それは一本の電話から始まった。・・・
「もしもし、天野さんのお宅ですか?」
「はい、そうです」
「瑠璃さんはご在宅でしょうか?」
よそよそしい男の声だった。
「はい、私ですが」
「良かった、私、シュ乱Qのくんつと申します、ハワイの空港でお会いしたくんつです」
「えっ!くんつさん!?どうしたんですか?」
「瑠璃さん達の電話番号探すのに苦労しましたよ、まぁそんなことはどうでもいい、ところで話を聞いて下さい」
「はい」
瑠璃はくんつからの電話に戸惑いながらも真剣に耳を傾けた。
「突然なんだけど日曜日の夜にやってるテレビ番組で『ARAYAN』って見たことあるかな?」
「はい、大好きで毎週見てます」
「ホント!実はね、今日の放送で告知するんだけど、新しい企画を僕が担当することになったんだ、その内容はね・・・」
クンツは瑠璃に内容を聞かせた。
「ねっ!どうかな?来週また電話するからその時に返事を聞かせて欲しいんだ、君の人生を左右する大事な事だから、ご両親とよく相談して良い返事を期待しているからね」
「はっ、はい分かりました」
「何かあったら連絡できるように僕のケータイ番号を教えておくから、番号は・・・」
メモをとってから受話器を置いた。
『芸能界か・・・どんなところだろう?・・・パパとママに相談してみなきゃ、他の三人にも直接電話するって言ってたし、明日学校で聞いてみよう』
その夜、居間には天野一家が揃っていた。毎週日曜日のこの時間はテレビを見ながら家族で団欒する。恒例の行事だった。瑠璃は風呂上りでシャンプーの芳しい香りを漂わせながら、お気に入りの席に座った。
特注の特大トレーナーに胸を詰め込みバスタオルを首に掛け、乳を波打たせながら髪の毛を拭いている。その両脇には藍と翠が陣取って胸にじゃれつく、いつもの光景だ。
「瑠璃、最近ボディシャンプーの減りが早いんだけど、どうにかならないの?」
「しょうがないじゃない、それだけ必要なんだから」
「だってオッパイおっきいんだから!」
二人の妹がハモって相槌を打つ。
「お父さんも何とか言って下さいよっ」
「ん〜、ま〜しょうがないなっ」
「お父さんがそんなだから、いけないんですよ」
「ん〜、ま〜良いじゃないか、それよりも始まるぞ」
「始まった!」
画面には軽快なナレーションに乗って、オープニングタイトルが流れた。番組名は『ARAYAN』、夢のオーディション番組と銘打ち、一つの企画を何週間かに渡って放映するドキュメントタッチのバラエティ番組で好調に視聴率を獲得している。
昼間にあった電話の件は、まだ、話していなかった。
『告知は番組の最後・・・その時に話そう』
いつものように観ているが、内心ドキドキして内容は上の空だった。両親からの問いかけにも適当な相槌を打つ、そして、いよいよ告知が始まった。画面一杯のテロップ、スピーカーからはこんなナレーションが聞こえる。
「緊急〜告知!あのシュ乱Q、くんつがプロデュ〜ス、その、気になる内容〜とは?・・・CMの後〜・・・」
「この番組は直ぐにコマーシャルになっちまうなぁ」
父親が愚痴をこぼす。
ドキッドキッ・・・
本編に戻ると、
「緊急〜告知!あのシュ乱Q、くんつがプロデュ〜ス、その、気になる内容〜とは?・・・」
今度は母親が、
「また同じこと言ってる、それはさっき聞いたわよっ」
「ママうるさいな聞こえないじゃない!」
翠だ。
「アイドルグループの結成なんです!しかも〜、ただの、アイドルではないんです!そ〜うっ、時代は胸!胸、自慢のアイドルなんです!自薦他薦は問いません、我こそはと思う超乳のみなさ〜ん、たくさんのご応募お待ちしておりま〜す!宛先はこちらまで!・・・
それでは、また来週ぅ〜!」
エンディング曲とエンドロールが流れ、番組は終了した。
天野ファミリー全員で瑠璃に目を向け、語りかけた。
「胸自慢だって凄い企画ね、瑠璃にピッタリじゃない」
「瑠璃が芸能界!?フッフッ、そりゃ〜いい〜傑作だ」
「フッフッ、冗談よっ」
「お姉ちゃんにピッタリ!」
瑠璃は真剣な顔で両親を見つめた。
「パパ、ママ、実はね今日、くんつさん本人から電話があったの、こういう企画があるからどうかなって?言ってくれたの」
「くんつ本人から!?でも何で家の番号知ってんだ?」
「ほらっ、ハワイの空港でサイン貰ったって話したでしょ、それ以来気になって調べてたみたい」
「ふ〜ん、そうか、で、瑠璃お前はどうなんだ?」
「芸能界って憧れちゃうなぁ、出来ればやりたいと思ってるんだけど」
「ま〜応募するだけならなぁ、落選ってこともあるしな〜」
「くんつさんわねっ、こう言ってくれたの形式上、オーディションは受けてもらうけど私たち四人なら必ず合格にしてくれるって」
「そうか・・・やってみたいのか・・・厳しくても知らね〜ぞ、それで返事はいつする約束なんだ」
「来週の日曜日、ケータイの番号も知ってるからもっと早くても良いし」
「ん〜そうか、まだ少し時間があるな、ところでお前宿題やったのか?」
「これから・・・」
「まぁ今日は宿題やって寝ろ・・・よく考えて明日学校でみんなにも相談してみろ、藍と翠もだぞ!」
「うん」
瑠璃たちは部屋へと戻った。
「母さんどう思う?」
黙ってやり取りを聞いていた母親が口を開く。
「あの子がやってみたいって言うから私は・・・」
夫婦の話し合いは深夜まで続いた。・・・
月曜日の放課後、教室に残った四人は相談を始めた。
「どう?両親に話した?」
飛鳥がみんなに問いかける。
「うちなんか即OKよ!くんつさんの意思が変わる前に電話しろだって」
魅鈴がニコニコしながら話す。
「うちも大体OKって感じかな、もう一度考えてみろってさ」
と里美の答え。
「瑠璃のところは?」
「うん、昨日話したんだけど、まだOKは出てないの、飛鳥のところはどう?」
「うちもOKよっ、でも瑠璃がいないとつまらないな〜」
「ホント、四人揃わないとね」
「この事はクラスのみんなには内緒にしときましょう、私たちが芸能界に入るってバレちゃったらパニックになるから」
「賛成!」
「みんな驚くわよっ」
「楽しみね」
ガラララ・・・
霞が入ってきた。
「みんなどうしたの?楽しそうにして、何の相談?」
「イヤッ何でもありません」
「先生だけ仲間外れなの、いいじゃない教えてよ」
「何でもないんです」
「先生こそどうしたんですか?」
「私は忘れ物を取りにきただけよ、みんなも暗くなる前に早く帰りなさい」
「はーい」
「瑠璃さんどうしたの?なんか元気がないみたいだけど、悩み事?」
「先生、何でもないんです・・・帰りましょう」
「そう・・・それじゃぁ、さようなら」
『瑠璃さんどうしたのかな?・・・元気ないみたい・・・』
霞は下校していく四人を窓越しに見ながら、
『あっ、アノ日か、私ったら変なこと聞いちゃった・・・』
顔を赤く染めた。・・・
火曜日の朝、目覚めた瑠璃は枕元に一通の手紙が置いてあることに気付いた。目を擦りながら読んでみる。
『瑠璃へ 父さんと母さんの答えだ、お前が決めた道なら喜んで賛成するぞ、お前を信じているからな、ただし、一つだけ言っておく、途中であきらめるな必ず最後までやり通せ、頑張れよ 父より』
瑠璃は喜んで朝食を食べている父親に駆け寄って、胸を押し付けてキスをした。
「パパ大好き!」
父親は一瞬の出来事に固まるが、我が子の、しかも最近まで男だったはずの巨大な乳の感触をしっかりと感じていた。
「瑠璃!早くゴハン食べて学校行きなさい、また遅刻するわよっ、お父さん、藍、翠も早く」
「ん〜、ま〜そうだな、食べよう」・・・
その日の放課後、教室で。
「瑠璃瑠璃ぃ〜一日中ニタニタしちゃって良いことでもあったの?」
早速、魅鈴が問いかけた。
「ピンポーン!ついにOKがでたの!」
瑠璃はピースサインを送った。
「えーっホント、やったじゃない!うちも正式にOKをもらえたし決まりね」
里美もピースを送る。
「良かったね、みんな一緒で、善は急げって言うし電話してみよっか!?」
飛鳥が携帯を取り出したその時。
ガラララ・・・
霞が入ってきた。
「今日もみんなお揃いで・・・」
霞は瑠璃を見つめ、昨日とは違っていつもの明るい表情に戻っていることを確認するとホッとしながら続けた。
「今日は先生も仲間に入れてくれるのかな?」
「先生はダメなんです、私たちだけの秘密ですから」
と里美。
「秘密って?なーに?」
「イヤッ!何でもありません」
「さっみんなもう帰りましょう」
「先生さようなら」
「そう・・・それじゃぁ、さようなら」
霞は下校していく四人を窓越しに見ながら、
『恋愛の悩みかな?・・・よくあることだし・・・』
四人組は教室を追い出されてしまったので飛鳥の家へと向かった。
飛鳥の部屋に入ると早速電話をしてみる。
「もしもし、新宮寺ですけど・・・くんつさんですか?・・・」
電話なので周りの三人は話している内容を全部聞き取ることは出来ない。
「はい、今みんな揃ってます・・・はい・・・聞いてみます」
みんなに視線を向けながらうなずく。
「ねぇねぇ、くんつさんが私たちにオーディションの書類選考を手伝って欲しいって、それで出来れば明日からでも来てくれないかって?」
「場所はどこなの?」
「聞いてみるね、あのぅ場所はどこですか?・・・はい・・・はい・・・わかりました」
慌ただしくみんなに説明する。
「ふ〜ん結構近いね」
「そこなら学校が終わってからでもいけるしね」
「OK!お手伝いしましょう」
「じゃー伝えるね、くんつさんみんなOKです・・・はい・・・わかりました・・・それでは失礼します・・・はい・・・」
電話を切った飛鳥は今までの内容を詳しく話して聞かせた。
「明日から忙しくなりそうね!」
「うん、でも楽しそう」
「それにどんな女の子が応募してきてるのか知りたいしね」
「ドキドキしてきちゃった」
瑠璃が胸を押さえながら言うと
「どれどれ見てあげる」
ムニュ・・・
「もーっ飛鳥ったらエッチ!」
「キャハハハハッ・・・」
一同大爆笑。
その後しばらくの間、まだ見ぬ芸能界について語り合ってこの日は解散した。