リレー小説企画「瑠璃色の華」

9回目(分岐2):クサムラエチル 作
Copyright 2001,2003 by Kusamuraetiru

 前話の神宮寺邸での出来事から一週間が過ぎた頃のお話。
 電撃中学校。電中の略称で呼ばれるこの中学校に瑠璃達は通っている。そして、この学校の野球部は結構練習熱心だったりする。
 朝連だってやる。
 快音。
 ピッチャーで4番かつキャプテンの新庄イチロー君の打った野球ボールは半円を描いて正門の方へ飛んでいった。球拾いは1年生の仕事だ。
 1年生の黒田君は球を拾いに走った。
 しかしボールは中々見つからない。
 怒られるの覚悟で帰ろうかなぁと思い始めた時、黒田君に声がかけられた。
「ねぇ、ひょっとして野球のボール探してるの?」
 やけに太った様に見える影の方から声がかけられ、黒田君はそっちを見る。

 胸を覆えるやたら大きい制服を着て(それでも首の下から谷間は見えていたが)、新宮寺 飛鳥その人が立っていた。
 やけに太った様に見えた理由は秘密だ。
 飛鳥の知名度は1年生、二年生にもかなり高い。限りなく100%に近い。
「えっと、神宮寺、センパイ……。ボールの場所分かるんスか?」
 純情スポーツ少年の黒田君は、飛鳥を正面から見る事は出来ずに、うつむきながら言った。
 当然といえる。『片乳だけでZカップ以上』の胸は中学1年生には刺激が強すぎる。
 それにしても、日本一目の肥えてる中学生といったら電中生に間違いないだろう。
 閑話休題。
「ボールねえ、さっき飛んできて挟まっちゃったのよこれが」
「どこにですか?」
 飛鳥はとびっきりイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「こ・こ」
 ゆっくり前かがみになると、片方の腕で胸を押さえ、谷間に余った手を――いや肘まで埋まったから腕を埋めた。内側で腕が動くに対応して胸が変形し、制服の布地もやぶれよとばかりに張りだす。
「いやー、スポッてはまっちゃってさぁ、谷間の奥のほうに――アッ、いま指の先に触れた……ン」
 『谷間の奥』こう言える胸を持ってる女性が何人居るだろう。そもそも野球ボールが谷間に挟める女性だっているやらいないやら。
 飛鳥の胸は、中で何かを捜し求める右手の動きに合わせて大きく揺れている。
「もうちょっと奥の方までいっちゃったみたいだわ。ゴメンね、もう少し待って」
 黒田君は前かがみだった。うつむいていても飛鳥のシルエットだけでも強烈すぎる。
 そんな黒田君を横目に飛鳥は自分の胸の中を探っているが、なかなか取り出せない様子だ。ボールの感触はあっても、そこまで腕がなかなか届かないである。
「えーい、めんどくさい!」
 やおら飛鳥はセーラー服のすそをガバっとまくり上げる。
 きめの細かい肌に、とんでもなく大きい青色のブラジャー。そしてそれに窮屈そうにおさまっている中身――大きな大きな乳房。
 飛鳥は大きくジャンプした。ダップンダップンと一跳ねで二回分音が鳴る。大き過ぎると片方ずつでも音は鳴るらしい。
「あれー、意外と落ちないなあ」
 飛鳥はもう数回跳ねた。
 黒田君の腰の角度が45度になった。
 何度目かのジャンプで、ボールが谷間から落ちた。ボールと胸の膨らみとの対比が違いすぎて三日は笑えそうだった。
 飛鳥は数歩引いてボールを拾う(引かなきゃ胸が視界を遮って見えなかった)。
「ハイよっ」
 黒田君にボールを放ると、何事も無かったかのように学校に入っていく飛鳥。
 まくったセーラー服を元に戻すのも忘れたまま。確信犯じみてるが。
 黒田君は人肌に温められたボールを握りしめ、しばらく見つめた後、こっそりポケットにしまった。
「見つからなかったことにしとこう」
 誰にも聞き取れないような声で呟いた。怒られるのがなんだと言うのだ。

 黒田 太郎(享年77)。彼の家の神棚には、なぜか中学時代に手に入れた野球ボールが生涯に渡って飾ってあったそうである。

          飛鳥学校到着より5分後
「いやーーー、久し振りの学校やなホンマに」
 関西弁もどきが響く。身も蓋もない言い方をすると新キャラである。
 年中小麦色の肌(地肌)、童顔といってもいい顔のつくりは大きめの目に若葉色の瞳。ショートと長髪の中間にあるような長さの髪。
 そしてお約束の胸。予想どうりにデカイ。断言すると鉄棒に掴まって体を浮かせると絶対棒が胸にメリ込む。それは霞先生より大きく見えた
 彼女の名前は白河ソリティ。19才の教師(!?)だ。日本人とナンバスットネ人のハーフの父親と、日系二世とオモイツカネ人のハーフである母親から生まれた彼女は、生粋の日本育ちだったりする。
 身体測定日以来、しばらく振りの出勤だったりする。
 なぜか?
 商店街のくじ引きで見事世界一周旅行を引き当て、迷わずその日の内に空港に行ったからだ。休職願いはアメリカからエアメールで届いたという。
 かなり珍しい組み合わせのご両親に育てられた彼女の感覚はすこしズレてるところがあり、日によってネコ耳やらウサ耳・メイド服なんかを普段着として着こなすとっても素敵なおねいさんだ。
 そんなソリティは見つけた。自分の前にいる、自分より少しだけ背の低い人影を。
 他の登校してくる生徒に隠れてよく見えないが、彼女にはそれが誰だかすぐに分かった。
 祖父に教わった無音かつ気配を絶つ歩き方で、標的に忍び寄る。
 ガバっと後ろから抱きつく。標的の背中に胸が押しつけられる。標的は……瑠璃だった。
「よう『るの字ぃ』ひさしぶりやな」
「白河先生……」
「ソリティって呼んでって言ってるやろるの字ぃ。このう」
 瑠璃はただ戸惑うばかり。身体測定の日(二話)、窓から遠くを見ていたソリティの近くを通った時、気付かれないようこっそり歩いていったことが脳裏に思い出される。
 その後旅行に行っていると聞いていたが、帰ってきていたのか。
 思えば、瑠璃が入院していた時、面会謝絶の札の前で『るの字に会わせんかいぼけぇ』と騒いだのは一回二回では無かった(飛鳥も似たようなことをやっていたが)。そんな瑠璃の思考を無視するようにソリティは一気にまくし立てる。
「どや、しばらくソリティに会えのうて気付かされた切ない気持ちとかあるやろ。な?な?な?正直に言うてみ?ソリティに会えんでるの字は寂しかったやろ。ソリティは寂しかったでぇー、ああ、久し振りのこの感触」
 ほほを瑠璃のほほに擦り合わせる。上質のシルクを擦り合わせるような音。
 ソリティは満面の笑顔。本当に嬉しいらしい。
「どやるの字、ソリティの想い受け入れてくれる気持ちになったんか?ソリティの方はいつでも準備オーケ……」
 途中で言葉が詰まる。自分のほほが密着している瑠璃の制服。そして瑠璃の胸の膨らみに目が止まっている。
 水でもかけられた様な顔になって抱き締めを解除し、瑠璃の正面に回ると躊躇せずに瑠璃の胸を両手で鷲掴みにした。その面積の半分も掴めていない。
 五指を駆使して揉んでみる。十本の指がそれぞれ深くめり込み、瑠璃の顔が桜色に染まる。
「ちょ、ちょっと白河先生……」
「モ、モノホンや……シリコンでも詰め物でもあらへん」
 驚きを隠せない口調。ちなみに両腕は未だに瑠璃の胸から離れておらず、指は活発に動いている。
「ソリティのるの字が、るの字が……女になっとるーーー!!!」
 電中で瑠璃の事情を知らない数少ない女が吼えた。職員会議を睡眠時間にしてる彼女に朝の連絡で言われたであろう事情なんて知ってる訳がなかった。
 ソリティには瑠璃の病気が治ったという認識しかなかったのだった。
 瑠璃が現状を打開しようと口を開きかけたその時、電光石火の速さでソリティは瑠璃の細い両手をしっかと握る。
「女同士、世間の風当たりはつらいかもしれんけどガンバロなっ!!」
 一息でいうと瑠璃のほほに自分の唇を軽く重ねた。一瞬の出来事。
 一瞬の間にソリティの胸と瑠璃の胸が大きく密着して潰しあい、離れる。
「そやるの字、これアメリカみやげや、つけたるわ」
 ソリティのその口調には瑠璃が女になったことに対する動揺の色は一切見えない。そういう女らしい。
 ソリティは瑠璃に向かって自称アメリカみやげ色々装着してゆく。離れた。うんうんとうなづき、
「うん、やっぱ似合うわ」
 ※瑠璃の頭にネコ耳が生えていた。どこのアメリカで買ってきたのか不思議である。
「おぅ、もうこんな時間か、職員会議に遅れてまう。ほなまたなるの字」
 寝るけど出席はするらしい。ソリティは上半身くらいある胸を大きく揺らしながら校舎に入っていった。
 残された瑠璃は呆然とするばかり。だが回りの視線が集まっている理由に気付いて、しゃがんでネコ耳を外しにかかる。
 瑠璃は帽子を取るとき片目を細める人だった。そしてネコ耳の付いているヘアバンドの端のある左耳の近くを左手の甲で、額の辺りからを右手の甲でヘアバンドを外そうとする(外れたわけではない)。指は軽く拳を握っている。ネコパンチのときのごとく。
 そして瑠璃の顔は先程ソリティに胸を揉まれてから紅潮したまま。さらに都合よくどこかで猫の飼い主に甘える声がした「にゃ―ん ゴロゴロ」
 さらに瑠璃は気付いていないがネコシッポまで付いていた。
 さらにさらに、今更言うことでもないが瑠璃は爆乳美少女である。
(分かりにくいので※からゆっくり読み返すことを推奨します)
 会場(電中正門前)のボルテージは最高潮に達した。その場にいる者のみが共有できる一体感。
 瑠璃は逃げるようにその場を後にした。外したネコ耳は捨てる訳にもいかず、鞄に入れる。
 しかしその身体には、ネコシッポがプラプラと揺れておりました。

 教室に入ってきた瑠璃をみて、里美は身を固くする。
 小学校5年の時、里美は転校してきた。そして、生まれて始めて一目惚れというものを経験する。忘れも薄れもしないあの時の感覚。
 しかしながら自分は内気で、さらに瑠璃の近くにはいつも飛鳥が居た。
 可哀想なくらい発達していない自分の胸に比べて、そのころすでに軽く90センチはオーバーしていた飛鳥の胸。
 思えば自分が大きい胸に憧れたのは、それが原因だったのかもしれない。
 でも、今なら……。
 確かめるように自分の胸元に視線を落とす。
 バスケットボールを二つ入れてもこんなにはなんないというくらいの膨らみがある。
 飛鳥にはかなわないが、これなら自分も……
 瑠璃の性別が変わった時には驚いたが、それを乗り越えてまだ余る愛情を里美はもっていた。そんな想いを持っているのは里美だけでない。ライバルは多い――男女問わずに。
 幸い今日は飛鳥は居ない。さっき服装のことで職員室に呼びつけられた。もうしばらくは帰ってこないだろう。帰って来て欲しくない。自分の想いを伝えるまでの間は……
 立ち上がって瑠璃の方へ歩を向ける里美。
 しかしあと三歩というところで机の脚につまづいて転んでしまった。
 大騒音。
 気がつくと、瑠璃を里美が押し倒す形になっていた。
 里美の倒れた拍子に投げ出された瑠璃の両手首を、里美の手がしっかとホールドしている。
 お互いの発育過剰気味の4つの青い果実がお互いに潰し合い、横から見ると楕円形に見える。
 瑠璃の胸は里美の胸よりも小さいが、それでも常識から見ると大き過ぎる大きさだ。
 2人の目が合った。里美は瑠璃の目を正面から見ることができず、視線をそらしてしまう。
「えっと、ごごごごご、ごめん、瑠璃く……ちゃん」
 瑠璃の心臓の鼓動が胸ごしに伝わってくる。
 自分のそれも瑠璃に同じ様に伝わっているのかも。そう思った瞬間に自分の鼓動が激しくなるのが分かった。
 それを感じ取ってか瑠璃の鼓動も……相乗効果。
 勇気を出して、瑠璃の顔を正面から見た。赤く染まっている。そしてなぜか身体にはネコシッポが付いていた。自分の顔も紅くなっているのだろう。
(このまま、全てが止まってしまえばいいのに……)
 心の底から里美は思った。しかしそうそう思い通りにはいかないのが現実である。
 後ろから肩を捕まれたと思うと里美は一気に上半身を引き起こされた。
 ズシリとした感触がまた肩にかかる。脂肪の重み。
 後ろに首だけ回すと、無表情な飛鳥がいた。
「何、やってるの?」
 穏やかな口調が逆に恐い。
「ちょっと里見ちゃんが転んじゃって、事故だよ、事故」
 瑠璃が言う。
「ふーん、そ」
 無表情のまま、目線を里美に向ける。だがそれは、獲物を狩る直前の肉食獣のそれによく似ていた。
「飛鳥ちゃん、いこ、ねっ?」
 珍しく瑠璃が飛鳥を引っ張っていった。
 残された里美は、
(瑠璃君、私をかばって……)
 ますます眼鏡の奥の瞳を潤ませるのだった。
 そして教室無内の男子生徒は、毎度のごとく血の海に沈んでいた。
 彼らの貧血が心配である。

               朝のホームルーム
 いつもと同じ様に、霞先生が入ってきた。
 いつもと違うのは、その後ろ。白河ソリティ。
「おはようございますぅ、あのですねぇ、白河先生がぁ、旅行から帰っていらしたのでぇ、皆よろしくお願いしますぅ」
 のんぽり口調。
 そう、白河ソリティは、このクラスの副担任だったのだ。
「よう、久し振りやな皆の衆、まあまたよろしゅう頼むわ」
 胸は非対称的に両方特大なのだが、霞先生とは対照的な口調。
 2人黒板の前に並ぶと、驚異的存在感だ。
 ソリティはきょろきょろ教室を見回し、瑠璃を見つけると大声で叫んだ。
「るの字ぃ、愛しとるでぇーーー」
「先生ぃ、瑠璃君はぁ、女の子になっちゃったんですよぅ」
「んなことさっき聞いたがな。でもなぁ、るの字とソリティは赤い糸で結ばれとるんや。ちょっとやそっとの障害くらい愛の二人三脚で乗り越えたるわ」
 体操服の瑠璃とソリティが二人三脚をやって谷間が3つでき、それをブルンブルン揺らしながら走る様子を想像した男子生徒何人かが鼻血を噴出した。
「俺が死んだら、霞先生生写真はお前にやるよ……」萬――誰?
「そんなこと言うな、おい、おい、何かしゃべれよおい!!」藤田
「谷本ぉ、しっかりしろー!!」田中
「あっ、お星様…………」谷本
「小野田ぁ、衛生兵、衛生兵ー!!」高橋 
 衛生兵(保健委員)がティッシュをもって走る。
 そんな喧騒の中、霞とソリティは話しつづける。
「でもぉ、瑠璃君がぁ、困っちゃいますよぉ」
「何や自分、やけにつっかかるやんけ。ひょっとしてるの字に気ぃあるんとちゃうん?」
「えっとぉ、あっとぉ、そのぅ、そんなことないですよぅ」
 しどろもどろに否定する霞先生。だが紅くなった顔は隠し様がない。
 でも霞先生の定期入れには瑠璃の写真がはさまっていることは隠し様があって誰も知らない。
「そんなら口出しせんといでもらおうか」
「でもぉ……」
 見る人が見れば霞先生とソリティのバックに雷鳴と咆哮を轟き響かせる竜虎対決が見えただろう。
 そして
「アイツがこんなに早くかえってくるとは……ぬかったわ」飛鳥。
「瑠璃君……好き」里美。
「俺はもうだめだ。西谷、元気でな……」三浦
「平塚ーーーー(三浦じゃないのかよ!)!!!」西谷
 教室の喧騒は、まだまだ止む気配は無い。

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