科学のチカラ その15

せい 作
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「・・・これはいったいどういうことかしら?」

志穂は身動きが取れないまま、ゆっくりと玉座に座る女王・・・理沙子へと言葉を投げかける。

「どういうこともこういうことも・・・見て分からない?私がこの世界の女王・・・この世界の、主なの。」

玉座に座るとすぐにいつもの頬杖をつく姿勢になる。
だが、それは決してつまらないからではなく、むしろ今の状況を高みの見物するかのごとくニヤニヤと口元を歪ませながら観察いていた。

「あなた・・・遠くに引っ越したはずでしょ?それが、どうして女王に・・・」

「ええ、そうね。私はあの後遠くに引っ越した・・・あなた達との別れ、寂しかったわよぉ?だって、私が唯一『友達』って呼べる子だったんですもの・・・」

わざとらしい演技を含ませながら答えてくる理沙子に段々と苛立ちが積っていく。

「だから、そのあなたがどうして女王にっ!?」

「そんなにカリカリしないの。久しぶりなんだし、楽しくおしゃべりしましょうよ。ねぇ、久美?」

「・・・っ!!」

久美は話を振られ、なんと答えたらいいのか分からず黙ってしまう。


「・・・志穂様、この女は・・・・・」

「・・・理沙子って言ってね、私と久美の幼馴染みよ・・・昔の、ね・・・」

杏奈からの質問に小声で答える志穂。
するとそれに目ざとく気づいた兵士が

「勝手に喋るんじゃないっ!!」

槍を突きつけてくる。


「こらこら。丁重にもてなせと言ったでしょ?忘れたの?」

理沙子が言葉をかけると、面白いほど素直に兵士は槍を収めた。

「・・・丁重ねぇ。この状況が丁重なおもてなしなわけ?」

志穂は理沙子に気押されること無く気丈に噛みついていく。

「だって仕方無いでしょ?こうでもしないと一緒におしゃべりもままならないんだし・・・」

そう言うと、理沙子は玉座に座ったまま足を組んで話し始めた。


「・・・どうして女王になったか、だったわね?そんなの当然でしょ?」

理沙子はニヤリと口元を歪ませて、間をあけてから

「・・・このどうしようもない世界を支配して、私の思い通りにするためよ。」

少し自慢げに、それでいてどこかやり場のない怒りを含ませた声で言い放った。

「私の境遇は知ってるわよね?親は都に住んでたけど、私の胸が膨らまなかったせいで都を追い出されて・・・私親からずっと言われてたわ。『あんたのせいで』ってね・・・」

「・・・・・ええ、知っているわ。」

それは志穂も久美も知っていた。
彼女はそのせいで住んでいた村でも孤立しがちで、そんな彼女に声をかけた志穂達が一緒に遊ぶようになったのだ。

「・・・あの時、楽しかったわ・・・あなた達と一緒に夜まで遊んで、走って、おままごとして・・・・・でも、家に帰るとまた『あんたのせいで』・・・・・最初のうちこそ我慢してたわ。『私のせいなんだ』とも思ってた。だけどね・・・」

理沙子は俯いた。そして、そのまま少し肩を震わせると

「・・・もう我慢の限界。なんで私ばっかり?私が何をしたの?そりゃあ胸は膨らまなかったわ。でもね、それって私がどうにか出来ることじゃないでしょ?そう思うと段々腹が立って来て・・・親に、社会に、世界に・・・」

はぁ・・・と一つ溜め息をつくと、また顔をあげて話し始めた。

「私は必死に勉強したわ。あなた達と離れても、ずっとずっと・・・いつか何とかなるはずだって。いつかこんな世界・・・私が支配してやるって。それで・・・気がついたら私、胸を大きくする機械を作ってた。それを使って、都に行って、城に乗りこんで・・・女王になった。」

「理沙子・・・・・」

彼女の叫びとも聞こえる話に、なんと声をかけて良いか分からない。
彼女の名前だけ呼ぶと、後は自分と同じ思い、同じ考えの元動いていた理沙子のことを思い黙った。


「・・・あははっ、少し湿っぽくなったわね。」

「ううん・・・そんなことないわ。」

自分が女王になろうという思いはどこに行ったのか。
志穂は理沙子に対して同情すらしていた。

「・・・じゃあ、これからが今日の一番の目玉・・・」


だが、その同情は長くは続かなかった。



「・・・女王様、完成いたしました。」

いつの間にか女王の横には大きな胸の女性が立っていた。
後ろの扉からやって来たわけではないあたり、別の扉がこの部屋にはあるのかもしれない。

その女性が持ってきたのは豪勢な造りのティアラ。
キラキラと輝くフレームに、真ん中にはこぶし大の大きな紅い宝石が埋め込まれていた。

「ありがとう。あなたもそこで見てると良いわ。」

女性からティアラを受け取ると、理沙子は近くの台にそれを置き、自分が今つけてるティアラを取るべく頭に手を伸ばした。


「・・・ねぇ、志穂。女王についての言い伝えって、なんだと思う?」

頭の上からティアラを取りながら話しかける。

「えっ?確か・・・何か特殊な力がどうとかって・・・」

「あははっ。やっぱりその程度の情報だよね。私もね、調べてみてからビックリしたんだけどね。」

理沙子は元々つけていたティアラの中心部を指差すと

「・・・ほら、そこからじゃ見えないかな?ここにすご〜っく小さいけど、紅い宝石があるの。」

「そう・・・なの?」

「ええ。もう小さすぎて虫眼鏡じゃないと見えないぐらいなんだけどね。」

そう言うと、もうそのティアラの出番は無いのか、台の上に置く。


「・・・志穂。あなた、おっぱいが大きくなって、周りの人が言うことを聞いてくれるってこと・・・なかった?」

「えぇっ?うーん・・・怖がられた事はあったわね。」

「あははっ。そうそう、それだよそれ。」


今度は新しいティアラに手を伸ばす理沙子。

「ねぇ、志穂・・・あなた『エクサール結晶』・・・知ってるわよね?」

「えっ・・・なんで『エクサール結晶』の話・・・・・まさかっ!!」

理沙子の発言で全てが繋がった。
なぜあの紅い宝石を見た瞬間に気づかなかったのか!


『エクサール結晶』・・・エクサール鉱石から取れるエクサール石を結晶化したもので、とてつもなく希少な割には今まで何の用途もなく捨てられる運命だった石。
だが、この結晶石、志穂が研究していくと『エネルギーを増幅させる作用』があることが分かった。
志穂はそれをあの機械のエンジン部に使うことで、あの機械を動かすことに成功していた。

だが、自分で作っておいていうのもなんだが、エンジン部に使ったエクサール結晶はなかなかの粗悪品で、純度が低いものだった。
やろうと思えば高純度の物も作れたのだが・・・いかんせん設備も原料も無い。偶然近くの山から発掘されたのを譲り受けただけだった。

あのティアラに使ってある『エクサール結晶』・・・かなりの純度を誇るだろう。おそらく、ほぼ100%の純度。
それがあれだけの大きさである。増幅作用は2倍、3倍では済まされない。倍の倍の倍の倍の・・・・・どうなることやら。まさに未知数。


「・・・皆が怖がったのはね?大きなおっぱいからでるエネルギー・・・電力とか磁力とかとはまた違うエネルギーだけど・・・」

理沙子が例の『巨大なエクサール結晶が埋め込まれた』ティアラを頭に乗せようとする。


「ダメよ理沙子っ!!それだけは絶対にダメっ!!」



『エクサール結晶』は『エネルギーを増幅させる』・・・ならば、それを直接・・・世界で一番胸の大きい女王がつけたらどうなるだろうか?

あの時、丘の上で恵美花が言いかけた。

――――「・・・女王様がお付けなさっているティアラがあるんですが、あれが・・・」

なぜ彼女がそれに気づけたのかは分からない。もしかしたら、ティアラをつけている時とそうでない時の感じから敏感に読みとったのだろうか。

今までのティアラにも『エクサール結晶』は含まれていた。おそらくかなり前から戴冠されてきた物だろうから、純度も悪く大きさも虫眼鏡を使わないと見えないほど小さい。

だが、今目の前で理沙子が・・・女王がつけようとしているティアラはそれとは格が違う。



ゆっくりと頭に向かって腕を降ろしていく。

「ダメえええぇぇぇっ!!そんなことしたら・・・そ、そこのあなたっ!!早く理沙子を止めてっ!!早くっ!!」

動こうにも目の前には兵士が突きつける槍。
理沙子の近くで彼女を見つめる、あのティアラを持ってきた女性も、志穂の発言を無視している。



そして



「・・・今日は、『記念すべき日』だわ。だって・・・・・」

理沙子の上にあったティアラが



「私がこの世界の全てを支配する・・・・・『神』になった日ですもの。」



「ダメええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」





のった。








――――キイイイイイイイィィィィィィィン!!

何かが読みこまれ、集積される音が部屋の中に響き渡る。
それは明らかに彼女・・・女王の頭の上のティアラが発する音で・・・


「・・・ふ、ふふ・・・・・ふふふっ・・・・・・・・」


その音が収まっていくと同時に


「ふふっ・・・あははっ・・・・・あははははっ!あははははははははははははははははははっ!!!」


膨大なエネルギーが集積され、爆発的に広がった。


「すごい・・・すごいすごいすごいっ!!どんっどん力が漲ってくる・・・ああ、まだまだ終わらない・・・あははははははははっ!!」

まるで彼女そのものが心臓になったかのように「ドクンッ!!ドクンッ!!」と室内が揺れる。
それはまさに新たな命の誕生・・・『神』の降臨だった。


「ああぁっ・・・そんな・・・まさか・・・・・」

あまりの事に何も言えない志穂。
久美も杏奈も驚き、口を大きく開ける。

そして、次に襲ってきたのは


「・・・んふふっ。」



――――・・・ドンッ!

理沙子が微笑むと共に心に感じるとてつもない重み。
それはまるで今の音が実際に聞こえたかのようで・・・


「あ・・・っぐぁ・・・・・が、あぁぁ・・・・・・・!!!」


恐怖。恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖。


胸が張り裂けそうなほどのとてつもない恐怖。畏怖。恐れ・・・
それがまるで波のようにこの部屋全体を埋め尽くし、志穂だけではなく、部屋の中全員・・・理沙子以外見事に全員が床に膝をついて動けなくなる。


「そう・・・それでいいの。みんな頭が高い!ってね・・・あははははははははははははっ!!」


不気味なほど良く響く声で理沙子の高笑いが聞こえる。
その声一つ一つが恐怖を呼び起こし、皆そろって動けないでいる。

「うーん・・・壮観ねぇ。ね、そうは思わない?志穂。」

この状況で答えられるはずも無く、理沙子は玉座に座ってつまらなそうに頬杖をついた。

「はぁ・・・黙るのは面白くないわ。ほら、こっち向きなさい。」

理沙子の言葉がまるで呪詛のように体を、心を蝕んでいく。
気がついたら顔をあげ、理沙子の姿を窺っていた。

「そうそう。でね・・・あなたに見せたいものがあるの。」

そう言うと理沙子は、布をかけてある何かに手を伸ばす。

「それはね・・・こ〜れっ!!」

掛け声と共に布を引くと

「あっ・・・ああああ・・・・・!!」

志穂は上手く言葉に出来ないまま、驚愕に目を大きく見開いた。


「すごいでしょ?あなたが作った『おっぱいを大きくする機械』と、私の作った『おっぱいを大きくする機械』・・・合わせちゃった。しかも、ちゃぁ〜んとここと、ここに『エクサール結晶』を二つも。んふふふっ・・・どう?凄いでしょ?」

得意気に話す理沙子。
御丁寧に『エクサール結晶』の部分だけ小窓のようなものがついており、その紅い光がこちらにも見える。

「・・・あなたの機械、人の『欲望』を元にしてるのよね・・・それはそれで凄いんだけど、私ならもっと別なのを利用するなぁ・・・それはね、人の一番醜いところで、一番強い気持ち・・・なんだと思う?」

喋れないと分かっておきながらも聞いてくる。
もはやステージの上で話す役者のような気分なのだろう。たっぷりと間を開けて・・・


「それはね・・・『嫉妬』よ。どんなに高尚な人間でもね、絶対に『嫉妬』だけは消えないの。私の機械はそれを利用してるわ。でも、代わりに『欲望』は集められなかった。惜しかったわ〜・・・・・で〜も。」

理沙子はこちらをチラリと見て、言い放つ。

「・・・あなたのおかげで二つが合わさったわ・・・これを今の私に使ったら・・・どうなっちゃうのかしらねぇ?あはははははははははははっ!!」

それが導き出す答えは、まさしく『絶望』だった。
そうなってしまえば彼女はさらに無限とも呼べる力を手に入れ、正真正銘この世界の支配者として君臨することになる。
そして、さらにひどい事に・・・


「・・・起動のスイッチは、あなたの右手よ。一回、鳴らすだけでいいわ。」

「ああぁ・・・あ、あああああ・・・・・・!!!」


その『絶望』への一押しは、私の右手。


途方もない恐怖と共に、罪悪感がやってくる。

「・・・あら?鳴らさないのね・・・じゃあ、鳴らしたくなるようにしてあげる♪」


ニヤリと不気味に微笑んだ彼女は、スゥッと目を細めて・・・



「・・・久美?おいで・・・」

「っ!! あうっ、あ、がぁ・・・!!!」

彼女が一言声をかけるだけで、彼女は項垂れた兵士たちをよそに一人階段を上っていく。

「じ・・・ほ、ざ・・・・まっ! しほさ・・・・まっ!!!」

自分を呼ぶ悲痛な叫びを聞いても、何もしてやれない。
それがまた罪悪感となり、心を壊していく。


「ほーら。ここにおいで。よく顔を見せて?」

理沙子は久美を自分の右側に呼び、中腰にさせると、彼女の恐怖で歪んだ瞳をジッと見つめて・・・


「・・・あなた、今志穂のことを『志穂様』って呼んだわよね?あれ・・・・・『理沙子様』に変えなさい?」


「あ、あああ・・・あああああああああっ!!」


目の前で久美が奪われた。
途端、久美の目がカッと開かれたかと思うと、その後トロンとした目になって・・・


「・・・あはぁ〜・・・理沙子様ぁ・・・・・♪」

「うんうん。可愛いわね・・・ほら、久美。あそこにいる女は誰かしら?」

私の方を指さしてくる。
久美はこちらをチラリと見ると・・・

「・・・志穂。理沙子様の敵です・・・・・私、理沙子様に反発する者なんて大っ嫌い。」


一瞬、目の前が真っ暗になった。


「そう、よく言えたわね〜・・・褒めてあげる。」

「はいぃ・・・理沙子様ぁ・・・・・♪」

心底嬉しそうに理沙子に撫でられる久美。
だが、理沙子はこれだけで諦めなかった。

「じゃあ、久美?あの女の隣にいるのはだぁれ?」

「ひっ!!!」


私の後ろで声にならない悲鳴が上がる。
それは間違いなく・・・


「はい・・・・・『杏奈』と申します・・・」

「ああっ・・・く、みちゃ・・・・ん・・・・」


杏奈が絶望の声をあげる。
名前を知られた以上、自分の行きつく先は・・・


「そう・・・じゃあ、杏奈。こっちにおいで?」

「ああああ・・・・!い、や・・・いやっ、いやああああああああああああああああ!!」

普段の彼女からは考えられないほどの声量と共に、自分の横を通り過ぎるのを感じた。

「しほ、さ、まぁ!!いや・・・たすけっ・・・!!しほ、さまぁっ!!」

だが、どうしようも出来ない。
彼女が生贄のように連れていかれるのを黙って見ているしかない。


そして、杏奈が階段を上り、理沙子の左側に中腰になると


「・・・ほら、あなたの新しい『ご主人様』よ?可愛い声でないてごらんなさい?」

久美と同様、杏奈が目をカッと見開く。


「あ、あああっ・・・っぐ、ぎぃ・・・・・」

入りこんでくる何かに必死の抵抗を見せるも、それは段々と彼女を包み込んで・・・




「・・・はい。理沙子様。」


彼女を生まれ変わらせる。

「あら、随分と理知的なのね。いいじゃない?・・・で、杏奈?あそこの女は?」

確認するかのように、またもこちらを指差してくる。

それに合わせて杏奈もスッと私の方を向いて・・・


「・・・ハンッ」


汚物でも見るかのように、鼻で笑い、そうかと思えばコロっと態度を変えて

「理沙子様ぁ・・・♪」

新たな主人としてすりこまれた女性へと媚を売る。



「や、やめっ・・・あ、っぐ・・・あ・・・・・もうい、いや・・・・・いや、いやああぁぁ・・・・」

心がボロボロになっていく。

女王の正体は旧知の友。
彼女は世界を支配しようと、科学のチカラに目を向けた。
部屋の中に渦巻くのは恐怖、恐怖、恐怖・・・
そして私には、大好きな二人を目の前で奪われた絶望。
さらに、その二人を救えなかった罪悪感、悔しさ、もどかしさ。


そう、彼女は『同じ』だった。
科学のチカラに目を向け、それで世界を支配するため女王になる。
その為にはいろいろなものを利用して、我欲のために突き進む。

それはまさに

(私と・・・同じ・・・・・)



「・・・さぁ、志穂。右手がお留守よ?何をしたらいいか・・・分かるわね?」

随分高い所から声が聞こえる。
身も心もボロボロになった志穂にとって、その言葉にあらがう術はもう残って居なかった。


「安心しなさい・・・あなたは私がずっと可愛がってあげる・・・いくら私が『神』になったと言っても、あなたは私の大事な大事な『お友達』だもの・・・」


その言葉が免罪符のように抗う心を溶かしていく。

「あ、あぅ・・・・あ・・・・・」

呻きながら、志穂はゆっくりと右手をあげていった。



それはまさに、終焉の合図かのようだった。