科学のチカラ その10

せい 作
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「し、志穂様・・・・・」

久美の目の前で、肩を震わせる二人。
一人は城の重鎮であり、この祭りの担当者。
そしてもう一人は・・・


「・・・っふ・・・ふふふふっ・・・」

いつの間にか息を整えた志穂が、俯いたまま笑みをこぼしだす。

先程彼女の乳房から噴き出した母乳は落ち着きを取り戻し、もう地面を濡らすことは無いものの、辺りは濃いミルクの匂いで充満している。

志穂によって胸の一部を吸収された恵美花は膝を折り、肩で息をしている。

残された久美と杏奈の二人。心配そうに主人と城の重鎮を見つめるが

「・・・ふふふ・・・あはははっ、あはははははははっ!!」

突然空を見上げて笑い始めた志穂に驚き、二人は主人の動向をジッと見守る。


(この感じ・・・)

久美には覚えがあった。
少し前にも志穂が今のように高らかに笑い声を上げたことがあった。
あの時は一気に胸が300cmを超え、その素晴らしさに笑みをこぼしていた。あの時、その迫力というか・・・何かに圧迫されるかのような恐怖を感じた覚えがある。

今回の笑い声も同じだ。まるで志穂がまた何かを手に入れたかのようで・・・


「あははははっ・・・あぁ、凄い・・・凄いわ。全身に力が漲ってくるみたい・・・」

そう言うと志穂はゆっくりと起き上がり始めた。
彼女の胸の大きさは外見ではあまり変化が見られない。

だが

―――――ブルンッ!

起き上がる瞬間、彼女の胸はとてつもない張りと弾力、そして自信を持って大きく揺れた。
着崩れた浴衣から覗く深い深い谷間。そこに流れる一筋の汗ですら弾き返すかのようで、彼女の乳房が極上のモノになったとうかがえる。

そして何より、大きく大きく変化したことは


「・・・ねぇ、久美、杏奈。私の胸・・・どうかしら?」

そう言って振りかえってくる彼女の強大な圧迫感であった。
それは彼女の胸が爆発的に大きくなった後に感じたものとは比べ物にならないほどで、本来彼女の胸・・・300cmをも超える胸が持ち合わせる威厳を取り戻したかのようなものだった。

「は・・・は、はいっ!!とても素晴らしいと思いますっ!」

「そそ、そうですっ!!とても大きくて、張りがあって!」

誰かに背中を押されたかのように慌てて賛辞を述べる二人。
その言葉に満足したのか、志穂は大きく頷いた。

「でしょう?もう、今だったら何でも出来そう。」

そう言いながらツカツカと久美の元へ近づき、『リモコン』を奪い取る。

「なるほどね・・・胸を吸収するとそのまんまエネルギーとなって体に入ってくるのか・・・」

自分の胸とリモコンを交互に見る。
そしておもむろに空いた左手で自分の胸を触ると

「うっわぁ・・・モッチモチね。それに・・・」

―――――・・・ップシャァァ

軽く力を入れて揉むと、またも着ている服を突き破るかのように母乳が溢れ出て来る。

「乳腺が活性化したのかしら?へぇ・・・今このおっぱいは『脂肪だらけ』じゃなくて『ミルクだらけ』ってことね。」

探究心旺盛な科学者の観点で自分の胸を分析していく志穂。
揉むたびに溢れ出てくる母乳は、いつ尽きるのか分からないほどの勢いだった。






「・・・起きて。起きなさい、恵美花。」

落ちついた志穂は、目の前でまだ肩を揺らす女性に声をかける。
仮にも恵美花は城の重鎮であり、呼び捨てにするなど到底叶わない人物だが、志穂はそれが分かった上であえて呼び捨てにしていた。

「はぁ、はぁ・・・・ふぅぅ・・・」

ゆっくり、ゆっくりと起き上がる恵美花。来た時には大きく迫り出し、赤いローブをこれでもかと持ち上げていた胸は、明らかに小さくなっていた。

「あなた・・・何者なんですか・・・」

普段からおどおどしている恵美花が、気丈に志穂を睨みつける。
その目には得体の知れない者を見るかのような恐怖、警戒、疑念が渦巻いていた。

「私?私はただの科学者よ。そして、この子たちの主で・・・」

サッと紹介するように右手を久美、杏奈の方を仰がせ、両手を腰につけると



「・・・この世界の主になる者なの。」

「なっ・・・・!!」

あろうことか、城の重鎮に向かって高らかに宣言した。



「な、何を言ってるんですか!!この世界の主って言ったら『女王様』ただ一人で・・・」

「ねぇ、恵美花。一つ聞いて良いかしら?」

恵美花の反論を遮り、志穂が話を進める。

「この世界は不公平よね・・・全部が胸の大きさで判断される。どんなに良い事をしようが胸の小さな者は虐げられて、どんなに悪人でも胸の大きな者には従わなければならない。」

「そ、それは・・・・・」

「そりゃああなたは偶々胸が大きく育ったわ。だから何不自由なく暮らして来れたでしょう?でもね、世の中には全然胸が大きくならなくて惨めな思いをしてきた者もいるのよ?その人たちは、この世界を見てどう思うかしら・・・?」

答えに詰まる恵美花。目の前の科学者と名乗る女性の話は、まるで『自分がそうであった』と言わんばかりの説得力を持っていた。

答えられない恵美花をしばらく見つめた後、志穂はニッコリと、ともすれば不気味とも思える笑顔を浮かべ、言い放つ。


「教えてあげましょうか?それはね・・・・・『いつか私が女王になって、自分だけの世界を作ってやる』って思うのよ。自分を蔑んできた者を、社会を、世界をぜーんぶ支配してやりたいってね。」

「「「っ!!!」」」

これには恵美花だけでなく久美や杏奈も息を飲む。
自分たちの主は心の根底にそのような歪んだ願望を持って今まで動いてきたと気づかされた。
心に浮き上がったのは喜びや悲しみではなく『恐怖』であった。


「・・・さあ、改めて聞こうかしら?あなた達・・・あぁ、勿論久美や杏奈も答えてね?」

近くの切り株に座り、片手で頬杖をつきながら大仰に言い放つ。


「・・・あなた達はどっちに付く?今の女王?それとも・・・私かしら?」






しばらくの沈黙。それは10秒にも、10分にも感じた。
3人を見据え、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる志穂。

そんな中、真っ先に動き出したのは


「・・・志穂様。」

「何かしら?久美。」

やはりと言うべきか。志穂との関係が最も長い久美であった。
久美は顔を引き締めたままゆっくりと志穂の元へと歩み寄る。
その様子を志穂はジッと見つめていた。

そして、久美が志穂の目の前で歩みを止めると

「・・・私は志穂様の元に付きます。いつまでも・・・いつまでも志穂様と共に居ます。ですので、どうか・・・私を傍に置いて下さい・・・」

女王を捨て、志穂を主人と選んだ久美は、志穂の空いている手を持つと、その甲へ小さく口を寄せた。

「久美さんっ!?」

後ろからは恵美花の声が響く。長らく女王側に仕えてきた彼女にとって、女王を捨てるという選択肢は受け入れがたいものだった。

だが、それとは対照的に、志穂は久美に口付けされた手で彼女の頬、喉を撫でながら

「そう・・・ありがとう、久美。あなたには後でご褒美をあげないとね・・・」

驚くほど妖艶で美しく微笑む志穂。
その表情に同じ女性である久美も頬を赤くして

「あぁっ・・・ありがとうごさいます・・・志穂様ぁ・・・」

彼女に心酔しきった表情を浮かべる。


強大な力には、敵対すると恐怖を感じるが、一旦その庇護下に置かれると大きな安心感を得ることが出来る。
久美は志穂の味方に付いたことで、大きな大きな安心感を得ていた。

無論、女王の力が怖くない訳ではない。それでも、未だ感じたことのない女王への恐怖心よりも、目の前の女性に主従することの方が久美には魅力的に覚えた。

今この瞬間に彼女の価値観は大きく塗り替えられ、まず何より先に志穂の意見が最優先とされていく。
彼女をこうしたのも、あるいは恵美花から奪い取ったエネルギーによるものなのかも知れないが・・・


「・・・それで?あなた達はどうするの?」

左手で相変わらず頬杖をついた志穂が残った二人を見回す。
空いた右手には久美が擦り寄り、忠誠を見せると共に盛大に媚びをうっていた。


「し、志穂様っ!」

二人目はその後すぐにやって来た。

「杏奈・・・あなたはどっちを選ぶの?」

結果が分かっているかのように、楽しそうに杏奈を見下ろす志穂。
さりげなく久美から右腕を離し、杏奈の返事を待つ。

「私も・・・私も久美さんと同じで志穂様の元に置いて下さい!」

久美に倣って右手の甲に口を寄せる。親愛の情を表す仕草にくすぐったさも同時に感じて志穂は笑みをこぼす。

「・・・でも、あなたは都に住んでたんでしょ?いいの?私を選んで・・・」

都に住む者は皆女王の庇護下にある。
建前の上では世界中が女王の庇護下にあったが、とりわけ都は城も存在しているとあって女王の存在感は大きかった。

「構いません。志穂様は・・・私や、私の家族のように胸が小さかった者達の想いをよく分かって下さいました。それに、言いましたよね?『これからもお傍に置いて下さいね』と・・・ですから、私もどうかお傍に・・・」

不安そうに志穂を見上げるが、志穂の笑顔が途切れることは無かった。

「ええ。これからもよろしくね?杏奈。」

「あ・・・ありがとうございますっ!志穂様!」

「あ、そうだ。また今度服を作ってもらえるかしら?」

「はいっ!お任せ下さい!!」

杏奈は笑顔で頷くと、志穂の左側に立った。



「・・・で?あなたは?」

最後まで残った恵美花に話しかける。

3人の中で一番葛藤していた恵美花。それだけ返事も遅れてしまった。
既に返事を終えた二人を見ると、まるで親の姿を見つけた迷子のように安心しきった表情を見せている。
その目には一点の曇りも無く、ただただ横に座る女性を主として崇拝していた。


「恵美花さん・・・あなたも早く志穂様に返事をしてはどうですか?」

と、その内の一人・・・久美が恵美花へと催促する。
こっちの花の蜜は甘いぞ、とばかりに誘われ、恵美花の心に少なからず揺らぎが生じる。

「久美、ダメでしょ?私が恵美花に聞いてるんだから。それに、あなたは『恵美花さん』じゃなくて『恵美花様』じゃない?」

が、志穂にたしなめられてしまった。

「あぁっ、申し訳ございません・・・出過ぎたマネをしました。ですが、志穂様。私にはもう志穂様以外に『様』をつける者などおりません・・・」

予想を遥かに超える恐怖を与えられ、その後に大きな安心を与えられ・・・
久美の志穂に対する思いはもはや『狂信』の域に達しかかっていた。
言葉巧みに他人の心を動かして来た志穂でも、ここまで自分に心酔するとは思っていなかったのか、久美の発言に驚き目を見開く。

だが、それも一瞬の事で、見開かれた目をスゥッと細めると

「そう。だったら好きにしなさい。」

「はいぃ・・・志穂様ぁ・・・」

満更でもなさそうな笑顔で、久美の発言を受け入れた。



「ごめんなさいね、恵美花。それで・・・そろそろ答えを聞かせてもらえるかしら?」

最後通告とばかりに返事を待つ。
志穂の右手には瞳を潤ませた久美が、左手には淡々とこちらを見つめる杏奈が、そして正面にはニヤニヤとこちらを見つめてくる志穂が。

まるで蛇に睨まれた蛙。目の前の『女王になる』と宣言した女はあくまで自信たっぷりで、もしかしたら本当に女王になるかも知れないと思わせる気迫を持っていた。
だとしたら、今無闇に逆らって悪い印象を与えるのは得策ではない。彼女が本当に女王になった時、何をされるか分かったものではない。

だが、こう思っていることですら、今自分が仕えている女王という主に対する重大な背信行為だとも思え、さらに悩みは深くなる。

そもそも本当に彼女は女王になれるのか?胸の大きさを変化させるような何かを持っていたようだが、ただそれで胸を大きくし続けただけではとても『女王』になったとは言えない。
それに、彼女は知らないだろうが、女王になるには『世界一の乳房』を持つと共に、あの冠・・・『女王のティアラ』を付けていなければならないのだ。胸の大きさだけの問題じゃない。

ならば、もし彼女に出来るのが『他人の胸を小さくする』だけであったら?その時は・・・女王様の胸を小さくして、自分が女王に?いやいや、あの女王様が目の前でそんなことされて許すはずが無い。大体大臣様がいるのだ、女王様の胸が小さくなったところで、この国で一番大きな胸が大臣様に変わって・・・


「早くしてくれない?」

いい加減待ちくたびれたとばかりに急かされる。
途端、頭の中でグルグルと廻っていた思考を一旦止めると、恵美花は正面の志穂をジッと見据えた。



「私は・・・・・・・」