所詮は夢

rye 作
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92cm。
 バストサイズが92と聞いたら誰もが胸が大きいと思うだろう。が、それは甘い考えである。
 何故なら私のアンダーは83cm。カップにするとAカップにも満たないのだ。標準体重を軽く超過しているのにも関わらず、胸だけは平均以下で胸囲はあるがバストは無い状態だった。
 近年、数あるバストアップ方法の中でも話題を呼んだおっぱい体操をやってこれなのだ。背中、脇腹、二の腕。持ってこれる贅肉と言う贅肉を胸に移すために両腕に力を込め、上半身が赤くなっても結果がこれなのだ。泣きたい。と言うよりつい最近まで泣いていた。
 せめて気分だけでもと胸にタオルを詰めてみたり、風船を入れてみたりしたが形だけ大きくしても悲しみが増すばかりだった。胸の大きい友人が羨ましくって仕方なかった。横になっても胸が消えないほど豊かな胸元を目の当たりにした時は羨望を通り越して怒りすら湧いた。
 その怒りが私を動かすきっかけだった。
 理想を手に入れたの。

 仕事から帰るなり私は最低限しかしていない化粧を落とし、スーツから急いでアレに着替えた。疲れが溜まりに溜まっているのでアレではなくパジャマに着替えて今すぐ寝たい気持ちもあるが、それ以上に私を駆り立てる欲望で眠気に勝つことが出来た。
 身体も欲しているのか切ない感覚がアレを手に取ってから強くなっていき、着替え終わった今では程よい締め付けに快感すら感じていた。
 まだだ。これから感じるのはこんなものではないと自分に言い聞かせ、私は浴室に入った。
 浴槽にお湯を入れている間に用意をする。入浴の用意ではない。誰にも言えないお楽しみを始めるための用意である。
 用意と言ってもマットを敷くだけでお湯が溜まる音を聞きながら私はそこに横になった。
 ちょっと冷たいが問題無い。すぐ暑くなるのだから。
 アレの上、『スーツ』の上から胸を撫でると鼓動の音でお湯のお湯が聞こえなくなった。
 おっぱい体操は力任せで肉を寄せていたが、『スーツ』を着用している今は力は要らない。イメージが大事なのだ。それと集中力が。
 目をつぶり、ささやかな膨らみをゆっくり揉んでいく。頭の中で胸が膨らむイメージを浮かべる。視覚的イメージだけでなく、指先で膨らんでいく感覚や胸でも膨らんでいく感覚も忘れず頭を酷使する。
 仕事で疲労が蓄積された頭には辛いが、その辛さも吹っ飛ぶのはすぐだから苦ではなかった。

 ネットサーフィンでたまたま見付けた『スーツ』は正式名称がまだ決まっていない試作品で、運が良かったことに被験者を募っていた。いかにも怪しいことばかりが書かれていたが私は飛び付くようにそれに申し込んだ。
 当時の私は騙されても良いと思ってしまうほど貧相な胸に劣等感と怒りを抱いていたからだ。
 理想の身体を手に入る謳い文句で書かれていた『スーツ』の効果は言葉の通り肉体を自由に変化させることで、私のような胸を大きくしたい以外にも背を高くしたい人や痩せたい人、筋骨隆々になりたくって応募した人のレポートもサイトには掲載されていた。もっともほとんど読まずに応募していたので内容は知らない。
 『スーツ』は簡単に手に入れることが出来た。しかし、サイトや説明書にしつこいほど書かれていたことがあった。それは試作品故の欠点についてだった。
 理想的な肉体を作り出し、それを維持するためには具体的なイメージと集中力、それと体力がかなり消耗される点についてだった。そのため、一か月間の試着データを提出出来なかった被験者に関しては違約金がかかる旨が小さな文字で記載されていた。
 初めて『スーツ』を手にした時、私は何故か自信があった。一か月だろうが、一年だろうがこの『スーツ』を手放すことはないと言う自信が。
 結論を言うと、確かに『スーツ』の使用は非常に疲れるものだった。それでも私は半年以上経った今でも『スーツ』を返却する気は毛頭なかった。それどころか毎日のように使用しては記録を送り、製品化させるために『スーツ』の改良に大きく貢献するようになっているほどだった。
 今着用している『スーツ』も三枚目で初期と比べれば激しい頭痛に悩まされることが無くなったのは大きな進歩と身を持って感じていた。もっとも、私が感じていた頭痛は無理に長時間使用した自業自得の結果で、一時間どころか二時間も使用しているのは改良が進んだ今でも私以外いないらしい。皆、理想の身体を手に出来たら気が抜けてしまい、長時間保つことが出来ないのだそうだ。
 何故、私だけ一時間も二時間も使えるのか製造側も興味があるらしく、最近では被験者から開発チームに入らないかオファーを受けるようになった。
 が、返答はまだしていない。これで十分だと怖じ気づく自分ともっと理想に近づきたいと思う自分がいたからだ。

 掴むことが出来ないほど小さかった胸が掴めるほどの大きさになると、私はその柔らかさを堪能した。他の部位に付いた贅肉も胸に集まるようにイメージすることで分厚い肉で覆われていたアンダーもスッキリし、トップとの差を広げていった。
 自分の呼吸が荒くなっているのを感じたが、集中力を持続させるために膨らむ胸に目を向けた。
 横になっても豊かさを忘れない胸に喜びと興奮が湧き、仰向けから俯せに身体を回転させると普段は感じることの無い胸部に重量を感じた。
 興奮が加速し、全身を使って胸を揉んだ。マットと身体で胸を潰し、身体を前後させることで揺れる胸の重みに喜びを感じた。満たされると同時に更に上を求める欲望に従い、イメージを鮮明にさせた。重みだけでなく、胸の柔らかさと固さ。乳首の大きさと位置も忘れずイメージをすれば、マットにこすれる度に快感が増した。

 開発チームに入ったらこんなこと出来ない。羞恥心から辞退しようと思う反面、今以上に理想の身体を楽しめるようになるならと揺れた。揺れるのは胸だけで良いのに。
 両腕を突っ張っても胸が身体を押し上げる大きさとなり、私は全体重を一点に預けた。質量保存の法則を無視したレベルで大きくなった胸は体重をかけても潰れることはなかった。極上のウォーターベッドで寛ぐ気分を堪能してから私は身を起こした。
 理想の身体を手に入れることが出来る『スーツ』だからこそ非現実的な大きさになっても立ち上がることが出来た。一歩前に進み、胸と鏡に押し付ければマットの時とはまた違った感触に声を上げた。
 身体の向きを変え、お湯が溜まった浴槽に慎重に入ると大きくなりすぎた胸は浮くどころか入り切れていなかった。単身者向けの安普請では当然で、無理矢理浴槽の中に入れようとしても胸は溢れ出るばかりだった。柔らかさを極限までイメージし、両手で浴槽へ押し込めば巨大な胸は変形しながら浴槽へ収まった。両足で感じる胸の柔らかさと、自分の居場所を勝ち取ろうとひしめき合う胸の感触に浸りながら半身浴を始めた。
 調子に乗ってのぼせてしまうことが多々あるが、本番は風呂から上がってからだ。

 バスタオルで身体を拭く時も胸が大きすぎて狭い脱衣所の壁を濡らした。それが良かった。胸が大きすぎるが故に不便なところが私にとっては興奮材料であり、快感だった。
 『スーツ』を着たまま脱衣所を出ようとすれば上手く進めず、壁にぶつかる度に胸が更に大きくなるイメージをした。悪趣味にもほどがあると言われそうだが、超乳の虜になってしまった私にはこれが当たり前で出来るなら四六時中、巨大な胸で過ごしたかった。
 やっとの思いでリビングに着く頃には歩く度に胸が膝にぶつかり、バランスボールが二つぶらさがっているような状態となっていた。
 余裕があればバストアップに費やしていたこともあり、部屋には物が少なく、更に胸を大きくしても動ける広さがあった。
 前に倒れこみ、バランスボールの上に乗る要領で胸に跨ぎ、腰を振った。二階ではなく、一階を借りていて良かったと思いながら胸を盛大に潰しては反動で飛び上がっていた。
 徐々に柔らかさよりも固さを強め、全体重をかけても潰れないように調整してから本番に入った。
 今日はどこまで大きく出来るだろうか。
 固いながらも全身を受け止める程度の柔らかさを保った胸を大きくしながら私はイメージを膨らませた。
 部屋一杯になるほど大きな胸をイメージしながらもっと広い場所ならもっと大きく出来るのではと思ううちに背中が天井にぶつかった。まだ部屋を一杯にしている感覚はなく、胸の圧迫を楽しみながらイメージを続けた。
 初めの頃はブラウスのボタンを飛ばす程度の大きさで満足していたのに、今ではこの大きさでも満足が出来ない自分の欲の深さが恐ろしく感じることもあった。
 『スーツ』を着ない限り、自分の胸を大きくすることが出来ない現実に未だ怒りを感じているからかと最初は思っていたがそうではないと最近は思うようになった。
 単に自分が変態なだけなのだ。
 単純な理由だからこそ、簡単に理性を捨てれたからこそ、『スーツ』を長時間使えるのだろう。
 理想で、夢で、虚像の胸の感触、圧迫、重みを感じながら私は胸に抱き付いた。
 満たされることのない欲望を抱きながら。