いいかげんな召喚

ロイヤルみるく 作
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※このお話しは「適当な召喚」の後日談です。先にそちらを読まれないとまったく解らない場面があります。※
 
「ふむ。こんなものでいいな。」
 
机の上にいろんなものを並べて和樹は一息ついた。
朝丘高校オカルト研究部部長の彼は前回の苦い経験から今回は彼なりに慎重だった。
 
「今度は動画の通りにやってるからな。まず間違いないだろ。」
 
彼は某動画サイトにあげられてた
『初心者向き』悪魔召喚儀式のやり方『簡単!』
という動画の通りにすべてを準備した。
 
「喚び方は『窓を見ないように、イア、イア、ハスター!と叫ぶ。』か」
 
彼は動画の通り、魔方陣らしきものに両手を広げ叫んだ。
3分ほど叫び、かなりのどが辛くなってきたが何も起こる様子は無かった。
 
「ったく!釣りならアニキぐらいいれておけっつーの。」
 
悪態をつきながら片付けようとした時、目の前にぽっかりと黒い穴があき中から茶色と白のまぁるい何かが落ちてきてそのまま部屋の隅へと転がっていった。
 
「な、なんだ?一体何が落ちてきたんだ?」
 
和樹が落ちてきた何かを確かめようと部屋の隅へ行こうとした時、さらに穴から何かが落ちてきた。
 
「...でさ、その時あたし、ふぇっ!!」
 
後から落ちてきた『何か』は、右に茶色くて長いもの、左に白くて四角いものを振り回しながら叫び始めた。
 
「じ、じしん?!きゃぁぁぁぁ!!」
 
和樹はその『何か』に見覚えがあった。すごく見覚えがあった。彼はその『何か』をまるで世界の全てを凍り付かせる様な眼差しでじっと見つめた。
そんな彼の顔にその叫びまくる『何か』から飛来したと思われる、やきそばや紅ショウガや、キャベツの切れ端や、ミルクの滴などが次々と『べちっ』とヒットした。
 
「また、おまえか。」
 
彼は地獄の底からひびいてきたかの様な低くそして重い声を出した。
彼の声にようやく振り回してた腕を止め、ゆっくりと目を開けその『何か』はおもむろに顔を上げた。
 
「えっ?あー。和樹じゃない。やほー!元気だったー?」
 
右手にやきそばパンを持ち、左手にパック牛乳を持ったこの『悪魔』を彼は知っていた。
胸が腫れたからと言って泣き落とし、勝手に住み着き、部屋の中のありとあらゆる場所を占拠し、寝ぼけて精気を吸うなど暴虐非道の行いを一ヶ月にわたり繰り広げようやく追い払ったのが1週間前・・・それは彼が忘れるにはあまりにも刹那すぎる時であった。
 
「0秒以内に『か・え・れ・!』」
 
屈託のない笑顔でやきそばパンをふりふりするそれに向かって、彼は漆黒の穴をびしっ!と指さし即時退場を宣告した。
 
「もう!何よその冷たい態度は?こんなにかわいいサキュバスのキュルラちゃんにまた会えたのに。
いくら彼女が居ないからってレディに対する態度っていうのもがなってなさすぎない?」
 
「ま・た・会ったからと言えばいいのか?」
 
彼はふつふつと湧き上がる怒りの中、「俺はこの邪悪な悪魔を今ここで退治して勇者になれと神様から啓示を受けたに違いない。」と思っていた。
 
「ほんっと、和樹って素直じゃないわね。ツンデレもツンばかりじゃ女の子に嫌われちゃうのよ?
まあ、私は恋愛のプロ!サキュバスだから解ってるけどねー。」
 
キュルラは得意げな顔をし上を見上げ、悲しいほどまでに平らな胸に今にもずり落ちそうなほど似合わないまるで借り物競走で借りてきたようなセクシードレスを誇示した。
 
「言いたいことは済んだか?お子ちゃまは道草してないでまっすぐ家へ帰れ。」
 
彼の過ごした地獄の日々は、これほどまでに彼の心を凍てつかせ、その言動を完全に支配していた。
 
「ま、またおこちゃまゆーたなっ!大体、帰れ、帰れってあんたがまた喚びだしたんじゃないっ!!」
 
そう言うと、おこちゃまは両方のぽっぺをぷくーっとふくらませて、彼をきっ!と睨んだ。
「これがお子ちゃまじゃないなら、国語の辞書は全部書き換えだろ。」
彼はそう心の中でぼやく様に思った。
 
「お前なんか喚んだ覚えは少しもないんだが。」
 
またしても繰り返されようとする小学生の子守りというより、もはや悪ガキの面倒でほとほと疲れ果てる保父さんの様な役割に和樹はすべての気力が奪われる様な感覚に陥った。
 
「どうせあんたの事だから滅茶苦茶なやり方で喚んだんでしょ・・・。って何?このセンスの欠片も無いの。
悪魔を馬鹿にしすぎでしょ。うーん・・でもいくら召還事故(イレギュラー)でもこんなので夜魔族の私が喚びだされる訳ないんだけど??」
 
最初はふてくされていたが、やがて儀式らしきものに用意された物を見ていくうちに、キュルラは首をかしげながら不思議そうな顔をして「うーん?」とか「むー。」とかうなり始めた。そしてふと部屋の隅に目がいくと急に少女はそちらのほうに向かっていってしまった。
 
「そういえば・・・すっかり忘れてたけど、穴から落ちてきた何かが部屋の隅に転がっていってたな?」
 
和樹は自然とキュルラの向かった先を目で追っていた。少女は何やら部屋の隅に向かってしゃべりまくるとやがてしゃべり終え、和樹のほうを向いて手招きをした。彼は少女に招かれるまま部屋の隅のほうへと近寄った。
 
「ようやく全部解ったわ。どうりで変だと思ったのよ。今回あんたに喚ばれちゃったのはこの子のほうだったのよ。
あたしは・・・何でかな?よくわかんないけど・・・紹介してあげるね。この子が・・」
 
キュルラはそういうと手を広げ部屋の隅を指した。和樹は少女の手を追うように部屋の隅を見たが、そこには何もなかった。
 
「って!いつまで怖がってるのよ!ほらっ!自分で出るっ!」
 
キュルラは自分のかっこいい紹介が空振りに終わった事にぷりぷりと怒った。広げてた左手をそのまま自分の後ろに回すとべしべしっと後ろを叩いた。その手に追い出される様に少女の後ろからキュルラの顔をまるで防護盾の様に構えながらそろーっと何かが小刻みに震えながら顔を覗かせた。
 
「こ、こ、こ、こんにちは・・・キャ、キャロルです・・・は、はじ、めまして。」
 
今にも死んでしまいそうなくらい、ひどく怯えた何かはキャロルと名乗った。そのあまりにも小動物的な何かに和樹はすっかりどうしていいのか解らず、とりあえず挨拶だけは返しておこうと思った。
 
「えーっと。キュルラの友達かな?俺は和樹。ここの2年生。とりあえずよろしく。」
 
和樹は出来る限り怖がらせない様に、困惑しながらも努めて穏やかな口調で自己紹介をした。
 
「ひっ!!」
 
だが、そんな彼の努力も空しく、キャロルはまたキュルラの後ろに隠れてがたがたと激しく震え始めた。
 
「ちょっと!キャル!また隠れたらだめでしょ!ほらちゃんと自分で出るの!」
 
キュルラはまたしても自分の影に隠れ、必死にしがみつくキャロルを引っ張り出そうとしたが、キャロルは今度は涙目になりながら必死でキュルラから離れようとしなかった。
 
「だって!和樹っていったよ!?キュルちゃんがよく話してる、あの和樹?女の子にふられまくってエッチなのがたまりまくってる人間って!」
「ちょ!ばかっ!和樹に聞かれたらどうするのよ?!」
 
キュルラは小声で強く慌てる様にキャロルに抗議した。だが、さすがに手招きをされて充分に間合いのつまった和樹がそれを聞き逃すはずもなかった。
 
「ほぉ。きさまは普段、俺の事をあっちでそんな風に言ってるのか。」
 
勇者和樹は邪悪な悪魔にとどめを刺すべく両手を組みぼきぼきっと鳴らした。
 
「や、やーねー、和樹くーん。そんなの軽い冗談に決まってるじゃない。いっつ あ あめりかん じょーくよー。」
 
キュルラはいつもの様に右手をくいっくいっと折り曲げ、笑ってごまかそうとした。だが、あまりにも不利な状況は少女の指を左右に振らせ、笑顔を引きつったものにしていた。
 
「そうか。俺にはお前のお友達が冗談じゃないって言ってる様に見えるのだが?」
 
少女はその親友によって今や最大の危機をむかえ、いやな汗が頬を伝った。
 
「こいつに一度ちゃんと言っておかないとだめなんだが・・・」
和樹はキュルラに対しての怒りもさることながら、それよりもあまりにも自分を見て怯えるキャロルの様子のほうがだんだんと心配になってきてしまったのだった。
 
「おまえには後でたっぷり言うことあるんだが、とりあえず、今はお前の友達を何とかしてくれないか?
さすがにそこまで怖がられるとこっちまで不安になる。」
 
「それなら任せといて!私、得意だから!」
 
おもわぬ好機にキュルラは勢いよく食いついてきた。怯えるキャロルをまたすみっこに連れていくと、何やら一方的に内緒話しを始めた。
何が得意なのか?何かまたよからぬ事は話してないのか?和樹は気にはなったものとりあえずこの場はキュルラに任せる事にした。
しばらくして内緒話しが終わったのか、キュルラがにこにこと立ち上がると、続けてキャロルが和樹の前に少しうつむき加減で恥ずかしそうにしながらやってきた。
 
「和樹。もう彼女大丈夫だからー。」
 
キュルラは手でOKのサインを作ると、にっこり微笑んだ。
 
「あ、あのー。さっきはごめんなさい。よ、よろしくです・・・・にゃ。」
 
キュルラに何を言われたか和樹には解らなかったが、とりあえず誤解は解けた様には思えた。とはいうものの、いくらあいつが邪悪な悪魔といえどこんなに短時間でこの子から不安を完全に取り除いたとは彼には思えなかった。現に少女は未だにまだかすかに震えてる様だった。
和樹はふっと笑うと、うつむき加減で、ちょうど彼の胸の前あたりにあるかわいらしい栗毛の頭にぽんっと手をのせた。
 
「そんなに怖がらなくても大丈夫だから。」
 
和樹はそう言うとやさしく手をのせた。いきなり頭に手をのせられた少女は一瞬びくっっと驚いたが、そのまましばらくじっとしていた。
和樹がゆっくり手をどけるとキャロルは和樹のほうを見上げた。
 
「和樹くん、いいひとですね。わたしには解ります・・・・にゃ。」
 
キャロルは和樹を見上げる様にして無邪気にかわいく笑った。
 
「改めまして、こんにちはです。私はワーキャットのキャロルです。よろしくです・・・・にゃ。」
 
少女は頭をぺこりっと下げるとようやく自己紹介を終えた。
 
「そうかー。ワーキャットなんだ。っていう事はやっぱりキュルラの友達かな?そっか、わーきゃっとかー・・・。」
「はいです・・・・にゃ。キュルちゃんとは同じクラスです・・・・にゃ。」
 
キャロルはにこにこと答えた。和樹はそんな少女をほほえましい表情をしながら改めてよく見てみた。
栗毛のつやつやとしたロングでナチュラルウェーブのかかった髪型にくりっとしてすこし上向き加減の大きな目に少しまぁるい鼻に、なんとなくにこっとしてる口。まっしろでふちに青いストライプの入ったワンピースからはかわいらしい首すじや手足がちょこんと出ていて、白いソックスに髪の毛とおそろいの様な革の小さなシューズを履いていて、全体的によく草原が似合いそうな清楚でかわいい感じだった。
 
「そっかー。わーきゃっとかー。わーきゃっとなんだー・・・」
 
和樹は確認する様に繰り返した。そしてそれはだんだんと独り言の様になっていき、つぶやきへと変わっていった。
彼のほほえましい顔は、その表情をなんとか保ちながらも、だんだんと目元や口元がひくひくと痙攣しはじめた。
和樹は部員も居なく、召喚に関してはことごとくいい加減な事をやっているが、一応オカルト部の部長だった。
当然オカルトに関しては一般の高校生などよりは拘りがあり、ことモンスターの知識においては一冊の本が出せるほどの知識が彼の自慢でもあった。それが現実はお子様のサキュバスに、今度はとてもおとなしくてかわいいワーキャットである。
ワーキャットといえば、もっとアグレッシブでもっと大人でもっとセクシーなはずなのに・・・
またしても襲い来るアイデンティティの崩壊に彼の心に闇が忍び寄ってきた。
 
「・・・・キャットと言うより子猫(キティ)だな。」
 
思わず和樹の口からその湧きあがる闇が漏れ出てしまった。和樹の何気なくつぶやいた一言を聞いたキャロルはかわいらしい笑顔の大きな目からぽろぽろと涙をこぼすと、火がついた様に泣き始めてしまった。
 
「ふええええええええん!キャルはワーキャットだもん。キティなんかじゃないもんっ!!」
 
いきなりキャロルが激しい勢いで泣き始めた事に、和樹はすっかりパニック状態になってしまい、狼狽した。
騒ぎに駆けつけたキュルラ隊員は、キャロルの肩を優しく叩きなぐさめながら和樹のほうを『きっ』っと睨みながら激しい抗議をした。
 
「ちょっと、あんた!どうせまた何か言ったんでしょ?!ほんっとデリカシーの欠片もないんだから!・・・・ってキャルにキ・・っと。なんて言っちゃだめでしょ!なんであんたは毎回狙った様にひどい事言うのかしら?!この子泣き出したら大変なんだからっ!」
 
和樹は自分の犯した罪にばつが悪そうに「ごめん。」と謝った。だがこころのどこかで「そんな事俺が知るかよ!」と叫ぶ声も聞こえていた。
 
「ふええええええん!ひっく、ひっく、ワーキャットだもん。キャル、ワーキャットだもん!」
「うんうん。キャルはせくしーなワーキャットだよー。」
 
依然としてまったく泣き止む気配すら見せようとしないキャロルをキュルラはあやしつづけた。だが少女は一旦こうなるともはやあれに頼るしかない事を知っていた。
 
「ちょっと、私がなんとかするから!ほらっ!」
 
キュルラは和樹に手を指しだし何かを催促するように揺らした。
 
「ん?なんだその手は?」
「何って、お金に決まってるでしょ!ほらっ、この子なんとかしないと!はやくっ!!」
 
和樹は訳もわからずとりあえず500円玉をキュルラに渡そうとした。
 
「ばか!そんなんじゃ足りないわよ!1000円出しなさいよ!」
 
キュルラにまたしても『きっ』と睨まれた和樹は、とりあえず言われるままに要求をのんだ。
 
「ちょっとこの子だまらせるもの買ってくるから!その間おねがいね!」
 
キュルラは1000円札を受け取ると、ダッシュでどこかに行ってしまった。後には泣きじゃくるキャロルとなすすべも無く立ち尽くす和樹だけが教室に残された。
 
「おまたせー!はい、キャル!あんたの好きないちご牛乳だよー。」
 
しばらくして出て行った時と同じ様にダッシュで戻ったキュルラは、急いでコンビニの袋からいちご牛乳を取り出すとストローを刺し、キャロルに握らせ、ストローを口の所までもっていった。キャロルは泣きながらも鼻をぴくりっと反応させ、泣きじゃくりながらストローでいちご牛乳を飲み始めた。やがて完全に泣き止み、それどころか満面の笑みで幸せを満喫しているキャロルをみてキュルラは安堵の息をもらした。
 
「ふ−。もう大丈夫ね。じゃ、また何かあったら呼んでねー。」
 
そういいながら少女はコンビニの袋を腕にぶら下げ、奥にあるテーブルに落ち着くと、TVをつけた。
和樹はどうやらキュルラの言うとおり、ようやくおさまってくれた非常事態に安堵するとともにどっと疲れた。
目の前でまるで別人の様にけろっと幸せオーラ満開の女の子をぼーっと見てると、彼はふいに何かにきがついた。
 
「おい、おつりは?」
「おつりー?そんなのあるわけないじゃん。」
 
和樹はキュルラのほうを見た。彼女はこちらに背中を向けながらポッキーを食べつつTVの方を見ながらめんどくさそうに手で和樹に答えた。そんな彼女の前にはコンビニの袋から出されたジュースと色とりどりのお菓子が並べられていて、少女の言うとおり、おつりが無い事は一目瞭然であった。あの様な切羽詰まった状況下でもちゃっかり自分の事を考えて行動し、いとも簡単に利用された悪魔に和樹はもはや何かを言う気力さえわかなかった。
とりあえずあんな極悪非道の外道よりは、目の前にいる幸福をかみしめてる子と話してるほどがよっぽど有意義な事に彼は気がついたのだった。キャロルはいちご牛乳を最後まで飲み干すと、一点の曇りもない表情で話しかけてきた。
 
「ごちそうさまでした・・・・にゃ。いつもすぐ売り切れてて買えないのに、こっちでまさか飲めるなんて思いませんでした!・・・にゃ。」
 
キャロルは頭をぺこりっと下げると、興奮で大きな目をさらにまんまるにしながら和樹に熱く語りかけた。
 
「あー。えーっと・・たぶん、それ、こっちの飲み物だから。」
 
和樹はすっかり気圧されてしまったが、いちご牛乳でこれだけ幸せになれる少女が少しうらやましくもあった。
 
「あ、なるほどです!そうだったのですか!人間界にはこんな美味しいものがいっぱいあるのですね!もしかしたらこっちに来た誰かが魔界にこっそり持って帰ってるのかもです!やっぱり人間界ってすごいです!・・・あ、にゃ。」
 
キャロルはますます興奮して手をにぎりしめてぶんぶんと振り回しながら熱く熱く語った。和樹は少女の熱意に押されるがままであったがさきほどからふと感じる事について何気なく尋ねてみた。
 
「ところで、さっきから気になってるけど・・。その『にゃ。』って?」
 
彼には腑に落ちないところがあった。「ワーキャットの語尾が『にゃ!』なのは正しい。とても正しいんだが・・・」目の前の少女の場合何かが違う様に感じられた。
 
「あっ!えーっと・・・『にゃ』って付けないと怒られるのです・・・にゃ。ワーキャットの決まりみたいです・・・・にゃ。・・・でも、何だか恥ずかしいですし・・・にゃ。
全然慣れないですし・・・にゃ。さっきみたいについ忘れちゃったりしますです・・・にゃ。」
 
意識させる事でなんだかわけのわからないものになっていく少女に和樹はあらためて心の中で落胆した。そしてなんとなく猫っぽい?程度でどうみてもキュルラと同じ小学生の女の子にしか見えないこの現状を前に彼には夢も希望も全くといっていいほど無かった。
すっかり落ち込んだ彼は無意識に少女に聞いた。
 
「それで、今日は何しにこっちに来たの?」
 
彼は言った途端、「しまった!」と思った。前回同じ事を言ってキュルラを怒らせてしまった事を思い出し、彼は先程の様な惨劇が再び繰り広げられる事を恐れた。
 
「え?うーんと・・・・そうですねー。」
 
キャロルは和樹から急にされた質問に手をあごに当てて上をむいたり、下をむいたり、頬にこぶしをあてて考え込んだりしはじめた。
 
「ふー、あぶなっ!気がついてないみたいだな。ひょっとしてワーキャットだからちょっとおつむがかわいそうなのかな?」
彼はとても失礼な事を思いながら冷や汗をぬぐうと、必死に考え事をしてるキャロルを放置し、TVを見ながら午後の一時をくつろいでいらっしゃるキュルラの所へ忍び足で行った。
 
「ちょ、キュルラさん、TVなんか見てる場合じゃないって。」
「な、なによー。今おもしろいとこなのにー!」
 
ドラマの再放送に夢中だった少女は突然邪魔してきた無粋な男を睨んだ。
 
「それが、やばいって!俺また喚んだんだけどさ・・・」
 
カールをしゃくしゃく食べながらすっかりドラマに夢中のキュルラの手がぴたりっと止まった。
 
「あ、あんた、まさか!また!用も・・・ふぶぶぶっ!!」
「ば、ばか!静かにしろ!」
 
いきなり興奮して叫び始めたキュルラの口を和樹が手でぎゅっと押さえた。
 
「だ・か・ら・どうしようって言ってるんだよ。」
「んむー!ぶっ・・うー!ぷっ・・!!」
 
突然自分の口を塞いできた無礼者に少女は目で抗議し、必死に叫びながら手を振り回したり、相手の顎を押したりして抵抗した。
だが和樹もなんとか逃さまいとそれを力でねじふせたのだった。
 
「ちょ、ちょっと、落ち着け。な?な?」
 
和樹はキュルラに目も使って落ち着くよう説得を試みた。少女はあきらめた様にうなずくと、振り回してた腕をおろした。
 
「で、どうしよう?」
 
キュルラの口から手をどけた彼はあちらで思考の迷路で迷子になってるキャロルに聞こえない様小声で相談を始めた。
 
「はぁ。はぁ・・・どうしようって!だいたいあんたが無責任で!無計画で!いいかげんで!あんぽんたんで!おっちょこちょいで!変態で!・・・」
 
ようやく和樹の手から開放されたキュルラは息を整えながら小声ながらも強い口調で非難を始めた。
 
「ああ、ごめんごめん。それは後で聞くから。で、どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって・・・私にも・・・・」
 
少女は小声で怒りながらもふとひらめいたのだった。
 
「そだっ!ほら!要するに私の時みたいに魔力を・・ってだめかー。」
「またあれか・・・って何か問題でもあるのか?」
「うん。あの子ってほらワーキャットでしょ?ワーキャットってある時期が来ると人型から変身して猫と人みたいな・・・
口で説明しにくいけど・・・」
「ああ。問題ない。それくらいは知ってるよ。」
「さっすが和樹。話しが早くていいわね。変態だけど。」
「うっさい!早く続き話せよ。」
「でね。それからは獣人形態と猫形態になるんだけど・・・あの子はほら、まだなのよ。本当ならもうとっくに変身してるはずなのに・・・」
「そりゃあ、おまえのクラスメイトなんだから、不思議でも何でもないだろ?」
「ぶっころされたいの?でっ!今のあの子は正確に言うと魔族だけど魔族じゃないみたいな・・・・」
「よくわからんが?つまりどういう事なんだよ?」
「だから、魔力をあげるにもその溜めるところが無いから無理なの。」
「なんだよ。じゃあしょうがねーじゃん。」
「だからだめって言ってるのよ・・・・。」
 
結局暗礁に乗り上げてしまった事に二人は落胆した。だが次の瞬間、少女はがばっ!と顔を上げると彼にすごい勢いで尋ねてきた。
 
「そうだ!和樹ぃ!今日の月齢いくつ?!」
「いや・・さすがに天気は知ってても月齢までは知らん。」
「んもう!役に立たないわね!」
 
目の前のボンクラに呆れる様に言うと、少女は携帯を取り出して手慣れた感じで操作し始めた。
 
「おい。その携帯。いつの間に・・・。」
 
和樹が出所不明の携帯(ブツ)について尋ねようとした。
 
「すっごぉい!今日ちょうど満月じゃない!何これ?!」
 
キュルラは携帯を持ち上げる様にして今にも踊り出しそうなくらいの偶然にびっくりした。
 
「・・・・って。よく考えたら獣人族のゲートが開くのはこっちの満月に決まってるじゃない。」
 
少女は携帯を持つ手をがくんっと下げ、目一杯落ち込んだ。
キュルラの急激な感情の起伏にすっかりおいてけぼりの和樹は少女に尋ねた。
 
「で?結局どうなったんだよ?」
「うん。大丈夫。いけそうよ。」
 
少女は下げた頭をくいっと起し、満足そうに答えた。和樹は目の前の激しすぎる気分屋に呆れるしかなかった。
 
「さっき、あの子はまだ変身してないって言ったけど、こっちにそれを覚醒させるものがあるのよ。」
「・・・ああ。そういう事か。つまり満月で獣人は変身する。っと」
「そうそう、さすが変態和樹ね。まあ普通は勝手にするんだけど、あの子みたいに遅い子にはちょうどいいかもね。」
「変態じゃねーっつーの!で、それが今夜と。」
「そうそう、そういう事なのよ。そこであの子が変身した後に魔力をあげればすべてOK!」
「なるほどな。じゃあ、そう言ってくるわ。」
 
話しがまとまったので和樹がキャロルの元へ行こうとしたが、キュルラが袖をひっぱって止めた。
 
「ちょっと待って。あの子には言わないほうがいいと思うの。」
「うん?何でだ?言わなきゃだめだろ?」
「だから、変身の事とかあの子知らないから言わないほうがいいと思うの。」
「はぁ?よく解らんが?知らないなら余計に言ってあげなきゃだめじゃないのか?」
「だぁかぁらぁ!・・・・突然のほうがあの子驚くし、そのほうが『おもしろい』でしょ?」
 
キュルラは本家本元の悪魔の様な笑みでにやりっと笑った。和樹はこの少女が何を言ってるのか理解できなかったが、次第に彼の奥底に眠るオカルトの魔物が、『獣人が満月を見て突然苦悩して変身するところを実際に見てみたい。』という欲望を彼の心にまき散らし、すっかり黒く染め上げてしまったのだった。
 
「それもそうだな・・・・。」
 
二匹の悪魔は邪悪にそして静かに笑った。
 
少し長め作戦会議が終わり和樹はキャロルの元へと戻った。少女は未だに深い迷路の中を迷ってる最中であった。
 
「あぁ。やっぱりこの子。頭がちょっとあれなんだ・・・。」
和樹は同情を禁じ得ず、おもわず目頭が熱くなる様に感じた。そろそろ頭がオーバーヒートして煙でも出てきそうな感じのキャロルの頭にぽんっと手を置くと和樹は言い聞かせる様に言った。
 
「目的ってこっちに来て魔力をもらう事じゃないのかな?」
 
和樹の一言でキャロルは深い深い迷いの森に一筋の光が差し込んだ様に晴れやかな顔になった。
 
「そうです!それです!こっちは魔力いっぱいってキュルちゃんから聞いてました!」
 
元々少女に目的など無く和樹に勝手に喚ばれたのに、あろうはずも無いものを探し、そしてそこにもっともらしい理由を与えられた事でかわいそうな子猫の少女はすっかりそれを自分の目的と勘違いしてしまったのだった。
 
「それでね、キャル。その魔力の事なんだけど」
 
キュルラはキャロルの横から突然会話に入ってきて立て続けに話した。
 
「真夜中にやるのが一番いいから、今日の真夜中にしようかー?って決まったのよ。」
「ほへー。いつの間に?」
「あー、えーっと。今決まったのよ。ねっ。」
 
キュルラは和樹に目で話しを合わせる様に合図を送った。
 
「そ、そうなんだよ。真夜中がいいかなーって。」
「そうなんだー・・・あ、にゃ。和樹くんがいいなら、私は全然いいけど・・・にゃ。」
「それじゃ、決まりっと!今日の真夜中ってことでっ!」
「うん?場所とか決めなくていいのか?人目につかないで広めの開けた場所っていうと・・・北神山の途中くらいしかないが・・・」
 
和樹は自分の知っている色々な所を思い出し、最適であろう場所を思い浮かべた。
 
「でも・・・俺はともかく・・・お前みたいな小学生や、キャロルみたいな真っ白い服着た女の子なんか目立ってしょうがないんだが?」
 
キュルラとキャロルは和樹から見ればどっちも小学生に間違いないんだが、下手にキャロルを刺激してまた泣き出されると困るのでここはキュルラさん一人に汚名をきせることにしたのだった。
 
「だれが小学生よっ!おあいにくさま!あんたなんかに心配されなくても夜魔のあたしは人間なんかに見つかりませんから!
闇の中からあんたについていけば全然問題ないんだから!キャルも一緒に居ればいいから余計なお世話です。さん、はい。ばーか!」
 
すっかりまたお子様スイッチの入ってしまったキュルラは和樹にあっかんべーをした。
 
「ほー。それはよかったなー。ってお前それただのストーカーじゃん!」
「ストーカーなんて安っぽいものと一緒にしないでよ!いい?あたしはサキュバス。ストーカーなんかよりずぅっと上の種族なんだから!」
 
キュルラは怒りながらも少し自慢げに鼻を上に向けた。そんな得意げなお子様の事などお構いなしに和樹は「目の前のたちの悪いストーカーを早めに退治しておいたほうがいいかもしれない。」と真剣に思い始めた。
 
「とりあえず、一時おいとくとして・・・じゃあ0時ぐらいにそこに着くように俺が向かえばいいって事で他に問題とかあるか?」
「ないでーす!」
「キュルちゃんがそう言うなら無いと思います・・・にゃ。」
「よし、じゃあ。真夜中決行って事で、解散!」
 
一応くさっても部長である和樹が場をしめて、とりあえず一時解散となった。
 
 
煌々した月明かりが夜の帳の中に木々や草花を照らしだし、やさしい夜の風が演技を、そして虫たちが歌をそえる中和樹は目的の場所へと到着した。北神山の中ほどあたりにあるこの場所は一応山崩れなどの緩衝の為にある程度の整備はされているが、今まで幸いにもここまで崩れてきた事などなく、たまに人が来るくらいで、ましてやこんな深夜に来るやつなど、どこかのオカルトマニアくらいであった。
 
「っと、着いたぞ。もう大丈夫そうだな。おーい、キュルラ。いるのか?」
 
和樹はあたりをきょろきょろしながら声をかけてみた。
 
「ずうっとあんたの側にいるから大丈夫。キャルも一緒よ。ほら、キャル。和樹が居るかって言ってるよ?」
「はい、私もちゃんと居ますから心配しないでください。・・・にゃ。」
 
どこから聞こえてくるかも解らないがとりあえず和樹はキュルラ達がいる事を確認して安心した。
 
「ほぉ。本当にいるんだな。さすがお子ちゃまとはいえ夜魔か。」
「いますぐあんたの喉元かっきってさしあげましょうか?こっちからあんたの姿なんてばっちり見えてるんだから。」
「私は見えてないです。・・・にゃ。」
「キャルは夜魔じゃないからあたりまえでしょ?何言ってるのよ、あんたは。」
「そうでした。えへへ。・・・にゃ。」
 
声はすれど姿の見えない恐怖とそこから聞こえる和気藹々とした雰囲気のアンバランスさに和樹は頭が痛くなってきた。
 
「で、どうすんだよ?」
「いまそっち行くから。・・・ちょっと様子見てくるから、キャルはそこに居てね。」
「いってらっしゃいです。・・・にゃ。」
 
和樹の目の前の空間が溶けるように滲み、黒い裂け目からキュルラがすとんっと現れた。
 
「よっ!と。へえー。なかなかいいとこじゃない。」
 
キュルラは目の前の小さな草原を見回した。遠く眼下に広がる町並み、そして高速を通る車のライトの帯が美しく夜を彩り、涼やかな満天の月明かり照らされた緑の野はすべてを優しく包み込んでくれるかの様であった。
 
「ロマンチックねぇ・・・・」
 
少女は思わずうっとりとつぶやいた。
 
「お前がロマンチックとか・・・。お子ちゃま夜魔のくせに。」
 
和樹はいつもの調子で思わず少女の幻想世界に無粋にノックをしたのだった。
キュルラは凍り付く様な冷ややかな目で一瞥すると、大きなため息をついた。
 
「なんであんたはそんなに無神経なのよ・・・。もういいわ。さっさと始めましょう。」
 
少女はあらためて残酷な現実に失望したのだった。
 
「このあたりに居ればいいのかな?」
 
和樹は全体が見渡せる少し隅のほうにスタンバイをした。
 
「そうね。そこからならよく見えるんじゃない?じゃあ、呼んでくるね。」
 
そういうとキュルラはまた黒い歪みの中に戻っていった。
 
「ほら、こっちよ。あ、足下気をつけてね。」
 
キュルラに手を引かれる様にして、キャロルが草原に降り立った。
真っ暗な場所から急にわき出る様な色にキャロルは少し目を細めたが、やがて目も慣れてくると心地よい夜風に運ばれる草のにおいと心惹かれる綺麗な光景にぱっと頬を輝かせると、両手を広げながら草原を駆け回った。
 
「キュルちゃん、和樹くん。ここ気持ちいいねー。」
 
すっかりはしゃいでいる無邪気な少女の姿に和樹はこころが痛んだ。
キャロルは両手をくるくるまわしながら気持ちよさそうに上を見上げた。だがその瞬間、少女の動きが急に止まってしまった。
 
「いよいよね。あたしもワーキャットの変身するとこなんて見た事ないし、しかもそれがあの子なんて・・・。」
 
いつのまにか和樹の隣に来ていたキュルラは声を潜めながら息を飲むように注視していた。
 
「ああ。獣人が変身するとこが見られるなんて・・・・・すごいな。」
 
和樹もまた息を殺す様に一瞬たりとも見逃さまいとその刻が訪れるのを待った。
 
 
キャロルの瞳に月が映り込むと、少女の刻はすべて止まってしまった。そして瞳はまるで月をすべて写し込む様にと丸く大きく開いていった。
少女の思考はすべて止まり、少女の中には月、月、月、月!・・・以外のすべてが消え去ってしまった。
月から放たれる強い光。そして影。でこぼことした模様。それらの情報が意味もなく、だが強烈に少女へと焼き付いていった。
そしてそれが突然、『無』から『動』へと急激に姿を変えていった。
 
「ああああああああああああああああああっっっっ!!!!」
 
何も無い少女は叫んだ。少女自身の意志では無い何かによって。そして少女は初めて意識をした。自分の内側から沸き出すものが自分自身を吹き飛ばそうとしている事を。そして少女は手を震わせながら力いっぱい空へ伸ばした。この恐怖から逃れる為に。
 
「す、すごいわね。あの子大丈夫かしら?」
 
キュルラはあまりの迫力に恐怖を感じ、親友の身を案じた。それと同時に何の力も持たぬ人間の和樹の存在を心のどこかで頼った。
 
「あ、ああ。獣人なんだから大丈夫だろう・・・」
 
和樹は何の根拠もないまま、自分の希望的観測を述べ、刻をその心に刻み込もうとしたのだった。
 
 
やがて少女の身体は月明かりを浴びる様に光に包まれた。押さえきれない力が彼女からあふれ出し、まっしろなワンピースをずたずたに引き裂くとその光へと溶かし、そして露わになった少女の清楚な下着までも飲み込むと、完全に少女の戒めを解き放った。
そして喚び覚まされる獰猛な獣が彼女の意識へと襲いかかった。殺意、破壊、支配・・・あらゆる衝動的な欲望が湧き上がり、まるで少女のココロをそして少女自身をも新しく生まれ変わらせようと熱い炎となって身体を焼き尽くそうとしているかの様に少女は感じた。
 
「ああああぁぁぁ!!うぐぅぅぅああああああああああ!!」
 
少女は襲い来る業火に両手を頭にあて、それに耐えようとした。だが最早少女からは獣の叫びが放たれ、その身体は獣のそれへと変えられようとしていた。
 
「はああああああぁぐぅぅっ・・・・・うぅぅぅぅっ・・・・・」
 
必死に自らを押さえつけようとしていた少女の手の間からぐぐっっと何かが盛り上がってきた。そして少女の手の甲からも月明かりに照らされて輝く純白の毛が生え始め、手全体がむくむくと大きく膨らんでいくと、爪がするどく伸び始めた。
それと同時に必死に耐えている少女の足もむくむくと膨らみ始め白い毛に覆われ始めると、手と同じ様に足の爪もするどく伸び始めた。
そして脚や腕にも螺旋状に白い毛がわきたつ様に生え始めると、モモの付け根、下腹部、そして脇腹へと広がり始めた。
 
「はあああああああああああ・・・・・」
 
お尻の上の部分に帯の様に生えたちょうどお尻のラインの真上あたりのところが盛り上がり始め、それは次第に細長く、そして左右に揺れながらぐぐぐぐっっと突き出していった。そして膝のあたりまで伸び細長く垂れ下がった。
 
「はぁ!はぁ!はぁ・・・・・」
 
ようやくすべての変身を終え、少女は肩で息を整えた。
空に突き刺す程のするどく髪の毛の同じ栗毛色の二つの耳。白くてひときわ大きく肉球をたたえするどい爪を伸ばした手と足。
まるで螺旋と幾何学的模様の調和の様な白い毛で覆われた身体。お尻の上から細長くそして左右にゆれるしっぽ。
そこにはもはやあの少女の姿はどこにもなく、獣でもない人でもない魔性のものが生み出されたのだった。
 
 
「キャル!すっごぉい!ついに変身できたんだね!」
 
キュルラは駆け寄るとまだ息のあがっている親友の新しい大きな右手をつかみ喜んだ。
 
「う、うん。キュルちゃん、ありがと。にゃ。」
 
キャロルはまだ自分の身に起きた変化も把握できないまま、ハイテンションの親友にお礼を言った。
 
「獣人の変身ってすごいって聞いてたけど、すごかったよぉ!これでキャルも立派なワーキャットだねっ!」
 
キュルラはすっかり自分が『いじわる』をした事も忘れて、興奮してキャロルの右手を振り回した。
 
「あはははは・・・・。!」
 
キャロルはすでに制御不能な親友のペースについていけず、左手で頭をかこうとして爪で新たな耳をひっかいてしまったのだった。
 
ふたりが草原の真ん中でじゃれあってる頃、隅からは邪悪な気が次第に大きくあふれ出そうとしていた。
 
「・・・・・・。・・・・・・!・・・・がう!・・・ちがう!」
 
まるで呪詛の様に地の底から這い出てくるそれは次第にふたりのいる所まで忍び寄ろうとしていた。
 
「そんなのっ・・・・がふっ!!」
 
和樹が叫びだそうとした瞬間、キュルラはそのあたりに落ちていた何かを思いっきり和樹にぶつけた。
肩で大きく息をしながら、目標の魔物に命中し沈黙を確認するとキュルラは再びキャロルのほうを向き直った。
 
「和樹くん、どうかした?にゃ。」
「あ、ううん。きっとキャルの変身がすごくて興奮しちゃったんだよ。」
 
キュルラはあさっての方向を見ながら引きつった笑いで答えたのだった。
 
心の叫びをキュルラに妨害され、行き場の失った悲しみを膝と肘をつき地面に染みこませる様に彼はつぶやいた。
 
「途中まではよかった。よかったんだ。けど、あれ・・・じゃあワーキャットじゃないだろ・・・あんなの秋○原の店の前でよくわからん鈴ぶらさげてるあれじゃん・・・。俺が見たかったのはワーキャットの変身なんだよ・・・。」
 
オカルトマニアとして途中まで興奮が異常に高かっただけに、キャロルの今のますます子猫化が進んだだけの姿に和樹は深い悲しみに包まれた。その割には余計な知識も持ち合わせている彼だったが、萌えと獣が備わり最強に見える。という理論は彼には通用しない様であった。
 
「ちょっと、あの馬鹿の様子見てくるから、キャルはここに居てね。」
「え?私も気になるけど・・・ひょっとして、お邪魔かにゃ?」
 
キャロルはちょっといじわるく笑いながら探りをいれようとした。
 
「ばかっ!何言ってるのよ!いいからそこで待ってなさいっ!」
「はーい。ごゆっくり。にゃ。」
 
キャロルは微笑みながら大きな右手をぶんぶんと振った。
 
もはや余生を地面に呪いを吐き続けようとしている和樹の顔をキュルラはぐいっと持ち上げゲキを飛ばした。
 
「ほらっ。これからが本番でしょ?しっかりしなさいよ!」
「もう・・帰る・・・。」
「なっ!何言ってるのよ!何しにここまで来たと思ってるのよ!!」
 
和樹の無気力ぶりにキュルラは思わずキレて大声をあげてしまった。
 
「キュルちゃーん。だいじょーぶー?」
「あ、うーん。だいじょぶだからー。」
 
心配そうに遠くから声をかけてくるキャロルにキュルラは笑顔で答え、和樹のほうを向き直ると、彼におさえめの声で怒り始めた。
 
「ほら!キャルも待ってるんだから。あの子に魔力あげる約束したでしょ?」
「だって、別にその為に喚んだ訳じゃないし・・・」
 
すっかりテンションがだだ下がりに下がった和樹はもはやだだっ子の様になってしまっていたのだった。
 
「あんたねぇ。大体あの子を騙して変身見ようとした事申し訳ないと思ってるの?騙したのよ?あの子の事!」
 
キュルラの言葉に和樹の体がぴくりっと動いた。それを見た少女はいけそうな雰囲気を感じた。
 
「お前だって、『おもしろい』とか言ってたじゃん。」
 
効果はあったが自爆だった事に少女は心の中で頭を抱えた。
 
「そ、それに、キャルもこんな夜中に裸でかわいそうでしょ?早くしてあげないと風邪ひいちゃうよ?」
 
キュルラはそういうと和樹にキャロルのほうを見させた。
 
「獣人なんだから、別に裸って訳じゃないだろ・・・。」
 
少女は心の中で「これだからオカルトマニアって・・・」と思いながら、ふいにある事にきがついたのだった。
 
「あ、ほらっ!あの子。胸のとこに毛が生えてないでしょ?!」
「それがどうかしたのか?」
「ワーキャットはね、発情期になると胸の毛が無くなるのよ。つまりあの子は、たぶん月の力で一気に覚醒しちゃったからかもしれないけどちょうど今が発情期なわけ。あの子の事だからあんまり意識して無いだろうけど。」
「だから、なんだって言うんだよ。」
 
和樹は少しいらっとしながら聞き返した。
 
「だぁかぁらぁ。発情期ってことはあんたの精力を効率よく取り込んで魔力にできるってわけ。すっごくチャンスなのよ?!」
「ほう、そりゃよかったな。」
 
せっかく気がついた好機も、和樹には全然伝わってない事にキュルラはいらっとしてそして無責任にそそのかした。
 
「それに、あの子。まだ月の力で変身しただけで魔力なんて弱いから、あんたから魔力もらえばまだ変身するわよ?」
「ほう?!」
 
ようやく食いついて来た魚を逃すまいと少女はさらに竿を引き上げようとしたのだった。
 
 
何やらあちらで二人で話してる事が気になりながらも、キャロルはまだ熱っぽい身体を冷たくて心地よい草の上に座り、さましていた。
そんな火照った身体を夜風が通りすぎると、キャロルは自分の小さな胸が晒されている事に気がつき、あわてて両手で隠し、赤くなりながら下を向いた。そして身体を隠す物が欲しくなり、お邪魔してはいけないと思いつつも、おしゃべりに夢中になってるキュルラに呼びかけたのだった。
 
「キュルちゃーん。そろそろ帰らなーい?」
「何言ってるのよー。まだ用事済んでないんだからー、もうちょっと待っててー。」
 
すぐにでも帰りたい気分になってきたものの、親友のいいつけにおとなしく待ってるキャロルだった。
 
こちらでは和樹、あちらではキャロルと当事者の二人が共にいい加減なのにもかかわらず、自分一人ががんばってる事にキュルラは少し腹が立ってきた。もはやこんな茶番を一刻も早く終わらせる為に少女は猛攻にでたのだった。
 
「ほら、あの子。わかんなくなってきちゃって帰りたいとか言い出しちゃってるよ?」
「帰りたいなら帰ればいいんじゃねーの?」
「だめでしょ?前に言ったでしょ?何もしないで帰ってきちゃったら、あの子すっごく馬鹿にされちゃうのよ?」
「ああ。そういやおまえそんな事言ってたなあ。」
「あの子、あんたの何も考えてない召喚で来たくもないのに喚びだされちゃったのよ?」
「うっ・・・。」
「それに・・・そりゃあ私もおもしろがったけど、あんたもあの子の変身が見たいからあの子にそれを言わなくて騙したのよ?」
「ううっ・・・。」
「そんなかわいそうな子を、あんた、このまま帰す気?あんた悪魔以下の最低な外道よ?」
「ううううっ。わ、わかったよ。やればいいんだろ。やれば。」
「そう。そう。解ればいいのよ。解れば。」
 
人間の最大の弱点『良心』を呼び起こしそこに波状攻撃をかける事で、ようやく落ちた和樹の肩をぽんぽんっと叩くと、キュルラはほっと一息をついた。
 
 
「キャルー。おまたせー!」
 
キュルラはずーっと言われたままに待っていたキャロルの下に駆け寄った。
 
「おかえりー。じゃ、かえろっか?」
 
キャロルが帰ろうとしてる事にキュルラはあわてた。
 
「ちょっと!あんた、ここに何しに来たと思ってるのよ?」
「うーんと・・・・。変身かにゃ?」
「ち、違うでしょ?それはあんたが勝手に変身しただけで・・・。」
 
キュルラはちょっと言葉につまってしまったのだった。
 
「あー。そっかー。うーんと、じゃあ、何だっけか?にゃ。」
 
キュルラはほっと胸をなで下ろすと「この子が馬鹿でほんとよかった。」とかとんでもない事を考えたのだった。
 
「だから、魔力をもらう為でしょ?忘れたの?」
「あー。そうだったね。忘れてたにゃ。」
 
キャロルが『にゃははは』と笑いしそうな雰囲気なのを見て、キュルラは「この子変身でより馬鹿(以下略)。
 
「それでね。魔力をもらう方法だけど・・・・」
 
キュルラはキャロルに例のやり方をとがった耳に内緒話しをした。
 
「ええええええええ!!そんなの無理っ!!」
 
キャロルは真っ赤になった顔をぶんぶんっと振り回すと、両手の肉球を見せながら左右に何回も振ったのだった。
 
「でも、あんた。何もしないであっちに帰ったら・・・どうなるか知ってるよね?」
 
前回、キュルラは結局、魔力を溜めたまま魔界に帰る事は出来ず、帰ってからというものさんざん馬鹿にされてしまったのだった。そんな親友の辛い姿を目のあたりにしてるキャロルにはその本人からの言葉はすごく重く感じられたのだった。
 
「う、うん・・・。それはわかってる・・・。」
「だったら、和樹に魔力もらいなさい。和樹も喜んで協力するって言ってるし。」
 
彼は一言もそんな事は言ってなかったが、そこは嘘も方便で少女は押し通したのだった。
 
「和樹くんも、喜んで協力してくれるなら、ちょっとだけなら・・・いいかにゃ。」
「はい、じゃあ。決まりね。さっ!さっさと終わらせるわよ。」
 
いくら親友の為とはいえ、自分にまったく関係ない事で苦労しまくってる事にキュルラは少しおもしろくなかった。
 
「かずき−。いいってさー。」
「おー。今そっち行くから。」
 
キュルラに呼ばれて和樹は下を向いて胸を両手でぎゅっと隠しながら恥ずかしそうにしてるキャロルの前に来たのだった。
 
「私、あっちで待ってるから。じゃ、さっさと終わらせて、帰るわよ。」
 
キュルラは和樹が来るのと同時に元居た場所へと帰っていった。
 
そして月明かりが優しく照らす草原に、和樹とキャロルの二人だけが取り残されてしまった。
和樹は何か声を掛けようとしてキャロルのほうを見た。下を向きながら小刻みにしっぽを揺らす少女を見て、姿形は少し変わったものの、あの時の少女を思い出し、ふっと軽く笑うと、優しくうつむきかげんの少女の頭にぽんっと手をおいて頭を撫でた。少女はあの時のように体を少しびくりっと、そしてあの時には無かった二つの耳をぴくっと動かし、少女のしっぽはぴんっと上に跳ねしまった。だが、やがてその力も徐々に抜けていき、二つの耳からも緊張が無くなり、しっぽを気持ち良さそうに左右に揺らして、ようやく少女は少し身体全体から力が抜けたようだった。
和樹は少女の頭から手をどかし、そのまま肩を抱くと、ありきたりだがとても優しい声で「だいじょうぶ。怖くないから。」と声をかけた。
 
少女は上を向くとまだ紅潮する顔で彼の事をまっすぐに見つめ「はい。」と短く答えた。
 
そのまま草原のベッドへと少女を優しくエスコートする様に倒すと、二人はさらに近い距離で見つめ合った。
少女の大きな瞳は潤い、その湖には彼の姿が映り込んでいた。そしてその姿は次第に大きくなっていったのだった。
 
キュルラは最初に居た場所から二人のほうを見ていた。ただ待っている少女は、次第にイライラとし始めた。
 
「大体、あたし関係ないし。そもそも喚ばれてもいないし!つーか、何であたしこんなところに居るわけ?!っていうか、何で夜魔のあたしが除け者になってて、それをあたしがここで見なければいけないわけ?というより、なんで和樹はあたしの時よりムード出しちゃってるわけよ!あの馬鹿!いつの間にあんな厭らしい事覚えたのよ!ちょっと!何してるのよ?!そもそも和樹の精力は全部あたしのものじゃない?!!」
 
少女はついに堪忍袋の緒が切れると、ダッシュで二人の元へと突撃した。
 
キャロルはまるで柔らかなベールに包まれてそのままふわっと体を寝かせられた様に、自然と体を草原へと横たえていた。
そして和樹の顔が近づいてくる度に、心臓の鼓動がどんどん激しくなっていき、顔が火の様に熱くなり、そしてどんどん頭の中がぼーっとしてきて、まるで催眠術にでもかけられた様に、目がとろんとしてきたのだった。
すごく不安で怖いけど、なぜだか自分の体がそれを求める感覚に、少女はすっかり支配されていた。
そして和樹はそんな女の子の恥じらい顔に、健気さを感じ、優しい気持ちで包み込む様にそっと顔を近づけた。そして息のかかるほど二人は近づくとそのくちびるが・・・・
 
「はい、ストーップ!!!」
 
キュルラは猛スピードで駆け寄ると、和樹の髪の毛をむんずっと掴み、首をぐっと後ろへひっぱった。
和樹の首からは『ごきっ』という鈍い音がし、オオカミは赤ずきんちゃんから引きはがされたのだった。
いきなりいいムードをぶちこわされ、まるでサカリのついた犬に冷や水をかけるがごとくに妨害をされあまつさえ首に大きなダメージをおった和樹は、首を手で押さえながら
 
「なにしやがるっ!!!」と大声で怒鳴りつけた。
 
そしていきなり目の前で起きた惨劇に正気に戻されたキャロルは大きな目をぱちくりとさせていたのだった。
 
「やっぱ。変更。だいたい、夜魔でもないキャルが和樹から精力をすって魔力をもらうなんて無理よ、無理。」
「お前、自分で大丈夫って言っただろっ!」
 
いろんな意味で怒りの治まらない和樹は猛抗議を開始した。
 
「あ、あれは。そう、忘れてたのよ。自分が夜魔だからついキャルも夜魔って思っちゃって・・・。」
 
キュルラはところどころつまりながらも必死に弁論を開始した。
 
「でっ?今更どうすんだよ?!今夜がチャンスなんだろ?」
 
もっともらしい理屈だったが、まだ納得のいかない和樹はさらにキュルラを責め立てた。
 
「だから、今、考えてるんじゃない!うーんと・・・」
 
キュルラは考えた。『和樹の精力をひとりじめにして、なおかつキャロルに魔力を与える』方法を。
そして少女は一つの考えに達した。少女にとって最もいい方法。だが、それは今の少女にはあまりにも恥ずかしく、考えただけで赤面してうつむくほどであった。
 
なかなか考えがでてこないキュルラに和樹はしびれを切らしたかの様に急かせた。
 
「考えつかないなら、とりあえずさっきの様にやってみればいいんじゃねーの?」
 
突然の緊急事態に、少女は決断をせまられたのだった。
 
「い、今。思いついたわよ。じゃあ、は、始めるわよ。」
「おい、その方法。本当に大丈夫かよ?」
「いいから!あんた・・・その、ちょっと・・目・・つぶりなさいよ。」
「はあ?何で俺が目つぶる必要があるんだよ?」
「いいからっ!つぶりなさいって言ってるでしょ?!!」
 
なんだか訳のわからない少女の気迫にとりあえず和樹は従う様に目をつぶった。
 
「!!?」
 
突然、頬に柔らかく触れられたかと思うと、それよりも優しくそっと和樹の唇に何かが触れた。
そして和樹の唇の感触を確かめる様にゆっくりと広く・・・まるでより強くそしてより深い結びつきを求める様にその感触はより鮮明になっていった。あまりにも突然すぎる出来事に彼は声を上げようとするものの、その唇はそっと塞がれていた。そして不思議と安らぐ感覚が彼に真実を探求する事をやめさせてしまった。
 
唇はまたゆっくりと今度は別れを惜しむように。まるでいつまでもその感触を忘れないで欲しいと願うかの様に弱く小さくなっていった。そして唇から頬からその感触はまるで寝ている赤ちゃんを起こさないようにと・・そっと離れていったのだった。
和樹はそしてまた望むがままの日常の舞台へと戻ったのだった。
 
「い、いきなり何すんだよっ!」
 
彼は目の前の犯人に叫んだ。だが、少女は何も言わずただ下を向き、黙っていた。
 
「はああああああぁぁぁん!!」
 
突然キュルラは背中をまるめると今度はのけぞる様にして叫んだ。すると少女の背中から悪魔の翼とお尻のところから悪魔のしっぽが生えてきたのだった。
 
「はぁ。はぁ。・・・これで大丈夫よ。あたしが和樹から精力をもらって、それをキャルにあげるわ。」
「そんな事できるのか?」
「キュルちゃん、そんな事できるの?」
 
突然の出来事(キス)に目をしっかり両手で覆ってたキャロルが、体を起こしながら聞いてきた。
 
「できるわよ。その為にしっぽを出したんだから。」
「私にもあるけど、できるのかにゃ?」
「あんたにあったって、今はしょうがないでしょ?!」
 
少女の気持ちを知ってか知らずか。天然の親友のボケに少女はおもわずつっこみをいれたのだった。
 
「・・・それで、どうすんだよ?」
 
放っておくと一晩中でも漫才をされかねないと思い、和樹は話しを強引に引き戻した。
 
「だから、・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 
キュルラは突然下を向いてしまったのだった。少女が何を言ってるのかまったく聞こえなかった和樹はもう一度問いただした。
 
「はあ?よく聞こえなかったんだが?」
 
「だから、わたしの・・・・を・・・・・って言ってるのよ。」
 
キュルラは依然下を向きながら何やら小さな声でつぶやいた。またしても肝心な部分が聞こえなくて全く解らない和樹は少し強めに再び聞き返した。
 
「だから、聞こえないつーの!」
 
あまりにも傲慢なそして無神経な彼の言動に、キュルラは『きっ』と彼を睨むと、赤面し、その目にうっすらと涙をためながら、たたきつける様に言い放った。
 
「だから、わたしのしっぽをにぎらせてあげるって言ってるでしょっ!!!」
 
極度の興奮状態になってしまった少女は、肩で大きく息をしていた。
 
「ああ、しっぽか。何かと思ったよ。最初っからそう言えばいいのに。」
 
「しーっ、しっぽかー。ですってぇぇ?!」
 
彼の言葉を聞いた途端、彼女の中で音を立てて何かがきれた。そして激しい感情の渦が、目の前の下郎を跡形もなく消し去ってしまっても治まらないくらいにまで膨れあがった。だが、あまりにも激しい怒りが少女をかえって冷静にさせた。
「よくよく考えてみれば、一応人間だし、知らなくても当然かー。まあ、普通じゃあ絶対・・・・ないし。
それによーく考えたらこっちの手のうちを今全てさらけ出すのは今後不利よね。」
鎮火作業も完了し、キュルラは努めてポーカーフェイスを装った。
 
「あ、ごめん。何か俺、悪い事言ったか?」
 
キュルラから感じる得体のしれないプレッシャーに危機を感じた和樹は、とりあえず訳も分からないまま謝ってみた。
 
「だ、だいじょうぶよ−。ほら。悪魔のしっぽ触れるのなんて珍しいでしょー?」
 
少女は努めて平静を保つように心がけた。
 
「そう言われてみればそうかもな。」
 
意外にも冷静なキュルラに和樹は「気のせいかな?」と思い、忘れる事にしたのだった。
 
「そー。そー。こんなチャンス2度と無いわよ。だからさっきは和樹を驚かせようと思ってね。」
 
とりあえずつじつまを辛うじてあわせながらも、和樹のやる気をそがない程度にキュルラは話しをまとめようとした。
 
「ふーん。まあ、それほど興味があるわけじゃないんだがなー。」
 
もはや天賦の才能の無礼者に少女は笑顔を浮かべながら、小声で「1・・3・・5・・7・・11・・」と何かを数え始めたのだった。
 
 
「・・・・さてっ!それじゃあ、そろそろ始めましょうか。」
 
キュルラは一つ大きく息を吸うと、覚悟を決めるように宣言をした。
 
「俺は何すればいいんだ?しっぽ係か?」
「キュルちゃん、私は何すればいいのかにゃ?」
「はいはい。今からそれを説明してあげるから。」
 
キュルラは出来の悪い生徒達にもよく解るように説明をし始めた。
 
「まず、和樹。あんたはあたしの・・・しっぽを・・にぎって・・・あたしに魔力を渡すの。」
「結局またあれかよ。まあ、なんとなく解ってはいたが、なんだかなー。」
「そこっ!もんくいわないの。それで、その魔力を増幅しながら、あたしがキャルに渡すっと。」
「へえー。キュルちゃん。そんな事できるの?にゃ。」
「そ、そりゃあ。魔力の管理に関してうちらの右にでる悪魔なんてそうそう居ないわよ。」
「前回、お前が何したか・・・もう忘れたのか?」
「そこっ!いちいち茶々いれない!で、キャル。解ったのかな?」
「はーい。解ったにゃ。それで私はどうすればいいのかにゃ?」
「あんたは、そこで寝てればいいから・・・ほんとに解ってるの?」
 
キャロルは言われた通り、わくわくしながら寝転がった。そんなば・・・親友の姿にキュルラは軽く頭が痛くなってきたが、気持ちをサキュバスへと切り替えていった。
 
「それじゃ、始めましょ・・・。」
 
キュルラは草むらで色気というよりは好奇心でわくわくしているキャロルの上にまたがった。
和樹は二人から少し離れて、キュルラのしっぽの前に準備する様に立った。
そしてキャロルはいつもの様にふざけて話してる時みたいに少女の顔を見た。
だが、そこには今まで全くみた事もない様な怪しげな親友?の姿があり、その妖艶に彩られた瞳を覗き込んだ瞬間、少女の心はさきほどの様にその瞳以外には何も無くなってしまったのだった。
 
「それで、俺はしっぽをにぎればいいんだな。」
 
和樹は何も解らず無粋にも自分の役割を確認する様に尋ねてきた。
 
「あ・・・。ちょっとまって。こっちにも色々とその・・・準備があるから。私が言うまで・・・待っててね。」
 
キュルラは優しくお願いする様に答えると、再びキャロルにゆっくりとせまりはじめた。
 
キャロルはうっすらと妖艶に赤い瞳がどんどんと大きくなっていく毎に、再び身体の中から何かが湧き上がる様な感覚がした。だけど、前回の様にそれがあまりに急激で苦痛すら感じるものではなく、今回はゆっくり包み込む様に暖かく心地よいものだった。そして、ゆっくりゆっくりと鼓動が早くなっていき、頬が徐々に熱くなりその存在感をはっきり少女に感じさせていった。そしてやがて少女はこころでもっとはっきり感じたいと思い、そっとその大きな瞳を閉じた。瞳を閉じてもなお、少女は、鮮明に、そしてより強く自分の大切な親友の事を感じた。
楽しかった事や辛かった事が脳裏に思い出されるのと同時に、こんなに仲良く毎日しゃべっていても、まったく見る事のできなかった、まるで違う姿。それは少女にさらなる期待と興奮を。そして不安を与えていった。
様々な想いが湧き上がり、それを言葉にしようとその小さな唇が動こうとした刹那、それは優しく塞がれてしまったのだった。
そして、唇を通してさらに強く伝わる想いが、急激に強く少女の頭の中に像を成し、溢れ出る気持ちはさらなる深い結びつきを激しくもとめた。あまりにも色々なものが頭の中をかけめぐり、少女の頭はそれらをすべて纏め、大きな白い光の帯の様なそれは、少女の世界の境界を飲み込んでいったのだった。
 
キュルラは優しくささやき起こす様にそっとキャロルから唇を離した。キャロルは強い感覚が徐々に別れをおしむ様に去っていく事にそのあふれた想いで濡れた大きな瞳をゆっくりと開けた。その瞳はまるでまだ少女が催眠状態にでもあるかの如く焦点も定まらないまま、キュルラを見つめていた。すべての用意が整い、キュルラは和樹にそれを伝えた。
 
「和樹。その・・・準備できたから・・・・。私の・・・しっぽを・・・にぎって・・・ちょうだい。」
 
キャロルに合わせるかの様に高まる気持ちが、キュルラを邪魔するが如くに一言一言を少女にしぼりださせた。
だが、全く何も解らない和樹はとりあえず、言われた通りに少女の小刻みに震えるしっぽをぎゅっっと握ってみた。
何気ないそれは少女に痛烈な激痛となって走り、少女を苦しませた。
 
「っっっつ!くうううぅぅぅ!ちょ、ちょっと!誰がそんなに強くにぎれっていったのよ!もっと、その、優しくしなさいよ!!」
「そ、そんな事言われたって、お前握ってっていっただろ?」
「キュルちゃん!大丈夫?!!」
 
突然、自分の上で激痛に苦しむ親友の悲鳴で、キャロルは催眠状態がとけてしまい、心配になり声をかけた。
 
「・・・・だ、だいじょ・・・ぶ。だから・・・・」
 
キュルラはなんとか健気に何でも無い事を、吹き出た汗を浮かべながら笑顔を作って懸命に振る舞ってみせた。
キャロルは、あまり大丈夫そうに見えないが、親友が自分の為にがんばってくれてる姿にそれ以上の追求はしない事にしたのだった。
 
あまりにも苦しむ少女を見て、和樹は謝るどころか狼狽したのだった。そして急いでその手を離した。
 
「じゃあ、どうすればいいんだよ?俺しっぽなんか無いからわかんねーよ。」
「そんなに強くなんて言ってないわよ!すっごく繊細で、デリケートなんだから、もっと優しく・・・そうね・・・外からふわっと包み込む様な感じ・・・で、おねがい・・・。」
 
実際、悪魔のとりわけ夜魔族、とくに感受性の豊かなサキュバスにとってしっぽは、ある意味一番感覚のとぎすまされた場所であった。
身に迫る危険を様々な変化から察知したり、様々な身体のバランスをとったり・・となくてはならないものであった。
それゆえに、複雑な感覚器は様々な刺激に対して、時には痛覚、時には触覚、時には快感へと、複雑に複合的に脳へと伝えた。
だからもっとも繊細な場所であり、それを精力吸収に使う事はほとんどなかった。そしてそれを人間に任せてる事自体が希有であり、キュルラは怒りながらも和樹にそれを伝えようとしていた。
 
「わ、わかったよ。これで・・・いいのか?」
 
和樹は今度はまるでそっとしゃぼん玉をのせる様に下からキュルラのしっぽを支えた。
 
「はぁうん。そう・・・それでいいの。そのまま・・ゆっくりね。」
 
キュルラは和樹がそっと優しくしっぽにふれると、ぞくっとする様な感覚がするどく伝わり、思わず声をあげてしまった。
自分が考えていた以上に気持ちのいい感触に、もっと感じてみたいという気持ちがキュルラにわきあがってきたのだった。
 
「こ、こうか・・?」
 
和樹は言われたとおり、まるでキュルラ自身の様に、逃げたかと思うと今度は求めて揺れるしっぽを力をなるべく入れない様にゆっくりとさすり始めた。
 
「はあぅん!そ、それでいいの!」
 
一瞬、びくっと背中をそらすと、キュルラは気持ちよさそうに口を開けた。そしてさらに感じる様にとほとんど何も無い右胸に手をあて、小さな乳首を指でつまんだ。その刺激に合わせるかの様に少女の押し当てた手は次第に上へと押し上げられ、少女の胸はむくむくっと膨らんでいった。キュルラは刺激を求めて震える左の乳首もつまみ、少女の両手の中でもっと多くの快感を求めて膨らみ続ける胸を両手で揉み始めた。少女の手の中でさらに膨らみ続ける胸は、その両手からあふれ出す乳房へと厭らしく姿を変えながら、さらに大きくなっていった。そして湧き上がる欲望で張り詰めた表面にはあせが浮かび、その手をさらに高く遠くへと押しのけていった。次々へと押し寄せる快感をもっと感じようと、キュルラは汗ですべるおっぱいを強く揉んだ。
揉めば揉むほど消えゆく快感とそして湧き上がるそれ以上の快感。さらにぐぐぐっと膨れあがる乳房はもはや手で上から揉む事を少女にやめさせ、キュルラは下からその大きく重くなった乳房を上へ横へと激しく揉んだ。
 
「はああうぅぅん。おっぱいがぁ!膨らんでぇ!きもちいいのぉ!!」
 
激しく揺らす様に揉む胸から、汗が飛んだ。キュルラは押し寄せる快感に背中を時折びくっとさせながら楽しむ様に喘いだ。
そして、少女の乳房はその手にずしりっとのしかかるまでに大きくそして厭らしく膨らんだ。
 
「はあぁうん!か、和樹ぃん!ちょ、ちょっと、はああああううううん!と、とめ、てぇぇん!!」
 
キュルラはどんどんあふれでる快楽をその身に止めた、出口を失った激情は少女の心を責め立てた。
だが、このまま欲望に身を任せてては目的を見失しそうになるので、キュルラは和樹にその手を止める様懇願した。
 
「あ・・・ああ・・・・。わかった・・・・。」
 
和樹は手の中で激しく悶えるキュルラのしっぽの動きに合わせる様に手を動かした。右に跳ねれば右に。
左に跳ねれば左にと。それはまるでキュルラのこころがもっと深い愛撫を求めてる様でもあった。
今までキュルラには何度か精力を吸い取られる事はあったが、今日はそれとはまったく別の、もっと緩やかで優しい感じの
どこなく心地いい疲労感が和樹をつつんでいた。そして和樹はキュルラの望むままにその手を休めたのだった。
 
しっぽからの絶え間ない快楽は止まったものの、いまだにくすぶり、さらなる底へと堕ちようとする激しい力を、キュルラは魔力として蓄え、そして押さえ込んだ。まだまだ満たされないものが少女の乳房を細かく震わせ少女は短く喘いだのだった。
 
キャロルは目の前でどんどん変わっていく親友の姿をただ見ていた。その姿は今まで見たことも無い様に厭らしく、思わず目を塞ぎたいほどであったが、少女にはできなかった。確かにその変容は今の少女には刺激の強すぎるものではあったが、同時にその顔は少女の知らないほどに気持ち良さそうでそして幸せそうだった。そして、その体も厭らしさだけではなく、月光を映してきらきらと輝く汗に濡れ、とても美しくも見えたのだった。それは確かに自分と仲の良いキュルラだったが、どこか違う魅力にあふれた姿に少女は再び胸が高鳴るのを感じていた。
 
「・・・どう?ほらっ。私のおっぱい、こんなにも厭らしくされちゃって。これ、みんな、和樹のせいよ。」
 
そういうと、キュルラはキュルラに自分の大きく膨らんだ胸をキャロルによく見える様に寄せ上げた。
キャロルはその艶めかしい迫力にただ声をのむばかりだった。
 
「ふふふ。すごく卑猥でしょ?ねぇ。キャル。うらやましい?」
 
キュルラは意地悪くキャロルに乳房を見せつけながら聞いた。
 
「そ、そんなこと・・・・・」
 
キャロルはその次の言葉がでなかった。
キュルラはいたずらっぽく笑うと、またキャロルへとゆっくりと覆い被さると、大きな耳によく聞こえる様にゆっくりそして色っぽくささやいた。
 
「だいじょうぶよ。今、キャルにもあげるからね。あなたも私みたいに厭らしく変えてあげる。」
 
キュルラは暴走しそうに押さえ込んだ魔力を手に導き、そしてキャロルの小さな胸に触れた。
 
「い・・・・いやぁ・・・・・・。」
 
キャロルは突然胸に熱いものを感じた。それはさきほどのキスの時よりももっと熱く、まるで月を見た時に感じた様な強さを感じた。そして胸から流れ込む熱い何かが身体中にあたかも自分の身体を犯すかの様にじわじわと広がってくる感覚に、少女はまたしても自分が変えられて自分では無くなってしまう事に恐怖を感じた。
だが同時にキャロルは自分自身の中からも湧き上がる何かを感じていた。それはまるでこの外からの力を待っていたかの様に彼女自身の身体を熱くさせ、強制的に変異させられた苦痛ではなく、自らが変わる事を望んでる様に、喜び、そして気持ちいい感覚を少女にもたらせたのだった。
 
「はぅん・・・。」
 
恐怖に緊張していたキュルラから、思わず吐息がもれた。少女の身体はその恐怖をすっかり飲み込んでしまう様に、まるで外から与えられる刺激を多く求めようとする様に胸の感覚が鋭利になっていった。そしてその欲望をもっといっぱいに満たそうとするかの如くにむくむくっと大きくなっていった。
 
「ほら、キャル。見てみて。あなたのおっぱいがもっと気持ちよくなりたいって。私にもっと厭らしい事してってお願いしてるわよ。」
「はぁぅん。・・・いやぁん・・・」
 
キュルラはまるで精神からもキャロルを堕とすかの様に言葉でせめ、指を使いながら細かくキャロルの胸を揉んだ。
キャロルはどんどん大きくなる快感に飲み込まれまいとする恐怖とみだらな物に変わってしまう事に対する羞恥心が最後の抵抗を試みた。
 
「ふふふ。キャルのおっきくなってくおっぱいの上で、乳首がかわいく震えてるわよ。いま、私が助けてあげるね。」
 
キュルラはキャロルのぴくぴくと打ち震える乳首を口にふくみ舌で優しくなめあげた。
 
「ひぅぅぅうん。」
 
キャロルはまた与えられる新しい快感に身をよじり、思わず声をもらしてしまったのだった。
キュルラは口でキャロルの左の乳首をすいながら、左手でキャロルの右胸を揉んだ。
キャロルは自分の胸に重くそして柔らかいキュルラの大きなおっぱいと、キュルラに揉まれる度に、どんどんまるでキュルラのおっぱいの様に厭らしく膨らんでいく自分の乳房からよりたくさんの快感を感じていった。
そしてキュルラはキャロルの乳首から口を離すと、むくむくと大きくなってくるキャロルの乳房を両手で少し乱暴に揉み始めた。
 
「ねぇ。キャル。貴方のおっぱいももうこんなにおっきくなって。ほら。もう両手で揉めるくらいになってるわよ。」
「はあああん!あんっ!にゃんっ!」
 
キュルラはまるでからみつくようにいやらしくキャロルを言葉でせめた。しかし、それが聞こえてるのか。
キャロルはただ激しい喘ぎ声をあげるだけだった。
 
「もうすっかり快楽に溺れちゃってるのね。いいわ。私と一緒に・・・堕ちましょうね。」
「ふにゃああああああああああああんっ!!」
キャロルはキュルラから与えられる快感にこころも躯も堕ちてしまったのだった。
 
なんとか押さえつけていた力もようやく全て消え、肩でかるく息を整えているキュルラは、自分の下にいるキャロルを見つめた。
肩で大きく、そして膨らんだ胸で呼吸を整える様にしてる少女は、その大きな手を頭のところまで上げ、吹き出た汗がその白い毛並みをしっとりとさせ、張り詰めた乳房をより淫靡なものにしていた。
それはキュルラの知ってる親友とはまるで別な妖艶な悪魔がそこにいる様にキュルラには感じられたのだった。
 
ようやく息も整い意識もはっきりとしてきたキャロルは目をそっと開けた。自分にまたがるかの様に、身体中が汗でひかって怪しくそして厭らしくみえるキュルラ。そしてそれに負けないかのごとくに変わってしまった今の卑猥な自分の身体。
そして何だかわきあがる不思議な気持ちに、キャロルは恥ずかしさを感じ、声をだす事はできなかった。
 
「あ、あら。キャル。気がついた?あんたがあんなに激しい子だって思わなかったわよ。」
 
キュルラはいじわるくキャロルをからかってみた。
 
「キュ、キュルちゃんこそ!そんなに厭らしい・・・なんて、知らなかったにゃ!」
「あんたね。あたしがサキュバスだって忘れてるでしょ?」
 
キュルラは少し怒った様にしながらほほえんだ。
 
「ところで・・・キャル。大丈夫?重くない?」
「ちょ、ちょっと重いかにゃ・・・」
 
キュルラはキャロルの上にまたがっていた。普段なら比較的丈夫な獣人族にどちらかと言えば細身の夜魔が乗ったくらいではあまり問題はないのだが、今や自分のおっぱいも呼吸を邪魔する様に横たわり、そしてそれに同じくらいの大きなおっぱいのキュルラがのしかかっていて、キャロルは少し苦しかった。
 
「あ、ごめんね。いま、どくからねっ。」
 
キュルラはキャロルの上から降りた。キャロルは起きようとしたが大きく膨らんだおっぱいに邪魔をされ、キュルラに手をひっぱってもらいながらなんとか起き上がった。
 
「それにしても、おっぱいこぉんなにおっきくなっちゃったね。ずっしり重くて両手で支えてないと・・・」
 
そういいながらキャロルは自分のおっぱいを下から支え上げた。
 
「そうね。でも・・・まだこれからよ。もっとあんたを魔力であふれた厭らしい身体にしてあげるんだから。」
「えっ?!これで終わりじゃないの?」
「そうよ。和樹の精力はまだこんなものじゃないよ。」
「和樹くんって・・・すごいエッチなんだ。」
 
キャロルはきゅっと自分の大きな乳房を抱いた。
 
「そうよ。あいつ、どうせあたしが魔界に帰ってる間、溜まりに溜まってるに違いないし。どう?もうやめちゃう?」
 
キャロルは何やら考えると『ぽっ』とまた頬が赤くなり、もじもじと脚をすりあわせながら悶える様にして言った。
 
「もっと、欲しいかも・・・。」
「奇遇ね。あたしもよ。今度は一緒にもっと厭らしく堕ちていこうね。」
「うん・・・・。また続きをするの・・・?」
「ううん。さっきみたいなのは、もう、あたしが限界。だから今度はちょっと違うやりかた・・・。
キャルはあたしの前に足を折り曲げて座ってね。」
「こ、こうかにゃ?」
 
キャロルはキュルラの言われた通りに目の前にぺたりと座り込んだ。
 
「そうそう。それで・・・」
 
キュルラは自分も同じ様にキャロルの前に座り、ふたりは向かい合った形で座ったのだった。
 
「和樹。また、しっぽおねがい・・・ね。」
「ああ。そっちはわかった。またさっきと同じ様にすればいいんだな?」
 
ふたりの激しいからみあいとけだるさで和樹はすこしぼおっとしていた。
 
「うん。最初はさっきみたく優しくお願いしたいけど・・・。今度は・・・もっと・・・激しく、・・・あんたの・・・好きにして・・・・・いいわよ。」
 
キュルラは切なくその一言一言を和樹に伝えた。
 
「・・・・わかった。俺にまかせろ。」
 
そして和樹はそれにしっかりと答えたのだった。
 
「ありがとう。和樹。今度はあたしも自分を止められないから、あんたからの精力をあたしを通してキャルに注ぎ込むわ。」
 
キュルラはしっぽにきゅっと力をこめた。
 
「それじゃ、おねがい!」
「ああ。それじゃあ、始めるぞ。」
 
和樹はキュルラのしっぽに再び優しく触れた。またしても身体を駆け抜ける様な刺激が走り、そのままキュルラはそっと優しくキャロルにキスをした。
そしてかわされる口づけに、ふたりの大きく膨らんだ乳房もキスをしたのだった。
 
唇と通して交わされるキスは次第に最初の時のものより、激しく、そして深くなっていった。
そして交わされる想いもその形を淫靡にそして愛おしさへと変えていったのだった。
 
「もう誰にも邪魔されたくない、和樹からの精気を体いっぱいで感じたい!」
キュルラはしっぽからどんどん自分の身体に流れ込むものに、すべてを開放した。
そしてキュルラはもっと自分の体を厭らしくしてくれるものに、喜びの声をあげた。
 
キャロルはキュルラから唇、そしてどんどんと膨れあがる胸からの想いを受け止めた。
そして自分ももっと一緒に今までの自分を自分が望んで変えたい。もっと自由に。そしてもっと気持ち良くなりたいと想った。そしてそれをキュルラに唇から、さらにどんどんと厭らしい自分をさらけ出すかの様に膨らむ乳房から感じたいと願ったのだった。
 
『あふぅん。はぁ。』
 
塞がれた唇からも、二人の想いは吐息となって外へとあふれでた。そして、二人の乳房もお互いの乳房に押し当てられその形をゆがませた。もっと、深く、そしてもっと激しく愛撫する様にふたりの乳房はぐぐぐっとより卑猥にその姿を変えていき、高まる欲望をもっと欲しがる様に肥大化していき、その存在感をどんどんと増していったのだった。
 
二人はお互いの唇を絡め合いながらも離し、今度は空気に触れるだけでじんじんと疼き、もはや手を超えて腕で支えるほどにまで膨らんだ乳房を下から支え、強く押し当てた。
 
「はああああううぅん!和樹ぃ!もっと!もっとつよく!もっと滅茶苦茶にしてえええぇ!!」
 
完全に欲望の制御が効かなくなったキュルラは、和樹をもっと強く欲した。
 
「ああ。」
 
和樹は短く答えた。キュルラのしっぽを触れる度に抜けていく体の力。それは最早どうでもよかった。
彼の手の中でしっぽが悶える度に伝わるキュルラの感情。それがもっと激しいのを求めるならば
その通りにしてやればいい事を彼は感じ、キュルラのしっぽを乱暴に上下にしごきはじめたのだった。
 
「ひぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 
急激にしっぽの加えられた刺激の束がキュルラに激痛となって再び襲いかかった。だが、それはもはやキュルラには痛みなのか快感なのかそれとも別の中かなのかまったく解らなくなっていたのだった。
突き抜ける大きなそして激しい何かに少女の体は反応し、ゆみなりに曲がってしまったのだった。
やがてそれは完全に痛覚が消え、少女にその気を狂わせるほどの快感となっておしよせた。
 
『はああうううぅぅぅぅぅぅんっ!!』
 
壊れてしまいそうな快感に、キュルラの乳房はさらにぐぐぐっと膨らんだ。すでに上腕ほどにも達しようかというほど巨大になった胸は溢れ出るエネルギーがそのはち切れんばかりに張り詰めたその表面に多くの汗を噴き出させそしてそれは下へと垂れていき、ますます卑猥なものに変わっていったのだった。
そしてキュルラはその快楽を同じ虜となってしまったキャロルに乱暴に押しつけた。
キャロルもまたどんどんと乳房そして大きな胸の間でこすられつぶされる様に滅茶苦茶にされる乳首から流れ込む快感に大きく喘いだ。まるでその快感の喜びを一緒に感じる様にキャロルも乳房をぎゅうううっとキュルラへ押しつけていったのだった。
 
「あっ、あたし!もう、だめっ!もうっ!」
 
キュルラはあまりにも大きな快感が自分の頭を真っ白く染め上げていってるのを感じた。
そして何も考えられなくなってしまっていたのだった。
 
「はぅっ!あっ!にゃぁん!わたしぃ!もう だめぇぇぇ!!」
 
キャロルも最早何も考えられなくなっていた。生まれて初めて感じる快感に少女は何も解らなくなっていた。
 
「いっくくぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 
ふたりはがくっと頭を下げると、お互いを支え合う様にして倒れ込んだのだった。
 
 
和樹は膝をついていた。肩で呼吸を整えながらもなんだか不思議な感覚だった。
キュルラには何回か精力を奪われた事はあったが、今日のはそれとは全く違う様な不思議なものだったのだった。
うまくは言えないけど、もっと繊細だけど、もっと情熱的で。特に最後のは今までキュルラが一方的に精力を吸い取っていたものとは違ったような気がした。それにかなり疲れてはいるものの、何か解らない充足感のようなものがある様に彼には感じたのだった。
 
「・・・・うっ。ううーん・・・・。」
 
キュルラはようやく目を覚ました。そして少し頭をふるとまだもたれかかっている目の前の親友の頬をぺしぺしと叩いた。
 
「ほら。キャル。いつまで寝てるのよ?起きなさいってば。」
「・・・う、うーん。い、いたい!キュルちゃん、いたいにゃ!」
「あんたがいつまでも寝てるからよ。それより、どう?魔力をもらった感じは?」
 
キュルラに聞かれ、キャロルはゆっくりと体を起こした。ずっしりっと肩や首にかかる重量感。下を向いても巨大なおっぱいしか見えない不思議な感覚。それとともにあふれ出す未知の力。すべてがキャロルに自分が新しく生まれ変わったのではないかと思わせるほどのものであった。
 
「す、すごぉい!何、これ?本当に私?!」
 
興奮して勢いよく立ち上がろうとしたキャロルはそのまま重心を崩し、キュルラへとのしかかってきたのだった。
キュルラもキャロルよりは慣れてるとはいえ、その肥大化した乳房で急に動く事もできず、あわれにも下敷きとなってしまった。
 
「お、重いぃ・・・し、しんじゃぅ・・・。」
「ご、ごめんにゃ!だ、大丈夫にゃ?!」
 
キュルラは辛うじて一命をとりとめたのだった。
 
ふらふらとしながらもようやくキュルラの指導のもと、キャロルは大きなおっぱいを下から大きな手と腕と体全体を使って支える様にしてゆっくりと立ち上がった。
 
「ちょ、ちょっと耳かしなさい。・・・・・・。」
 
キュルラはそんなキャロルの耳にひそひそと内緒話しをしたのだった。
 
和樹はじっと気を集中していた。ようやく息も整い、気力も家まで帰れるほどには回復した。
そろそろ時刻も遅くなり、目的も達せられ、二人に帰る事を提案しようとした。
何やらふたりはこそこそと聞こえない様な内緒話しをしていたが、そんな女の子のいつ終わるとも解らない話しに付き合う時間も無かった和樹は二人に声を掛けようとした。
 
「ねぇ。和樹ぃん。どおぉん?」
 
そんな和樹の出鼻をくじくかの様にキュルラが突然話しかけてきた。
キュルラは和樹に悩ましげな視線を送ろうとしたが、急に真顔になると『きっ!』とキャロルを睨み付けた。
 
「ちょ、ちょっと、キャル!ちゃんと、打ち合わせ通りやらなきゃだめでしょ?!」
 
もはや和樹には内緒話しでもないほどにその様子が聞こえてきていた。
 
「だ、だって!キュルちゃん!やっぱり恥ずかしいにゃ。」
「な、何言ってるのよ!ほらっ!もっと自分に自信もつ!今のあんた充分エロイんだから。」
「えー。嫌よ。だって、私・・別に・・いいもん。にゃ。」
「あー、もう!この子はっ!じゃあ、いちご牛乳でどう?」
「い、いちご牛乳!うーん。もうちょっと欲しいなー。」
「あんた・・・いつの間に、そんなずる賢い子になっちゃったの?昔のあんたはそれは・・・」
「私をこんなに厭らしくしちゃったの、キュルちゃんじゃない!それに私、そんなに安くないにゃ。」
「むむむ。ならば、いちご大福もつけちゃおう。いちごのすっぱさとあんこの甘さが絶妙の・・。」
「にゃ、にゃに!それ?!おいしいの?!」
「それは、もう。お代官様。して、やってくださるかのぉ?」
「うーん・・・。わかったにゃ。やるにゃ。」
 
ようやく話し合いも終わり、ふたりは向かい合って横目で和樹のほうを見てきたのだった。
和樹は何やら嫌な予感がして身構えた。
 
「ねぇん。和樹ぃん。どおぉん?あたしたちぃ?」
「どうですか?・・・和樹くん?私って・・・」
 
キュルラはそう言うと大きな胸をキャロルの胸にぎゅううっとつぶすように押し当てた。
買収はされたものの、少しまだ恥ずかしいキャロルは赤くなりながら、うつむき加減で弱く胸を押し当てたのだった。
 
「ほ、ほらっ!キャルももっとおっぱいを厭らしくぎゅうううっと私に押しつけて!もっと和樹を虜にするくらい、こう!そして熱い目で、こう!」
「えー。もう恥ずかしいからやめようよぉ。こんな厭らしいおっぱいで誘惑なんてやっぱりしたくないよぉ。」
「厭らしいからいいんじゃない!ほら、もっと悩ましげにっ!もっとおっぱいを上に持ち上げる様に!」
「わ、わかったにゃ・・・こう?」
 
キュルラは必死に和樹にセクシーアピールをした。それは以前に完璧な自信を持って臨んだアピールが無残にも敗れ、サキュバスとしてのプライドをズタズタにされてしまった事への復讐だった。それはもはや使える手段は何でも使い、嫌がる親友を買収してでもキュルラには達成されなければならない事であった。
大きく張り詰めたおっぱいをさらに大きく厭らしく見える様に、押しつぶす様に歪ませ、和樹の前に差し出してきたのだった。
「今回こそは完璧。例えあたしの身体が前と変わらなくても今回のシチュエーションなら充分に和樹にエロイって言わせてみせるわ!」
キュルラは勝利を確信した。
和樹はそんな必死にがんばる少女とそれにひっぱられる様にしてる少女を前にこころに思った事を正直に述べた。
 
「『ちんちくりん』に『ぽんぽこりん』だな。」
 
残念ながらキュルラさんの挑戦は、オカルトマニアの和樹を前にまたしても敗北を重ねるだけの結果となってしまったのだった。
 
「きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!だぁれが『ちんちくりん』よっ!あんた、目くさってるんじゃないの?!こんなに淫靡で!セクシーな!サキュバスのキュルラさんが!あんたみたいな『変態』な人間の為に!かわいそうだからサービスしてあげるのよ?!!」
「お前のほうがよっぽど『変態』だっての。このストーカーのおっぱいばか。」
「なんですってぇぇぇ!!そこになおりなさいよ!今、たたっきってあげるから!!」
「何が『たたきってあげるから!!』だよ。一日中、ひとん家でTVばっか見てんじゃねーよ!ニート悪魔。」
 
二人の間でいつ終わるともしれない不毛な喧嘩が始まった。まるでお子様同士の言い争いの様な低レベルな戦いが繰り広げられる中キャロルはじーっとうつむいていたが、突然上を向き、きっと和樹のほうを見て言った。
 
「和樹くん!」
「あ・・・はい。」
 
突然呼ばれた和樹はぴたっと争いをやめキャロルのほうを見た。そしてキュルラもそれにつられる様にキャロルのほうを見たのだった。
 
「どっちが『ちんちくりん』で。どっちが『ぽんぽこりん』なんでしょうか?!」
 
・・・・ぽんぽこりん空間が完全に二人の時を止めたのだった。
 
そして次の夕方。和樹は授業後いつもの様に部室でひとりで過ごし、そして帰宅した。
ポケットから鍵を出し、ドアを開けようとしてようやく鍵がかかってなかった事に気がついた。
「やべぇ!かけ忘れていったか!」と彼は思い、急いで何か盗られたものがないか調べる為に中へと入った。
 
「あっ、和樹ー。おかえりー。」
 
そこにはもう見飽きた悪夢がちょこんとTVの前に座っていたのだった。心の底からわきあがる怒りに全身が小刻みに震えるも一応、和樹は理由を尋ねてみた。
 
「一応、聞いてやるが・・・なんで、ここに、いやがる?」
 
それは机の上にあるおせんべいを取り、ばりっと食べると、屈託のない笑顔で言い放った。
 
「だって、キャルがなんか、『こんなおっきなおっぱいで帰るの恥ずかしいにゃ!』とか駄々こねちゃってさ。おかげで満月しか開かない
獣人のゲートが閉じちゃって。わ、私は帰ろうって何回も説得したのよ、ほんと!それなのに・・・あの子ったら・・・困ったものねぇ。」
 
キュルラはひとしきり語り終えると、ずずずっとお茶をすすった。
 
「ほらっ!あんたからも。これからここに泊まるんだから。ちゃんと挨拶しないとだめよ?」
 
キュルラは壁紙の上から気持ち良さそうに柱で爪研ぎをしているキャロルに言った。
キャロルは爪研ぎをぴたっとやめると、とととと・・・と和樹の前に来て、深々と頭を下げた。
 
「和樹くん。しばらくよろしくおねがいし・・・・」
 
あまりにも勢いよく頭を下げ、大きすぎるおっぱいに重心が傾き、そのままキャロルは和樹の前へどでーんと仰向けにひっくりかえってしまった。キャロルは大きな目をぱちくりさせながら仰向けになったままにっこり笑って言った。
 
「ますにゃ。」
 
和樹は大きくため息を一つついたのだった。