科学のチカラ その11

せい 作
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「・・・祭りは盛り上がってるのかしら?」

豪勢な椅子に座り近くの女性に声をかける。

「はい、女王様。今年の祭りも盛大に行われ、都の民達も存分に楽しんでいるそうです。」

「そう。それは良かったわね。」

特注の赤いドレスに身を包み、女王と呼ばれた人物は癖となった頬杖をつく。
この世の贅を尽くしたかのような馬車の中。まるで部屋ごと移動したかのような状況。その部屋の一番高い位置に座る彼女が少し体を動かすだけでこの世界で最も大きい乳房が揺れ動く。
馬の数も半端では無く、もはやお忍びというレベルではなかった。

「・・・それで?頼んだものは確保できたかしら?」

流し目で女王は近くの女性を見つめる。
何事にも動ずること無くどっしりと構えた風格には、まさに女王と呼べる威厳があった。

「はい。そちらの方も担当の物に任せております。ですが、何しろ希少なものでして・・・」

「ああ、言い訳はいいわ。私が欲しいのは結果。どういう意味か分かるわよね?貧乳。」

「・・・はい。至急確保するよう今一度伝えておきます。」

貧乳と呼ばれた女性。だが、傍から見れば彼女の乳房は貧乳などではなく、むしろ巨乳、爆乳、超乳・・・超々乳ぐらいだろうか。
完全に上半身は巨大な乳房で隠れており、細身の体のどこにその膨大な質量を誇る乳房を支える筋肉があるのか分からない。
だが、そんな彼女ですら「貧乳」と揶揄されるほど、女王の乳房は巨大なものであった。

「そうして。精錬は私がするから。そして、それが終わったら・・・」

女王は自分の椅子の下にある箱を踵で小突くと、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


「・・・そういえば、恵美花の姿が見えなくなったとかいう報告が。」

と、女王の傍に居る女性がおもむろに口を開く。

「恵美花?・・・あぁ〜。祭りの担当だっけ?」

城には膨大な人数の女性が居る。女王や大臣、重鎮、臣下から使用人、護衛の騎士など全てが女性であった。
そんなわけで、一々その名前など覚えてられない。
というより、私は女王なのだ。この世界で一番偉い存在。それがいちいち下僕の名前を覚えてない程度で何が問題だというのだ。
・・・だが、恵美花という名前は覚えていた。最近何度も耳にした名前で、嫌でも祭りの担当だと覚えさせられた。

「知らないわよ、そんな貧乳の行方がどうなろうと。それより早く確保の方よろしくね。」

「・・・ですが」

「『ですが』・・・なに?まさか、私に意見でもあるの?」

「・・・・・いえ。」

端から意見など聞く気は無い。
それよりもこれから手に入れる『アレ』の方が重要だ。









「・・・到着したようです。」

女性は動きの止まった馬車から下り、辺りの安全を確認すると、自分の・・・この世界の主に向かって報告する。

「そう。それじゃあ行きましょうか。」

女王がそう言うと、見知った顔の女性が二人、彼女の元へとやってくる。

「失礼いたします。」

二人は女王の巨大な乳房をそれぞれ支え、彼女が席から立ち上がるのを補助する。
彼女らは歴代女王に仕える「乳支え役」で、女王の巨大な乳を支えるためだけに存在していた。

「ありがとう。行くわよ?」

女王は二人に支えられながら立ち上がると、贅を尽くしたドレスを引きずりながら馬車を降りる。



(変わってないわね・・・)

彼女の目に飛び込んできたのは、見知った風景。
そこは彼女にとって思い出の地でもあり、忘れたい場所でもあった。

「・・・それで?私はどこに行けばいいの?」

「あちらに御席をご用意しております。そちらで待機しながら報告をお待ちいただければ・・・」

常に共に居る女性・・・大臣である彼女から説明を受けていると


「報告いたしますっ!!」

遠くの方から女性ならではの透きとおった声が聞こえてきた。

「何事だっ!!」

声に反応した親衛隊達が集まり、女王の前に壁を作る。
勿論皆揃って乳房は巨大だ。女王や大臣ほどではないが、中には重鎮に匹敵するほどのものを持つ者もいる。
乳の大きさがものを言う世界において、その主たる女王の前に姿を見せる者の乳が小さければ不敬にあたる。
それゆえ、女王に関わる女性はみな揃って大きな乳房を持ち合わせていた。今女王の乳房を支えている二人も例に漏れず、手で支え切れない所は自らの乳房で支えていた。

「現場より報告っ!採掘中、女王陛下より賜った眼鏡で反応を探っていたところ、ある民家の中に反応が発見されましたっ!」

「民家から?」

思わず女王が声をあげる。
だがそれは彼女・・・あるいは支え役の二人にしか聞こえない声だった。

「不審に思い、民家の中を捜索したところ、確かにそこに反応はあるのですが姿が見えませんっ!」

「姿が見えない・・・どういう事だっ!貴様、まさか嘘をついているのではなかろうな?」

「嘘ではございませんっ!とにかく一度、女王陛下にお目通りをっ!」

「ならぬっ!貴様のような胸の薄い女が女王陛下にお目通り頂くだとぉ?冗談が過ぎるぞっ!」

親衛隊がそろって槍を構えた。胸が大きい分、剣は使えない。
さらに腕を上げ下げしながら動くことも難しいため、女王直属の部隊は皆特殊な槍術を身につけていた。


と、その時

「やめなさい。その者をこちらへ。」

報告に来た女性を取り囲む親衛隊の後ろから、声が届く。

「へ、陛下・・・よろしいのですか?」

大臣もこれには驚いたようで、口を挟んで来た。
普段この女王はかなり排他的で、興味の無い話にはまるで首を突っ込まない。
その為、親衛隊が排除しようと特に何の興味を持たないと思っていたが、予想に反して女王は部隊の動きを止めさせた。

「ええ。ほら、早くその者をこちらに。詳しく話が聞きたいわ。」

そう言うと女王は再度馬車の中へと入っていった。






「・・・それで、民家の中に反応が・・・しかも天然の物とは少し違う、純度が高い反応が見られたのね?」

「は、ははぁっ!その通りでご、ございますっ!!」

馬車の中、女王と向かい合って二人きり。
報告に来た女性は緊張を通り越して恐怖すら感じていた。

(この方が女王陛下・・・)

生まれて一回も見たことが無かった姿を、今目の前に感じている。
とは言え、目を合わせることは許されない。自分は現場を任された監督で、本来なら城に入るだけで精いっぱいの胸しか持ち合わせていなかった。
確か、先月の測定で157cm。ギリギリの範囲で入城許可が下りる程度。
そんな人間が女王の前で直接話せるなど、まずあり得ない話であった。

(なにか失礼なことでも言ってしまったら・・・!!)

彼女の心でその思いが渦巻く。
特に『この』女王は失敗や不敬に厳しいと有名だった。



今から2年か3年ほど前、女王が変わった。
それまでの女王は優しく温和な人物だったというが、現在の女王はそうでは無かった。
そもそも、どうやって目の前の人物が女王になったのか・・・その経緯は分からないが、とにかく今言えるのは「彼女の前で下手な真似が出来ない」ということだった。

「そう・・・なるほどね・・・・・」

考える仕草を見せる彼女に、自分が何かの罪に咎められないかと内心怯えている女性。

と、おもむろに女王が立ちあがる。

「・・・案内しなさい。私が直接見に行くわ。」









(まさか『ここ』にあるとはね・・・)

女王は案内されるがままその民家へと入っていく。
入口は狭く、胸がつっかえて到底入れるものでは無かったため

「・・・その反応があった辺りの壁、壊しちゃいなさい。」

まさに女王の特権。何をしても注意こそされど、咎められることは無かった。

そして空けられた壁の穴から家の中を覗く。

(やっぱり・・・ってことは・・・・・)

中はある程度整理されていたものの、しばらく家主は居なかったのか、ところどころ埃がかぶっている。
女王は自らが作った眼鏡をかけて、部屋の中を見回した。

「・・・確かに、この辺りに反応があるわね。」

女王が指差した辺り。そこは傍から見れば何もない空間だが、確かに反応がある。

(存在が分からなかった・・・? へぇ、なかなか手が込んでるじゃない。)

女王は眼鏡を外すと、近くに居た監督の女性に声をかける。

「・・・ちょっと。あの辺を手で触ってみて。」

「あの辺といいますと・・・?」

「あそこに何もない空間があるでしょ?あの辺り。」

言われるがままに女性は家の中に入って、その辺りに手をかざす。


すると

「・・・ん?え、あれ?」

何もない空間。だが、そこには確かに・・・

「・・・どう?『何か固くて冷たい物』が感じるかしら?」

「はい・・・・・何もないのに・・・」

(やっぱり・・・)

女王は女性を呼び戻すと、誰にも見えないよう俯いてからニヤリと口角を歪めて

「・・・あの辺りに『目には見えない物体』があるわ。見えないけど確かに『ある』の。それを回収して、城に持ち込みなさい。」

命令を下すと、自分に用意された席へと戻っていった。




(思わぬ発見ね・・・まだまだ祭りは終わらないわ。ふふふふっ・・・・・)

背もたれに体を預けると、乳房の重さからかギシッという音が聞こえた。
彼女の頭に乗ったティアラに散りばめられた宝石が、妖しげな紅い光を映しだしていた。











「私は・・・・・・・・」

かなり重要な選択である。
目の前の女性は今の女王様を知らない。いかにあの方が厳しく、言うなれば冷酷な方かを。
彼女を裏切るような真似は絶対に出来ない。そうすれば、自分の首は無いだろう。

だが・・・

「さあ、決めて?女王に付くか、それとも・・・私に付くか。」

この女性もまた同じだった。
いや、むしろこの女性の方がある意味残忍で冷酷かもしれない。
今だって到底答えが出そうにない質問をふっかけ、それに困る自分を楽しそうに見物している。
その目は自信満々に「当然私に付くわよね?」と訴えかけ、少なからず圧力も感じていた。

しかし、女王がもたらす圧迫感に比べたらまだマシだった。

祭りの前、担当に決まった直後に一度だけ謁見を許されたことがある。
あの時感じた圧迫感は忘れられない。顔を窺うことすら叶わなかった。


なにより、偉そうにふんぞり返っている目の前の女性にひと泡吹かせたいという思いもあった。



「・・・私は・・・・・あなたの味方になんかなりません。」



途端、空気が変わった。

切り株に座った女性の目が細められると同時に

「それは、どういう意味かしら?」

不機嫌になったのだろう。先ほどよりも自分の中にある恐怖が増した。
それに合わせて彼女の右腕に擦りついていた久美と名乗る女性も

「なんて愚かな・・・ねぇ、志穂様?この人のおっぱい、全部奪っちゃいません?」

こちらを敵と認識したのか、猫なで声でおねだりまで始めてしまう。
左隣に立つ杏奈という女性は、表面上はこちらをジッと見つめながらも

「・・・バカね。」

興味なさそうに、冷酷な言葉を浴びせかけてくる。

彼女らは真ん中の女性・・・志穂にもはや飼い慣らされてしまい、それ以外を全て敵と判断するようになってしまっていた。


「どういう意味もなにも・・・私は女王様に仕える身。城の、世界の主を裏切ることは出来ません。」

普段はオドオドしていると自分でも思っているが、恐怖を与えられ肝が据わったのか、気丈に言い返すことが出来た。

だが、『世界の主』という言葉に志穂ならず久美や杏奈までもピクリと反応する。

「世界の主は、すぐに志穂様がなられます。」

「そうですよ・・・私達の主人は、世界の主人・・・・・志穂様、愛しております・・・」

『狂信』に代わる『狂愛』。杏奈はまだしも久美は傍から見ても危険であった。
熱っぽく頬を染め、志穂の腕に頬を擦りよせる。浴衣に包まれた爆乳がムニュムニュと形を変えるもの、主への求愛の証かのようだった。

「・・・そう。じゃあもし、私がその『世界の主』となった時・・・あなたはどうなっても構わないということね?」

志穂があからさまな脅しをかけてくる。右腕を曲げ、二の腕に擦りつく久美の頭を撫でてやる。
だが、その言葉は既に予想済みだった。

「構いません。あなたが女王様を超えるはずがありませんから。」

あくまで強気で返す。ここまでの発言をしていないと、すぐにいつもの気弱な自分がやって来て負けてしまいそうだった。

「へぇ・・・分かったわ。じゃあ聞くけど、あなたは今の女王に満足しているの?」

「うっ・・・・・そ、それは・・・」

いつそれを知ったのか・・・全くこの女は気が抜けない。
志穂は「ほらやっぱり」と言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべる。

今の女王に対する不満・・・無いわけでは無かった。
まず第一に、自分以外の者を完全に見下してかかるところ。
胸の大きさが物を言う世界において、彼女が一番偉いのは明らかなのだが・・・それにしたって嫌な思いをしている同僚も多い。
特に大臣様なんかは謁見の間を出る際に溜め息をついていらっしゃることもある。時折「貧乳・・・か。」と漏らす言葉からも分かる。

二つ目に、厳しすぎるところだ。
他人の意見は受け入れない。自分の都合のいい法を作り、発布する。
傍から見れば独裁者のような振るまい。だが、この世界では誰も文句は言えない。

細かい不満はまだまだある。直接話した訳ではないが、同僚たちも少なからず不満を溜めている感じもあった。


「・・・私なら可愛がってあげるわよ?あなたが、この子達のように従順で居てくれるならね・・・」

よしよしと久美の頭を撫でる度、彼女は幸せそうに顔を綻ばす。
左手はスッと杏奈の手に触れ、それに反応した杏奈が頭を寄せるとそちらの頭も撫でる。
真面目そうな表情が満更でも無いような笑顔に変わっていくのを見て、恵美花もついつい心が揺らぎそうになる。

だが、何より女王様の怒りに触れるのが怖い。

「い、いえ・・・やはりあなたの元には・・・・・」

キッパリと断ろうとしたが、久美と杏奈の幸せそうな顔を見て少し心が揺らいだせいか、語気が弱くなってしまった。
それを隠すかのように俯いた恵美花には、志穂の獲物を見つけたかのような鋭い目に気づく手段は無かった。


「そう。じゃあ仕方無いわね。私はいつでも待ってるわ。あなたが、私の側に付く事をね・・・」

そう言うと、志穂は二人の頭を撫でるのを止め、ゆっくりと立ちあがる。
たったそれだけの動作ではあるが、彼女の巨大な乳房は「タプゥン・・・」と大きく揺れ動く。


「・・・あ、そうそう。せめて女王がどんな人かだけ教えてくれない?今後の参考にしたいから。」

立ち上がると、思い出したかのように志穂が話しだす。

「そ、そんなこと言えるはずがっ・・・」

「あら、志穂様が女王を超えることなどあり得ないのでは?」

当然のごとく断ろうとした恵美花に、杏奈が食らいついてきた。

「そ、それはそうですけど・・・・・」

「だったら別に言っても良いでしょう?それに、志穂様のお胸の大きさはあなた達重鎮と同じくらいですし、知る権利ぐらいあるのでは?」

詭弁だ・・・とは思ったが、言い返す言葉が浮かばない。
一度話が終わり、気が抜けてしまったせいか、論破されてしまうと気丈に保っていた心が一気に崩れた感じがして、ポツリポツリと語り始めてしまっていた。


「・・・・・今の女王様は、3年ほど前に即位された方なんです。」

「へぇ、じゃあまだ若いのね。」

面白そうに顔を歪ませる志穂をチラと見ながら話を続ける。

「女王様はかなり頭の良い方で、時には私達に厳しくあたることもありますが・・・」

「でも、あなた達には言い返す権限が無い。でしょ?」

「・・・はい。」

誰にも知られていないような女王の個人的な情報以外はズバズバと当てていく志穂。
彼女もどうやらかなりのキレ者であると改めて実感する。

「それで・・・バストサイズとかは分かるの?大体でいいんだけど。」

と、志穂の方から具体的な質問が飛んできた。
なるほど、これが彼女の聞きたいことか・・・と思い、答えまいとした途端に

「・・・どうしたのです?言えないのですか?まさか、怖気づいたとでも?」

絶妙なタイミングで杏奈の挑発が入る。
それを褒めるかのように志穂の左手は杏奈の頭にのせられた。

「・・・・・実は私も詳しいサイズまでは・・・」

「大体でいいの。」

志穂に遮られる。逃げようにも逃げられない。
大声を出せば護衛の者達が駆けつけてくれるだろうが

「・・・志穂様ぁ・・・・・」

「・・・・・」

彼女の左右に立つ女性達が危なかった。
志穂はいざとなればこの二人を使ってくる。それは簡単に予想出来たし、この二人に捕まったら何されるか分からない。
久美は勿論の事、先程の会話で杏奈も冷酷で頭のキレる人物だと分かった。どちらにしても志穂を入れて3対1。客観的に見ても分が悪い。

幸い、正直に答えていれば自分が何かされる様子は無い。
彼女の頭では、女王に対する背信行為という事実よりも己の身の安全の方が関心事として大きくなってきていた。


「・・・大臣様が、400cm超えだと仰っていた覚えがあります。なのでおそらく・・・」

「500cmぐらい、か。大きく見積もっても550cmぐらいね。」

自分の胸からは200cmほど離れている。なるほど、恐れをなすわけだ・・・

「・・・他には?」

「まだ、必要ですか?」

先程から少しずつ後ずさってはいるのだが、それに合わせて志穂も距離を詰めてくる。
勿論久美や杏奈もそれに合わせて動いており、逃がしてくれそうにはない。

「・・・ってことは、まだあるってことよね。」

言葉の裏を読み、催促される。
今自分には知っている情報を流すことしか手は無かった。

「・・・女王様がお付けなさっているティアラがあるんですが、あれが・・・」


「恵美花様ー!!」

と、そこで遠くの方から声が聞こえる。

「あ、はーい!! どうやら、時間みたいですね。」

ホッとした顔で志穂を見上げるが

「・・・そうね。」

志穂は悔しそうに顔を歪めていた。
その顔を見て、彼女に勝てた気がして・・・


「・・・っ!!」

志穂の右腕に縋りついていた久美が、眉尻をあげてこちらに飛びかかろうとするも

「久美、やめなさい。」

志穂の一言でその動きは止まった。

「ですが・・・」

「『ですが』・・・何?」

反論もピシャリと止める。
だが、志穂のセリフを恵美花は聞き覚えがあった。


(・・・あ、そうだ・・・・・)

――――女王様と同じ・・・

そう思った途端、彼女と女王の姿が一瞬重なって見える。


しかし

「・・・申し訳ございません。」

「そう・・・いい子ね。ありがとう、心配してくれて。」

その後の対応はまるで違っていた。

高圧的な態度の後、全てを包み込むように優しく頭を撫でる。
叱られたあとだと言うのに久美は目を細め、主人から与えられる安心に笑顔を見せた。


「・・・・・・・・」

恵美花は何も言わずその光景を見つめる。

――――もしかしたら彼女の方が女王に相応しいのでは・・・

またも彼女の心は揺らぐ。しかも、今回のは今までよりもハッキリとした心の動き。
不思議なことに、心のどこかで彼女を選ばなかった自分に後悔しているのが感じられた。


「恵美花様ー!!どこですかー!?」

「・・・さあ、行くといいわ。忘れないで。私はいつでもあなたを待ってるからね。」

結局心の中で決着がつかないまま、志穂にも急かされて帰ることになった。
志穂はこちらをいつものニヤニヤした顔で見つめ、隣の杏奈は興味なさそうに見つめてくる。
久美にいたっては主人に媚を売るのに夢中で、こちらの事を向きもしなかった。

「・・・ええ。気が変わったら・・・ね。」

ただそれだけ返事をすると、恵美花はいつもの気の弱そうな表情に戻って

「・・・はーーーい!!今行きまーす!!」

志穂らに背を向け、丘を降り始めた。









「・・・志穂様、よろしかったのですか?」

「ん?何がかしら?」

帰っている間、左隣の杏奈が話しかけてくる。
ちなみに右腕には久美が抱きついてきていて、彼女の私ほどではない大きなおっぱいが押しつけられ、気持ちが良い。

「恵美花のことです。あのまま逃がしてしまって・・・」

「こら。『恵美花様』でしょ?」

「・・・・・・・・」

・・・訂正するつもりは無いらしい。
嬉しい誤算ではあるが、私への依存が激しいなとは多少思う。
ただ、嫌では無い。むしろとても嬉しく、なんだか可愛らしい。

「・・・いいのよ、別に。一番聞きたかった事は聞けたし。」

「しかし、志穂様さえ御命令なさったらあの場で取り押さえても・・・」

「あー、いいのいいの。それに、あの子は城に帰っても何も言わないわ。」

それは確信が持てた。
自分が女王の情報を流したと話したところでそれは女王への背信行為であり、罪に咎められる恐れもある。
彼女の事だ。それを恐れて今回の事は適当にごまかすことだろう。

「そうでしょうか・・・」

杏奈はそこまで読めていないようで、腑に落ちなさそうに俯く。

――――この子もまだまだね・・・

自分を慕い、ついて来てくれる者として、もう少し鍛えてあげなきゃな・・・と思いつつ、夜の道を進んでいく。


「・・・あ、そうだ。」

ふと、あることを思い出した。

「久美には御褒美をあげなきゃいけないわね。」

「あっ・・・はい!」

途端、パッと顔をあげた久美がこちらをジッと見つめてくる。
その瞳には何の曇りも無く、愛する主人以外は目に入っていなかった。

「・・・御褒美はあげるけど、杏奈とは仲良くするのよ?じゃないと、御褒美は無しよ?」

「はい、勿論ですっ!ね、杏奈さん?」

「ふふふっ。そうですね、久美さん。」

向かいあって笑顔になる二人。仲が良さそうで結構。

「・・・そうだ。そういえばさっきの恵美花への杏奈の返し、良かったわよ?よくあそこに気がついたわね。」

彼女が言わなければ自分が指摘しようとした所ではあったが、彼女が言うことでより大きなダメージを与えることが出来た。
そこは主人として褒めてやらなければならない所だし

「だから・・・杏奈にも後で御褒美、ね?」

飴も与えないといけないと思った。

「ほ、本当ですかっ!」

案の定彼女は私以外を全て見下すかのような冷徹な目を輝かせて、こちらを見つめてくる。

「ええ。これからも私を感心させるようなキレのある意見、頼むわね。」

「はいっ!かしこまりましたっ!!」

久美が感情で動くタイプならば、杏奈は頭脳で動くタイプ。
彼女には是非そのキレのある頭脳をより良いものにして欲しかった。

「・・・・・さあ、帰りましょうか。」

そう言って3人はまた歩き始める。




結局初めての祭りを満喫することは出来なかった。