「・・・守下先生が?」
『はい。私に・・・いいえ、全校生徒に集合をかけたそうです。』
電話口からは、透き通った声が聞こえてきた。
電話の向こうに居るのは莫大な財力を誇る名家の令嬢。けれど、非常時にはこうして連絡を取り合うようにしている。
「それは・・・なぜかしら・・・」
『分かりません・・・ですが、かなり強い口調でした。今すぐ来なさい、と・・・何か裏があるのではないでしょうか。』
「裏、ねぇ・・・」
夕方からの出張で、今は現場を離れている。
状況を把握するにしては情報が少なすぎる。かといって、現場で何か異常な事態が起こっていることは明確であり、わざわざそこに飛び込むリスクは計り知れない。
「・・・それで、皆は従ったの?」
生徒の代表である彼女なら、ある程度の状況把握は出来るはずだ。
そうでなくても大財閥の令嬢なのだ。それくらい容易い事であり、だからこそ彼女には安心して代表を任せられる。
『従わない・・・そう思っていました。いきなりの電話でしたから。』
「そうね。それが普通よね。」
『・・・ですが、生徒達は皆従いました。』
「皆?皆って・・・全員ってこと?」
『・・・正確には、私以外の全員ですが。』
どうやら、状況は極めて深刻らしい。
原因は分からない。だが、心当たりがあるだけ不安が大きい。
「・・・叶恵さん、あなた・・・何カップ?」
『えっ?』
「おっぱいよ。おっぱい。K組だけど、もしかしたら最近大きくなったんじゃない?」
『え、ええ・・・先週、でしょうか。Lカップになってました。』
やっぱり・・・と、溜め息を漏らす。
夕方頃から異変は訪れた。妙に自分の言う事を皆が素直に聞くのである。
それは男性女性限らず、皆である。だが、よく見れば自分以外にもその構図は見られた。
乳ヶ院学園の学園長として、なにが起こったのかは大体予想出来る。そして、今何が起こっているのか、も。
(・・・まずいわね。)
状況が状況なら、事は一刻を争う。一度『王』を作ってしまうと、抵抗は難しい。
(守下先生が・・・? いや、あの本は彼女のようなおっぱいの大きい人じゃ開かないはず・・・)
誰かが開いたのだ。そして、力を手にした。
それによって均衡は崩れ、今まさに『王』が創られようとしている。
『・・・先生?』
電話口から聞こえた声に、ハッとする。
こうしてはいられない。一刻も早く誰が『王』なのかを調べ、止めなければ。
「・・・叶恵さん。今すぐやって欲しい事があるわ。」
『えっ・・・はい。』
「今から守下先生が連絡を入れた生徒を全員調べ上げて。もしかしたらその中に・・・『連絡すら入れていない生徒』が居るかも知れないわ。その生徒を教えて。それから・・・」
女性達は動き出した。
「香織様っ!!」
数分もしないうちに、綾菜は戻って来た。
脇には大事そうに例の本を携え、主の前へと差し出す。
「っくぁぁ・・・っはぁ・・・はぁ・・・綾菜、本を・・・本を押し付けて・・・」
「本を・・・ですか?」
香織に言われるがまま、本を開き押し付けようとする。
なんの抵抗も無く開いた本。中には何も書かれておらず、白紙のページが続く。
けれど、その最後のページには、まだ数行の文字が残されていた。
「・・・早くっ!!」
「あっ、はいっ!」
綾菜がその文字が残されたページを香織の巨大な乳房に押し付けた。
その瞬間
「・・・えっ、きゃあああっ!!」
突然の閃光。本と乳房が共鳴したかのように、爆発的な光を生み出した。
あまりの眩しさにのけぞる綾菜。周りの少女達、女性達も皆一様に目を腕で覆う。
やがて、光が収束していくと、バサリという音と共に本が地面へと落下した。
「・・・ふふっ、んっふふふふふ・・・」
落ちた本から目線を上げると、俯いたままの少女から小さな声が漏れだす。
「ふふふふっ・・・っく、あははははっ・・・あはははははははははははっ!!」
突然の高笑いに、その場にいた者は皆体を硬直させた。
唯一綾菜だけが訝しげに覗いている。彼女はこれと同じような状況を一度味わっていた。
「あぁっ・・・なるほどね。そうすればいいのね・・・」
一人納得した様子の香織が、ゆっくりとその顔を上げていく。
その瞳には、横一列に並び様子を窺っていた少女達の姿が映っている。
「・・・いただきます。」
ペロリと口を湿らせた後、香織の口元がゆっくりと歪み、口づけを待つかのように段々と尖っていく。
そして
「・・・ッチュ。」
何もない空間。その中で彼女は『何か』に吸いついた。
その瞬間
「ひぐっ!!あはああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふっぐいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お、おっぱいが・・・いぎゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「何・・・なになになにぃぃ!?んふぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
少女達は皆体を震わせ、その場に倒れ込んだ。
―――――・・・ッグ、グググググググググ
「っはぁぁぁ・・・ やっぱり一度に吸うと目に見えて大きくなるわねぇ・・・」
恍惚の表情で自らの乳房に手を添え、撫でる。
そうしている間にも乳球は膨張を続け、手の平を押し返してきていた。
「か、香織様・・・今・・・」
「ん〜?ああ、綾菜。ありがとう・・・あなたのおかげで・・・」
話かけた親友に顔を向ける。
その妖しげな顔に狂気を浮かべながら
「・・・目についたおっぱい、ぜーんぶ吸っちゃった♪」
「なっ・・・!!」
『王』はさらなる進化を遂げた。
「なーんか、これだけ大きくなったから呪いが強くなっちゃったみたい。なんて言うかな〜、この本と一心同体?って感じかな。」
そう言って、足を組み換える。
既に座っていても膝を隠すほどに成長した乳房が歪み、妖しい色香が辺りに漂う。
「だからぁ〜・・・ンッ、ッチュ・・・チュゥ、チュウウゥゥゥ・・・」
「ひひゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あぐぅっ、っくひいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
無差別に吸い取られる乳房。
それも一瞬で全てが絞りとられる。香織の持つ乳房に比べたら、普通に巨乳と呼ばれるGカップやHカップの乳房など『無い』に等しく、根こそぎ刈られてしまう。
けれど、そんな乳房でも集めたらかなりの体積を誇るようになり
―――――ムクッ、ムクククククククグググググググググググッ!!
「あはぁっ 凄い凄い!!このままぜーんぶ吸い取っちゃお! ンッ、ジュウウウウウウウゥゥゥゥ!!」
パンパンに膨らんだバランスボール程の乳房が、さらなる成長を求めて膨張を続ける。
香織の目についた少女・・・いや、もはや顔など見ていない。乳房を見れば一瞬で吸いあげ、自分の物にしてしまう。凶悪な力を手に入れた少女が、さらなる力を求めて乳房を貪り続ける。
「ひぎいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「や、やめっ!!ふあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「見ないでっ、見ない・・・でっへええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
――――ググッ、グググググググブブブブブブブルルルリュリュ!!!!
A B C D E F G H I J・・・
様々な大きさを持つ少女達の乳房が母乳など介すること無く一瞬にして萎み、吸収される。
流石に高等部の2年、3年ともなるとFカップ以上の女性が多い。その為か、香織の乳房の膨張もどんどん加速していく。
「っくふふふ、あっははははははは!!そうよ、全部・・・ぜーんぶ私のもの!ここにあるおっぱい・・・いや、世界の全てのおっぱいが私の物なの! さぁ、崇めなさい。『女王』の私を崇めなさいよぉ!あっははははははは!!」
吸う、吸う、吸う、吸う、吸う。
膨らむ、大きくなる、膨張する、成長する。
「いぎぃっ!!んっくはあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
最後に残った少女のたわわな膨らみを吸い尽し
―――――ググググググゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「・・・んっ、ふぅ・・・ごちそうさま。んっふふふふふふ♪」
その場には一人の少女と、その主だけが残った。
「・・・綾菜。測りなさい。」
「・・・へっ?」
呆然としていたところ、いきなり声をかけられる。
慌てて声のした方を向くと
「・・・測りなさいって言うのが聞こえないの?」
「ヒィィッ!!は、はいぃ!!」
いつの間にか立ち上がっていた少女のとてつもない大きさの乳房が目に入り、慌てて足を動かした。
見事なまでに綺麗な球体。乳房の上部、デコルテの部分もこんもりと膨れ上がり、重力を異ともしない肉塊がそこには存在した。
全校生徒、さらには教師たちの乳房をほぼ全て吸収し、制覇したバスト。不思議な力で吸い寄せられるかのような魅力を放つ。
だが、そこに詰まっているのは魅力だけでは無い。世界を根底から覆した膨大な力がそこには詰まっているのである。
「そ、それでは・・・」
体育倉庫から取って来た巻き尺。
本来は校庭に白線を引く時などに用いるそれを、乳房の測定に使うのだから信じられない。
「う、腕を上げて・・・うわぁ・・・」
「あら、どうかした?」
言われるがまま腕を上げたことで、香織の乳房が「ユッサリ・・・」と大きく重たげに揺れ動く。
立ち上がってもなお下乳は膝を超える。地面スレスレの乳房は、下だけでは無く前にも突出しており、その乳房に反して小さ目の薄いピンク色をした乳首がツンと上を向いている。
「い、いえ・・・それでは失礼します・・・」
まずはアンダーを測る。
「・・・65。」
「当たり前じゃない。変わるわけないわ。」
巨大な乳房に反して、体は細い。
この体のどこにこれだけの乳房を支える力があるのかが分からない。
「・・・そう、ですね。では、トップの方を・・・申し訳ございませんが、こちらを持っていて下さい。」
「ええ。ここね?」
あまりに巨大なため、一人では測りきれない。
香織に手伝ってもらい、巻き尺の先端を彼女の脇の下に固定してもらう。
そのままグルリと一周まわって、位置を整えた後、目盛りを読み上げた。
「・・・さ、373cm・・・か、かか・・・カップは・・・」
「ああ、良いわ。カップなんて、どうせすぐ大きくなるんだし・・・にしても、373cmねぇ・・・んふふふふっ♪」
自分の乳房の表面を撫で擦る。
どこまでも沈んでいきそうなほど柔らかい乳肉に、しばし酔いしれると
「・・・誰かしら?」
香織の目に何かが止まった。
「・・・チッ」
遠く離れた扉の影。体のラインからして女性だろうが、小さな影が舌打ちと共に消えていく。
「あらら、見つかっちゃった?でもまあ・・・ン〜、ッチュウウゥ!!」
「っくぅぅぅぅ!!う、あああぁぁっ!!」
帰り際に乳房を根こそぎ吸い取ったが、逃げられてしまう。
よほど訓練を積んだのか、身のこなしは軽い。けれど、適度に膨らんだ乳房は一瞬で平坦なものへと変化していた。
「・・・よろしいのですか?」
「ええ。逃げたところで何が出来るって言うの?それとも綾菜は、このおっぱいに勝てる者が居るとでも言いたいのかし、らっ!?」
「ふえっ!?わわわわっ!!」
隣に並んだ綾菜を、一気に胸へと抱きよせる。
乳の海にのみ込まれた綾菜がもがくのを面白そうに見つめながら、反応を楽しむ香織。
やがて、顔を上げた綾菜は頬を赤く染め、だらしのないトロンとした瞳で
「・・・香織しゃまのおっぱいが、最強でしゅ・・・」
膨大な力の庇護下にある事を、思う存分噛みしめた。
「・・・笹村香織と大本綾菜?」
『はい。その二人だけ連絡されてません。香織さんは二年A組、綾菜さんは・・・』
「確かJ組だったわよね。生徒会の・・・」
『ええ。まさか生徒会が関わっているとは・・・』
時をほぼ同じくして、2人の女性が再び連絡を取り合う。
今回の事件の中心であり『王』の因子を持つ可能性のある者。全校生徒に連絡を入れている中で、彼女らにだけ連絡が無いのだとしたら、それは彼女らが中心人物だという事だった。
さらに、女性は知っていた。学園長である彼女は、自分の勤める学校にある書物が隠されている事も。
「・・・間違いないわ。笹村さんね。」
『えっ・・・』
学園長である彼女――竹宮 実(タケミヤ ミノリ)は確信した。
書物に触れ、今着実に『王』になろうとしている女性を、である。
『それは、なぜですか?』
「あなたも知っているでしょう?うちの生徒会室に触れてはいけない本があることを。」
『それは知ってますが・・・でも、あの本は!』
「ええ。生徒会の一部や私ぐらいしか知らないわ。だから・・・大本さんが共犯ね。そして、笹村さんが触れた・・・」
二人の間に沈黙が訪れる。
なんにしても、最悪の事態である。この世の理が変えられ、圧倒的女性優位な世界・・・特に乳房の大きい女性に絶対的な権力がもたらされる世界に改変されてしまったのだ。
それと同時に『王』である者には圧倒的な力が与えられる・・・対抗する手段はただ一つしか無く、時期を逃せば手をつける事は出来ない。
一度そうなってしまえば、あとは『王』による独裁が行われる。全てが『王』に従い、命じられるままに動く絶対支配。これだけは避けなければならなかった。
「・・・こうしちゃいられないわ。叶恵さん、今すぐ笹村さんの様子を・・・」
『はい。それはもう既に。おそらくそろそろ戻ってくるはずです。』
「そう・・・ありがとう。もしかしたらまだ間に合うかも知れないわ。とにかく、笹村さんが『王』として覚醒する前に手を打たなきゃ・・・」
彼女らが打てる手段。それは改変された理を利用して『王』自身に命を下すことであった。
いち早く『王』の元へ行き、力をつける前――つまり、乳房があまり育ってないうちにその力を剥奪する。その時の『王』以上の乳房があれば可能な事であった。
幸い、実の乳房はMカップ。叶恵もLカップに突入している。滅多なことでは負けはしないだろう。
『王』に成りえる者は皆最初の乳房が皆無と言っていいほど小さいのだ。つまり、最初のうちに叩けば対処出来る。
「おそらく、全校生徒を呼び寄せたのは力をつけるためね。守下先生が従ったっていう事は、今の笹村さんは少なくともKカップ以上・・・急がないと。」
『っく、はぁ・・・はぁ・・・ほ、報告します!!』
と、電話の向こうから女性の大声が聞こえてきた。
『何!?どうしたの・・・って、あなた・・・・・』
続いて叶恵の声も聞こえる。だが、なにやら様子がおかしい。
「何?何かあったの?」
『い、いえ・・・調査をさせた者が帰って来たのですが・・・』
遠くの方で息を整える声が聞こえる。
それ以外の音という音は全て消え去り、ピンとした雰囲気が辺りに漂った。
『・・・胸が・・・胸がありません・・・』
「なっ・・・それは何!?どういうこと!?」
嫌な予感がする。背中には冷たい汗が流れ、声も上擦った。
『分かりません・・・早くっ!報告してっ!!』
『はっ!それが・・・目標は学園の体育館に居ました。』
「体育館!?体育館に居るのね!?」
思わず席を立つ。場合によっては今すぐにでもこの場を離れ、体育館へと向かわなければならなかった。
『・・・ですが・・・・・』
『・・・何か問題があったの?』
『はい・・・会話を傍受した結果、目標は乳房の大きさを測っておりまして・・・』
叶恵だけでなく、電話越しの実にも衝撃が走る。
次の言葉によっては手段を変える必要がある。それどころか諦めるしかないかもしれない。
せめて前者に留まって欲しいと願いながら、言葉を待つ。
だが
『・・・373cm。その上、私の乳房も吸われてしまいました・・・・・』
「なんてことなの・・・・・」
373cm。もはやカップ数すら分からない、人智を超えた大きさ。
実は再び確信した。『王』が既に覚醒してしまっている事・・・そして、手遅れ。手段が無いことを。
『しかも、私の乳房にいたっては直接吸われていません。どうやら、目標は目についた女性の乳房を遠距離からでも吸収する術を持っているようで・・・』
『そんな・・・じゃあ!』
『はい・・・今、彼女の目の前に姿を見せれば、その瞬間に根こそぎ乳房を奪われてしまいます・・・』
もはや言葉が無い。今の彼女にはどんな戒めも意味を為さず、その上近づく事も許されない。
あまりに時期が遅すぎた。もはや抵抗する手段など・・・
『・・・ですが、もう一つ気になることが。』
と、再び調査に向かった女性が口を開いた。
『何かしら?』
『目標の女の傍に、大本綾菜が居ました。彼女も乳房を根こそぎ奪われていましたが・・・』
『・・・ミイラ取りがミイラになったわけね。』
『いえ、そうでもないのです。』
叶恵の嘲笑を止め、女性が話を続ける。
何かの希望を示すかのように、声調は少しばかり強い物となる。
『・・・彼女は、笹村香織に同調していました。従事と言いますか・・・彼女の言葉には、あの笹村香織も多少は反応を示すようでした。』
『それって・・・』
『はい。笹村香織では無く、彼女を狙えば・・・』
話を聞いて、実は大きく息をついた。
そして、新たな決意を瞳に宿し、言い放つ。
「・・・叶恵さん。今からあなたに『命令』を下すわ。」
受話器の向こうから緊迫した雰囲気が伝わる。
Mカップである実の命令に、Kカップの叶恵は従うより無い。
共に問題を解決しようとする仲間には申し訳ないが、必要な事だった。
「・・・・・今この時より、あなたには私の命令に完全に従ってもらいます。まずは大本さんの居場所を調べ、笹村さんの元から奪回。そして・・・」
大きく息を吸い、吐く。この先を言えば、もう後戻りは出来ない。
「・・・どんな手段でもいい。私を・・・私に、笹村さんに対抗できるぐらいの乳房を。なんとしても私のおっぱいを最強に仕立て上げなさい。」
『・・・・・かしこまりました、実様。』
守るため・・・・・一歩踏み出した。