ようこそニッポン

pop 作
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第1話 マッスル宅配便
 
 
 
「こんにちは!宅配便で〜す」
 
まったく俺はなんでこんなことしてるんだろう。
 
「じゃあここに受け取りのサインをお願いしまーす…ありがとうございました」
 
中学高校と柔道に打ち込み、大学、実業団と柔道一筋に生きてきた。
大きな大会で、何度も優勝したこともある。
まだまだ27歳だ。逃し続けてきたオリンピック出場のチャンスを狙っていた。
 
…しかし全てが去年までの話だ。
当たり前だと思っていた俺を取り巻く状況のなにもかもが、たった一日で変わってしまった。
 
ある日突然逮捕されてしまったのだ。
不起訴処分にはなったが、会社はクビになり、会社の柔道部も事件を理由に廃部になってしまった。
柔道協会からは除名され、オリンピックの夢も潰えてしまった。
 
それどころか、再就職先さえままならない。
とりあえずは社会復帰して、給料をもらわなければどうにもならない。
 
 
…やっと見つけた仕事が、宅配便ってわけだ。
今は197cm、140kgの巨体を無理やり軽トラックに詰め込んで、小口荷物配送業務に勤しんでいる。
 
 
 
「待って、宅配便屋さん!」
 
「なんですか、奥さん」
 
「失礼ですけど、あなた柔道の扶桑選手じゃないですか?」
 
まただ…
このガタイだし、中途半端に有名なもんだから、すぐにバレてしまう。
 
「はい、そうです。その扶桑です…でも柔道はもう辞めました。例の事件でね、はは。」
 
「やっぱり〜!わたしファンだったの!それにしてももの凄い筋肉ですね…ちょっと触らせてもらってもいいですか?」
 
「ははは、いいですよ」
 
「きゃはっ、ありがとう。キャッ、スゴイ!カッチカチだわ」
 
まだ20代前半らしきそのオンナは、遠慮がちに俺の脇腹を突っつきながら、俺を見上げて目をキラキラと輝かせている。
派手目のメイクで飾り立てた華やかな美人だが、身長160cmにも満たない、やせっぽちで貧相なカラダ付きだ。
本人はスリム&ビューティーだと思っているのかもしれないが、高そうな洋服をひん剥くと、アバラの浮き出た薄い胸元が露わになるだろう。
B65ブラでもぶかぶかの、窪んだ胸板に張り付いた、みじめな脂肪の被覆。
それをおっぱいと呼ぶにはまったくボリューム不足の、あわれな突起だろう。
こんなオンナと生涯を共にしなければならない男に、憐れみさえ感じる。
 
 
「…胸の筋肉も触っていいですか?」
 
「奥さんって、見かけによらず積極的ですね。そんなことで良かったら、いくらでもどうぞ」
 
「きゃっ!…恥ずかしいんだけど、わたしマッチョ大好きなの。こんなチャンス滅多にないもんね」
 
俺はタイミングを見計らって、これ見よがしに大胸筋を派手に動かしてやった。
 
「うそっ、ビクンビクンしてる!…スゴ〜い。わたしのおっぱいなんか比べ物にならないくらいおおきいわ。」
 
「ははは…。最近はなんだかトレーニング中毒みたいになっちゃって、暇さえあればジムで鍛えてますからね。
…会社の方針でもありますしね」
 
「わたしの彼もジムに通ってるけど、全然比べ物にならないわ。ほんとスゴイ…」
 
 
やせっぽちの若妻は、しっとりと潤んだ目で、俺を見上げてうっとりとしている。
 
…昔ははこんなやりとりから、よくセックスにもちこんだものだ。
こんな貧相なカラダでは、俺の特大のモノはまず挿らないだろう。
キレイな顔を歪ませて、悲鳴を上げ…
『やめて、壊れちゃう!あァン、こんなデッカイの入るわけない!アんっ!!』
体重40〜45kgそこそこの、俺の1/3も重ささえ無い、外見だけそれらしく飾りたてた安物のおもちゃだ。
丁寧に扱ってやっても、すぐに壊れてしまう不良品。
 
 
しかし今はそんな気持ちにもなれない。
 
なんだかもう全てがどうだっていい…
 
 
 
「あの、奥さん。まだ配達が残っているんで…」
 
「あら、こめんなさい。わたしとっても興奮しちゃった!…最後に握手してください。
うわあ、大きな手!スゴイごつごつしてるわ。
ねえ、扶桑くん。いつもこの辺を配達しているの?」
 
「そうですね。このあたりの担当です」
 
「キャ〜!!じゃあまた会えるんだ!」
 
「ええ。マッスル宅配便を指定していただければ。それでは…」
 
「ありがと〜!またね〜!!」