※少し複雑なシチュエーションなので声を出してのセリフは「 」
声に出してない(心の中とかある特定の人物にしか聞こえてない)セリフは
『 』になっています。その様にお気をつけてお読みください。※
「だ、だれっ!?どこにいるの??!!」
恭子はとっさの事で起き上がる事もできず、身を守るように身体にぎゅっと力をいれて
それでも首だけで必死に声の主を探そうとした。
『だからわたし・・って、あ、そーかー。あんたたちって目に見えてないと解らないんだっけ。
ほんと不便よねー。じゃ、どうしようかなー・・・。』
「な、なにを言ってるのよ?!隠れてるとか、卑怯でしょ?!」
彼女は依然としてまったくどこにいるのか解らない事に加え、さらにまったく意味の解らない事を
言われてどんどん恐怖に駆り立てられるようにヒステリックに叫んだ。
『うーん。困ったわね。この子ますます訳わかんなくなっちゃってるし。どういったらいいのかな?
こっち来たの久しぶりだし・・。前の時とはちょっと違ってるのよねぇ。』
声の主はちょっと困惑しているかの様につぶやいた。恭子はそんな事はお構いなしに
正体不明の声の一言一言にヒステリックにかみついたのだった。
『どういったら解ってもらえるのかしら・・・。あ、確か見た物なら話しが早かったわね。
えーっと、あなた、本拾ったよね?』
「本?確かに拾ったけど・・それがどうしたのよ?」
彼女は依然極度の警戒心を抱いていたが、不意に提示された彼女自身にも
心当たりのあるものに興味を示した。
『そー。そー。FREEって書いてあったあれよ。どこにあるのかしら?』
声の主はどうやら恭子がつい先日本屋で見つけたあの雑誌の事を言っている様だった。
「あ、あれなら机の上にあると思うけど・・・。でも雑誌がなんの関係があるの?」
『うーん。このままあれこれ伝えても全然話しが進みそうもないから。とりあえず雑誌をもってきてからにしましょ?』
彼女は訳のわからない事にもうひとつおまけが追加されて困惑したが、とりあえず彼女自身ができそうな事が
示された事。それが解決の糸口になるらしい事にとりあえず正体不明の誰かの提案にのってみる事にしたのだった。
「わ、わかったわ。雑誌をもってくれば全部解る事なのね。もってきてあげる。・・・うんっ!!」
彼女は机の上にある雑誌を取りに行こうとした。だけど、勢いあまって後先考えずにベッドに倒れ込んでしまったので
巨大な乳房を持ち上げるどころか浮かす事さえもできず、ベッドの上で空しく唸ってる事しかできなかった。
「・・・ふぅんっ!・・・くうっ! ・・・ふぅにゅううううう!!」
彼女は必死に身体をひねって右肩を上げたり左肩をぐっと下げたり、左腕にぐぐぐっと力を込めて体勢を変えようとこころみたが
それをまるで意にも介そうともしないあまりにも大きな彼女の胸は彼女をベッドへとはりつけてしまったのだった。
激しい呼吸をするにも押しつぶれて上に盛り上がった胸が彼女の顎と口の間あたりにまでせまってきていて、
それは経験した事の無い息苦しさを彼女自身に与えていた。
「はぁ! ・・はぁ! ・・はぁ! ・・はぁ! ・・・」
完全に無駄な努力をあきらめると彼女は肩を大きく上下に揺すりながら顎を突き出して、少しでも多くの空気を吸える様に
大きく口をひらいて荒く息をした。
『ちょっと、大丈夫?だめならだめって言わなきゃだめよ?ほら。今度は私が少し力を貸してあげるから。がんばって。
それじゃ、いくわよ?いっち、にの、さん!で起き上がってみて。いくわよー。いっち!にーの!さんっ!!』
彼女は自分ではどうにもならない状況で声の主に従った。彼女は指示通り合図に合わせてありったけの力をふりしぼって
思い切って身体をねじり起き上がろうとした。だが今度は声の主のサポートがあまりにも大きすぎたせいか、
勢いあまって仰向けへと彼女の身体をベッドへとどーんっと叩きつけてしまったのだった。
「・・・あぅ・・・。・・・む・・むねが・・・く、くるしいぃ・・・。」
先程まではうつぶせでその重みをベッドで支えてもらっていた彼女の胸は、今度は彼女自身へとのしかかってきた。
人知を超える大きさの乳房はその見た目通りの重圧を彼女の肋骨へとかけてきて、呼吸をしたくても
上から押さえつけられる様な想像もできない程の圧迫感に彼女は苦しんだ。
『あちゃー。もう、何やってるのよ?・・・あ、そういえばあなたたちって力のコントロールが苦手だったわよね?
ごめんね。すっかり忘れてたわ。今度はもっと細かくサポートするから大丈夫よ?
もう一度がんばって立ち上がりましょ。』
あいかわらず何を言ってるのか彼女にはまったく解らなかったけど、とにかくこの危機的な状況を一刻も早く脱する為に
彼女は声の主の指示に従い、今度はなんとか横向きになる事ができて、ようやくふらふらと立ち上がる事ができたのだった。
『ふぅ・・。なんとかなったわね。やっぱり覚えてる様で色々忘れてるものね。ちょっと息が荒い様だけど、大丈夫かしら?』
声の主は何やら独り言を言いながらも恭子に心配そうに声をかけた。
「・・だ、だいじょうぶです。ありがとう・・。」
彼女はそんな気遣いに素直に感謝の言葉を告げた。だけど、よく考えたらなんとなくすっごく悪いっていう感じではないけど、
どこの誰かも解らない不審者に感謝を伝えるとか、つい付け入る隙を与えてしまった事に彼女は気を再び引き締めた。
彼女はまた、きっ!と顔をこわばらせあたりをきょろきょろと気にして警戒モードのまま机のほうへと歩を進めていった。
『ほんとに大丈夫?もうちょっとくらいならまだ力残ってるから支えてあげられるわよ?』
つい2、3時間前までにはまるで経験した事も無いずっしりと重く彼女の身体を下へ右へ左へと揺さぶる乳房に
重心をすっかり狂わされながら、ふらふらと千鳥足の様に机に向かう彼女の様子に、声の主はサポートを申し出た。
「・・だ、だいじょうぶです!自分で・・あうっ!歩けますから!」
恭子は何度も倒れそうになりながら、ようやく机の所までたどり着いた。だが確かに机の上に置いてあるはずの
あの雑誌を見つける事はできなかった。正確に言うと遠くから机を確認して、机の上にそれらしきものは見あたっては
いたのだったが、雑誌を見つけて手にとって確認するにはどうしても目の前に大きく鎮座している二つの膨れあがった
彼女の双球が邪魔で必死に首や身体を動かした彼女の努力も空しい結果に終わるだけだった。
「さっきそれらしいものは見かけたから。絶対ここにあるんだけど・・。とりあえず座って探してみよっと。椅子・・どこかな・・。」
そう言うと彼女はまるで見えない足元にあるはずの椅子を足を使って探してみた。足に堅いものが当たったら、今度は膝辺りを
使って肘掛けを確認して、それから椅子がどちら向きになってるかを推測すると、その前に回り込むようにして座る場所を探し、
ゆうぅっくりと慎重に腰を下ろし、なんとか座ることに成功したのだった。
「・・・ふぅ。椅子に座るのってこんなに難しかったのね。もし座るとこ無かったら、また胸を上にして転んじゃって起きられないものね。
それにしても私の椅子ってこんなに小さかったかな?も、もしかしてお尻も大きくなってたりしないよ・・ね?」
彼女は急に自分の今のスタイルを想像して怖くなってしまった。もしかしてこの胸みたいにお尻もすっごく大きくなってたらどうしよ・・。
そんな不安が彼女を襲った。実際は胸ほどでは無かったものの、以前の彼女のかわいらしいお尻よりはもっとむちむちっとした程度
になったくらいであったが、それよりも凶悪なまでにその重量を増したふたつのおっぱいの重みで彼女の椅子はぎし・・。ぎし・・。と
いやな音を響かせ、それが彼女を余計に不安にさせたのだった。
「と、とにかく!今はあの雑誌を見つけなきゃ。うーん・・よいしょっと!」
彼女は椅子を回転させた。椅子からぎぎぎぎっという嫌な音が鳴り響いたが、なんとか横を向くことに成功し左腕を机の上に置いて
指先の感覚を頼りに彼女は捜索を開始した。
「このあたりのはず・・なんだけど。あっ!ってこれシャープだし・・。あ、これかな?・・・ってこれ数学の問題集じゃない・・。」
彼女は記憶を頼りにおおよその位置を想像して必死に指先で探そうとしたのだったが、彼女の眼下に横たわる意地悪な乳房は
彼女の眼下をすっぽりと覆い、机から完全にこぼれている右の大きな乳房は右足でなんとか支えては
いるものの、体が大きく右に沈み込む様な形になってしまいまっすぐ伸ばそうとしている腕を微妙に邪魔していたのだった。
何回も必死にトライしてる彼女に、しばらく事の推移を見守っていた謎の声は再び彼女に声をかけた。
『あなたたちってそういえばモノの気配とか感じられなかったよね?じゃあ、私が指示してあげるから。あ、そこよりもうちょっと右かな。』
頼んでもいない余計な指示に彼女はまたしても警戒したが、とりあえず何も見えないで適当にいつ終わるとも解らない捜索をしている
彼女にはそれを頼りにする事が一番の得策のように思えた。なによりもこの邪悪な妨害との戦いで彼女は次第に疲れてきていたのだった。
『あ、そうそう。もうちょっと。あ、おしい!ちょっとふれたよ。もうちょい斜め右上かな?あ、そうそう!それ!それをひっぱって!』
彼女は声の指示通り腕や指を動かして、なんとか雑誌をつかむ事に成功した。もう二度と離すまいとしっかり手でにぎると
それをぽんっと大きな胸の上へと置いた。
「あ、あった・・・。よ・・ようやく見つけた・・・。疲れたよ・・・。」
彼女は胸の上で雑誌を確認すると左手で押さえたまま、重かった右の大きな乳房を机の上にぐいっと
のせて両方の巨大な胸の谷間に突っ伏す様に倒れ込んだ。
捜索の間、左腕の邪魔にならない様に、背もたれを使いながらおもーい乳房を机から浮かせていた彼女は疲れきっていたのだった。
『お疲れ様〜。それにしても本を置いたり、クッションになったり。便利なおっぱいね〜。』
彼女の苦労を見ていたはずなのに、あまりにも無神経な一言はとにかく休息したい彼女の心に土足で踏み居ってきたのだった。
「わ、わたし!こんなおっきな胸になって困ってるんですけど?!」
彼女は息苦しいものの、とりあえずぷにぷにとして快適な自分の胸から顔をあげると、どこにいるか解らない悪魔に対して抗議した。
『ちょっとした冗談じゃない?それより、早くその雑誌広げてみて。』
彼女は謝るどころか悪びれた様子もない不審者にますます憤りを感じたが、とりあえずは言われた通りにする他も無く雑誌をめくり始めた。
彼女は雑誌をめくってみたはいいものの、別にそこには特に目新しいものも無く、何回か見たおなじみのページがあるだけだった。
「雑誌めくってみましたけどぉ。なにもべつにないですよ?」
言われた通りにしても何も見つけられなかった事と、先程からの事が合わさって彼女は不満を露わにぶつけた。
『あっ。そこ・・。って通りすぎたよ?2ページ戻って。うん。そのページ。』
謎の声の主はそんな彼女を無視するかの様にあしらうと、ぱらぱらと乱雑にページをめくってる彼女に指示をして
あるページを開かせた。そこは例の綺麗なおねえさんがこちらに手をかざしてるページだった。
「このページに何かあるのですか?」
『そこに手を合わせてみて。』
「え?ここって前に合わせたけど・・・。もう一度やるの?」
『うん。いいからやってみて。』
なにやらうさんくさいし、今ひとつ信用の出来ない相手の言うがままにされるのはあまり気が進まなかったが、残念な事に今の彼女には
他にとる手段が無かった。すべてやめてしまう事もできると言えばできるのだが、ここまで色んな事を苦労してやってきた彼女には
とりあえず事がどのように決着するのか知りたい気持ちもあったのだった。
「こ・・こうでいいの?」
彼女はまた雑誌のお姉さんの手に自分の手を重ねた。その瞬間、雑誌がまた光り輝いた。
「きゃっ!?」
今度は胸の上の目の前で突然まぶしい光を受けたので彼女はびっくりしてあやうく雑誌を手から離しそうになったのを辛うじて阻止したのだった。
『はーい。もういいわよ。ページをさらにめくってみてね。』
彼女は言われた通りにページを進めてみた。お姉さんのページの次はラッキースポットのページ。そしてどこにでもある屋上の写真・・・。
そしてその後は何もな・・・。
「え??え??!こんな写真さっきまで無かったよ???」
彼女はそこにあるべきもない写真がある事にすごく驚いた。何回も確認し、さっき何気無くめくっていた時もここから後ろはずうっと
何も無い白紙のページだったはずなのに。彼女はまったく訳がわからなかった。
「はーい。見えてるかな?ハロハロー?!」
雑誌の新しいページに写っていたおねえさんはにこやかな笑みを浮かべて恭子に向かって手を振った。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
彼女はついに理解の範疇をはるかに超えた不可思議現象に恐怖を感じ悲鳴をあげた。それと同時に左手に持っていた雑誌を放り投げてしまった。
勢いよく壁に叩きつけられた雑誌は、ぱたっっと床に落ちると、まるで上から糸でつり下げられてるかの様にふわふわと浮き上がり、
そしてすっかりパニックになっている彼女の胸の上へと着地し、ぺらぺらとまたさっきのページが独りでにめくれたのだった。
「もう!なにするのよ?いきなり危ないじゃない!それにそんな悲鳴あげて・・。私がとっさに結界張ってなかったら面倒な事になってたのよ?!」
本の中のお姉さんはぷりぷりと怒って抗議しようとしたが、投げつけたはずの本が勝手にまた戻ってきた事に彼女はますます恐怖を感じ、
もういちど悲鳴をあげて本を力一杯ぶん投げようとした。
「やめなさい。そして落ち着きなさい。」
お姉さんはさきほどまでとはまるで別人の様にゆっくりとそして力強く、まるで恭子に命令でもしている様にしゃべった。
その声が発せられた瞬間、彼女の振り下ろそうとしていた腕はぴたっと止まり、不思議と彼女から恐怖心が消え去っていったのだった。
「そう。いい子ね。どう?少しは落ち着いたかしら?」
「はい。もう大丈夫です。」
彼女は完全に落ち着いていた。どうして落ち着いたかという事より、どうしてあんなにあわててしまっていたのか・・。それが彼女には全く解らなくなっていた。
「落ち着きましたけど・・。なんだかよく解らない事がいっぱいです。」
彼女は不安という気持ちは消えたものの、依然として解らない事ばかりだったので説明して欲しいと思ったのだった。
「あ、そうね。とりあえずこうやって・・一応?姿は見えてるみたいだから説明してあげるね。まずは自己紹介からね。」
本の中のお姉さんはまた優しく微笑みかけるとぺこりと頭を下げながら丁寧に話しはじめた。
「私の名前は・・・。うーんと・・・。あっ!そうそう。マリーだったわね。こっちでは。マリーよ。よろしくね!」
なにやら独り言をつぶやきながら本当かどうかすごく怪しい名前を恭子へと名乗った。
彼女は思わず疑いの気持ちを微塵も隠す事もなく聞き返した。
「お姉さん・・。それ本当の名前ですか?」
「え?うーんと・・。その・・。そうよ?こっちではマリーであってるわよ?そんな事より、どうして、私が本の中から
しゃべってるのとか聞きたくないかしら?」
マリーは恭子からのしつこい追求をかわそうと話題を変えようとした。恭子はどうにも腑に落ちない気持ちだったが、
本人がそう言い張る以上、追求するのも今は時間の無駄の様な気がして、とりあえずマリーの提示した
ちょうど一番不思議に思ってた事を確かに聞いてみたかったのだった。
「はい。どうしてマリーさんは本の中からしゃべったりしてるの?」
普通に考えれば完全な異常現象であり、さきほどの彼女の様にパニックになってもおかしくはないのだが、恐怖という
感情がどこかに消えてしまった彼女は純粋に不思議に思う気持ちだけからマリーに聞いてみた。
「そうね。じゃあ・・・。順番に話していこうかしら。まず、私が誰なのか?知りたくない?」
「はい。知りたいです。」
「うん。そうよね。そこ重要よね。私は・・。あ、やっぱり、私が誰かより・・そうね・・。今回ここに来た目的を話してからのほうが早いかしら?・・。
でも、私もあまりうまく言えないけど・・・貴方に呼ばれたからかしら?」
マリーは時折、うーんと考える様な仕草を見せながら話した。恭子は話しを聞いてまた解らない事がでてきたので率直にマリーに聞いてみた。
「マリーさん。今こっちに来たって言ったけど。マリーさんってどこかよその国の人なんですか?それと私に呼ばれたって??」
「そうね。私は他の・・うーんと。たぶん貴方に言っても解らないと思うとぉーいとこから来たの。それと貴方に呼ばれたってさっき言ったけど
正確にはやっぱり違うかな?気になったのよ。貴方の恋に悩んでる姿にね。」
マリーは苦労しながらも、ひとつひとつ説明しようとしてる様に恭子には感じられた。その態度は確かに誠実そうに見えなくも無かったけど
彼女はさらに思い切ってマリーに疑問点をぶつけてみた。
「マリーさんって・・。その・・・人間じゃ無いですよね?」
恭子にはとても信じがたい事だったが、彼女の頭の中で出された唯一の結論を口にする他は無かったのだった。
「ええ。そうよ。ってこうやって本の中からしゃべるとか人間じゃ無理よね。あはは。」
マリーはなるべく恭子に不安を与えない様にしてだろうか。努めて明るく笑ってそう答えた様に彼女には感じられた。
「マリーさんっていったい何ですか?それにさっき私が恋に悩んでるから来たって・・。ひょっとしてそういうお仕事ですか?」
「うーん。まあ・・。それに近いかな?貴方の心の苦しみが私に聞こえたのよ。なぜかどうしてもそれが気になっちゃったから
来たってわけ。そう・・。な・ぜ・か・・・気になっちゃったのよ・・。」
マリーはさきほどまでの明るい表情とは違った表情を見せた。それはまるで彼女自身にも解らない事がある様な表情にも見えたのだった。
「マリーさんって。ひょっとして、恋愛のお仕事をしてる・・。えーっと・・あっ!たしか・・キューピッドですよね?・・。そんな感じの方ですか?」
恭子は今までの質問から得た答えからマリーが何者であるか推理してキューピッドかも?という一つの結論を彼女へと返した。
「キューピッドなんかじゃないけど。そうねー・・。まあ・・。そんなとこかなぁ?でっ!貴方になんとかいいアドバイスをして、恋が上手くいくように
手助けをしたくて、この本を使って貴方を応援してたの。なんとなーく解ってもらえたかしら?」
マリーはなんとか伝えようと、大きめのジェスチャーを交えて恭子に説明した。
「うーん・・。まだ全然よく解らないですけど・・。なんとなーくそんな感じかな?くらいには解ったかもです。」
説明はしてもらったものの、恭子にとっては当然見た事も聞いた事もないので解るはずは無かった。
けど、なんとなくつじつまは解らないなりに合ってる気がしたし、これ以上聞いても解るような気もしなかったので
とりあえず彼女は納得しておく事にしたのだった。
「そう!よかったわ。これでようやく話しができるわね。」
マリーはぱぁっと明るくニコニコと微笑んだ。綺麗な金髪にセクシーな外見とはまるで違うかわいらしさに
不意をつかれる様な感じで恭子もなんだかうれしくなったような気がしたのだった。
「・・・っと。笑ってばかりもいられないのよね。あなた。どうして逃げてきちゃったの?」
さきほどまでの天真爛漫な笑顔はどこへいったのか。マリーはじっと問い詰める様な厳しい面持ちで恭子に問いただした。
「えっ?・・・・」
あまりにも突然な問いかけに恭子は理解する事ができなかった。彼女が何を知ってて何について言ってるのか?
それを聞き返す事もできなくパニック状態になるくらいあまりにも唐突で核心な問いであった。
「今日何があったかはさっき大体解ったわ。どうして、あなたは私のアドバイス通りにあそこで告白できなかったの?!
あの場所であの刻で告白すればぜえぇぇぇったぁいに上手くいったのに!」
「・・・・・・・」
ぷりぷりと怒り始めたマリーに恭子は何も言い返す事ができなかった。思い返したくもない痴態。自分でも信じられないほどの
意気地の無さに彼女はただ黙って下を向く以外にほかは無かったのだった。
「あなた。ほんとーにあの子・・えっと・・。悠人君だっけ?の事好きなの?」
「・・・うん。」
「じゃあ、なんで好きって言えないの?自分から好きって言わなくて、悠人君に好きって言わせたいの?」
「ううん、ちがう!ちがうけど・・・」
「けど・・なに?私にはあなたの言ってる事が全然解らないわ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
マリーは怒った様な表情で恭子にぶつけた。彼女には恭子のとった行動がまるで理解不能だった。それいぜんに彼女が
本気で誰かを好きになってるのかさえ疑わしく思えてきて、彼女はそれがより腹立たしかった。
しかし当の本人はますますうつむいたまま、何ひとつ言葉を発する事もなく黙り込んでしまった為、彼女は待つしかなかったのだった。
どのくらい時間が経ったのだろうか。やがて待ちきれなくなったマリーが何かを言おうと口を開こうとした瞬間、
ぽつりっと本に何かが落ちてきたと思うと、それが続けてぽつりっぽつりっと落ちてきたのだった。
「・・・・ぐすっ。・・・らないの。わっらないの。ぐすっ・・。わらしにも・・・わがらないのっ!」
恭子は泣きながら、苦しみを吐いた。マリーが彼女に言った様に、彼女もまた彼女自身の事が解らなくなっていた。
好きだから好きって言いたいのに・・・好きだからずっと好きで居たいから言えないのに・・・好きだから好きって言わないといけなのに・・・。
終わることのないループに彼女は出口を見つける事ができず、迷子の子供の様に泣くしかなかったのだった。
肩を上下させ、鼻をすすりながらぽろぽろと大粒の涙を構うこともなく本の上に落としてくる彼女に
マリーはただ複雑な表情をしながら見守るしかなかったのだった。
ひとしきり泣くだけ泣き、ようやく少し落ち着きを取り戻し始めた様に思えた頃、マリーは表情は依然としてきびしいものの、どことなく
優しい面持ちで恭子に向かって語り始めた。
「私にはまだよく解らないけど・・・。少なくともあなたが悩んでて苦しい事。悠人君を好きって想う気持ちは正直よくわからないけど
あなたなりに真剣って事はなんとなくだけど解ったわ。泣かせるほど辛い思いをさせてごめんなさいね。」
マリーはそう言うと頭を下げて謝ったのだった。
「そ、そんな。マリーさんが謝らなくてもいいです。だって、マリーさんの言ってる事、ほんとの事ですし。それに私もそう思ってるから。」
「そ、そう?ならよかったのかな?いやな思いさせちゃったらまずいかなーって。」
「ううん。大丈夫。ありがとう。マリーさんって優しいですね。」
「え?私が優しい?そんな事言われたの初めてだけど?」
「ううん。優しいですよ。私の事本気で心配してくれてるし。」
「そうかなー?」
「そうですよー。」
ないたカラスがもう笑ったという言葉の様に、さきほどまで重い雰囲気で泣きまくってた事もすっかり忘れてしまったかの様に
恭子はくすっと笑った。
「それで、これからどうするの?」
「・・・・・」
マリーの問いに恭子はまたしても黙ってしまった。事態が進展したわけでも無かったので当然といえば当然なのだが、
雨のち晴れのち曇りの様に彼女の心は安定する兆しも見えないままだった。
「ねえ。悠人君の事好き?」
「・・・好きです。」
「ほんとに?」
「ほんとに好きです。」
「悠人君の事あきらめちゃう?」
「・・・・・・・・・・・」
「本当にあきらめちゃっていいの?」
「・・・・悠人君を好きって気持ちはあきらめたくないです。」
「そう・・・。」
マリーは恭子に優しくそして自分の気持ちを確かめさせる様にたずねた。その様な事をひとしきり繰り返した後、
彼女は右手の人差し指を唇にあてて考え込む様に下を向いた。やがてくすっと小さく笑うと、ふうっと微笑みながらため息をした。
「もう、しょうがないわね。いいわ、このマリーお姉さんが恭子ちゃんの恋を引き続き応援してあげる!」
「・・・えっ?」
マリーは急にテンションを上げて大きな声と身振りで話し始めた。突然何がおこったのか解らなかった恭子は反射的にマリーのほうを見たのだった。
「えっ?じゃないわよ。何そのぽかーんとした顔は?私じゃ不満なの?」
マリーはいじわるく少しご機嫌ななめのような表情を見せた。
「あ、いいえ。そうじゃなくて。急にマリーさんが言うからちょっとびっくりしちゃって・・。」
「えー。だって本に書いてあるじゃない?あなたの恋を応援しますって。」
「あ・・・。」
「あ・・。じゃないわよ。ちょっと、しっかりしてよ?もしかしてすっかり忘れちゃってたの?」
「うん・・。忘れてました。」
恭子は急にテンションの上がったマリーにまるで鳩が豆鉄砲をくらった様にあっけにとられてしまった。
「うーん。そこ忘れてたのかー。お姉さんちょっとショックだなー。ま、いいや。じゃあ、はい!手出してね。」
「えっと、またさっきみたいにですか?」
「うん、そうよ。」
恭子は言われた通り動いてるマリーと手を合わせた。するとマリーの姿はすぅっと消え、また本の
ページは真っ白になってしまったのだった。
『もしもーし?聞こえてるかな?』
「きゃっ!」
恭子は今までとは全く違う所から突然聞こえてきた声に思わずびっくりして声をあげてしまった。
『あら。そんなに驚かなくても大丈夫よ。あなたの心に直接話しかけてるだけなんだから。』
「私のココロに?」
『そうよ。だから思ってくれただけで私に伝わるのよ。ちょっと試しにやってみて。』
「思うだけって・・・・」
『こんなのでいいのかな?』
『うん。それでOK!ちゃんと聞こえてるから。どう?便利でしょ。』
「便利かどうかはよく解りませんけど、どうしてそんな事ができるのですか?」
まるで自分の周りで起きてる出来事にすっかり取り残された感のある恭子は
マリーに改めて声に出して質問をしてみた。
『え?そんなの恭子ちゃんの体の中に私がいるからに決まってるじゃない。』
「そうなんですか・・・。私のって、えええええええええ!?」
あまりにもあっさりと当たり前の事の様にとんでもない事を言い放つマリーに
一瞬納得しかけたが、なんとか事態に追いつこうとしている脳の一部から
緊急の悲鳴があがったのだった。
「ど、どういう事ですかぁ?!私の中にマ、マリーさんがいるって?!」
『あら、そんなに驚く事だったかしら?ほら。私、本の中からしゃべってたりしたじゃない?
ようするに今の私は精神体の状態なのよ。だから恭子ちゃんの体の中にこうやって
入ってお話しできるってわけ。ひょっとして、よく解ってなかったのかな?』
あまりにもあっけらかんと訳の解らない事を次から次へと言い放つマリーに
彼女は少しキレながらも抗議した。
「そっ、そんなの!解る訳ないじゃないですか!」
『あー・・・そういえば人間って精神体になってまた肉体に戻るのってできないんだっけ?
思えば結構不便なのね。あ、じゃあ。なんかそういうものだって思っておいてね。』
「そ、そんな事言われても・・・」
『もう。いちいち細かい事気にしちゃだめよ?今はそんな事より、恭子ちゃんの恋を
どうやって成功させるか。それが一番大切なんだからね。』
「そ、それはそうです・・けど。こまかい事じゃないです。」
たしかにマリーの言うことにも一理ある様な気もどこかで段々してきたが、依然として
多くの部分で納得のいかない彼女は文句を言ってみたが、当のマリーはそんな事を
全く気にするそぶりも見せず、勝手に話しをすすめようとしたのだった。
『まあ。そういう訳で、これからよろしくねっ!恭子ちゃん!』
「えっ?何がですか?」
『もう!ノリが悪いな−。だぁかぁらぁ、私がこれから恭子ちゃんの恋を全面的にサポート
してあげるからよろしくねっ!って。』
「・・あ、はい。よろしくお願いします。」
全く疑問に答えようともせずにどんどん事態が進展していく様に、恭子はとりあえず相づち
の様なものを返しておいた。
「それで、私の恋のサポートをしてくれるのと、これって何か関係あるのですか?」
『えっ?!』
「えっ?!」
恭子は少しでも理解の足しになる様な説明を求めてマリーに質問した。だが返ってきたのは
短い驚嘆であり、それがまた逆に恭子を驚嘆させた。双方が同時に意表を突かれてしまい、
時が凍り付いてしまったのだった。どれくらいの時間が経ったのか?ようやくマリーが
話し始めた。
『え?だって・・・今回失敗しちゃったし。やっぱり、きちんとフォローするには私が恭子ちゃんの
事をよく知ってたほうがいいでしょ?』
「ええっと・・。それはその様な気がします。」
『でしょ?だから、私が恭子ちゃんの側に居る必要があるわけ。でも私が本の中に居たままだと
何かと不便でしょ?だから恭子ちゃんの中に居るの。解ってもらえたかしら?』
「えーっと・・。解るよーなー・・・解らないよーな−・・・」
恭子はたしかに所々はマリーの言う事は解る様な気はするもののどうにも腑に落ちないまま
首をかしげたり眉間にしわを寄せたりしながら曖昧な答えを返した。
「えっと。さっき私の中に居るって言ってましたよね?」
『うん。今も居るよ?あ、だからいちいち声に出さなくても思ってるだけで伝わるのよ?』
「それってひょっとして私が学校に行ってもって事ですか?」
『え?そりゃそうよ。だって恭子ちゃんの中に居るんだから。そうねえ。こういうのって
確か・・一心同体って言ったかしら?』
「そ、それはちょっと困ります!」
恭子は急に慌てた。他にももっと見られて困る場所や時間などはあるといえばあるのだが、
学校にいる間の自分を見られるというのはなぜだかものすごく恥ずかしく思えたのだった。
『あら。だって学校に行ってる時間って長いじゃない。それに、悠人君と会える時間もチャンス
も一番多いのって・・学校なのよね?』
「そうですけど・・・・だからです。」
恭子はずばっと核心をついてくるマリーにたじろぎ、はっきりと理由を言い当てられてしまった
事に恥ずかしさが増し、思わず口ごもってしまったのだった。
『でしょ?だから私が学校に着いていってあげて恭子ちゃんといろいろ同じように動いてみて
様々な事を通してあなたの事を知って、それで悠人君との恋の的確なアドバイスをしてあげるって
事なの。それに直接悠人君も見れるし。どう?完璧でしょ?!』
「ゆ!ゆうとくぅんも見るの?!」
『そりゃ見るでしょ・・。だって恭子ちゃんだってじろじろ見てるんでしょ?』
「じっ!じろじろなんて、見てませんっ!!」
思わず悠人の名前がでてしまって恭子は興奮してしまった。普段、彼をどんな気持ちで見てるのか。
それを他人に知られてしまう事はすごく恥ずかしかった。それに確かにじろじろとは見てないものの
ちらっちらっとは数え切れないくらい見てるのであって、その事は本人が知らないだけで特に
カナやさっちゃんにはバレバレではあるのだが、それでも他人に知られるという事は顔から火が出る
ほどの出来事に恭子は思えてしまえるのだった。
『別に好きな人を見たっていいじゃない?やっぱり恭子ちゃんってよく解らないわ。これはじーっくり観察
しないといけないわね。それにべつに私が学校に行ったって大丈夫よ?だって私の姿なんて誰にも
見えないし、私の声だって聞こえないもの。』
「そ、そういう事じゃなくって・・・。」
『あら。まだ何か不安な事ってあるの?』
「・・・・・」
一向に伝わらないばかりか、それ自身がまったく問題にもされないでさもあたり前の様に扱われる
理不尽さに恭子は何を言っていいのかもはや解らなくなってきていた。
『あら?気がついたらもうこんな時間よ?そろそろ寝ましょ。夜更かしはお肌に良くないわよ?』
マリーに言う通り、時計を見ると普段の就寝時間をいつの間にか超えてしまっていたが、
相変わらず納得しきれない彼女は少しも眠気を感じる事はなかった。
とはいえ、確かに明日はいつも通りに学校はあるわけで、このままずっと寝ない訳にもいかない
彼女はとりあえずベッドへは向かおうと思った。しかし・・・
「うーん・・。ふっ!ふんっ!・・・」
『うん?何してるの?』
「む・・胸が・・・重くって!・・うー!机から落としちゃうと、だめ・・だから・・。」
一度机の上にのせた巨大な乳房を何も支えのない空間に放りだしてしまうと、それだけでバランスを一気に崩されてしまいそうだったので、まずは右胸からゆっくりと右腕と右足でしっかり受け止められる様にと慎重に少しづつ机からずらそうとしていた。だが、机との摩擦で自分の思うように動いてくれない
巨大な厄介者に恭子は四苦八苦していた。
『あら。それは大変そうね。いいわ手伝ってあげる。そうね。まず両手をおっぱいの下にいれてみて。』
「両手を入れたら重くて動けなく・・・って・・・あれ??」
恭子は言われた様に両手を胸と机の間に入れてみた。ずっしりとした重量が手にかかり思わず
その苦痛に顔をゆがめたが、次の瞬間、不思議な事にその苦しみが嘘の様に消えてしまったのだった。
『じゃあ。今度はそのままゆっくり立ってみて。』
「え?!そんな事したら転んじゃうと思うけど?」
『いいから。やってみて。』
恭子は静かにというか大きすぎる乳にもっていかれない様におそるおそる立とうとした。すると彼女の体は
力をいれる感覚もなく自然と驚くほどにまっすぐと立ち上がった。
『うん。うまくいってるね。これは問題なくいけそうかな?じゃあそのままベッドまで行ってみよう。』
「え?でもこのおっきな胸が邪魔で足下全然解らないんですけど?」
『だいじょうよ。ちゃんと私がやってあげるから。』
恭子はさっき机の到達するまでの苦難を思い出した。それとこの体のほとんどを支配している乳房が
ベッドに一度沈み込んでしまうと動かす事さえ難しい事を体験し、不安な気持ちになってしまっていた。
そんな恭子との思いとは裏腹に、彼女の足はすぅっと動き、見事に障害物を避けながら
ベッドまで何事もなく到達し、彼女が何をしようとしたわけでもないうちに無事ベッドに座る事が
できてしまったのだった。
『はい。とうちゃーく。やっぱりそのおっぱい重そうだから、横になったほうがいいかしら?』
座ってた状態から、いきなり体が横に傾き、気がついたら景色が一瞬縦横逆になってしまった後
目の前が自分の胸で肌色一色の世界になってしまったのだった。
すべての動作が彼女が考えるよりも先に進行してしまい、ベッドに横たわったまま、まるで目の前が
ぐるぐると回ってるような感覚のまま彼女は理解できない状況に翻弄させるしかなかった。
『ね?結構便利でしょ?恭子ちゃんが寝てても学校に行けたりしちゃうのよ?すごいでしょ?』
マリーがここぞとばかり繰り出すアピールも恭子にはまったく聞こえてなかった。
目をぱちぱちと瞬きさせるだけでまさに我を失った状態になってしまっていたのだった。
「・・・・・・あぅ!」
呆然としてる彼女の意識は突然の痛みによって再び呼び起こされた。それは手や腕や背中や・・・
全身のいろんな部分からわき上がるズキン!ズキン!という鈍痛が彼女を苦しみ始めたのだった。
「ううっ・・。」
『あっ!ひょっとして痛かった?ごめんね。やっぱり普段の力以上の事をさせちゃうと体に無理が
あるのね。うーん。やっぱり気をつけなきゃだめよね。』
「マ、マリーさん。何したのですか・・・。」
痛みによってようやく少し判断力の戻ってきた彼女は、自分の理解を超えた現象の最有力な犯人に
説明を求めた。原因は彼女しか考えられないし、彼女ならやりかねないとも思い始めていたのだった。
『えーっと。なんかおっぱい重くて困ってそうだったから。手伝ってあげたのよ・・・。』
「どうやって?」
『だから私が恭子ちゃんに代わって恭子ちゃんの体を動かしてあげたの。』
「わたし、べつにそんな事頼んでないですし。それに、なんか体が痛いんですけど?」
恭子はマリーのあまりにも勝手で余計な行為に腹が立ってしまった。確かに、自分が手にあまる
ほどの巨大な乳房にどうしようもなく困ってたのは事実だが、だからといって自分の承諾もなく
体を動かされた事や、その結果がこのずきずきとした痛みだった事。そして案の定彼女が犯人だった
事実に恭子は割り切れない感情がこみ上げてきて目に見えない相手に抗議をしたのだった。
『だからごめんなさいって謝ってるじゃない。それに痛いのはちょっとの間、感覚を止めてたからよ?
少し無理に急がせすぎたからね。たぶん。次から気をつけるからそんなに怒らないでよ。』
「次とかもういいですから。それより、この・・おっきいとかいうの超えちゃってる胸・・・。なんとか
なりませんか?こんなんじゃ、明日学校に行けないのですけど。」
なんだか抗議した事もあっさりと受け流されてしまった感のするマリーの答えに彼女は少し落胆してしまった。だがそんな事よりもこの目の前のなんだかよく解らない自分?をどうするかという事のほうが
彼女にとっては差し迫った重要事項だった。
『それ・・ね。だからそれは恭子ちゃんがあそこで逃げちゃったから暴走してそんなにおっきなおっぱいに
なっちゃったのよ。だから、ちゃんと反省するまでそのままよ?』
「えー?!そんなのすっごく困るんですけど・・。」
恭子は半べそになりながらマリーに必死に訴えた。
『なぁんて。冗談よ?ちょっと恭子ちゃんをいじめたくなったからからかっただけよ。心配しなくても
明日になれば元に戻ってる・・はずだから。』
「もう!なんでそんないじわるするんですか?」
『あら。でも悪いのは恭子ちゃんよ?それは解ってる?』
「・・・でも。」
『でもじゃないのよ。それはちゃんと反省してね。』
「・・・すみません。」
なんだかいろいろ腑に落ちない恭子だったが、告白に失敗したという事実は元々がどちらかといえば自虐的な彼女に重くのしかかってきてしまったのだった。マリーに反省する様に言われたが、何をどうしたらいいのか全く解らない彼女はマリーの言われるままにただあやまるくらいしかできないのだった。
『はい。今日は今日。明日は明日。もう寝ましょ。明日学校で早いんでしょ?』
「あっ!そういえばカーテン返さないといけないんだった!」
恭子はとっさに大きな胸を隠すのに巻いてきたカーテンを返さないといけない事を思い出した。
『ほらぁ。じゃあ。なおさら早く寝ないとだめじゃない。』
「で、でも・・。なんか今日いろいろありすぎて・・なんだかまだ寝られる気分じゃないです。」
『もう。しょうがないわね。ふふっ。私が子守歌でも歌ってあげましょうか?』
「だ、だいじょうぶです!っていうかそんな子供じゃないです!」
『ふふっ。恭子ちゃんってそういう所もかわいいわね。じゃあ。『おやすみなさい。いい夢をね』』
「わ、わたし・・かわ・・く・・。」
恭子はいろんな事が起こりすぎて頭が少しパニック状態でとてもすぐに寝られる様な気分では
なかったが、不意にそれらがすぅっとひいたかと思うよりも早く意識が消えてしまったのだった。
翌朝、恭子は思わず身震いをしてしまった。
「・・さむっ・・。」
なんだかすっごく寒いので布団を手で必死に探すものの、一向に見つからないので彼女は
まだぼぉっとしながらも起き上がった。見ると布団はまったくかけられてもいなく、彼女の下に
しかれたままになっていたのだった。
「・・・あれ・・?わたし布団・・してなかったっけ?」
すっかり起き上がってしまった彼女はまだ薄もやに覆われている頭を使ってぼんやりと理由を
思い起こし始めた。
「・・・・うーーーーーーーん・・・。・・・・・!!」
首のすわってない赤ん坊の様に頭を左右にふらふらとさせながら彼女はまた夢の中に戻ってしまう
様な不安定さで考えた。だがふと急に何かに突き上げられるように頭をびくっ!と動かしたかと
思うと目をぱちっ!と見開き視線を下へと動かしたのだった。
「胸!・・って・・あれ?」
彼女は瞬時に昨日起こったいろんな事思い出した。そしてとても信じられないほどに大きいと言う
レベルを超えてあらゆる妨げになる胸を急いで確認しようとしたが、そこにはいつもの様に
胸というにはつつましすぎるほどのわずかな弧を描く見慣れた日常しかなかったのだった。
「夢・・だったの?」
あまりにも彼女にとって強烈すぎた出来事が消滅している事実に、彼女はどこまでが現実でどこまでが
夢なのかさえ解らなくなってしまった。もしかして今この時が夢なのかもしれないと思ってしまっていた。
『あら・・起きたの?おふぁよー。ふわぁぁぁ・・・。んー。まだ朝早いわよ?』
「きゃっ!!」
恭子はどこからともなく突然聞こえてきた声にびっくりした。だが、程なくすべてが夢だったという訳では
なく、なんとなく昨日あった出来事を確かめようと声をかけたのだった。
「あ、マリーさん・・ですよね?」
『そうよ?もう私の名前忘れちゃったの?』
「いえ・・そういう訳ではないですけど・・。」
改めて心のどこかで夢であってほしいと願う気持ちがかなわなかった事に彼女は少し落胆した。
そしてマリーの言う様にいつもよりまだ起きるには早い時間であるって事を確認するために
時計のほうを見た。
「あ・・。まだこんな時間なのね。ちょっと早かったかな・・。あっ!そういえばカーテン返さなきゃ。
誰かに見つかったら大変だし!」
急に彼女は緊急の用件があった事を思い出し、ばたばたと階段を下りて、お風呂場に行き
シャワーを勢いよく出した。
『あら。まだ早いと思ったのに・・。学校っていろいろ大変なのね。』
「きょ、今日はいつもより早く行かないといけないからっ。」
体と頭をいつもよりスピーディーに洗うと、急いでタオルで拭き、下着をつけようとした。
『それにしても・・。かわいらしい下着ね。それはうさぎさんかしら?』
「い、いちいち、見ないでください!」
『あ、それと・・・』
「なんですか?! あー、もうっ!」
気持ちは一刻も早く学校に行きたいのに、シャワーをあびてますますあわててる所に加え、マリーの
空気のよめなさに少しいらっとしてしまった。普段なら落ち着いてできるフロントフォックのブラで
さえなぜかうまくかからないほどのあせりに彼女はますますいらいらしてたのだった。
『忘れてるかもしれないけど、思うだけで伝わるからいちいち声に出さなくても大丈夫よ?
っていうか、今の恭子ちゃん、たぶん周りから見たら変な子に見えちゃうよ?今日から学校なんだから
ちょっと気をつけないとだめよ?』
『これでいいですか?!』
『うん。OK。それにしてもなんだかワクワクしちゃうかも。こっちに来たの久しぶりだし。前の時も
学校ってあったけど、なんかちょっと違ったし。それに、その服かわいいよね。たしか
セーラー服って言うのよね?ちょっと恭子ちゃん待ってる間に本で調べてたけど・・。』
急いで髪を乾かし、いつもよりかなり雑に整えると、朝食をとる事もなく、まっすぐ玄関へと駆け抜け
急いで靴を履こうとした。そんな急場の中でもまるでそれを少しも意に介さないようにマイペースで
話してくるマリーを彼女は完全に無視していたのだった。
「あら?ちょっと、恭子?!朝ご飯は−?!」
キッチンのほうから突然学校に行こうとしてる我が子に慌てて母親が飛び出てきた。
「あなた昨日の夜も食べてないじゃない?!だめよ、きちんと食べないと!」
「だ、大丈夫だから。昨日もちゃんとカナ達と食べてきてるし・・。」
「またファーストフードでしょ?だめよ。だったら朝はちゃんと食べなきゃ。」
「い、急いでるの!今日はどうしても学校に早く行かなきゃだめなの。」
「あら。今日は当番か何かなの?」
「・・そ、そう。・・ほら今日は花壇の当番なの。お花に水をあげないと・・。」
昨日ついた嘘がまた今日の嘘をつかせるような連鎖に恭子は追い詰められていた。
だが突然の母親からの助け船を彼女は咄嗟に利用し、さらに嘘を重ねたのだった。
「あら。そうなの。じゃあ。ちょっとだけ待ってて・・。」
そういうと母親は急いでキッチンへと戻っていった。その時間さえも今の恭子にはもどかしく
感じてしまうのだが、無視をして学校に向かう訳にもいかずあせる気持ちと戦いながらも
玄関でじっと待っていた。
「ほら。朝ごはんのかわりにおにぎり握ってあげたから。・・それとおかずがまだ全部冷めてないから
あまり入れられなかったけど、これ・・お昼のお弁当。」
母親からおにぎりとお弁当を受け取ると、急いでそれを鞄にしまい、玄関をあけた。
「おかあさん。ありがとうね。じゃあ、いってきまーす!」
「はい。気をつけていってらっしゃい。」
恭子は玄関を飛び出すと走って学校を目指したのだった。
『いいお母さんじゃない。いいわねえ。私もあんなお母さんだったら・・。』
「え?何か言いました?」
『ううん。なあんでもないわよ。それとまた声出てくるから気をつけてね。べつに変な子って思われても
構わないならいいけど。』
『それはいやです。じゅううぶん気をつけますので。』
『あらそう、がんばってね。ふわぁぁ・・。やっぱり私、朝ってどうも苦手だから寝てるわね。じゃあ。
また後でね。おやすみなさーい・・・。』
あいかわらずのマイペースぶりに思わず声に出して抗議をしようとしたが、ぎりぎりで思いとどまり、
とりあえず彼女は一秒でも早く学校に着くことに専念したのだった。
それからというもの、マリーはあいかわらずのマイペースで恭子にいろんな場所についてきたのだった。
最初のうちは恭子も慣れなくていちいちマリーのおかしな行動につい声を出して抗議したり、
つっこみをいれたりして周りから特にカナや紗智子から心配されたりしたこともあったが、
すべて独り言で片付けていた。そのうち周囲も慣れ、恭子自身も心で思う事になれてきて次第に
自然に振る舞える様になった。マリーは本当に自由っていうか自由すぎるくらいの振る舞い
をして恭子もしばしばあきれるほどであったが、恭子は次第にマリーの事ことをそんなに悪い人じゃ
ない様に思える様になり、このごろではマリーの事を自分のあこがれの仲の良い姉妹みたいに
思ってしまう事もたびたびあったのだった。それでもあたらしいものや、とくに恭子達の食べている
お菓子やらケーキやらといったスイーツには頭の中がうるさくてかなわないほど興奮し、恭子を
たびたび困らせたりもしていた。
そんな何気なく楽しい学校生活をおくっているある日。恭子は体育の授業でバレーボールの支柱を
運びに体育用具室へ入っていったのだった。
『あら・・。ねえ、恭子ちゃん。ここって何の部屋?』
いつもの様にすこしでも変わったものを見つけるとマリーはすぐに恭子に聞いてきた。
『ここは体育用具室よ。体育の授業で使うものがいっぱいしまってあるの。』
『ふぅぅん。なんかおもしろそうなとこね。』
『おもしろいの?なんか埃っぽくて私あんまり好きじゃないけど。』
『だって、ほらいろんなものおいてあるし、なんか楽しくないかしら?』
『そういわれれば・・幼稚園の頃はなんか楽しかったかも・・。そんな感じなのかな?』
恭子はバレーの支柱を持ち上げながらそんな事をマリーと話していた。
『・・・広さも・・。隙間も・・ちょうどよさそうね。よぉし!ここに決めたわ。』
『え?何を決めたの?』
『何をって・・悠人君に告白する場所に決まってるじゃない!?』
「えっ!!!???」
<<ガキイイイイイイイイン!!!>>
「きゃっ!!!」
思わず突然マリーから思いもかけない事を言われて恭子は驚いて支柱を持つ手を離してしまったのだった。
突然支えを失った支柱は下にたたきつけられ、するどい金属音をひびかせると同時に反対側の支柱を
運ぼうと持ち上げてたクラスメイトを驚かせてしまった。
「ご!ごめんなさい!手がすべっちゃって・・。けがとかなかった?」
「う・・・うん。だいじょうぶ・・。ちょっと驚いただけなの・・。」
「ほんとにごめんね。すっごく気をつけるから。もういちど運ぼ。」
恭子は本当はクラスメイトの子などより内心はもっと驚いていたが、とりあえずは支柱を運ぶ事に集中し
なんとか今度は無事に運ぶ事ができたのだった。恭子は運び終えると体育館の隅へ行き、
壁のほうを向かって座ったのだった。
『い、いきなり告白って・・・!』
『あら?忘れてたの?その為に私が恭子ちゃんについていってるんじゃない。』
『わ・・忘れてなんかないわよ。その、と、突然だったから。』
本当は恭子は告白の事をすっかり忘れてしまっていた。その原因の大半はこの突然の騒がしい
居候のおかげではあるのだが、なんとなく忘れていた事自体が彼女にとっては恥ずかしかった。
『それで、あそこ使えるのいつかしら?できれば最後の授業がいいけど?』
『あそこって・・もしかして用具室の事?』
『そうよ。あそこ以外にどこがあるのよ?』
『え?もう一度聞くけど・・その告白する場所の事を聞いてるよね?』
『そうよ。それで使えるのはいつかしら?』
恭子は困惑してしまった。告白と言えばもっとそれらしい所・・たとえば失敗してしまったけど、屋上とか
まだそちらのほうがピッタリな感じがしたし、探せば学校の中にだって、それに別にわざわざ学校の中
に限定する必要もないのに、よりにもよってあんな埃っぽいところ選ぶマリーの感性に少し疑問を抱いた。
とはいえ、結構彼女の事をあてにしてたのは事実で、あれだけはっきりと言い切られてしまっては、
ほぼ現時点でノープランな恭子はいぶかしげに思いながらも従うしか無かったのだった。
『えーっと。金曜日の最後が体育でまた体育館を使うから・・・3日後かな。』
『3日後なら恭子ちゃんもいろいろ準備できてちょうどいいよね?』
『・・・うん。でも、その・・本当に告白するの?』
『え?もしかして恭子ちゃん。また怖じ気づいちゃったの?』
『そ・・そんな事ないけど。』
『じゃあ、決定ね。3日後がんばりましょ。』
なんだかとても大切な日がこんなにあっさりと決まってしまった事に恭子は戸惑いを感じながらも
計画はすでに動き出してしまっていたのだった。
『ねえ。結局悠人くんにいつそれ渡すの?』
マリーは呆れた様に恭子に聞いた。なんとか手紙自体を恭子に書かせる事には成功したものの、
当日になってもなかなか渡せないまま、次の授業が体育。すなわちデッドラインを迎えていても
恭子はまだ肝心の手紙を渡せないでいたのだった。
『・・う、うん。いま。渡そうかな・・・って。』
国語の授業の朗読が流れる中、恭子は頼り気なくそう答えた。とは言ってはみたものの、直接手紙を渡す
などという大胆な作戦を今まで行った事もなく、そして行うような性格でもない彼女にとってそれは
とても不可能な任務にさえ感じられた。授業など少しも頭に入ってこない中、それでも無情に時が過ぎていくばかりだった。
『もう。仕方ないわね。ほら。手紙出して。』
『えっ?』
『いいから、早く出して。』
『う。うん。』
恭子はマリーにせかされるままに手紙を机の上に出した。
『手紙の上に指を置いてね。』
『こ、こう?』
『うん。そんな感じ。・・・・ИУбγθα・・・』
恭子が聞いた事も無い不思議な言葉をマリーがつぶやくと指先から緑色の光がぽぅっと光り、
手紙の上をすぅっと走っていった。
『え?今のって何?』
『おまじないみたいなものよ。さ。もう大丈夫だから渡しちゃうわよ。』
『えっ?』
恭子の答えを聞くよりも早く手紙がふわっと浮き上がると、まるで悠人以外には見つからないかの様に
椅子の合間をぬっていった。しばらくして恭子は悠人がちらっとこちらを一瞬振り向いた気がして
あわてて教科書に顔をふせたのだった。
『ちゃんと悠人君は見てくれたみたい。いよいよね!』
一人で盛り上がってるマリーをよそに恭子はまたしても緊張と不安な気持ちにおしつぶされようとしていた。
体育の授業が始まったが、恭子は今日一日中そうといえばそうだが、まったく授業など上の空状態だった。
幸か不幸か、体育は男子がグラウンドでサッカー。女子は体育館でバレーボールだったので、直接悠人に
接近する機会こそなかったものの、刻一刻とせまるその時ばかりが気になってしまい、恭子は
そこに居てもいない状態でしかなかった。
『どうしたのかな?元気ないよ?』
『・・・うん・・。』
ちょっと心配になってマリーが声をかけても彼女はまったく心ここに在らずが如くに返すだけであった。
『ちょっと、恭子ちゃん。大丈夫?』
『・・・うん。大丈夫。』
『なんかちょっと心配だけど。とりあえず、壁のほうによってもらえるかしら?』
『どうして?』
『うーんと。とりあえずよってくれればいいから。』
恭子はとくにその理由を理解しようともしないで、言われるままに壁のほうにいった。
『おっけー。じゃあ。壁に手をあててちょうだい。』
彼女はまたしてもマリーの指示通りにただ動いた。
『цъУдл・・・・』
マリーはまた恭子には解らない謎の言葉を念じると、手のひらが緑色にぽぅっとひかり、そしてそれが
体育館の壁にすいこまれていった。
『さて。これで準備はOK。あとは本番ね。』
『え?今何したの?』
『あ、えっと。おまじないかな?人払いの。って・・ちょっと呼ばれてるわよ。さぼってるのがばれちゃったんじゃない?』
マリーに言われてコートのほうを見ると、たしかに恭子は呼ばれているようだった。
そして相変わらず居ても居なくても同じ様な状態なのだが、普段からそんなに活躍できるほうでもない
彼女にとってそれはあまり問題では無かったようだった。
そして体育の時間の終了を告げる鐘が鳴ると、終礼をしてクラスメイトが次々と体育館から
出て行ってしまったのだった。気がつくとすっかり片付けも終わり誰もいないひろーい体育館に
恭子だけがぽつんと取り残されていた。
『さ。舞台は整ったわね!いよいよいくわよ!』
『う、うん・・。』
一人で気合いのはいりまくってるマリーに比べ、恭子の足取りはずるずると重かった。
体育用具室の重い扉をがらがらっと通れるくらいに細くあけると中の電気をつけた。
そこはいつもの様に埃臭い、そして整理整頓されてるようで乱雑な体育用具がところせましと
つめこまれていたのだった。恭子は扉をしめると人ひとりが通れるくらいの
通路を通って、跳び箱とマットの置いてあるあたりで立ち止まった。
『さあ。後は悠人君が来るのを待つだけね。私もちょっと興奮・・じゃなくて緊張してきたかも!』
『う・・うん。ねえ。マリー。聞いてもいい?』
一人で盛り上がってるマリーとはまるで対照的に、とても緊張しているのにどこか遠い事の様に
なぜか思えてしまう恭子はマリーに質問をしてみたのだった。
『うん。いいわよ。なにかしら?』
『どうして、こんなとこ選んだの?』
『ここが一番いいって私が思ったからよ。』
『そう。じゃあ。どうして体育の授業の後ですぐにしたの?』
『それも一番いいからよ。』
『そうなんだ・・マリーって私の知らない事ばかり知ってるのね。』
恭子はすこし意地悪くマリーに返した。それはとても不安な気持ちを押さえる事ができずに
一番身近だけど一番解らない存在の彼女に思わず本音をもらしてしまったからであった。
『恭子ちゃんは私の事。信じてないの?』
『そ・・それは・・。そんな事はない・・けど・・。』
恭子は思わず口ごもってしまった。たしかに信じてる所はあるし、一度任せると決めた事は事実だったが、
やはり心のどこかで信じきれてない部分がある事もまた事実であったからであった。
『ふふっ。いいのよごまかさなくても。私言ったよね。恭子ちゃんの恋を応援してあげるって。覚えてるかしら?』
『うん。それは覚えてる・・。』
『だから、私は恭子ちゃんがたとえ私の事を信じてくれてても、信じてくれてなくても、あなたの恋を応援するって決めたの。私のできるやり方でね。』
「えっ?!」
恭子は思わず聞き返してしまった。自分のある程度予想していたマリーの答えとはあまりにも違った
実際の声に耳を疑うほどであった。そしておもいがけないマリーの思いやりに思わず
照れくさくなってしまったのだった。
『ありがと・・・。』
『どういたしまして。さあ。もうすぐ悠人君くるわよ。今度こそきめましょ!』
『う、うん!・・あ、でも・・。』
『えー。なによ?まだ何かあるの?』
『うん。えっと・・ここ誰か来たりしないのかな・・。』
『だから、さっき体育館の壁に人払いのおまじないしたって言ったじゃない。あれでしばらくは体育館には
誰も来ないわよ。』
『あ、あれってそんなおなじないだったのね。やっぱりマリーってすごいね。』
恭子がもし冷静に考えられたら、今日はたしかに異常だった。いつもなら体育の時間が終わっても、あんなに人が一気にいなくなるなんて事はなく、たとえ一時的に居なくなったとしても、
部活でここを利用する人たちがいるはずなのに、あたりはまるでマリーの言ってる事がただしい様に、
不気味すぎるほど、何の音も聞こえてこない、静寂が体育館全体を覆い尽くしていたのだった。
『そうよ。ちゃーんとサポートしてるんだから。』
『ありがと。あっ!じゃあ、悠人君も来られないんじゃないの?』
『それは大丈夫よ。ちゃあんと手紙には解除のおまじないがかかってるからあれを読んだ悠人君は
まったく関係なく手紙の通りに来てくれるわよ。・・たぶん。』
『そ・・そうなんだ。じゃあ安心・・・。』
『っ!誰か来てるわね。って悠人君しかいないけど。』
突然マリーは遮る様に言った。恭子はマリーに言われ一気に緊張感に襲われた。まるで全身が耳にでも
なった様に外から聞こえてくる物音に集中した。何か聞こえる様な・・何も聞こえない様な。
わずかに床のきしむ音が聞こえる様なはっきりとしない緊張感。それと共にやってくる不安感。
<<ガラガラガラ・・・>>
用具室の扉が今ゆっくりと重い音を鳴り響かせながら開いていった。