ずかしいです…」
「…じゃあ次は一番得意…と言うか出し慣れたのを頼む」
「はい…」
次の瞬間ポンと小気味の良い小さな破裂音とともにピンク色の煙が上がりルミの姿を覆い隠したかと思うと、たちどころに煙は薄れ、ルミはかっちりとしたデザインの淡いピンクを基調にした衣装を着て立っていた。
しっかりとした仕立ての上着と白いフリルのついたミニスカート、白で統一された二の腕までの長い薄手の手袋、ニーソクッス、さらには襟元と背中には蝶結びのリボンの様な黄色いスカーフや帯が付いている…ウエイトレスの制服めいた、女の子らしさと作業をするときの機能性を同時に追及した感じがする衣装だ。
天使だけあってなのかご丁寧にも上着の裾やニーソックスには翼を模った小さな刺繍が縫い込まれていたりもする。
「…それは?」
「…守護天使の制服…です…『めいどの世界』に居たときにはこれにリングと翼が加わるんですが…」
別におかしなところは見えないのだが、ルミの表情は冴えない…。
「もしかして…それも…?」
「…はい…やっぱりサイズが違ってます…」
「どの辺が…」
俺の言葉に、ルミは恥ずかしそうに顔を伏せ気味にしながら応じる。
「…胸の辺りが凄くきついです…」
「…」
確かに、ルミがさっきまで着ていたゆったりとしたタンクトップや水着に比べたらはるかにきっちりとしたデザインだからサイズが小さければ苦しいだろうが…俺は不意にあることに閃いた。今見せた3つの服は全て胸の部分が小さいのだ、しかもそのサイズの不足は『出し慣れたもの』ほど激しい様に思える。サイズの調整の能力がおかしくなっているのならサイズのずれはもっと出鱈目になる気がする。もしも俺の推測が正しいのなら…。
「ルミ、ちょっと気が付いたことがあるんだ…知っているけど今まで出したことが無い服の中でそれと同じぐらいキッチリとしたデザインの服を出せないかな?」
「えーっと…正直上手く行くかは判りませんけどやって見ます…ちょっと待って下さいね…」
ルミは暫く自分の体をくまなく眺めたあと、軽く目をつぶって意識を集中しはじめた。

「それでは行きますよぉ…せーの!」
待つ事しか出来ない身にとっては永遠にも感じるような数分の沈黙を破るようにルミの気合の声が上がり、次の瞬間ポンという軽い破裂音とともに濃密なピンク色の煙が上がる。
そしてあっという間に煙はあらゆる痕跡を残すことなく嘘の様に消え、ルミはこの近辺では見かけないような…でも何処かで見たことあるようなデザインの、学校の制服らしき緑色のセーラー服姿で立っていた。
「ふぅ…なんとか出せました…」
 ルミは自分の出した服の出来映えを確認するべくあちこちをチェックしはじめる。
「で…サイズは大丈夫なのか?」
「不思議です…」
 俺の言葉にルミは胸元の布地を引っ張りながら軽く首を傾げてみせる。
「失敗するとばかり思っていたんですけど、14年前に見た通りのデザインになっていますしサイズもぴったりなんです!」
 14年前…というルミの言葉に、その制服がどこかで見た事があるような気がしていた理由が氷解した。
ルミが出した制服は、前世でルミが飼われて居た家の娘・みちるさんが通っていた高校の…ルミが死んだ頃の制服だ。
「それって…みちるさんが着て居た制服だよね…」
「ええ、ご主人様。こうして着てみるのは初めてですけどあの頃は毎日の様に見ていた服ですから…」
俺も同じ高校に通ったとはいえ俺がそこに通っていたのは4年前…その頃には制服がブレザーになって居たから、見慣れて居た制服のはずなのにルミの言葉を聞くまで気がつかなかったのだ。
「…それにしてもサイズまでぴったりなんて変な気がします」
13才にしては規格外のサイズとも言えるルミの豊かな双丘だが、その緑色のセーラー服の胸元は窮屈どころか引っ張って見せるぐらいの余裕すらある…もちろんぶかぶかというのではなく適度なゆとりという意味での余裕だ。
そして、ルミは『14年前に見た通りのデザイン』と言っていたが、もしも当時の…17才の頃のみちる姉さんが着てた制服をサイズの調整が出来ないまま再現していれば、全く体形が違う以上、『偶然に』今のルミにぴったりのサイズになるとは考えにくい…やはりサイズの調整能力がおかしくなっているのでは無いようだ。
「ルミ…キミのスリーサイズってどのぐらい?」
「…え?…服はこの能力で出せますから正確に測る必要は無いんですけど…」
ルミは不意の質問に対して耳まで真っ赤になる。
「一応、2ヶ月ほど前に測ったのが上から86のE・60・80です…」
…少なくとも俺の推測はかなり近いところにある様だ…おそらく…。
俺は机の引出しから安物のメジャーを取り出す…部屋のスペースにキチンと収まる家具を安く手に入れるために中古屋めぐりをするならば100円ショップで買ってきたこいつでも結構重宝するのだ。
「ルミ、一度こいつで今のサイズを測りなおしてみてくれ」

結局、ルミは自分一人では上手く測れないということで、脱衣所に行って洗面台の鏡の前で俺と一緒に測ることになった。
流石に全裸と言うわけにもいかないので、ルミはサイズを測るのに邪魔にならないように薄手のビキニ水着のようなものを身につけている。鏡の前に立ちしっかりと『やや大き目のサイズ』を意識していたせいかサイズにはなんとか問題はないらしい。もっともいつも以上の集中を要したらしいのだが…。
しかし…後ろからとは言え女の子の体のサイズを測るなんて普通の男子学生には体験できる行為では無い…いや、後ろはほとんど紐みたいなものだけに逆に目のやり場にかなり困る状態だ。
やはりさっきの風呂では、スクール水着のままにしておいて正解だった様だ。うっかりこんなデザインの水着を出した上にサイズが間違っていたのなら、それこそなにかの弾みで脱げたりしていたに違いない。
ルミがメジャーをその熟したメロンのような乳房に当てたのを見て、俺はメジャーにたるみが出ない様に引っ張りながら0のところと86センチのところを重ねようとする。
「引っ張りすぎです!!ご主人様ぁ!!もっと緩めてください!!」
 なるべく見ないように意識していた正面の鏡に目をやると、確かにルミの大きくて柔らかそうな二つの膨らみにしっかりとメジャーが食い込んでいるのが見て取れた。
「これでこのメジャーの86センチの所だよ?」
「え?本当ですか!?」
疑うルミにメジャーを渡し、今度は彼女自身が端っこを持って測りなおす…。
「…本当に4、5センチは違いましたね…」
結局、もう一度俺が測ると92センチだとわかった。そしてウエストやヒップはほぼルミの申告通りのサイズだったりする。本人は成長した自覚が無いまま6センチも小さいサイズで服を出していたらきついのも当然だ。
「おかしいですね…ウエストは変わって無いのにアンダーが減ってるんです…」
女性の身体のサイズを『スリーサイズ』と言うだけあって胸囲・胴回り・腰を上から順にバスト・ウエスト・ヒップと呼ぶ…と言う程度なら俺にも判るがルミの口から発せられた意外な言葉に俺は怪訝な声を上げながら首をかしげる。
「えっと…アンダーって何処のサイズ?」
「それは…」
 ルミはちょっと顔を赤らめながら自分の左の乳房を軽く持ち上げると、その下側を示してみせた。
「…おっぱいの下側の胴まわりのサイズです…同じバストでもそこが細い人のほうが大きい乳房がついていることになる…ってのはご主人様も判りますよね?」
「ああ…なんとなく判る」
「27センチの差があるんでGカップということになるんです…」
 Gカップ…そんなものはグラビアアイドルだけの数字だと思っていたんだが、それが13才の小柄な少女についているとなれば数字以上に凄い存在感になるのも当然だ。
「うーん…制服は『めいどの世界』から出発するまでは普通に着れていたはずなんですけど……実際にはあと1センチでHカップになるぐらいのサイズがあるのに、Eカップのつもりで下着や服を出していたらきついのは当然ですよね…」
「…Hカップって…」
思わず俺はアルファベットをAから順につぶやきながら指を折ってしまう。
原因さえ判れば、あとはそう難しい事ではないはずだ。能力自体に問題が無い以上、現在のスタイルに合わせた服が出せるように何度か練習すれば事は足りる。
「それでは行きますよ〜、えい!!」
気合の声を上げながら、ルミは次の服を出現させる…急速にピンクの煙が晴れると…次の服は下着だけだった。淡いブルーの生地で彼女の豊かな乳房の下半分程度を覆うだけのシンプルなデザインだ。今まで服ごしに見えていた下着のラインからすると、ルミはタンクトップと組み合わせるのならブラの肩紐は無いほうが良いという感じでこのタイプのを愛用していたんだろう。
まず練習と言うことで、使いなれたデザインのもので下着だけに集中して…。
「ああっ!!ご主人様っ!!見ないでください!!」
ルミは自分の服装を確認し、次の瞬間、耳まで真っ赤になり大慌てでしゃがみ込んでしまった。
「…ブラジャーのサイズをキチンと体に合わせたのを出そうとしたら、うっかりしててそれしか考えてませんでした…」
「…つまり…他にはなにも服を出して無いって事?」
ルミは今にも泣き出しそうな顔をしながらこっくりとうなずく。彼女は俺のすぐ前でしゃがみ込んでいるので逆によく解らないが、どうも下着だけしかもブラジャーしか出せていなかったようだ…流石にちょっと心配ではあるがこの状態ではどんな無茶な格好になるかわかったものでないだけに気が済むまでルミ一人で練習させた方が良いだろうと思い俺は脱衣所を後にした。

もともと服を変えるのは守護天使にとって基本的な能力らしいから、自分が思っていたのと身体のサイズが違っていることさえ実感できれば、出す服のサイズをそれに合わせるのは難しいことではないと思う…実際多少の誤差は無意識に合わせていたんだし…。
ルミはものの3分もしないうちに脱衣所から出てきた。服自体はさっきまでと同じく緑色のタンクトップにジーンズとかわらないが、タンクトップ越しに判るブラジャーのラインは不自然に食い込む事はなくなっていた。
サイズの合わない小さな下着のせいで出来あがっていた谷間は姿を消したが、ルミのその膨らみはブラジャーの圧力から解放されたせいか、逆にその柔らかさと見事なまでの形を強調し、ちょっとした動きだけでその弾力を見せつけている。
「ごめんなさいご主人様…またわたしのせいでご迷惑をおかけしてしまって…」
「だから気にするなって、俺がしたのはちょっとしたアドバイスだけなんだから」
…確かに迷惑がかかったといえば迷惑かもしれないけど、なんかルミを見ているとそれ以上に楽しかったのも事実だ。俺は一人っ子だったからよく解らないけど、たぶん妹がいたらこんな感じなのかな…なんてちょっと思った。
しかし『妹』と言っておいたあとから不謹慎な話しだが、ルミのそのスタイルは正直刺激的過ぎる。向かい合わせの席に着いているルミのゆったりとしたタンクトップの胸元から覗く豊かな双丘につい、目が行ってしまう。
そうなると、先ほどまで風呂で頭を洗ってもらっているときにそれが背中に押し付けられていたことや、ビキニ水着の上からきつくメジャーが食い込んでいたことを、たとえ気にしない様に意識しても…いや気にしまいと意識する以上気になってしまっている証拠だが…つい思い出してしまうのをどうにかルミに悟られまいと必死になりながら、なんとか長い長い夕飯も終わった。

洗いものや洗濯ものはルミに任せて…と言っても、洗剤の置き場所やら洗い終わったお皿の収納場所といったある程度の助言は必要だったが…俺は課題のレポートやらを片付け始める。もっとも先刻のルミのビキニ水着姿や激しく食い込んで見事な谷間を作っていた胸元なんかのことを意識し過ぎて全然集中できやしないのだが…。
集中こそ出来ないとは言え課題のレポートをなんとか進めている内にどうやらルミの方の作業が一段落したらしくルミは俺の方へとやってくる。
ほのかにコーヒーの香りが漂いだしたところを見ると、ルミは気を利かせて淹れてくれていたのだろう
「ご主人様…コーヒーをお淹れしましたので、すこし休憩されてはいかがですか?」
「ああ…ありがと…」
俺はレポートを書く手を休め、軽く伸びをしてからルミのほうへと振り向くのだがそのまま思考が停止する。
白の縦襟のブラウスにひざ上15センチぐらいのピンクのミニスカート、スカートの前側を覆うピンクのエプロンの幅広の紐はルミの豊かな胸のふくらみを左右から押さえつけ、やや小さめのサイズらしいブラウスは内側からの圧力に対して猛然と立ち向かい限界へと挑戦しているところだった。
そしてなぜか胸のところにはピンクのハート型の名札がついていて、これまたなぜか平仮名で『るみ』と名前が書かれている。
……えっと……貧乏学生の俺は実際に行った事も現物を見たこともないのだが、これはどう見てもとある有名なファミリーレストランのウェイトレスさんの制服にしか見えないんですが…。
「…ルミ…いったいその格好は…」
「…どこか…デザイン変でしたか?…ちょっと胸元はキツ目ですけど、この服はこういう感じらしいですし、布地やボタンとかはちゃんと意識してしっかりした造りのものにしてますから大丈夫ですが…」
ルミは不思議そうな表情で自分の服装を点検し始める。確かに冷静に考えればブラウスにはタンクトップと違って半袖とは言え袖がついているし、スカートの短さなら守護天使の制服もいい勝負ではあるんだが…自分の服におかしいところがないかを必死で探しているために動き回ると、限界に挑戦中のブラウスに包まれた胸元の強調されぶりは布地は余っていないが目に余る状態だったりするわけで…。
「いや…デザインの問題じゃなくて、それはこういう時に着る服じゃない気がするんだけど…」
俺の指摘にルミは硬直するが、いそいそとコーヒーの乗ったお盆を机に置くと次の瞬間ポンと小気味のよい爆発音がしてピンク色の煙が上がる。
「えっ!?あ…すみません!いまは夜ですからこっちですよね!!」
天使の能力が生み出した煙だけあって、ルミの姿が見えなくなるほど濃い煙にもかかわらず次の瞬間には何の痕跡も残さず煙は消え、今度は胸元を大きく開いて強調したデザインのワインレッドのレオタードに編みタイツ、蝶結びのリボンがついたチョーカーそして頭には誰がどう見てもウサギの耳以外の何ものにも見えない物がついたカチューシャ、お尻のところには白くてふわふわのまあるいしっぽ…つまりバニーガールの格好でルミは立っていた。
13才の女の子がこんな格好をしても普通は似合わない…まあ逆にそのアンバランスさが不思議なかわいらしさを醸し出していたりもするのだが、なにしろ小柄な体格のせいで実質Hカップのボリュームを誇るたわわな双球がはみ出さんばかりの状態でレオタードの中に納まっている。
「……」
「あの…ご主人様??」
不意に出現したバニーガールに思わず硬直した俺に対してルミは不安気な表情で顔を近づけてくる。
つまり椅子に座っている俺の顔を立っていたルミが上体を折り曲げて覗き込んでくるわけだが、そうなれば重力に引かれて搗きたてのお餅のような柔らかさと圧倒的なボリュームを見せつける甘い二つの果実が、申し訳ばかりのワインレッドの果皮から零れ落ちそうになる様が否応なしに俺の視界に飛び込んでくるのは自然の摂理なわけで…。
「あのぉ…」
呆然となる俺の目の前でルミがしきりに手を振って見せる。
「…ごめん…悪いけどそれも普通はこういう時に着る服じゃない…」
「ええ!?」
 やっとのことでそれだけの言葉を搾り出した俺に対してルミはこれ以上ないと言うぐらいに目を丸くして驚いて居た。
「そんな…ご主人様に飲み物を持って行く時はさっきの格好かこの格好をするのが決まりだって先輩に教わったんですけど…」
「…先輩って、どんな先輩だよ…」
俺は軽い頭痛を覚えながらやっとのことで言葉を搾り出す。
「…めいどの世界の守護天使達の間は凄く有名な上級天使の方です!なによりメガミ様と同じ聖なる丘で生まれた…地上界の言いかただと妹にあたる方で、メガミ様が守護天使だった頃にはメガミ様と同じご主人様に仕え、今でもあえて昇格試験を受けずに地上界にとどまりご主人様を守護されつづけている方で……」
そこまで言って何故かルミは言葉を切ってしまった為、しばらく奇妙な沈黙があたりを支配する。
「……あ、わたし勘違いしてました…えっと…」
突如、本当に記号的な爆発音がして濃密なピンク色の煙が上がり、次の瞬間には何の痕跡も残さず煙は消えた。
あたらしいルミの服はバニーガールによく似ているが細部はあちこちが違っていた。
レオタードは基本的には白で縁取りには白いファーがあしらわれ、手のひらぐらいのサイズの黒のまだら模様が所々に…つまり一般的な人が持っているイメージの乳牛の模様そのものな柄、しっぽやカチューシャに付いた付け耳や角はまさに牛だった。
御丁寧にチョーカーについているのは大きなベルだったりする。
「…先輩はウサギの守護天使ですからわたしの場合はこうですよね?」
……役職や能力の高さと人格のレベルは必ずしも比例しない…と言う実例を今まさに目の前で見せつけられ、俺は思わず天を仰ぐ…その視線の先には見たこともないルミの先輩とやらの姿が浮かんだような気すらして。
「ルミ…それって、その先輩に担がれてるんじゃないか?」
「ええっ!?でも先輩はすごい方なんですよ?担ぐだなんて…」
女神さまの妹の上級天使…っていうからには『凄い』ってのは確かなんだろうけど…。

「…飲み物を持っていくときにそういう格好をする必要がある場面…じゃなくて場所ならあるにはあるんだけど…百歩譲っても『普段は』そういう決まりはないよ…」
「…せっかく…ご主人様に喜んでもらおうと恥ずかしいのを我慢して…先輩に教わった通りに一生懸命やったのに…失敗…でしたか…」
ルミは見て判るほどがっくりと肩を落すと半ば涙目になりながら机の上においたお盆を取りに戻ろうとし、俺は思わず立ちあがりそのまま消え入りそうなルミを後ろから肩を掴んで引きとめた。
「…ご主人様…」
こちらを振りかえったルミと一瞬目が合うが、ルミは再び視線を落す。努めて平静を装って居たもののあの格好の恥ずかしさは相当なものだったのか、少女の肢体は火照り、うなじや胸の谷間にはうっすらとだが汗がにじんでいるのが…いや、俺に見せまいとして俯いたままに流した涙だったのかもしれない…が目に入った。
「…ごめんなさい…」
俺はいまにも泣き崩れそうなルミの体に無言のまま手を回すときつく抱き締める…。13才の少女の華奢な肢体の軋みと少女に不釣合いなサイズの乳房の弾力が不思議なハーモニーを奏でながら俺の中に溶け込んでくる。
「謝らなくていい…」少女の幽かな火照りと悲しみは…さっきまでの俺の中にあった『先輩』に対する偏見を少しばかり溶かしていた様だ…。
「むしろその『先輩』とやらには感謝しなくちゃいけないな」
「?」
 ルミは、黒目がちな目を大きく見開いて俺を見上げる。注意しなくては判らないぐらいのか細い痕とは言え、やはりルミの頬には一筋の涙が伝っていたのだ。
「確かに先輩の言ったことは間違っていたけれど、間違って居たのは『決まり』だってことで『ご主人様に喜んでもらう』為のことだって言うのは間違っていないんだから…」
俺はルミの頬に手を伸ばすとゆっくりと涙の痕を拭う。
「急だったから驚いただけで、そこまで俺の事を思っていてくれた事は充分に嬉しい事だしね…」
「ご主人様…」
「その『先輩』が『その格好をするのが決まり』って嘘を教えなかったら、ルミがそこまで俺の事を考えてくれていた…ってのがこうして伝わらなかったかも知れないんだよ?」
そこまで言ってから、俺はルミを力いっぱい抱き締めていた事に気が付き、照れ隠しに、微笑むとちょっと芝居かがった仕草でルミが机の上に置いていたお盆からコーヒーの入ったカップを取り上げる。
ルミの優しさが込められたコーヒーは、いつもと違う温もりに包まれている気がした…。

<第3話 了>