「嘘だろ…」
やはり予想通り姿見の中の女が唇を動かし女声で呟いていた。少し低めの大人びた色気の感じる声だ。
顔つきは整っており、クールな印象でいかにもな美人だ。まつ毛も長い。
しかし特筆すべきはその体だ。胸や尻が馬鹿みたいに大きい。尻はその体に比べ遥かに大量の肉を蓄えており、腰から急激なカーブを描いている。
胸も荒まじい。ほぼ球形で直径だけでも頭二つ分はありそうだ。乳首も手のひら大ほどある。そして比較的締まった腹回りを除き全体的に万遍なく肉が付いており柔らかそうな体つきだ。聖川茉莉には劣るが桁違いにグラマーな女だ。
俺は黒縁のメガネをかけているはずだったが、目の前の女も黒いメガネを身に着けていた。というかどう見ても同じメガネをかけている―
いい加減現実逃避はやめよう。目の前の女は俺、円拓斗だ。間違いない。なぜかは知らんが俺は女になってしまったようだ。
俺は力が抜けその場にへたり込んだ。体が重くて立ってられなかったのもあったのだろう。主に胸がだ。
真下を見るとほとんどが胸で肌色しか見えない。改めて自分が爆乳になったこと、女になったことを思い知らされる。
「悪いわね、円君。騙すようなことをして...」
社長が苦笑交じりに声をかけてきた。
「信じられないと思うけど、女の子になったのは茉莉の母乳の力なの。」
そうなのか。そんな魔法のようなことが。
「まだ完全には分析できている訳ではないのだけれど、母乳に含まれるホルモンがなぜか体を変化させるらしいのよ」
実にいい加減な説明で助かる。では、もうそれはいいとしてなぜ俺を女にした。
「うん、それは社長の方針らしいんだけどねー。」
俺が気絶する前と同様トップレスの茉莉が、腕を頭に回し胸を揺らしながら答える。
「私ってこの通りすごい体でしょ?男のマネージャーだと欲情して仕事にならないんだって。」
まさかそんなことでわざわざ仕組みもよく知らない謎の母乳で俺を女にしたのか。最初から女のマネージャーを雇えばすむ話ではないのか。
「いえ、どうしても、元男の女マネージャーが欲しかったのよ。」
即座に答える社長。何か思惑があるのか?全くわからないが。意味がわからない。
「今説明してもいいんだけど...まあいずれ分かるわ。」
はあ、と俺は溜息ついでの相槌を打った。それだけで俺の爆乳は揺れた。
「元には...戻れないのですか?」
不安げに聞く。今すぐ戻せ、と怒鳴りたくなるのは我慢しながら。
「私のミルクをもう一度飲めば元には戻るわよ。女が飲んでも性転換するから。」
そうか、戻れるのか。
俺はほっと胸をなで下ろした。その時触れた胸に切ない快感が走ったのに面食らったが...だが同時に社長が、
「今すぐに戻ってもいいけど...その場合はクビになるけどいいの?」
やはりそうか。元の体と仕事。どちらを優先すべきか...
と、言いたいところだったが最初から覚悟は決まっていた。
「いえ、後でも構いません。茉莉のマネージャー、やらせて下さい。」
元に戻れることだけを確認できるだけでよかった。マネージャーとして働けれるのならどんな条件でも望んだところだ。
芸能界には予想だにしない事態や理不尽な状況に晒されることなど日常茶飯事だ。こんなことでへこたれるほど弱くはない。でなければわざわざ上京などするものか。
とはいえ流石に女になるというのはとんだ大番狂わせだが...
「そうそう、その意気よ!君みたいな男、あー...女を待っていたんだから!」
どちらでもいい。男でも女でもなくマネージャーなのだから。
「それじゃあ、改めてよろしくね、マネージャー!」
こちらこそよろしく。
重い乳を震わせながら立ち上がり、茉莉に軽く会釈した。わずかに下がった俺の胸が茉莉の超乳にぶつかり、お互いに甘い声をあげた。
「ふう...今日は大変だった。」
俺は社長に命じられホテルから直接家路につくことにした。
もっとも帰る以前に服に困った訳だが。
スーツを着たまま女体化してしまったため、ワイシャツのボタンがが爆乳に弾き飛ばされて着られなくなっていたのだ。
とはいえ社長は一応そこは想定していたのか、代わりの服としてセーターやブラジャーを用意はしてくれた。だが、どうやら、
「せいぜい150センチくらいになると思ってて」いたそうで、伸び縮みしやすいセーターはともかくブラジャーは全くサイズが合わない。
「悪いけど、今日はノーブラでいて!まあ、あなたぐらい立派なおっぱいなら形が崩れることもないから...」
不本意だが了承することにした。ズボンと下着(トランクス)は幸いきついながらも入ったので問題なかった。
というわけでセーター一枚に包まれただけで拘束のない胸を縦横無尽に揺らしながら私は家へと歩く。
「女になったんだから、一人称が『俺』だとまずい」とのことなので変えさせられた。言葉遣いも気をつけろという。
私の家は、先程のホテルから歩いて15分程、キャメロットプロダクションからホテルまでのほぼ中間地点にある...らしい。
そう、私は上京したその足で事務所に訪れていたため、住む家を決めていなかった。結果的に見つかったとはいえ運が悪ければ路上生活をするはめだったので我ながら迂闊だった。
社長からまたしても指示を受け、そこに住むように命じられたのだ。こちらとしては返って助かった。
新居に向かって歩を進める中、やはりというか通行人の注目を集めていた。言うまでもなく視線の先は私の巨大な胸だ。すれ違ってから目を丸くして急に振り返り、じっと見つめてくる者も多い。
周囲の奇異の目に晒されるのは流石に恥ずかしかったが、なぜかそれほど嫌だとも思わなかった。むしろ顔が熱く紅潮しているような気がする...
顔が赤いのは夕日のせいだろうと無理やり結論づけ、顔を一瞬振り払うと家へと足を早めた。