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pop 作
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第2話 ボストニア自治共和国公館
 
ふざけた思いつきのようなマッスル宅配便だが、体育会系の屈強な若者を大勢雇用して、いま急速に業績を伸ばしている。
最近はネット通販を中心に、指名配送が急増している。
さっきのようなオンナは、それこそ掃いて捨てるほどいる。
 
こまごまとした配達をこなし、もう夜の八時過ぎだ。
でも荷台にはまだ5〜6個の荷物がのこっている。
 
伝票を確認すると、委託配送6個口で、住所がすべてアルファベットで書いてある。
海外からの委託便とはかなり珍しいケースだ。
 
 
配達先はとても古いビルだった。
レトロというには没個性的だが、周りの風景になじみつつも、なんだか風格みたいなものが感じられる建物だ。
このあたりは今までなんども通ったことがあるが、いままでこのビルにはまったく気がつかなかった。
レースのカーテンから漏れる薄暗い光が、ほのかに歩道を照らしている。
 
ビルの入口脇に、存在をむしろ隠しているかのような、ちいさなプレートがはり付けてあった。
変てこなアルファベットで長々と書かれた下に、小さく日本語でおそらく同じ意味のことを書いていた。
 
『在日本ボストニア自治共和国公館』
 
こんな地味なところに、自治共和国公館ってまた変に地味な名前だな。
ボストニアっていう名前も聞いたことがない。
まあこれを配達すれば、やっと今日の仕事は終わりだ。
窮屈な軽トラもおさらばだ。
 
 
「こんばんは!宅配便で〜す。」
 
インターホンに向かってそういうと、女性の声で「オーケー、カムイン」と返事があり、入り口のロックがガチャッとはずれた。
 
ギイッと音のなる古めかしいドアを開くと、そこは時の流れの止まったような、薄暗いエントランスだった。
矢印の表示にしたがって、くたびれた赤絨毯が敷かれた、ガランとした通路を、奥に奥にと進んでいった。
しまった。こんなに遠かったら、荷物の一つか二つ持って来るべきだった…と後悔しながら、事務室らしきドアの前まできたら…
 
 
いきなり格子模様のすりガラスをはめたドアが開き、栗色の髪の超美女があらわれた。
薄暗かったはずの廊下が、いきなり明るくゴージャスになったような錯覚さえ感じた。
しかし驚くべきことは、凄みすら感じる眩いばかりの美貌ではなく、単純にその“位置”だ。
 
 
ドアが開いた瞬間には、彼女の顔はまったく見えなかった。
軽くウェイブのかかった栗色の長い髪が、モップみたいに覆いかぶさっていたのだ。
それが外国人女性の、頭のてっぺんだと気づくのには、少し時間がかかった。
2メートルサイズのドアフレームに、頭をこすりつけながら現れた女性は、髪をかきわけ、俺の目の高さでとびっきりのスマイルをくれた。
ウエルカム感満開の彼女の笑顔に、俺のハートは鷲づかみにされてしまった。
なんてキレイなヒトんだろう…、って。
 
しかし彼女の小さな顔が、みるみるうちに高さを増していくのである!
2メートルしかないドアを潜るのに、深々と腰を折り、頭をさげていたのだった。
気が付けば、俺はこれ以上首が傾かないほど上をむいていた。
 
 
「ハーイ!」
 
超長身美女は、外人らしいフレンドリーさで挨拶をくれた。
しかし俺は、驚きのあまり声もでない。
俺だって身長197cmで、シューズも含めれば、ほとんど2メートルもあるというのに…
 
 
 
「どうしたんですか?わたし日本語大丈夫ですよ。」
 
ちょっとだけイントネーションがおかしい。
…いやおかしいのは俺のほうだ。
彼女の碧い瞳をみつめ上げたまま、口をあんぐりと開いていたのに、やっと気が付いた。
 
「いや、あの…宅配便です」
 
あまりの超長身美女に気が動転して、声が裏返ってしまい、バツが悪くなって、すこし目を伏せた。
 
すると、細身のカラダをイメージさせる、シャープでクールな顔つきにはあまりにも不釣合いな、凄まじいまでのボリュームの、がっしりとした肩幅が目に入った。
白いシャツがぱんぱんにひっぱられ、その中で、肩の筋肉が激しく盛り上がっているのがよくわかる。
 
…これは超一流のアスリートのカラダだ。
 
いや、ここまで凄まじい体格の女性を、俺は見たことがない…
そこしれないパワーを感じずにはいられない。
 
しかしボディビルダーのような、女性らしさをそぎ落とした人工的なイメージのカラダでは全くない。
適度に体脂肪をのこした、もの凄く肉感的でエロティックなアマゾネスボディなのだ。
 
もしかしたら体重も、筋肉の鎧をまとっているようだ言われる140kgの俺よりも、重たいのかもしれない。
 
…俺は中学生の頃から、こんな自分より背が高く、パワフルな女性を夢見ていた。
これでおっぱいがデカければ、まさに理想どうりのオンナだ。
 
 
俺は期待をこめて、大きく開いたシャツの胸元を、チラッと盗み見ようとした。
 
…しかしそこにあったのは、俺の想像したような、ちゃちな爆乳などではなかった。
 
 
シャツを引きちぎらんばかりの、超特大サイズの肉塊が、どかんどかんと激しく盛り上がり続け、膨らみの頂点がわからないほど、あたり一面茫洋と広がっているのだ。
 
その巨大な膨らみは、大きく左右にひろがり、彼女の肩幅よりも張りだして、腕やウエストラインを巨大なシルエットで覆い隠してしまっている。
白い半袖シャツは、あまりにも巨大なおっぱいを包み込むために、へんな縫い目がいたるところに走っている。
それにもかかわらず、ぱっつんぱっつんにひっぱられていて、窮屈そうに無理やり止められた、シャツのボタンと生地とが引っ張りあって、悲鳴をあげている。
ボタンとボタンのすきまから、ブラや生パイが覗いて見えている。
 
 
 
 
「デカッ!!」
 
 
思わずそう口走ってしまった。
 
 
 
「驚いた?よく言われるのよね」
 
いくら見つめ続けても信じられないほどの、あまりにも巨大なおっぱいに気をとられ、俺はうつろに生返事をかえした。
あまりにも傍若無人で、非現実的なまでのサイズのため、最初に彼女を見たとき、それを超巨大なおっぱいだと認識することさえ出来なかったのだ。
 
 
「信じられない…本当にデカい…」
 
「もう!いつまでもおっぱいに目を貼り付けてないで、顔を上にあげたらどう?
あなた、女性に対してデカイデカイって失礼よ!」
 
「あっ、すみません。つい…」
 
怒っているのかと彼女を見上げたら、余裕のスマイルだ。
それにしてもなんという笑顔なんだろう…
 
「つい…、つい何なの?…わかってるわ。日本人はほんとうにおっぱいが大好きだもんね。
…わたしなんか全然たいしたことないのにね」
 
そういって、とんでもなく大きなおっぱいを両手で鷲づかみにして、ぼよんぼよんと揺さぶってみせた。
彼女の大きな手でも、まったく覆うことのできない、大玉スイカのような巨大な膨らみが、窮屈そうなシャツの下で重々しく暴れている。
 
「うわぁ、すっげぇ!」
 
「あら、ちょっとサービスし過ぎちゃったようね。そんなにエキサイトしないで。
…何か荷物があるんじゃないの?」
 
俺は無理矢理われにかえった。
 
「すいません。荷物は6個、外の車につんだままです。すぐに搬入します。…それにしても、身長もとっても高いですね。…ステキです」
 
「あら、ありがとう。…怖がられることもあるから、とってもうれしいわ。…でもあなたもまあまあ大きいよ」
 
197cm、140kgの、筋肉の塊のようなこの俺を、まあまあ大きいって…
そんなことをいわれたのは…たしか…中学生以来になるのか…
中学校に入学したころ、俺は身長175cm、体重も80kgくらいはあった。
同じクラスになった180cmを越える大女に、確かそういわれた。
まあまあ大きいって…
 
 
 
俺は大きさの割に軽い荷物を運び込みながら、さっき見上げたばかりの、長身巨体爆乳筋肉美女を頭の中に焼き付けようとしていた。
いけないと分かっていても、下半身がギンギンに怒張していて、とても歩きにくい。
そのせいで、搬入に思わず時間がかかってしまった。
 
積み上げたダンボールの山の陰に股間を隠し、さきほどの美女に声をかけた。
 
「すみませ〜ん!受け取りのサインをお願いします」
 
「あっ、ちょっと待って。今お茶をいれているの。あなたも少し休んでいかない?こっちに入ってきてそこのソファにでも座って」
 
「でも…」
 
「まだ、お仕事が忙しいの?大変ね」
 
「いいえ、配達はもうこれで終わりです」
 
「じゃあ、ちょっとくらいいいじゃない。わたしあなたに聞いてみたいことがあるの…すこしお話しない?いいでしょ」
 
 
俺はゴクンと大きく喉をならし、伝票のファイルケースでさりげなく股間を隠しながら、ぎこちない足取りで事務室に入っていった。