無断で転載、掲載、配布することを禁ず。これは全章に於いて言えることである。
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「ただいま〜。」
疲れたとも同時に言おうとするような、力の抜けた声。甘ったれんじゃないとでも言われそうだ。
ここの家は由緒正しき家系で、昔の先祖代々長らく続いていて、先祖は武士の上位だったそうだ。
それをふまえて改めて彼女を見ると、何だか大丈夫か気になる。
だが、この疲れは、肉体的疲れも、頭脳的疲れもあるが、精神的にもある。
彼女はクラス一番の長身で、この間の発育測定だか身体測定だか、身長を測る際の結果は、166.8cmであった。
女子校だが、この長身は中学一年生である秋帆(あきほ)のことを考えれば十分高い。高すぎるくらいかもしれぬ。
だが、精神的疲れは、これに由来する物ではない。 ――女性の象徴、乳房が由来している。
それも頷ける。先ほどあげた身体測定。服をはだけ、胸囲を測る。その際どうも周りの雰囲気が良く感じない。
なぜかは、百も承知であろう、彼女の胸板のふくらみは、乳首を除けば1mmも無い。 本人もがっかりする。
(何で私だけ・・・?)
生理だって来ている。なのにもかかわらず、この性徴はいまだ変化を見せない。毎日胸をなでて祈るばかりだ。
必死の祈りが通じることなど非ず、変化はない。
ところが、やはり人生の転機という物は訪れる物なのだろう。店の人に舌打ちされつつ買ったAAカップのブラジャーが、揺れない。1日で急激な変化なのか、そうでないのかは分からない。けどもこの結果は非常に彼女の精神的な支えになり、自信になった。 もっともっと大きくなあれ、そう祈った。
体育の時間、友人の木島 美保が話しかける。
「あれ? あんたちょっと胸膨らんでない?」
その一言に皆が近寄ってちやほやする。恥ずかしかったが、喜びもこみ上げる。
と、彼女の胸が膨らんだのには訳がある。それは、昨日の帰り道のことである。
――
「お〜い!」
男にしては一寸高めの声だ。何だろうと思うよりも、本能的に歩調が早くなった。
だが、声を掛けたそやつは、身長が2m近くの長身で、あっという間に彼女に追いついた。
「こいつを飲みゃ、おめの悩み、たぶんなくなっとおもうけっどなぁ?」
そんなさっきとは人違いの言葉が錠剤の入った瓶を渡されながら飛ぶ。
秋帆は、魔法にでも掛けられたかのように、そのまま瓶を受け取って、10秒ほど硬直していた。
だが、その硬直が解けると、あわててその瓶の周りを見る。 何もない。
中身を家に帰ってみてみようと思い、家路を急いだ。
家に帰り、瓶の中には外側には合わない、小さな錠剤が、15個ほど入っていて、色が違っていた。
紙が入っている。手にとって折り目を解く。
「この錠剤を飲むと、だいたい1日1カップ成長します。
成長を始めさせるときには、赤い錠剤を、
成長を止めたいときには、 青い錠剤を、
水と一緒に1回1錠飲んでください。
※この薬は併用できません
※この薬を一回飲んだら、次の薬が飲めるのは2週間後です」
彼女はこの文を読むなり瓶に紙をたたきつけた。アルファベットは
ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ
以上26文字だ。 2週間というのは14日。14カップ成長すると言うことは、今AAカップ。つまり・・・Nカップに成長すると言うことである。
そこまで大きくなりたくない・・・そう思って紙を裏返してみる。
「赤い錠剤を2つ一気に飲むと、1日に2カップ成長します。
このときは青い錠剤も2つ一気に飲んでください。
又、赤い錠剤を2つ飲んだときは、それから1ヶ月経ってから
青い錠剤を飲んでください」
なんだそれ。瓶を倒す。
倍の成長をし、しかも最低限でも更に倍になるということだ。
従って、56カップ成長すると言うことだ。こんな馬鹿な話があるだろうか。やってられない。
そう思うと、もう1枚あった。
「緑の錠剤を飲むと、1錠に付き5カップ成長します
これを巧く使えばいいかもしれません」
――これだ!
彼女の神経細胞が活動した。その瞬間反射的に水を取りに行った。
コップに水を注いだ。