視線から逃れたら

ニュウセイ 作
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その5

ここにきて4年が経った。
今の私は、ただひたすら欲望に身を任せて生活している。
学習するものがあった間はそのための時間を確保していたが、ひと月ほど前に高校のカリキュラムも終わらせて以降は、日課は完全に崩壊した。
ただひたすら胸に刺激を与え続け、空腹を感じたらはちきれそうになるまで食べ物をおなかに詰め込み、眠気を感じたら(一応入浴はしてから)寝る。
朝・昼・夜、そんなものは全く関係なく、自分がそのタイミングでしたいと思ったことをするだけ。
行動内容は大きく違うが、動機は赤ん坊と大差ない。
ああ、急成長していくということも共通しているか。まあ私の場合、急成長しているのは乳房だが。
その乳房は、今では側面の中ほどまでしか手が届かないほどになっている。
重量も、片方だけで人一人分はありそうだ。
それを支える腹筋周りは、意図的な運動をやめたためかうっすらと肉が付き始めているようだが、全体のバランスから考えるとまだまだ細いはずだ。
腰回りは、乳房からは大差をつけられているが、それは比較対象が悪いだけで、こちらもかなりの大きさになっている。
触った感じと手の届き方からすると、100cmは超えていそうだ。
ここまで成長すると身動きが取れなくなってもおかしくないはずだが、多少動きにくいと感じる程度で大きな問題にはなっていない。
入浴のために服を脱いでもそこまで変わらないので、これは服ではなく、淫魔族の血のおかげのようだ。
ふとそんなことを考えながら、再び欲望の沼に戻っていく。
・・・・・・
・・・

聞きなれない音が耳に入り、私は沼から舞い戻った。
日付を確認してみると、どうやらここにきて5年目に突入したらしい。
音の発信源をたどってみると、天井に何かが映されていた。どうやら目立たないようにプロジェクターが設置されていたらしい。
そこには、「入室されて5年が経過しました。もう退去は可能です。退去したい場合はPCから下記サイトにアクセスしてください。」
と表示されていた。
なるほど、最後の一年はご自由に、ということか。
まあ、ここに入るような人はぎりぎりまでいるだろうから、「あと一年である」ことを通知する、という意味合いが強そうだ。
当然私も、ぎりぎりまでいるつもりだ。
一時的にとはいえ欲望から解放されたついでに、私は体を確認してみた。
まず胸は「とにかく大きい」というぐらいしかわからない。
他にわかるのは、「膝立ちする程度で胸が地面につく」ことと、「大きさのわりに全く垂れていない」ということぐらいだ。
おなかは、記憶にあるよりは柔らかくなっているようだが、つまめるほどの肉はついていないようなので、問題なさそうだ。
おしりは、よくあるパイプ椅子だと横にはみ出そうなぐらいだろうか。こちらはこちらでかなり大きくなっている。

そうしてボディチェックを終えたところで、ふと「他の人からは、この体はどう見えるのだろう」と思った。
おそらく、初見は「妙にでかい何か」という感想になるだろう。
そしてその「でかい何か」が巨大な乳房であることに気づいたとき、その人の好みにかかわらず、目を離すことができなるのではないだろうか。
場合によってはその人の嗜好すらも破壊して、胸に対する様々な欲望を抱かせてしまうかもしれない。
そうして生まれた欲望を吸収することで、私の体はますます成長できるのかもしれない。
そんなことを考えたとき、私は思った。「私の体を見てほしい」と。「大勢の人の目前に自身の体をさらしたい」と。
正反対の理由でここでの生活を希望したのにもかかわらず、今ではそう考えるようになったのだ。
それから、「見られたい」というこの部屋にいたのでは決してかなえられることのない欲望を貯めこみながらも、
その他の欲望には忠実に従いながら、ここでの最後の一年を過ごしていった。