ミーンミーンミーン
季節は夏真っ盛り。
夏の風物詩である蝉の声も五月蝿く感じる今日この頃。
哲史:「あっちーなぁ、なにが悲しくてこんな日に学校行かなきゃならないんだ・・・」
俺は秋山哲史(アキヤマ サトシ)
。
辺手高(へんてこう)に通う高校2年生。
好きな物は昼寝と運動。嫌いな物は勉強と牛乳。
剣道部に所属するごく一般的な高校生だ。
拓郎:「お〜っす哲史!なんだよ朝からぐったりしてんな〜」
哲史:「タク・・・そういうお前は朝っぱらから暑苦しいなぁ。」
後ろからハイテンションでやってきたこいつの名前は中村拓郎(ナカムラ タクロウ)。
俺とは小学校からの付き合いの幼なじみだ。
小学校二年の時に転校してきてまだ友達がいなかった俺に初めてできた心の友・・・・・・のはずだったのだが
拓郎:「そんなことより見ろよこれ!ついに、ついに買っちまったぜ。」
哲史:「買ったって何を?」
拓郎:「コレだよコレ。俺の愛しの牛山みるくちゃんの写真集!やっと手に入ったんだぜ!」
こいつは・・・ド変態だ。
小学生の頃は友達思いのいいやつだったのにどうしてこうなったのか幼なじみの俺にも分からない。
拓郎はこの性格のせいで女子からは引かれまくってるが本人曰わく「みるくちゃん以外に興味なし」だそうだ。
しかし牛山みるくだかなんだか知らないが牛乳嫌いの俺には吐き気のする芸名だ。
ベシッ
拓郎:「あだっ!」
哲史:「ん?」
拓郎の手からいい音がしたと同時に拓郎の手から「みるくちゃん」が落ちる。
そして地面に落ちたそれは一人の女性の手に渡った。
拓郎:「いっつー、あずさ!いきなりなにすんだよ!」
あずさ:「それはこっちの台詞よ!白昼堂々こんな猥褻物を持ち込んで秩序と道徳の学校をいったいなんだと思っているの!!」
拓郎にいきなり竹刀で「コテ」をあびせたこいつの名前は桐生あずさ(キリュウ アズサ)。
俺の所属する剣道部の部長で俺らの学年の生徒会長だ。
あずさは剣道の有段者で成績はいつも学年トップのまさに才色兼備な女性だ。
ただ先ほどの物言いから察しがつくようにかなりお堅い性格である。
拓郎:「まったく毎度毎度でっかい態度しやがって。でかいのは胸だけにしろ!」
ムギュッ
あずさ:「ひっ!!」
哲史:「いっ!!」
拓郎がいきなりあずさの胸を鷲掴みにする。
言い忘れたがあずさが学年トップなのは成績だけではない。
彼女は学年1位の巨乳の持ち主だ。(by拓郎データ)
おまけにスラッとしたスタイルをもあわせ持ち彼女を見て美人と思わない人はいないだろう。
しかし男が彼女の体を故意に触ろうものなら・・・・・・
あずさ:「断・罪」
ズダダダダダダ
拓郎:「ギャーーー」
・・・・・・こうなる。
彼女には今までで通算100人の痴漢を仕留めたという恐ろしい記録もあるくらいだ。
あずさ:「・・・まったく、次に同じことをしたらあんた達容赦しないからね!」
「達」って俺も入っているのか俺も・・・。
あずさ:「それとこれは先生に渡しておくから返してほしかったら放課後職員室に取りに行くのね。」
そう吐き捨てるとあずさは校舎の方へいってしまった。
哲史:「・・・おい、タク、大丈夫か?」
拓郎:「さ・・・と・・・し・・・」
全身を震わせながら地面に突っ伏す拓郎。
しかし
拓郎:「すげーよ、またあいつの胸大きくなってるぜ!両手でつかみきれねぇよ!」
哲史:「・・・・・・」
こいつはこいつで恐ろしい。
哲史:「ん?」
ふと気がつくと目の前に一人の女の子がたっている。
彼女の名前は本宮麗(モトミヤ レイ)。
凛とした顔立ちしなやかな体を持つ結構な美少女だが・・・
哲史:「・・・・・・」
麗:「・・・・・・」
哲史:「・・・おはよう」
麗:「・・・・・・」
哲史:(・・・く、空気が重い。)
彼女はとにかく無口だ。
彼女の周りの空気はいつも通常の2倍は重い。
哲史:「・・・・・・」
麗:「・・・・・・」
哲史:「・・・ハッ!もしかしてこれか?」
俺はそういうと横で突っ伏したままの拓郎を道脇へどかす。
すると彼女はなにもいわずスタスタといってしまった。
哲史:「・・・ったくどいてほしいならそういえよな。」
彼女はクラスでも全くといっていいほど喋らず表情も常に堅い。
彼女を笑わすことができれば幸せになれるという噂もあるくらいだ。
いままで何人もの生徒が彼女を笑わそうと奮闘したが、結果はすべてダメダメだった。
???:「おっはよ〜サッちゃん。」
バーン
哲史:「いだっ!?」
背中にものすごい音と衝撃がはしる。
???:「あはは、ごめ〜ん、強くたたきすぎちゃった。」
哲史:「・・・水春頼む、ほんの少しでいいから自分の力を理解してくれ。」
水春:「だからごめんごめん。だけどサッちゃんもタクちゃんも相変わらず朝から楽しそうだね。」
哲史:「これのどこがそう見えるんだ。それにそのサッちゃんはやめろといつもいってるだろ。」
彼女の名前は竹中水春(タケナカ ミハル)。
中学からの付き合いだが非常に明るいというかおっちょこちょいなやつでなに考えてるんだかよくわからない奴。
あと女子はともかく男子にも「ちゃん」をつけて呼ぶ奇妙なクセの持ち主でもあり、男子顔負けの怪力の持ち主でもある。
水春:「だれが怪力よぉ!!」
バン!!
哲史:「いっつ!!」
水春:「あはは、そんじゃね〜」
水春は反省の「は」の字も見せずに行ってしまった。
拓郎:「・・・水春ちゃんももう少し胸があったらなぁ。」
哲史:「タク・・・お前いっつもそればっかだなぁ。・・・つぅかいい加減起きろ!遅刻するぞ!」
しかし拓郎はそれでも起き上がらない・・・というか起き上がれないみたいなので仕方なく俺が肩をかしてやることにした。
哲史:「・・・ったくあずさのやつ再起不能になるまでやらなくてもいいじゃないか・・・・・・ん?」
背中に誰かの視線を感じる。
クルッ
振り返ってみても誰もいない。
今度はまた歩き始めるふりをして
クルッ
ササッ
哲史:「ん?」
今遠くの茂みが少し動いたような?
哲史:「・・・まぁ気のせいか。」
俺たちはそのまま学校へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
水春:「ねぇねぇ、たしか今度の土曜日って2人ともヒマだよねぇ?」
昼休み、教室で俺がいつものように拓郎からどうでもいいスケベ話を聞かされていると水春が突然声をかけてきた。
哲史:「ん?・・・あぁ、うちの部活は土曜は休みだぞ。」
拓郎:「俺は帰宅部だからモチ暇です。」
拓郎が誇らしげに親指を立てて前に突き出す。
それってそんなに威張れることじゃないだろ・・・・・・
水春:「じゃあさ、その日みんなで肝試しいかない?」
哲史&拓郎:「肝試し?」
水春:「ほら、一昔前まで有名だったでしょ。『黒き山の神隠し』。」
哲史:「ああ、数年前どっかの山に登った登山家達が一人残らずして消えたっていうあれか?」
水春:「そうそれそれぇ。じゃあさ、近くの山に古いお屋敷があるのも知ってる?」
拓郎:「ああ、あの気味悪がって誰も近づかないっていうボロ屋敷だろ?」
水春:「そのとおりぃ!実は例の『黒き山の神隠し』の元凶はあの屋敷で、今でも屋敷の中で登山家達の幽霊がさまよっているって話しだよぉ。」
拓郎:「登山家の中にオンナはいたのか?」
水春:「ん?いや、男ばっかりだったそうだよぉ。」
拓郎:「なんだよ、美人のオンナの霊に会えると思ったのに・・・」
コイツ幽霊をなんだと思ってるんだ?
水春:「まあ、とにかく今度の土曜そこに行ってみない?」
あずさ:「いけません!」
突然教室にあずさの声が鳴り響いた。
水春:「びっくりした〜、あずちゃんいきなり大声ださないでよぉ。」
水春は耳をおさえてしゃがみ込んでいる。
あずさ:「高校生だけで夜道を徘徊するなど学校の秩序に反します。断じて認めません。」
あずさは両方の拳を腰に当てて堂々と立っている。
・・・・・・しかしどこか慌てているようにも見えるが・・・。
水春:「えぇ〜そんなお堅いこと言わずに〜。」
ムニュッ
あずさ:「ひっ!!」
哲史:「いっ!!」
拓郎:「おおっ!!」
水春が素早くあずさの後ろに回り込みあずさの胸をしたからすくい上げる。
モニュン、モニュン
あずさ:「ちょっと!離しなさい!」
両手でかかえ上げるような形でつかまれたあずさの胸がムニムニと変形する。
水春:「うぉ〜相変わらずでけぇ〜乳だぁ〜。お嬢さまぁ、これでひとつお願いしますぜぇ。」
あずさ:「駄目に決まってるでしょ!・・・・・・キャウン!!」
キャ?キャウン?
あずさが普段からは想像もできないようなかわいい声をあげている。
っつうかお前ら!男子の目の前で乳くりあってんじゃねぇよ!
拓郎:「なぁ哲史(ヒソヒソ)」
哲史:「なんだよ。」
拓郎:「オンナどうしっていいよなぁ。」
・・・ダメだこりゃ
ムニュッ、ムニュッ
あずさ:「ちょっと!・・・いいかげん離しなさ・・・あぁ!」
水春:「そう言ってる割にはすごくいい反応ですねぇ〜」
拓郎:「・・・・・・(喜)」
哲史:「・・・・・・(呆)」
二人の乳くりあいはしばらく続いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後の剣道部にて
哲史:「ふぅ〜〜〜」
休憩時間に入り俺は武道場から外に出る。
練習後のヴォカリスウェットは最高だ。
あずさ:「ねぇ、哲史。」
哲史:「ん?」
ふり返るとあずさが武道場の入り口に立っている。
哲史:「どうした?あずさから話しかけてくるなんてめずらしいな。」
あずさ:「うるさいわね。・・・・・・哲史、あんた肝試し行くつもりなの?」
哲史:「ん?ああ、そのつもりだぜ。」
あずさ:「・・・そう」
そういうとあずさは下を向いてしまった
おかしい。
いつものあずさじゃない。
普通なら「絶対に行かせない。」って焼き入れてくるはずなのに・・・・・・ん?
背中に今朝と同じ視線を感じる。
クルリ
ガサッ
俺が振り向くとそれにあわせるように奥の茂みがガサッと動いた。
まて、あんな所に茂みなんてなかったぞ・・・
哲史:「誰だ!」
俺が大声で叫ぶと茂みからガサガサと音がして一人の少女が飛び出してきた。
哲史:「・・・・・・」
少女:「・・・・・・」
お互いそのまましばらく動かない。
あずさ:「あれ?美琴じゃないか。」
口を開いたのはあずさだった。
哲史:「美琴?」
あずさ:「あたしと同じクラスの子だよ。いつもおとなしい感じの子でそれに・・・・・・」
哲史:「おーい、そんなとこでなにしてんだぁー。」
俺が叫ぶとその少女はビクッとして茂みから走り出す。
あずさ:「かなりのドジっ子なんだ。」
哲史:「え?」
あずさの言葉を理解したときにはもう遅かった。
彼女の足は見事なまでに茂みに引っかかりバタンと転んでしまった。
哲史:「ああ大変だ。あずさ、俺のカバンから絆創膏とってきてくれ。」
あずさ:「わかったわ。」
あずさが武道場に入ったのを確認すると俺は急いで彼女のもとへ向かう。
哲史:「おい、大丈夫か?・・・ああ足を擦りむいたな。・・・立てるか?」
コクッ
彼女はちいさくうなづいた。
哲史:「よし、じゃあ近くの水道までいくぞ。・・・美琴ちゃんだっけ?」
美琴:「・・・・・・鈴原。」
哲史:「え?」
美琴:「・・・・・・鈴原美琴って言います。」
鈴原美琴(スズハラ ミコト)と名乗るその少女は華奢でかわいらしい感じの小柄な女の子だった。
何であんな茂みに隠れていたのか気になるが今はそれどころではないな。
哲史:「水で土を落とすからな、ちょっとシミるよ。」
美琴:「・・・・・・ハイ」
美琴は了解し蛇口の下に傷口を持ってくる。
それを確認した俺は蛇口をひねり、水を傷口にかける。
美琴:「ひゃう!」
哲史:「いっ!!」
突然の美琴の奇声に俺の体が思わずビクつく。
哲史:「ど、どうした?」
美琴:「なんでもないです・・・ちょっと、あうっ!チクッとしただけですから。」
チクッとしただけでなんて色っぽい声をだすんだ。
哲史:「・・・ん?、まだドロが落ちてないな。ハンカチでふくよ。」
美琴:「・・・ハイ、・・・ヒンッ!」
俺はハンカチをだして彼女の傷口のドロを拭き取る。
美琴:「ウゥ・・・・・・アウゥ!」
哲史:「もう少しだからおとなしくしてろ。・・・よし!」
俺がハンカチで彼女のドロを完全に拭き取った時
哲史:「ん?」
後ろでドドドドとすごい音が聞こてくる。
これは・・・殺気?
あずさ:「な・に・を・しとるか〜〜〜(怒)」
哲史:「おげぶっ」
あずさの飛び膝蹴りが炸裂!秋山哲史は意識を失った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
哲史:「まったく死ぬかと思ったぞ。」
あずさの飛び膝蹴りでまだ頭がクラクラする。
あずさ:「ゴメン、だって美琴が変な声あげてたから。」
まぁ確かに俺が美琴の足を触っていて美琴が変な声あげてるのを遠くから見たら誤解するのもわかるけど・・・
哲史:「・・・にしてもいきなり飛び膝蹴りはねぇだろ。飛び膝蹴りは。・・・あれ?、そういやあいつは?」
あずさ:「あそこ」
あずさが指差すと美琴が校舎の壁からこちらをのぞいている。
哲史:「・・・なにしてんの、あれ?」
あずさ:「彼女おとなしいっていうより極度の恥ずかしがり屋なの。だからいっつもああやって隠れてるのよ。」
哲史:「恥ずかしがり屋って・・・程度が激しすぎるだろ。」
あずさ:「それでさ、哲史。」
哲史:「ん?」
あずさ:「もう一度聞くけど肝試し本当にいくの?」
哲史:「ああ、そのつもりだぜ。・・・・・・何で二回も聞くんだ?」
あずさ:「べっ、別に何でもないわよ。・・・もう。」
哲史:「???」
それから俺たちは部活に戻ったが美琴の視線はそれからもずっと感じられた。
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肝試し当日
哲史:「わりぃ、遅れた。」
拓郎:「おっせーぞ、哲史!」
水春:「本当だよ。レディーを待たせるなんて最低だぞぉ!」
哲史:「ん?だれがレディーだって?」
ドスッ
哲史:「おぶっ!!」
水春の右ストレートが哲史の腹に直撃!
哲史に185のダメージ。
あずさ:「今のは哲史が悪い。」
哲史:「悪かったな。・・・ってあれ?何であずさがいるんだ?あんなに反対してたのに。」
あずさ:「か、勘違いしないでね、これは生徒会長として同じ学年の生徒の安全を守る為の活動であって・・・ウンタラカンタラ」
哲史:「ふ〜ん、そう。」
めんどくさそうなので聞き流すことにした。
哲史:「えぇ〜っと、他には誰がいるんだ?」
麗:「・・・・・・」
哲史:「・・・・・・」
麗:「・・・・・・」
く、空気が重い。
哲史:「おい、なんでこいつもいるんだ?」
水春:「ああ、水春がそこの道でバッタリ会ったから連れてきたんだよ。」
哲史:「連れてきたってこいつ承諾したのか?」
水春:「うん、目ではっきり『行く!』って言ってたよ。」
哲史:「目でって・・・」
こいつのプラス思考は見習うべきかもしれない。
麗:「・・・・・・」
しかしどうもこういう奴は苦手だ。
哲史:「あずさ、これで全員か?」
あずさ:「ううん、ここにもう一人。」
哲史:「ん?」
よく見るとあずさの後ろからこちらをうかがう姿がひとつ。
哲史:「・・・美琴もいたのか。」
どうやら美琴はあずさにはなついているらしい。
拓郎:「しっかし見れば見るほどボロい屋敷だなぁ。」
タクのいうとおり俺達の目の前にある屋敷はかなり古びており外装の木材は完全に黒ずんでいてそこら中に蜘蛛の巣が張り巡らされている。
水春:「でしょでしょ。いかにも何かでそうって感じでしょう!」
哲史:「水春、それは嬉しそうに語ることじゃないぞ。」
水春:「気にしない気にしない。さーてと、みんなそろったことだしそろそろいきましょーか。」
全員:「おう!」「ハイ!」
こうして俺達は屋敷の中へと踏み込んだ。
そこが地獄だということも知らずに・・・