リレー小説企画「瑠璃色の華」

5回目(分岐1):クサムラエチル 作
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 テストも終わった初夏の日曜。カーテンの隙間から差し込む陽光を浴びて瑠璃は目覚めた。腹筋運動の要領で状態を起こそうとするが、30度ほどの角度を持ったところで後ろに倒れた。
 無論、胸の重みのせいだ。仕方なく床に手をついて起き上がる。
 一部以外はダボダボのパジャマを瑠璃は着ていた。黄色い布地に青の水玉だ。体の小柄さが幸いし、今までは市販品の物でも胸は収まっていたが、最近はつらくなってきた。キツキツである。ボタンとボタンの隙間からは肌色の谷間が覗いている。
 両腕を上に伸ばし背伸びをすると、胸のボタンの食い込みが更にキツくなる。今にも弾き飛びそうだ。そして、パジャマのズボンがスルリと音を立て滑り落ちた。
 ――青と白のストライプ。

 半分寝ぼけ顔でパジャマのまま階段を降りる。瑠璃にとって階段を降りるというのは少々勇気の必要な行為だ。
 何しろ下を見ても見えるのは半分以上が自分の谷間。
 一晩の内に更に大きくなったように見え、瑠璃は陰鬱な気分になる。
 足元が見えないのでよく転んでしまうのだが、(飛鳥曰く『慣れ』だそうだ)降り階段は転べない場所である。下手すれば怪我じゃすまない。
 ちなみに上り階段を登ってる時に段差につまずいて転んだことは一度ならずあるが、胸がクッションになって無傷だった。
 階段の段差2団に渡り、手加減なしで押し付けられて変形している瑠璃の胸に視線が集まった。更にそれが恥ずかしくなり顔を真っ赤にして『ァ………ア………』などと半開きの口で口走ったところを写真部に撮られた。
 その写真は一枚1000円にも関わらずアンダーグラウンドで売れに売れまくっているらしい。
 それに、歩く、いや走るよりも階段を降りるほうが上下の高低差が激しい。それに合わせて胸もいつも以上に大きく、大きく揺れるのだ。耐え切れずにパジャマのボタンが一つ外れた。
 互いに押し合い潰し合いながら激しく揺れる自分の胸を見て、瑠璃はため息をひとつついた。
 元男として複雑な気分だったらしい。

 階段の踊り場に差し掛かり、右に90度回転。胸も合わせてブルンと横に揺れた。
 下の階段の場所に見当を付けて踏み出す。
 その時、
「瑠璃姉」
 瑠璃に声がかけられた。その声は紛れもなく双子の妹の片割れ、翠のものだ。
 だが翠の姿は見えない。
「翠、どこ」
 瑠璃はもう声まで女の子女の子してる。
「ここだよ」
「どこ?」
「ここ!!」
 タップン、下の方から伸びてきた何か二つのものに瑠璃は胸を押し上げられた。
 翠が両腕で自分の胸を持ち上げているのだと瑠璃が理解するのには時間がそれなりにかかった。
 最近よくやってしまう。小学校低学年くらいの身長だと自分の胸より下に顔があるので近くに居ても、否、近くに居るからこそ存在に気づかないことがあるのだ。
 先日など道をあるいていたらぎりぎり瑠璃にとって見えない身長の半ズボン少年が走ってきて、瑠璃の谷間にバフッ、と音を立てて顔がめり込んでしまうということにもなってしまった。顔を驚きと羞恥に赤く染め、自分の胸に深く埋まる線が細めの少年を見つめているその時の写真は900円だそうだ。
 翠の身長はそんなに高くない。更に階段の下の段に居るのだ。瑠璃が翠に気づかなくても当然と言えるだろう。
 ちなみに今日は双子のもう片割れである藍は居ない。藍はトロくさくって運動は全体的に苦手なのだが、一つだけ得意な競技がある。水泳。
 水泳のの地区大会に出場するために朝早くから両親と一緒に市民プールに行っている。飛鳥によって小学生ながらIカップにされた胸は、スクール水着の胸の部分の布地を極薄にし、押しつぶされ、脇からハミだしている。水着の胸の辺りに縫い付けられた『あまの あい』名札は歪んで見える。その姿は水泳少年と会場のお父さん達を大いに喜ばせているだろう。
 ちなみに競技は、背泳ぎである。
「全く瑠璃姉ったら、急に女の娘になったと思ったらもうどんどん胸ばっかり大きくなっちゃって、不公平じゃん。だいたいあたし、最近瑠璃姉の顔近くで見たこと無いよ。こっからじゃ胸しかみえないんだもん」
 こういいながらも翠は瑠璃の巨大な胸をその小さい手で力いっぱい揉みつづける。
 ビーチバレーボールほどもある胸を小さな手がまさぐっている。
「ちょ、ちょっと翠、やめ……」
 瑠璃が喘ぎながら言ったその時、パチーーンと音を立てて瑠璃の胸を懸命に押さえていたボタンが一つ弾けとんだ。なぜ?
 誰かがこんなことを言っていた。

『揉まれると大きくなる』

「ちぇー、また大きくなってやんの」
 大きくさせた張本人がこともなげに言う。そして手を離す。へなへなと瑠璃が踊り場に崩れ落ちた。瞳は潤み息は荒く顔は赤く。
 翠が同じ顔の高さになった瑠璃の顔をよく見つめてから呟くように言った一言は瑠璃には聞き取れなかった。
「やっぱ瑠璃姉って……可愛いわ……」
「え?」
「何でもない。それより今日、瑠璃姉は家に居るの?」
「う、うん。今日はねえ、飛鳥ちゃんと……」
 ピンポーン
 チャイムが鳴ると同時にドアが開く音がし、靴を脱ぎ捨てる音とばたばたと走る音がそれをつなぐと、座り込んでいる瑠璃の前には見慣れた顔ならぬ見慣れた胸がそびえていた。
 下からの視点では本当に胸しか見えない。
「さあ瑠璃、買い物に行くわよ」
 やたらでかい乳が口をきいた。ワンピースを着た飛鳥だった。布地を胸にとられて裾のたけはミニスカートといい勝負だ。
「あ、飛鳥ちゃん……でもまだ着替えてないし 顔洗ってないし ご飯だって……それに待ち合わせは10時頃って……まだ9時だよ」
「いいの!!ご飯なんて行く途中に食べればいいし 決められた時間にしばられるなんて愚の骨頂よ。ほら、さっさと着替えて!!顔洗ったら出発よ!翠、瑠璃の服もってきて」
 飛鳥はパチンと指を鳴らす。
「はーい」
 以前飛鳥に膨乳してもらってから、翠は飛鳥に絶対服従だ。『裸で逆立ちして校庭一週しろ』と言われてもするだろう。『Gカップ小学生の奇行』として新聞に載るかもしれない。
「はい瑠璃、さっさと脱ぐ」
「え……ちょ、ちょっと待っ……」
「問答無用!!」
 飛鳥の手際は素晴らしかった。瑠璃のパジャマのボタンにそって手を一振り。それだけで次の瞬間にはパジャマのボタンは全て外されている。
 呆気にとられる瑠璃の隙をついてダボダボのズボンに狙いを定め、一瞬で脱がす。
 飛鳥が動作を重ねるごとに、瑠璃の服がひん剥かれてゆく。
 翠が服を持ってやって来たとき、そこには白のパンツ一枚で胸を両手で押さえながらしゃがみこんでいる瑠璃とそれを笑顔で見ている飛鳥の姿があった。
 瑠璃は何とか胸を細く白い腕で隠そうとしているが、手のひらの面積より胸の膨らみの方が大きく上回っている体型ではもちろん不可能だ。もし写真部のエース北沢 絵美がいてこれを撮ったなら一枚2000円でも売れに売れただろう。
「もう、女同士だから遠慮はなしだって何回言えばわかるのよ」
 言うやいなや飛鳥は瑠璃に肩に手を置いて一気に引き倒した。
 膝を曲げたまま瑠璃の上半身が仰向けに床へ倒れる。瑠璃は反射的に頭をかばうのに両手を使った。ので肌色の山が二つあらわになった。背中が床にあたった衝撃に激しく震える塊二つ。
「瑠璃姉、はい……服」
 倒れたままの瑠璃に服を差し出す翠。ノースリーブと短めのスカート。翠は久しぶりに布越しではなく直接見た姉の胸の成長に驚いていた。迫力が違う。
 それを着ようとした瑠璃が言う。
「あの……翠、ぶ、ブラは?」
 ブラと普通に呼ぶにはまだ抵抗があるような口調で瑠璃は問う。
「あ、忘れてた」
 瑠璃の部屋へ引き返そうとした翠を目で制したのは飛鳥だった。
 翠が動きを止めた刹那に、一気にまくしたてるように瑠璃に話しかける。
「時間が無いわノーブラでいいからそれ着て顔洗ったら行くわよさぁ急いで」
「え、でもさっき、『時間にしばられるのは愚の骨頂って……』」
「何言ってるの!現代人は時間にそって規則正しく生活しなきゃいけないのよ!!」
 これが飛鳥だ。今度は電光石火の速さで服を着せてゆく。ノースリーブを着せる時に胸の膨らみでつかえたが手馴れたものである。他人のネクタイを締める感じらしい。そしてスカートを――
 一分後にはそこに、『超』と言葉の前につけても遜色ない美少女がたっていた。しかもノーブラ。
 飛鳥に促されるまま瑠璃は顔を洗う。洗面台のフチに胸が2分されているが、上にはみ出た部分、下に押し出された部分の片方だけでも十分巨乳と言えるのには驚きだ。
 歯を磨き終わると同時に飛鳥に手を引かれ、瑠璃は外へと連れられて行った。
 残された翠は、瑠璃と飛鳥の胸を思い出しながら自分のGカップの胸を見つめて深いため息をつく。気にするな。充分大きい。

「はーい、こちらが話題のお店でーす」
 営業スマイル満載で若手のアイドル、星野 ユナ(芸名)は言った。
 上から順に98・51・80のLカップという『日本人離れ』した体をもつ彼女はデビュー前からそれを誇りにすら思っていた。
 童顔に小柄な身体。それに対して不釣合いなほど発達したこの胸を武器に大成しようという彼女の野望は確実に成功しつつある。
 グラビアの売上は天井知らずに伸びて行くし、ゴールデンタイムではないながらもレギュラー番組も4つ持っている。
 本来ならこんな地方局の出演なんかしたくないのだが、会社の命令には逆らえない。
「はい、それじゃあお店から出てくる人に評判を聞いてみましょー」
 丁度店から出てきた人影にマイクをむける。流れるような動作はさすが芸能人、すらすらとセリフが……でてこなかった。ユナの顔は笑顔のまま凍っていた。
 自分が今まで何よりも自慢に思っていたLカップの胸、その自信を踏み潰すような存在がそこにはあった。
 人影は……里美だった。150オーバーな里美の胸の前にはユナ自慢のLカップなど薄焼きせんべいみたいなものだ。
 マイクを持ったまま凍っているユナに?マークを頭上に浮かべつつも里美は歩いて行く。着ているブラウスのボタンは全て止められていない。しかもノーブラなので胸の谷間がくっきりと見え、揺れるのも直接見ることができる。。いやいや、風が吹いてブラウスがめくれればその突起も見れるだろう。
(な、何、今の)
 スタッフも通行人も、遠ざかる里美の後ろ姿を見つめていた。里美はそれが嬉しくてたまらないといった表情で両腕を上に伸ばす。ブラウスの開きが大きくなり、胸の露出が更に増えて里美の前に居た何人かが己の血の海に沈んだ。
 後ろから見ても胸が体からはみ出して見え、揺れているその姿を呆然と見ていたユナだったがさすがプロ。
 まだ見えなくなった里美のほうを未練がましく見ているスタッフに対して胸を反らして強調すると大声で、
「はい、次の人にインタビューします。皆さんよろしくー」
 だが、その言葉に反応してこちらを見た男性スタッフの目がユナの胸にいった後、ため息をついたのはユナにとってかなりショックなことだった。
 今まで自分の野胸を見て向けられる感情は、ほとんどが感嘆か羨望か嫉妬の感情からだったのに、今のため息は同情と哀れみではなかったか?
 精神的ダメージを大きく負ったユナは仕事を再開することでその感情を紛らわせようとする。
 丁度よく店からは二人連れが出てくるのが見えたのでマイクを構え接近し、
「はーい、こんにち……」
「わ」が出る前にまたもユナは凍った。
 店から出てきたのは、瑠璃と飛鳥だった。凍ってるユナを見て、二人は前の誰かと同じように?マークを頭の上に出すとその場を離れていった。瑠璃はノーブラによる胸の揺れを気にしているのか、歩幅も小さく歩いてゆく。
 スタッフを見ると視線はユナに向けられていた。すこし安心する。
(やっぱり私のほうが魅力的なのね)
 しかし、そのまなざしの奥にあるものを感じとった時、安心は吹き飛んだ。
 憐憫と、励ましのまなざし。
(な、なななな何なのよこれは…………いや、大丈夫。大丈夫!! 自分に自信を持つのよ奈菜(本名)次から、次からしっかりすればいいんだから)
 深呼吸した後、今まで散々自分が言われてきたことを口の中だけで反芻する。
「何よあんなの、デカけりゃいいってもんじゃないでしょ全く。乳牛よりおっきいじゃない。何食べてんのよ本当に。きっと頭悪いでしょ。この化け物。化け物。おっぱいお化け」
 よし、もう大丈夫。ユナはマイクを握り直すと新たに出てきた人に向かってマイクを突き出……せずにまたもや凍った。
 差し出されかけたマイクの先には、半そでの霞先生がいたのだ。
 身長すら追い抜いた胸囲を持つ女教師。
 やはり?マークを頭の上にだして歩み去る霞をユナは見ていた。もうスタッフの視線がどこに向けられているかなんてどうでも良くなっていたし、見なくても想像はつく。
 98センチLカップの胸を手で撫でながら、誰にも聞こえない声で呟いた。
「豊胸手術って、いくらかかるんだろ……」
 心配するな。十分大きい。

 そのころ瑠璃と飛鳥は服屋にいた。頼んでおいた洋服を取りに来たのだ。
 普通の服の2倍以上は明らかに胸の部分に布を使っているワンピースと運動着、それにセーラー服を受け取り試着室に入る。
 試着室に入ると瑠璃は服を脱いだ。試着室の広さは瑠璃の着替えに十分ではない。
 狭いのだ。軽く方向転換しただけでも壁に胸が押し付けられて思うようにいかない。
 時間をかけて何とか脱ぎ終わる。
 自分の大きさでこれなのに隣で着替えているはずの飛鳥はどうなっているんだろう? とすこし考えたりもした。
 瑠璃は正面の鏡に映る自分の姿を改めて見つめてみる。
 身長は以前と全く変わっていない。元々細かったが更に細くなったウェスト。スラリとのびた華奢な手に、身長にしては長く細い白い足。
 そして胸。
 あと一息吹き込めば破裂するほど大きく膨らませた風船を二つ、胸に押し付けたと言えばいいのだろうか。
 両手の手の平で片方の乳房を押し上げてみると、ずっしりとした重さが伝わってくる。弾力で押し返されそうだ。指と指の間からは大きく脂肪がはみ出している。
 次に腕組みをしてみる。もちろん普通にはできない。
 左右から胸を押しつぶすようにして腕を組み合わせる。それに合わせて変形してゆく胸が、その柔らかさを証明していた。
 しばらくその姿を見てから腕を解くと、大きく全体がたわみ、元の整った形に戻った。
 瑠璃のそういった行為はその後5分ほど続くことになる。前かがみ、両手を腰に当てる、寄せて上げ…………
 一通りやってみてから瑠璃はため息をついた。自分でいうのも何だが、最高に可愛かった。元男として、複雑な心境だ。
(まだ大きくなるのかな)
 そう呟いてから、さっき受け取った服を着始める。
 1週間前注文した時は胸の成長も見越してサイズを言ったのだが、それでも胸のあたりはキツい。成長が予想を越えていたのだ。
「ふぅ」
 瑠璃はため息をついたが、吐いた息の進む進路には自分の胸がある。
 ワンピースごしに風を感じた。

 試着室から出るとそこにはもう飛鳥が立って待っていたが、その服は、
「チャ、チャイナドレス」
 おもわず瑠璃が言った。
 そう、あのチャイナドレスである。太もものかなり奥まで入ったスリットがまさにチャイナ。
 はちきれんばかりの胸を覆い尽くす真紅の布地にはゴム樹脂が練りこまれており、ある程度胸が大きくなっても着ることができるそうだ。
 嬉しそうな顔と飛び上がりそうな声で腰と頭の後ろに手を置いてポーズを作った飛鳥が言う。
「どう瑠璃、似合うでしょ?」
「う、うん、似合うよ」
「うれしい!!」
 ガバッという音とともに瑠璃は飛鳥に抱き締められた。瑠璃の胸と飛鳥の胸が互いに激しく押し潰しあう。
 飛鳥の熱い抱擁はその後10分間続くこととなる。初めは瑠璃もその抱擁から逃れようともがいたが、もがくとそれをさせじとする飛鳥の動きも重なり胸同士が更に激しく潰しあったり揺れたり突起がこすれたりして恥ずかしいのでされるがままにされていた。
 瑠璃にとって不幸だったのは、この場に写真部のエース、北沢 絵美が居合わせたことだろう。持っていたカメラで密かに撮られていた写真は半日後には一枚3000円で売り出されることになる。
 タイトルは「おっきなすいか」
 余談だが、ブラックマーケットではいまだに男の頃の瑠璃の写真の売上も好調らしい。
 特に困った顔や泣きそうな顔は女生徒に大人気だそうだ。閑話休題。
 ようやく瑠璃が飛鳥から解放された時には、既になにも残さず絵美の姿は消えていた。
「飛鳥ちゃん……帰ろうか」
 予定は達したし、激しく店内の注目である。この場から離れたい。しかし飛鳥は、
「何いってんのまだ午前中なのに!! 楽しいのはこれからなんだから、次の場所へいくわよ瑠璃!!!」
 瑠璃は知らない。昨晩の飛鳥が徹夜で今日のデート(?)のプランを立てていたことに。
 瑠璃はまだ知らない。これから丸一日飛鳥に付き合わされることに……

続く