(「エンサイクロペディア・バスタニカ」2022年版より)
概略と歴史
現代にいたり、ブラジャーのハイテク化は止まるところを知らない。
その誕生は二十年ほど前、あるメーカーが開発した危険関知機能付きブラである。センサーとマイコ
ンを組み込んで、装着者に襲いかかるあらゆる危険を予測し告知するブラジャー、というものだった。あ
くまで試作品で商品化の予定はなかったが、このハイテクブラに興味を示したパソコンメーカーがあっ
た。
当時は、ウェアラブル(着用型)コンピュータという概念が提唱され、その理想的な形が様々に模索さ
れている段階だった。技術的シードではなく利用者のニードから発想すれば、常に身につけている下着
にコンピュータを組み込むのがもっとも便利であり、それもできれば頭や腕に近い上半身にまとう下
着、すなわちブラジャーは有力なターゲットとなる。
こうして誕生した最初の製品は、フルカップブラの上部に小型液晶ディスプレイを取り付け、装着者が
ちょっと自分の胸元を見れば、危険関知を含めたあらゆる情報にアクセスできる、という機能を持って
いた。
西暦2000年2月2日、「ウェアラブラ(weara-bra)」と名付けられた最初の製品は、発売と同時に爆発的
なヒットを記録した。初期ロット2000個はインターネットからの予約販売のみだったが、2000USドルとい
う価格や2kgという重量にも関わらず、予約開始後20分で完売したという。
好評を受けたこのメーカーは、すぐに新しい製品の開発に取りかかった。より軽量化を図ったモデル
やCCDカメラ内蔵モデル、画像処理に特化したモデルなどが次々と人気を博し、同時に各社からも同じ
路線を狙ったコンピュータ内蔵ブラジャーが各種発売された。当初有名になったウェアラブラが一般名
詞として使われるようになったのも、このころである。
新しい製品が出るたびにウェアラブラは改良されていったが、なかでも大きなエポックは発電装置の
内蔵だった。コンピューター内蔵とはいえブラはブラであり、装着者が歩くたびにゆさゆさと揺れる。そ
れまでディスプレイ視認性の向上といった面からは欠点とされていた揺れを、腕時計に用いられていた
技術の応用で、振り子を利用した小型発電装置の原動力としたこの発明は、ウェアラブラから重いバッ
テリーや充電の手間を追放し、さらなる普及に拍車をかけた。
ただ、この発電機能には一つの欠点があった。つねに揺れているブラ、すなわちかなり大きなサイズ
のウェアラブラでないかぎり、充分な電力を供給することができないのである。具体的には最低でFカッ
プ以上、できればGからIカップの大きさがなくては、有効な発電能力は得られない。
逆転の発想でこの欠点を解消したのは、それまでにも進められていたブラジャー本来の機能のハイ
テク化であった。本来の機能、すなわちバストを美しく、大きく見せる面でのハイテク化は、ワイヤー入り
ブラジャーに始まり、バストアップして胸の谷間を形作るもの、胸の脇にある贅肉を寄せ集めてサイズア
ップを図るものなどが、ウェアラブラ以前から実用化されていた。それらの機能強化に加えて、動力を利
用できるようになったウェアラブラでは、バスト全体をつねに吸引し続けることで、ウェストや二の腕はも
ちろんほぼ全身から余分な脂肪を集め、すべてをバストの一部にしてしまうことまで可能になった。つま
り「大きなバストの持ち主でなければ使えないウェアラブラ」から、「ウェアラブラによって持ち主のバスト
を大きくする」という発想の転換が行われたのである。吸引機能付きウェアラブラを装着し続ければ、集
められた脂肪ははやがてその位置に固着するため、誰でもウェアラブラの発電に必要な大きさにまで
バストサイズをアップさせ、さらにウェアラブラを外しても変わらぬ美しいラインの巨乳になることが可能
になったのだ。
全女性の夢を実現したウェアラブラは、2000年代において爆発的に売れ行きを伸ばしていった。当初
はあんなものという目で見ていた者も、その経済効果は否定できないほどになった。かつて、誕生した
ころには機械マニアのオモチャだったパソコンが、いつのまにか1990年代の世界経済を支える存在に
なっていったことと似ている。「世界経済の半分と、人類の胸の半分は、ウェアラブラが支える」と言わ
るようになったのも、このころである。
ウェアラブラの機構
急激な普及と歩調を合わせるようにして、ウェアラブラはコンピュータとしての性能も発達させていっ
た。当初はブラジャーに無骨な液晶ディスプレイをくくりつけたようなスタイルだったのが、ソフト曲面ディ
スプレイの開発によってバストラインに合わせて変型する、ブラジャーとして違和感のないデザインにな
ったことがまず挙げられる。ディスプレイがカップの上半分と一体化したのと併せて、下半分にくくりつけ
られていたコントローラ部分も姿を消した。コントローラに関しては音声認識の採用が本命視されてい
たが、実際にはクリックパッドや空間ベクトルスキャナが一般化しているのは周知である。現在の代表
的なウェアラブラの機構を以下に解説する。
ウェアラブラの構成は大きく分けて、バストを覆い支えるための左右のカップと、カップを保持するため
に肩及び背中に回されたストラップに分けられる。ストラップ内にはCPU、無線通信用のアンテナ、外部
センサー、超薄型補助バッテリーなどが内蔵されている。ウェアラブラ本来の機能は、おもにカップ部分
に集中している。
カップ上半部はおもに、ディスプレイ面として使われる。吸引機能の出現以来サイズアップを続けるウ
ェアラブラは、すでに片側だけで17インチディスプレイに相当する量の情報を表示できるまでになった。
この表示能力は、サイズの増大に伴って今後もますます向上していくものと思われる。カップ下半部に
は発電装置を内蔵し、カップの内側全体で吸引機能を実現しているのがふつうである。
ウェアラブラの機能を使うためには、両手で左右のカップをしっかり持つ、あるいは支えるようなスタイ
ルをとることから始まる。カップ全体を動かすと、空間ベクトルスキャナがその方向を認識することによ
って、まず上下左右の方向を指示できる。この動作は左右のカップに対して独立して指示でき、大きな
動き、おもに画面のスクロールなどに利用される。いっぽう、左右それぞれのカップ先端にある円形の
クリックパッド(一般に「Bチク」と呼ばれているが語源は不明である)は、指先で上下左右に細かい動き
を指示できる。さらにパッド中央にある突起を軽く押すことで、確定などの情報を入力することができ
る。
社会的影響
初期のウェアラブラは情報ディスプレイとしての用途が中心で、また非常に高価だったこともあり、会
社秘書やエリート女性がブラウスの襟を開き、胸元をちらりと見る姿が憧れの的とされていた。現在は
用途も広がり、価格低下によって高校生や中学生の女性のあいだでもウェアラブラの利用が一般的に
なった。また複雑な入力をスマートにこなせるよう操作方法が洗練されたことで、襟ぐりの開いた服を着
た女性が自分の両胸を持ち支え、バスト全体を、あるいは指先で触れたBチクをくりくりと動かしている
姿が、どこの街角でも見られるようになった。
ウェアラブラそのものの普及と吸引機能によるバストサイズ増大により、全女性のバストサイズ平均
値はここ数年で急激に伸びている。2メートル(200万ミクロン)到達を記念して、盛大な祝賀行事を望む
声も高い。