目覚ましをみた。…現在7時50分。やばい。また遅刻かも…今日も遅刻したら、5日連続
という、小学生にしては大記録を作ってしまう事になる。食卓から食パンを素早く調達。
顔を洗って、昨日用意をしておいたランドセルと、今日から始まるプールの道具が入った
バッグを掴み、家を出る。パンを頬張る。暑い。もう夏だ。学校までの道程15分を走る。
汗が少しでてきて、背中やブラの隙間に入ると、気持ち悪い。でも、そんな事かまって
いられなかった。――チャイムギリギリ到着!みんなはもう席に座っていた。視線が私に
集まっていく。先生まで見ている。私が遅刻じゃないのがそんなに珍しいのかしら、など
と考えながらも、
「おはよ〜う!」
と元気にあいさつ。が、笑いがおこってしまった。そして、先生が
「飯沢、すごい髪形だな」
と言い、はっとした。髪を整えてくるのを忘れたのだ。
「キャーっ!!」
と言いながら、千穂は教室を離れた。
とりあえずトイレにかけこんだ。鏡がある。自分でも呆れるほどの寝癖だった。まさに
爆発。クシくらい小学生でももっているので、それを使い、整える。鏡をみて、何度も
クシを動かし、やっと元のショートヘアーにもどった。顔を見る。たぶんかわいいほう
だろう。体をみる。胸もちゃんとあるし、痩せているし。でも、身長がほしい。涼子ちゃん
くらいあったらなぁ…。いつも思う。よく頭をぶつける涼子ちゃん。掲示物を張るのを
いつも頼まれる涼子ちゃん。いつも憧れてしまう。千穂だって、毎日牛乳のんで、縄跳び
その他の努力をしているが、全く効果はでなかった。ブツブツいいながら、汗をふき、
千穂は教室にもどった。
待ちに待ったプールの時間がやってきた。他の授業は暑くていやだった。5時間目なので、
昼休みに汗をかいたままプールに直行できる昼休みは便利で、友達とバドミントンを
やった。小さい体を大きくうごかし、楽しんだ。そしてバドミントンを終えて更衣室に
向かうと、休憩終了10分前に更衣室についてしまった。まだ早かったようだ。だが、
そこにはすでに涼子の姿があった。もう、着替え終わっていた。涼子は、スクール水着すら
ブカブカといったかんじで、ウエストあたりの水着の布地は緩んでいた。
「涼子ちゃん、早いね〜」
「うん、水泳が楽しみで…」
「へー、何メートルくらい泳げるの?」
「わかんない。授業じゃ時間がたりないから、測った事ないのよー」
「えっ、すごい!」
「そうでもないよ〜」
「すごいよー。水泳教室とかいってるの」
「行ってないよ」
「えー、自分で覚えたの?」
「うん、授業で習っただけだよ」
「すごいなぁ。涼子ちゃんはスポーツ万能だね。ところで涼子ちゃん、質問があるんだけど…」
「なーに?」
「どうすれば身長のびる?」
千穂は追突に、頭上を見上げて言った。相手の顔は50cmも上なのだ。
「えーっとぉ…。わかんない、ごはん食べるだけだし。別に何もやってないよ」
「うそ、何か毎日スポーツとかやってるんじゃないの?」
「うん、体育をがんばる事かな」
「そうじゃなくって、家では何もしてないの?」
「別に…。私の背が高いのは、お父さんが高いからよ」
「そうなのかー。私、大きくなりたくって…」
「ごめんね、わかんないよ」
「いやいや、ありがとう。私、もっと大きくなりたくってさ。なにかあったら教えてね!」
「う、うん」
続く