『千秋の新生活』
「いやーようやく建てられたわね!」
ユリアが満足そうに眺めている。どこかで観たことのある光景だった。
「あの……本当にいいの?ユリアさん」
流石の千秋も今回ばかりは申し訳なさそうにしていた。
「大丈夫よ!だってそこまで体も胸大きくなったんだもの!」
ユリアは今一度、完成したそれをじっくりと見つめた。
「あなたの新しい家、ついに完成よ!」
実は、数カ月前からユリアは、千秋のために新しい家を、研究所の隣に建設していた。
千秋の体が再び成長し始め、いい加減に普通の扉や家では生活し辛くなっていた。そこで、ユリアはいっそのこと超乳専用の家を作ってあげようと思い立ったのである。
建設費用は相応にかかったが、千秋の稼ぎをもってすれば無理な金額でもなかった。無論、建設自体は前と同様ユリアの作った専用の機械で行った。
「おお〜自動ドアなんだ。しかも広い」
「そう!これでもう私がいちいち開けなくても大丈夫よ!つっかえることもないしね!」
家の扉が自動ドアになっているのは、超乳で腕がつかえて開けられない千秋でも楽に入れるようにするためだ。
「中も広い……天井も……」
家自体も広く、高く作られている。今や2m近い千秋でもひろびろと暮らすことができる。
「いいでしょ〜!これなら身長4mくらいになっても大丈夫よ!」
「もう!そこまで大きくならないって!」
だが身長4mともなれば、胸もそれに合わせ大きくなると思うと少しドキドキした。
「はい、それとこれはあなたの新しい服ね!」
「ありがとうユリアさん!ずっとビキニばっかりだったし…」
寝室に入ると、服一式を渡された。ちなみに寝室や浴場は、少し拡充した上でそのまま移転してある。
「どうかしら?苦労したのよ〜?」
「………う〜ん?」
上は黒色のチューブトップ。だが布地が短く実質胸、それも乳輪までしか覆えてない。外国人でもここまで際どい格好はしないであろう。
下は一見まともなパンツかと思いきや、なんと紺色のブルマだった。絶滅していたんじゃ…と千秋も思わず珍しそうにまじまじと見ていたほど。
なお、ブラジャーやパンツは一切履いておらず、直に着ている状態である。
「いいじゃない!ビキニじゃ外に出られないし、これなら外出できるわね!」
「………もう!こんな格好、下着で歩くより恥ずかしいよ!」
ほとんど裸同然で痴女としか思えない服装。ビキニの方がまだ露出度が少ないかもしれない。
「それにさ……外出って言うけど、」
千秋は呆れ気味に言った。
「私外歩いたら、すぐ私ってわかるじゃない」
「あっ………」
ユリアは一瞬固まった。
「あら〜……そうだったわね」
当分千秋は、まともに町を出歩けていない。最近はそれが悩みのようだ。
『歩の意外な真実』
「ところで歩君、前から思ってたんだけど」
控室でいつもの行為をした後、精液や母乳を片付けながら千秋は聞いた。
「何ですか?千秋さん」
「うん。歩君って中学生よね?学校どうしてるの?」
「ああ、学校ですか」
歩はそういえばといった感じの反応をした。
「実は僕、通信教育を受けてるんです」
「通信教育?」
「はい、芸能活動が忙しいので。だから中学には通ってないんです」
千秋はなるほど、と合点した顔をした。
「そうなの…まあ歩君人気アイドルだものね」
「はい。ですが、通ってみたいんですよね、中学校」
歩は残念そうに語った。
「小学校の頃は楽しかったですもの。友達も多かったんです」
「あら、よかったじゃない!通えるようになるといいわね!」
だが言葉とは裏腹に、千秋は中学高校にはいい思い出がなかった。母子家庭で貧乏だったのでいじめられることもあり、学校家庭共に居場所がなかったのだ。
「まあこんな見た目なんで、男女(おとこおんな)だってからかわれたりすることも多かったんですけどね……また学校通いたいです」
「ふふ…そうね!」
だが、歩の学校に行きたいという気持ちを否定するわけにもいかず、否定する資格などないことはわかっていた。目が輝いたその様子は、学校に通えるようになる日を楽しみにしているという何よりの証だろう。
「だけど、細川歩って名前だとすぐばれちゃうわね…」
「ああ、そこは問題ないですよ」
「え、どうして?」
千秋はきょとんとなった。
「いくら性別が違うといっても、同じ名前で顔もそっくりだとばれちゃうんじゃ…」
「細川歩っていうのは、本名じゃないんです。芸名です」
「あら、そうだったの!」
意外だった。今までそんな話は聞いたことがなかったからだ。
「もしかして、社長と同じ根本って名前なの?」
「いえ…他の人には黙っていて欲しいんですけど、」
歩は少し小声になった。
「歩は本名なんですけど、苗字は『文枝(ふみえだ)』って言うんです」
「ってことは、文枝歩君…っていうの。素敵な苗字ね…」
「文枝って苗字は珍しいのですぐにばれちゃいますしね…細川という普通の苗字を芸名にしてるんです」
「そうだったのね……歩君のこといろいろ知れてよかったわ」
千秋は今一度、歩を胸に抱きしめた。
「むう……千秋さん、そんなことしたらまた勃ってきちゃいますよ…!」
歩は嬉しそうにもがいた。
「ふう………」
だが、千秋は同時に、自分の本当の秘密を明かすことができない、勇気がないことを心で嘆いてもいた。
「ところで、あの篠崎ユキの妹の……確かルリは最近来てないですか?大丈夫ですか?」
「う、うん……この頃はめっきり来なくなったの……なんででしょうね?」
だが、そんな後ろ暗い感情は胸にしまい、忘れることにした。
『篠崎姉妹のある日』
「お姉ちゃーんおはよー!」
「はいはい……朝から元気ね」
ここは篠崎ユキ、そしてその妹のルリ達の家であるとある高級マンションの一室。この二人だけというのに活気溢れる朝である。
父親はハピネスエンターテイメントの重役、母親は元グラビアアイドルで現在もタレントとして活躍しており、朝早くから家を空けている。なのでこの時間は雪とルリの二人だけである。
「お姉ちゃんもう出かけるの?」
トーストをほおばり牛乳で流し込みながら、行儀悪く口をもごつかせている。
「ええ。少しでも地方営業して売り込んでいかないとね。どんな小さな仕事だって貴重なの」
ユキは、超乳アイドルの千秋に奪われた人気を取り返そうと躍起になっていた。こう見えて努力は惜しまない性格なのである。これでも、以前の高飛車で横柄な態度を反省し、真摯にグラビア活動に取り組もうと必死でいる。
もっとも、ユキに限らずあらゆるグラビアアイドルの人気が千秋の方に行ってしまったという方が正確だが。超乳を好まない従来の爆乳グラドルを求める層に焦点を合わせて活動しているのである。
「頑張ってねお姉ちゃん!あたしは応援してるからね!」
「ルリ……」
母や自分だけではなく、あらゆる女の胸を無差別に揉んできた変人かつ変態な妹だが、どんな時も自分を支え声援をかけてくれる健気さ嫌いではなかった。
仮にも様々な人間の胸を触りその感触や美しさというものを知り尽くしている。自分の魅力もわかっているんだな、としみじみと噛みしめた。
「でも…あのおっぱいは忘れられないな〜千秋ちゃんのおっぱい!すっごいでっかいんだもん!」
その一言が一瞬でそれを打ち砕いてくれた。やっぱり妹はただの変態だ、と前言撤回した。
「確かもう300cm超えたんだよ!お姉ちゃんは102cmだから3倍だよ3倍!お姉ちゃんもでっかいのに更に3倍!めちゃめちゃどっぷりして重そうで柔らかくてたまらなかったな〜!あと、千秋ちゃんすっごくね、」
「行ってくるからね!ちゃんと鍵するのよ!」
まだ終わりそうになかったが、これ以上は聞くに堪えない。
「行ってらっしゃーい!マネージャーさんに頑張ってねって伝えてねー!」
半ば無視しながらそそくさと玄関を出た。だが、マネージャーには確かに妹がよろしく言っていたと伝えようと思った。ちょうどエントランス前まで車で迎えに来ている。
最近は自分の仕事を取るために東奔西走しているのは知っているし、ねぎらってあげるのはアイドルの努め、と自分に言い聞かせながら、
「いいじゃん、私成長したわね」
と、自画自賛して下まで急ぐのであった。
「ふんふふ〜ん!」
小躍り気味なスキップで教室に向かうルリ。特にいいことがあったわけではないが朝から快活なのが彼女の長所である。
「みんなおはよー!!!」
扉を開けるや否や開口一番うるさいくらいに挨拶。
それに、おはよー、ルリおはよーとこだまの様に返ってくる。ルリはその性格からか友達も多い。
「へへーおはよう!今日も小っちゃいね!」
「きゃあっ!もう、やめてよそれは〜!」
女友達と会って最初にすることは胸揉み。相手も嫌がりながらも今ではすっかり慣れてしまっている。
「なあなあ、篠崎。アレ、また見せてくれよ!」
クラスの男子がせがんでくる。ルリは女体好きという共通点があり話があうのか男友達も多いのである。
「えー、どうしよっかなー」
「いいだろう?先生が来ないうちにさ!」
「しょうがないなー、特別だよ!」
ルリはランドセルの中から本を一冊取り出した。
「ほら、すごいでしょ〜?これ以上のおっぱいなんかないよ!」
「うおお〜!でか!エロい!いつ見てもすげえおっぱいだよな!」
本は、千秋の写真集だった。胸が300cmを突破してたものを撮影した最新のものである。
赤いビキニを身に着けた写真で、下アングルからの迫力のある超乳が劣情を誘う。
「すげ〜!柳瀬千秋の写真集だ!」
「やべえ、俺勃ってきたかも!」
周りから男子生徒が集まってくる。
「でもさあ、これ本物なの?」
「うん、間違いなく本物だよ!だって触ったことあるもん!」
「えっマジで!?」
周りが大きくざわつく。小学生の間でも柳瀬千秋は人気であった。
「そうよ!私さあ、何度も千秋ちゃんの控室に入り込んだことあんのよ!」
ルリは興奮気味に語り始めた。こういう話題は大好物なのである。
マジで?どうなだった?と男子達は矢継ぎ早に質問をしてくる。
「むっちゃくちゃ柔らかくてさあ、おっぱいに体全体がしがみつけるの!全身使わないと揉めないくらいおっきいんだから!」
「それで、どうなったんだ!?」
「う〜ん……どうしよっかなー」
一応、言わないと約束していたので少し憚れたが、秘密にするよう言えば大丈夫かと実に浅はかな考えで話しちゃおうと決めた。
「うん、それでね!おっぱいから出てきたのよ!」
「な、何が!?」
男子全員は期待を込めた鋭い眼差しだ。
「千秋ちゃんたらね、興奮しながら乳首からぼ………」
突然、その場に倒れた。
正確には、机に倒れ込むように顔をうっ伏せた。
「お、おい!早く言えよ!もったいぶらないでさあ!」
一人がルリの体を揺するが、まるで人形のように反応がない。
「な…なんだこれ……」
「死んでんじゃない…!?」
「………先生呼んできて!」
事態を察した保健委員の女子が教室を飛び出した。
「おい篠崎!しっかりしろ!」
「篠崎!篠崎!」
クラスメイト達は大きく狼狽している。
「い、息はあるかな…?」
理科が得意な男子のひとりが、ルリの口元に顔を近づける。こういう時は呼吸を確認するべきだと学習漫画に書いてあったのだ。
「…………?」
「どうだ?息してるか!?」
皆が緊張した様子で見つめる。
「…………してる…寝息だ」
「え!?」
その場の全員が、豆鉄砲を食らった顔をした。
「先生、こっちです!」
「どうしたの篠崎さん!」
ようやく駆けつけた担任教師だったが、
「すぴー…むにゃあ……おっぱい気持ちいい………」
「ね…寝ているだけじゃない」
すぐに呆れ顔になった。いやらしい笑みを浮かべながらよだれを垂らしていたのだから当然だった。
「うへへ……千秋ちゃんのおっぱい…でっかいおっぱいがいっぱい……」
その後、ルリは保健室に運ばれ、当分寝かせることになった。どうせ原因は夜更かしで、いつか起きだすだろうしその時にでも説教しようと思ったのだろう。
彼女が放課後になっても起きず、騒ぎになり始めたのは夜になってからだった。