「ほら、届いてるわよ」
「……ありがとう」
千秋はユリアから一冊の雑誌を受け取った。業界でもトップクラスにメジャーな青年漫画雑誌である。
雑誌を開けると、頭の方にあった袋とじを丁寧に切り離していく。
「…………うん」
そこには、自分の超乳を下にうつ伏せになり、恍惚の表情を浮かべるオールヌードの千秋の姿があった。
乳首もしっかりと映っており、紅く大きくふくらんだ乳輪が鮮明で艶めかしい。
「これね、大評判で部数がいつもの3倍以上売れて重版が追い付いてないほどらしいわよ!すごいわね!」
「うん……」
顔こそ微笑んではいるが、どうにもぎこちなかった。
千秋のヌードグラビア。その端には更新されたプロフィール、そしてこんな煽り文が書かれている。
『身長:216 B:518 W:84 H:164』
『1トン越えしてもますます成長する超乳っ子千秋ちゃん ついに4トンいおっぱいに!』
正確には4172kg。この数字は当分変化していない。
「………じゃあ、もうこの辺でいいわよね」
ユリアは急に声のトーンが変わり、優しく諭すよう調子になった。
「そうね……そろそろ…」
千秋も胸の上に置いた雑誌はそのままにユリアの方を向いた。
「そういえば、まだ1年経ってないのか……あの日から」
「千秋さん…今日も……」
いつもの通り歩は千秋に甘えるように求めてくる。既に男根は大きく膨れている。
「あ、歩君…あのね……」
だが千秋は顔を伏せたままただ呟くだけ。
「どうしたんですか千秋さん……また、せ…具合でも?」
「そうじゃないの…でも…」
「じゃあ、しましょう!近頃、ますます我慢できなくなって…」
日々生産能率の上がる精液から湧き起こる性欲を鎮めようと歩はまくし立てるようにするが、
「あ、あの、歩君!」
「………っ!!!」
超乳を大きき揺らしながら不意に立ち上がり、意図せず歩を威圧する。
軽い突風すら起こしたその乳は、人の顔以上の面積のある生地のビキニに包まれているにも関わらず、乳輪の端が見えてしまっている。
「私ね……歩君、私ね…」
千秋は絞り出すように、腰砕けになった歩に伝えた。
「引退………しようと思ってるの」
一瞬、世界が静止した。
歩の世界が静止した。何を言っているか聞き取れない。音すらも静止した。
「…………」
「えっ……どうして…どうして……い、いや!今、何て言ったんですか!?」
案の定聞き返すが、聞き取れなかったのではなく、聞き違いであって欲しいという儚い願いであった。
「引退……引退するの。数カ月中にグラビアアイドルをやめるわ」
「…………引退……やめる……」
はっきりと宣言された以上、もはや聞き間違いでは自分をごまかせない。
「どうして……どうしてなんですか!」
涙声になりかけながら千秋にすがる歩。
「………ごめんなさい。私にも都合があるの」
「………千秋さん」
そのまま千秋は言葉を続ける。
「それに、歩君ともお別れすることになるわ」
「そ……そんなっ……!!!」
目に見えて顔面が蒼白になるのがわかった。
「ぼ、僕たち、あ、あん、あんなに!愛し合ったじゃないですか!別にアイドル止めても会えますよね!?」
千秋は歯を食いしばりつつはっきりと言い放った。
「ダメよ……私ね、遠くに引っ越して静かに暮らすことにしてるから……」
「そんな!どうしてなんですか!?あんなに千秋さんと……エッチなことしたり…セックスしたりしたのに……!全部なしにしちゃうんですか!」
「……………」
顔を伏せた千秋はだんまりを決め込んだままだ。
「どうして僕に何にも言わないで……僕は、そんなどうでもいい男なんですか!?」
「………なさい」
「え…?」
喚き声にかき消され聞こえなかった。
「ごめんなさい。もう、私と歩君は関係ないから。もうこれっきりにしましょう」
「ち、千秋さん……」
冷たい突き放すような声が、歩の心を痛めつける。
「それに………未練たらしく女の子を引き留めようとする、今の歩君は好きじゃないわ。私もあなたのこと忘れるから、歩君も私のことなんか忘れて。もう二度と関わらないで」
「……………」
歩のその虚ろな目からは、もはや何の感情も読み取れなかった。
肉体的に打ちのめされるより遥かに深い傷を負ったようにも見えた。
「…………はい……さようなら」
歩は、黙って控室を静かに立ち去った。
千秋は、ただ黙ってその背中を見つめるしかなかった。
「千秋ちゃん、そろそろ男に戻る?」
「え……男に?」
数日前のことだった。ユリアから唐突に元の戻ることを提案されたのだった。
「ええ。もう急成長遺伝子の実験に関するデータはだいたい取れたわ。それに、その体も成長がほとんど止まってるしね」
身長216cm、バスト518cm。歩との3日間のセックスで成長してこの数値になって以来、ほぼ変化がない。今までなら、1カ月もあればバストなら数十センチは大きくなっていた。
「うん……でもなあ……」
はじめこそ早く元に戻りたいと思っていた千秋だったが、一方でやはり今まで味わってきた女の快感を楽しむことができなくなってしまうのは残念に思えた。
「別にその辺は千秋ちゃんの自由だけど……まあ、すぐに元に戻らなきゃいけないってわけでもないし、ゆっくり考えてね!」
そう言われてしばらく考えた結果、元に戻ることに決めた。
やはり、女の体を楽しむのも良かったが、千秋は自分は自分のままでいたかった。何よりも、身体だけではなく、心まで女になってしまいつつあるのが怖かったのだ。
だいぶ前にネットを覗くと、千秋を指して「エロい」「抜きたい」「めちゃシコ」などと書かれたコメントや千秋の写真集におびただしい精液をぶっかけた画像などがアップされていたのを見てしまった。
そこまでされても嫌悪感は一切覚えず(これは以前からもだったが)、それどころかその内容に対し性的興奮まで催すようになってしまっていた。
また、歩との性行為もエスカレートし、勢いとはいえ妊娠したいとまで言い出すほど。
もう、これ以上行くと後戻りはできない……そう考えた末の決断だった。
「じゃあ、次の撮影が一段落したら、引退の準備に入るわね。おばさんにもうまく伝えるわ」
「ありがとう、千秋さん……」
自分が男に戻ったら、超乳アイドルである「柳瀬 千秋」は影も形もなくなる。
男戻ったその後は、戸籍をユリアの家に移すことになっており苗字も変わるので、誰も自分を「柳瀬 千秋」とは思わないだろう。
彗星の様に現れ、前代未聞の規格外の超乳を売りに、あまたの男の精液を搾り取った末に彗星のように去ったグラビアアイドル。そういうのも悪くない、とも思い始めていた。
「ごめんね、歩君……もう、『柳瀬 千秋』はいない……忘れちゃいましょう」
歩を冷たく突き放した千秋は、涙をこらえながら呟いた。
歩は何度も愛し合った仲だったが、男に戻る以上、いつまでも同じ関係にはいられない。
何も話さずに黙って去ることも考えたが、そんなことになったら歩は血眼になって自分を探すだろう。ただでさえ急成長遺伝子のことまで教えているのだから、真相までたどりつかない保証はない。
もし、今まで愛し、セックスしていた女が、実は「男」と知ったら――そのショックは一生ものになるだろう。
全ては、歩のために心を鬼にしてやったことだった。
「これでいい……これで…んくっ…いいのよ!」
疲れた心と体をスポーツドリンクで癒しながら、きっぱりと思い切り、口だけでも元気でいようとした。
「これで……みんな、丸く収まるんだから………」
だが、疲れが想像以上に祟ったのか、どうにも体が重かった。
「歩君……歩君………いや、仕事…仕事……!仕事よ!」
千秋は仕事に有終の美を飾るべく英気を養おうと、仮眠を取ることにした。
「はいもしもし?こちらハピネスエンターテイメント…」
ユリアは千秋の引退に備え研究所で書類の整理をしている途中だった。研究用の資料とごっちゃになりかけるなどあまり片付けられていない。
「ハピネスさんですか?どういうことです!?何かあったんですか?」
「え、何です?」
相手は慌てているのか名乗り忘れていたが、聞き覚えのある声だった。おそらく千秋のよく出演している番組のスタッフだろう。
「柳瀬千秋さん、控室にいないんですよ!そろそろ出番なのに!どうかしたんですか!?」
「千秋……千秋…ちゃんが……?」
ユリアは、片手に持っていた書類を床にばらけてしまった。
気が付くと、そこは薄暗かった。
「ん………何?何が……あったの……?」
目が暗闇に慣れないのか、うまく景色を捉えられない。
「ハアハア…お姉ちゃん、もう我慢できないよ…」
「やめなさ……ん…?起きたみたい?」
声が聞こえたことで、徐々に感覚も戻り始めた。
「………っん…えっ!?あれ!?わたし……!?」
一瞬わからなかったが、腕が縛られているように感じた。
感触からして恐らく金属か何かの鎖で天井に向かって固定されている形であることがわかり、胸も下も何もつけていない裸だった。
そして目の前の人間に二度驚かされた。
「気が付いたみたいね……柳瀬千秋!」
「千秋ちゃ〜ん……んふふ!久しぶりい〜!」
忘れもしない。篠崎ユキとルリ。
「ど……どういうこと!?」
辺りを見渡すが、周りが暗いためにどこかわからない。一気に不安に駆られてきた。
「驚いたでしょう?柳瀬千秋。これも全部、復讐のためよ!」
「ふ、復讐……?」
千秋は恐怖に震えながらただ見つめるしかなかった。身体がだるく、力が発揮できないのである。
赤いトップスにホットパンツ姿のユキは得意げに語り始めた。
「簡単だったわ……出演中のあなたの控室に侵入して、ドリンクに睡眠薬を混ぜるだけ!」
「うん!それで、あたしが車まで運んでここまで連れてきたの!」
一方でルリは青いビキニ姿。以前より遥かに胸も体も成長している。
「そうよ……私が抱えようとしたら岩か何かみたいにビクともしない……ますますでかくなって……この!」
ユキは不意に千秋の乳首を掴んだ。
「んあっ……!いやああ!」
意識ははっきりしないままなのに、乳だけは敏感であった。たった少しの刺激で乳首は肥大化する。
「その馬鹿でかい乳で私の仕事を奪ったあげく……ルリに…ルリにまで…母乳を飲ませてここまで成長させて!姉の面目丸つぶれじゃない!」
「お姉ちゃ〜ん…あたしは別に……」
「ルリは黙ってて!」
呆れ顔で口を差すルリを制止する。
「ルリったら……ただでさえあの化け物みたいな体が更に成長して……身長は204cm、胸は402でウエストは68、尻なんかあり得ないわ!165もあるのよ!!!」
妹のスリーサイズをこと細やかに覚えているのも、恨みの強さの表れなのかと千秋は戦慄した。
「オラ!このでかいだけの胸!何がいいのよ!化け物よ!おばけよ!このこの!」
執拗に両腕を目いっぱい使って千秋の超乳を刺激する。
「やあん!や、やめて……いやああ!」
「くっ……やっぱり重いわねこの胸……!4トンだっけ……!」
高さ、つまり直径がユキの首ほどにまで迫るその超乳は、乳輪だけでも30cm以上はある。
肥大化した乳首は太さ10cmほどにまで膨れ上がり、激しく脈打っている。
「ホラ牛!とっとと出しちゃいなさいよ!」
乳搾りの要領で乳首を前方に引っ張る。
「いやっ……あっ、だめ…いやあああああ!!!」
乳首から母乳が溢れ、ユキの体にかかった。
「うわっ……やっぱり出た!なんでかは知らないけど……ホントに出るみたいね〜?」
いやらしい笑みを浮かべながら、止めずに搾り続けるユキ。
「母乳が出るなんて世間にばれたら……流石のあんたもまずいんじゃないかしら?例えば、妊娠したとか言われたりして……いひひ!」
「う……んあああっ……おっぱい……搾られ……ちゃう……!!!」
ほとんど抵抗できないまま、されるがままにするしかなかった。
「千秋さんが……いない!?」
『そうよ歩君!何か知らない!?』
以前に番号を交換した携帯電話でかけてきたユリアの連絡に、歩は胸騒ぎがした。
『急にいなくなったらしくて……!そんな遠くにはいけないはずなのに!どうしましょう!』
「あの…一回、一回落ち着きましょう、ユリアさん!」
歩は、なぜか妙に冷静になれた。
『あ、歩君……』
「僕も……なんとか探します。もしかしたらわかるかもしれません。しばらくしたら連絡します。では」
ユリアの返事もちゃんと聞かないまま電話を切り、歩は駆け出した。
「幸い今日の仕事は終わり……いなくなったのがさっきなら……」
だが、どうにも二の足を踏んでしまう。
「でも……千秋さん……」
『私のことなんか忘れて。もう二度と関わらないで』
どうしても、あの言葉が頭に響いて残っていた。
「千秋さん………」
だが、不思議と歩み自体は自然と動いた。
「みっともなくても……未練がましくても……」
本能のままに動くその足を、信じることにした。
「それでも、千秋さん、あなたを………忘れられません!!!」
素早く変装用の男の格好に着替えると、外へと飛び出した。
「うへへっ……千秋ちゃんますます大きくなっちゃって〜!」
ルリが、千秋の超乳に抱きついていた。
「やっ、やめてええ!おっぱいが……がっ、我慢できないっっ……!」
乳同士が擦れて、途轍もない快感が乳中に響く。
「千秋ちゃんくらい大きくなったと思ったけど……もう千秋ちゃん5mもあるんだね〜。あん!超乳同士スリスリすんの気持ち〜!」
「ち、乳首が……いやっ…ああ…はあん!」
ユキに焦らされるように乳首を刺激されたせいで、少しの快感で体が震える。
乳首からは、絶えず母乳が垂れ流されている。
「ルリ……あんたが楽しむためにこんなことしたんじゃないのよ!柳瀬千秋を脅すために……!」
「いいでしょ〜!私がいなきゃ千秋ちゃんこんなところに連れてこれなかったんだし!」
構わず千秋と乳繰り合うルリ。
「そ、それもそうね……」
「ここなら、簡単には見つからないものね……しかも、この女にぴったりの場所……」
ユキは不敵に笑っていた。
「いない……どこにも……」
歩は2時間ほど走り回ったが、手がかりすら見つからなかった。
「行きそうなとこには行ったけど……でもなあ」
千秋のような超乳の持ち主が町を歩けば、嫌でも目立つ。目撃されないわけがない。
「どこかに行っているとすれば……誰にも見られない場所……でも自宅にはいない……」
歩は考えを巡らせたが、どこも検討が付かない。
「誰にも見られない……千秋さんが行きそうな……?」
ふっと、脳裏に浮かんだ。
『大切な、場所』
「もしかしたら…もしかしたら……!」
歩は、一直線に走り出した。
「はう〜おっぱい……4トンおっぱい敏感過ぎぃ〜」
「で、出ちゃう……いや…いやああ!」
数時間にわたり、乳を刺激され続けていた。
「あたしも出るんだよお〜おっぱいミルク出すの気持ちいい〜!」
千秋とルリの母乳が、床を白く染めていた。
「フン、まあどっちでもいいわ!」
ユキが吐き捨てると、既にのぼせた様な顔になった千秋にに向かいせせら笑いながら言った。
「どう、こんなに凌辱されて辛いでしょう?」
「あう……」
快感のせいで言葉すらまともに話せない。
「オマケに母乳が出るっていう弱みも握れた……私の勝ち……ようやく私の勝ち!」
コンプレックスが大きかっただけに声に喜びが満ち溢れていた。
「それに、ここは絶対に見つからない場所……残念ね…ふふふ!あはははははは!!!」
高笑いが響く中、それは現れた。
「………ーん!」
「ん?ルリなんか言った?」
「何もー?」
何かが響いたような気がした。
「さーん!……さーん!」
「……え、ちょっとまさか!」
「………くん…む、君…?」
千秋はかすかに聞こえる声を、薄れる意識の中耳に捉えた。
「誰も、来られないはずなのに…!?」
「千秋さん……千秋さあああん!!!ここですか!いますかああああ!」
「あ、あれは!!!」
ユキは、一気に目を見開いた。
「千秋さああああん!無事ですか!?お待たせしてすみません!僕、助けに来ました!」