わたしエマ・ステファノバが日本に来てから2週間ほどが経ちました。いよいよ明日から学校がはじまります。正月休みをはさんだため、制服はまだ出来ていませんが、新しいブラが出来たという連絡が入り、〈ELLE〉に向かいました。
「こんにちは。」わたしは入口の自動ドアをくぐりました。
「じゃ〜ん!!」遙ちゃんが服の上からとんでもなく巨大な白いブラを胸にあてて、店の奥から飛び出してきました。
「見て!すごいでしょ、これ。エマのだよ!こんなのに実がいっぱい詰まるなんて、なんか信じらんないよ!」
たしかに遙ちゃんが身につけると、ブラから手足が生えているように見えます。
「本当におっきいね。」
「こら!遙。なにやってんの!ごめんなさいね、エマさん。早速つけてみて下さる?」と奥から遙ちゃんのママがでてきました。
「はい、おばさま。」
狭い(といっても普通のヒトには十分広いんですが…)試着室にはいって、さっきあんなに巨大にみえたブラをつけてみると、わたしの乳房にはぴったりフィットしています。鏡で確認したいんですが、仕切りから頭が飛び出ているわたしには、試着室内の鏡を見ることができません。
「具合はどう、エマさん?」遙ちゃんのママがわたしの顔を見上げています。
「ちょうどいいと思います。ちょっと鏡で確認したいんですが…」
「あら、じゃああちらの鏡で見てみる?」
試着室のカーテンを開け、カーテンレールをくぐるとき、頭を下げて身をかがませましたが、新しいブラはわたしの重い重い乳房をしっかりキープしています。
「エマ!ぎっちり実が詰まってるよ!あんなにおっきいカップだったのに!」遙ちゃんは感嘆の声をあげています。
「あら、エマさん。思った通りぴったりだわ。」
鏡を通じて初めて客観的に自分自身の姿を見て、あまりに挑発的に前に突き出した2つの隆起、今までにない扇情的なバストラインに恥ずかしさがこみ上げてきました。
「おばさま、ぴったりなのはいいんですが…
胸がこんなにいやらしくつきだして、刺激が強すぎると思うんですが…」
「今までだってすごい刺激よ。それに…
それがあなた自身なのよ。それだけの胸、小さくみせようたっていくらも変らないわ。それよりエマさん、自分の全てに自信を持つことが大切よ。大きな体を縮こまらせても小さくはならないわ。カッコ悪いだけよ。まわりの目なんて気にしないで、もっとノビノビ振舞ったほうがよっぽどステキだわ。輝いているヒトはいやな目にあわないのよ。」
「そうですね。おばさま、ありがと!明日の始業式に自信がついたわ!」
さあとうとう始業式の朝をむかえました。
わたしはパパの車(結構窮屈なんですよ、コレが)で学校に行き、応接室で時間が来るのを待ちました。知らない先生に体育館の舞台裏に引率され、そこで出番を待ちました。
壇上で校長先生がお話されています。
「……ここでみなさんに新しい友達を紹介します。」
そう言っただけで生徒が大きくどよめきました。多分わたしの噂が拡がっているんだと思います。どんなに背が高いのか、どんなに胸が大きいのか興味津々なのでしょう。
「ボストニアというヨーロッパの国から、お父さんの仕事の関係で転校してこられた、明石エマさんです。では明石さん、どうぞ。」
わたしはジーンズに白いゆったりとした(しかし胸にはぴったりとはりついている)セーターという姿で、全校生徒の前に姿をあらわしました。
「ウオォ〜〜!! うおおおぉ〜〜!!」
地鳴りのような歓声のなか、一歩一歩歩くたびに(ゆっさ ゆっさ ゆっさ ゆっさ)と大きく胸がうねります。
「うおおおぉ〜〜!!」
中央の壇におかれたマイクが低すぎるので、ステーを伸ばそうとしたら長さが足りずポロッとはずれました。
「うおおおぉ〜〜!!」
うつむいてステーをはめようとしたら、巨大な乳房がブラに包まれながらもゆらゆら波うっています。白く揺らぐ胸部を両腕ですこし挟み潰すような格好になりながらも、やっとマイクスタンドにはめることができました。
「うおおおぉ〜〜!!」
スタンドのマイクが低くて仕様がないので、マイクを手に持って話そうとしましたが、まだまだ歓声が収まりません。
「Hamnupeh wilb hopmarbno!」
一瞬静寂が訪れました。チャンスです。
「今のはボストニアの言葉で“始めまして”の意味です。
みなさん、始めまして。明石エマです。父の仕事の都合で日本にきました。母はまだ日本にきていません。わからない事ばかりですので皆さんよろしくお願いします。」
それだけ手短に話して、舞台裏にひっこみました。
ざわめきはまだまだ静まりそうにもありません。
その後式が終わり、生徒が教室に戻ったあと、北島奈津子先生と一緒に教室に向かいました。
廊下を歩いている時も、全ての教室の中から小さな生徒たちが鈴なりになってわたしに見入っています。
「すっげー!奈津子先生が子供みたいだぜ!」
「A組の雨宮なんて目じゃねーよな!」
「あのぐわんぐわんしてる胸みてると頭が変になりそうだよ!」
「身長2mはかるくあるよね。バブ・ボップよりでけーんじゃね〜の!?」
「よくみるとメッチャかわいいけど、あのカラダ見てたら顔なんて印象に残んないよね!」
「俺なんかあの胸の下に、すっぽり入っちゃうかもな!」
「3〜4人はカルく雨宿りできるんじゃね〜の?」
みんな口々にささやいています。
奈津子先生もその騒ぎにあきらめ顔です。
奈津子先生に続いて教室に入りました。そのときもお決まりのように身をかがめて、2mくらいの引き戸のゲートをくぐりました。
「どおおぉ〜〜!!」
教室内は割れんばかりにどよめいています。
奈津子先生が大きな声でおっしゃりました。
「はいはい、みんな静かに!
明石さんがでっかいのは、もう十分わかったでしょ!
明石さんはほんとは3年生なんだけど、日本語に不安があるから、とりあえず1年生に編入してるの!
あんたたちより大きいのはあたりまえなのよ。
それに外国からきて不安なんだから、そんなパンダ見るような態度は失礼でしょ?!
ハイ、わかったら静かにして!
じゃあエマ、自己紹介して。」
わたしはさっき体育館でしたのと同じ様な話をしました。そしてそのあと次のように付け加えました。
「みんながわたしを見て驚くのは無理もありません。わたしは本当に大きいですから。」
そう言ってかるく胸に両手をあてました。また少しどよめきました。
「背も、この大きな胸も、まだまだ成長しています。
今までカラダのことで、いろいろ悩んだこともあります。みなさんもそうでしょう?
でも最近、そういうことを全て受け入れないと、わたしがわたしでなくなるって事に気がつきました。
だからみんなもわたしという存在を受け入れて、仲良くしてください。」
そう言って、にっ!と明るく微笑みました。
「は〜いエマ、いい挨拶だったわよ!じゃあ雨宮さんの隣に座って。」
奈津子先生の指示どおり、最後列の遙ちゃんの隣の空席に向かいました。通路が狭かったのですが、みんな机を移動させてくれて、モーゼのように道がひらけました。遙ちゃんはにっ!と笑っています。
わたしの椅子も机もみんなと同じサイズなのでとても小さく、椅子はギシギシいやな音をたてていますし、机の下にはわたしの長く細い(とはいえない)脚がおさまりません。
脚を机の前に突き出して伸ばすと、なんとかはいりますが、今度は机が胸ですっぽり覆われてしまいます。
ポジションがきまらず四苦八苦してても、奈津子先生はお構いなしにお話を続けています。
「……っていうことで、明日は身体測定です。みんなきれいなパンツはいて来るのよ!」
明日もわたしには受難の日のようです。