おっぱいだけがあればいい

∞ 作
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 ――あるところに、破滅的で根暗な魔術師の男がいた。
「ふふ、ついに完成したぞ……!」
 薄暗い室内で男は不敵に嗤う。
「さまざまな理不尽を味わってきた……もうたくさんだ、この世界は滅ぼしてやる……!」
 床には何やら複雑な文様の魔方陣が描かれている。男はその上に立ち、ぶつぶつと何かの呪文を唱える。すると魔方陣が発行し、光の柱が上がり始める。
「おっぱいだ……世界にはおっぱいだけあればいい……」
 男は何とも突拍子もないことを言い出す。
「おっぱいがあるからこそ、今まで自分は生きてきたといってもいい……願わくはもっと堪能する機会が欲しかったのだが……」
 
 ――何を隠そうこの男、大のおっぱい好きなのであった。
 しかしそれと同時に困ったことがあった。この男、女が大の苦手なのである。
 というのも、今までさんざん悪い女に捕まってきた過去があった。魔術ばかりを模索してきた純朴な男には本心と邪心の区別など知りようもなかった。男はただ単におっぱいを愛したかった。しかし、当の持ち主である女は、それを許してはくれなかったのであった。
「俺は作り上げる……純粋におっぱいで構成された世界を――さあ、発動せよ!」
  男がそういうと、倉かった室内はまばゆい光で満たされた。

「それでね、その時あの人が――」
「あっははっ!なにそれ、おっかしー!」
 ここはどこがあればいいかの村、のどかで平和な、何の変哲もない田舎村である。井戸端で二人の娘が談笑していた。

 その時である。
「……あれ?胸がなんだか重く――きゃああああ!!」
「いやあああああああ!」
 仲良く談笑していた女性二人の胸が突然膨張し始めた。風船を膨らませるように――いや、もっと早い速度だろうか。とにかく恐ろしいスピードで、両の乳房が膨張していった。
 ボタンを弾き飛ばし、衣服を引き裂きながらおっぱいは膨らんでいく。ややもすると両の球体は地面に達し、さらに身長をも追い抜いていった。

「あははっ、なにこれー!」
 年端のいかない、まだ二次成長期が来ていない少女の胸も膨らんでいる。目の前の事象がよくわからず、キャッキャッとよろこぶばかりである。よく見れば、幼児から大人まで、年齢問わずすべての女子の胸がとてつもないスピードで膨張していく。
「おいっ、いったい何が――ぐむっ?!」
 異変を感じた男どもは、哀れにも膨張し続けるおっぱいに挟まれ、ことごとく圧殺されていった。あるものは困惑し、あるものは笑顔であった。
 女性たちはというと、その体はだんだんと巨大な自分の乳房の中に沈み込んでいた。そうして最後には乳房そのものになった。
 そして、あの魔術師の居場所にも――

 ゴゴゴゴ……というすさまじい音と地響きが、暗い室内に響いてくる。その音はだんだんと近づいているようだった。
「ふふ……来たか。もうじき世界はおっぱいで埋め尽くされるだろう。その世界を見られないのは残念だが……きっととてつもなく奇妙で、それでいて愉快な世界なんだろうな。多分ないとは思うが、もし生き残った人物がいてこの世界を見ることができたのなら、いったいどんな反応をするのか楽しみだ。く、間もなくか……そろそろ今生の別れを告げておこう……
 わが人生に悔いなし!おっぱい万歳!おっぱいに栄光あ――

バキィン!ゴリュゴリュ、メキョッ……
 それは一瞬のことであった。とてつもないスピードで膨張しながらやってきた肉壁は、魔術師のいる部屋の壁を瞬く間に粉砕し、魔術師の男の体をも粉砕した。
 おっぱいの膨張がすべて止まったころには、世界は静まり返っていた。


 ――そうして世界は文字通り、おっぱいだらけの世界となった。
 陸地のいたるところは、肌色の柔らかい肉の塊で覆い尽くされている。大小さまざまな形の丸い肉が、押し合いへし合いされ、時に形を変えながら隙間なく並んでいる。
 陸地だけではない。海にも、大量の丸い肉の塊がぷかぷかと浮いていた。さながら水を張った桶に入れられた果実を思い起こさせる。陸地だけでは狭かったのか、時々ちゃぽんと水に落ちる音が響く。これからも海の中に落ちる数は増えていくのかもしれない。

 世界は至って静かだった。時々肉の塊が海に落ちる音以外は、話し声も、生き物の鳴き声さえも聞こえてこない。一切の人間はいなくなった。男どもは全て乳房によって押しつぶされ、女だったものはすべて両の乳房を残すのみとなり、生き物として活動している様子はない。世界に残っているのはただの肉の塊にすぎなかった。
 これからこの世界がどうなっていくのかはわからない。もうこの世界からは人間は生まれてくることはない。だがもし、誰かがこの世界を認識するとしたら――

「――え?ここって異世界……ってなにこれぇええええええええええええええええええええ?!」

 ――その時その人物は、いかなる感想を持ち、どのようにこの世界で暮らすのだろうか。