乳神隠し 第5章

初心者 作
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     ここは・・・・・・

     体が軽い。

     頭のあたりがフワフワする。

     ああ・・・そうか。

     死んじまったんだ。俺。

     あずさ達と別れた後あの幽霊に立ち向かって、幽霊は実はサキュバスで、おっぱいを押し付けられて窒息死かぁ・・・

     なんとも情けない最期だったなぁ・・・

フィル:「あっ!気がついた!」

 哲史:「うおわああああ!」

     いきなり視界にフィルが現れ、俺は現実に引き戻された。

フィル:「い、いきなり大声ださないでよ!びっくりしたじゃないか!」

 哲史:「それはこっちのセリフだ!お前俺が気ぃ失っている間に何やってた!」

フィル:「何って・・・膝枕?」

 哲史:「はぁ?」

     フィルのあまりに間抜けな返事に拍子抜けする。

フィル:「ボクのせいで気絶させちゃったから悪いと思って。・・・迷惑だった?」

 哲史:「いや、迷惑というか・・・気持ちよかったけど・・・」

フィル:「ほんと!良かった!」

     そう言うとフィルは嬉しそうに曇りのない笑顔を浮かべる。

     その笑顔はとても夢魔のものとは思えないほど晴れやかだった。

     まるで天使のような・・・って何言ってんだ俺は。

     俺は照れくさくなって頬を指でポリポリと掻く。

フィル:「どうしたの?」

 哲史:「お前さぁ、ほんとにサキュバスなのか?」

フィル:「サキュバスだよ!何度も言ったじゃないか!」

 哲史:「あのなぁサキュバスなら俺が眠っている間に精力なりなんなり吸収するもんだろ?普通。」

フィル:「え?・・・ああ〜〜〜!本当だ!なんで気絶する前に言ってくれなかったんだよ〜!」

 哲史:「無茶言うな。」

フィル:「そっか〜、そうすればよかったんだ〜。なるほど〜。」

     フィルは人差し指を唇に当てて感動の眼差しを見せている。

 哲史:「サキュバスが人間に教えられてどうする。」

フィル:「あははは、そうだね。」

     照れくさそうに頭に手をやって笑うフィル。

 哲史:(そこは否定しろよ・・・)

     なんか眠りから覚めたばっかりなのにどっと疲れた。

フィル:「あのさぁ〜」

     フィルが唐突に口を開く。

 哲史:「何だ。」

フィル:「教えてほしいことがあるんだけど。」

 哲史:「・・・さっきサキュバスが人間に教えられてどうすると言ったはずだが。」

フィル:「いいよ。じゃあ聞かない。」

     フィルは真顔でそう答える。

     真顔なのが逆に怖い。

 哲史:「冗談だ。何を聞きたいんだ?」

フィル:「君の名前!」

 哲史:「・・・秋山哲史。」

フィル:「サトシ・・・ぷっ、変な名前!」

     生まれてこのかた『哲史』を変な名前と言われたのは初めてだ。

     それでも嫌みを感じないのはフィルの性格のせいだろうがなんというかやはり・・・

フィル:「サキュバスっぽくない・・・でしょ?」

     ドキッ

     思っていることを言い当てられドキッとしてしまう。

フィル:「わかってるんだ。ボクはサキュバスに全然向いていないって。昔っから何をやっても失敗ばっかりでマスターからも散々クズ呼ばわりされてるし。
     つい最近テレビで見た幽霊を参考にして少しはマシになったかなって思ったけど哲史みたいに見破られちゃうとこの有り様だしね・・・」

 哲史:「・・・・・・」

     なるほど、あの幽霊の格好はテレビのホラー映画を真似たわけね。・・・ってちょっと待て!なんで俺は今サキュバスから人生相談されてるんだ!?

フィル:「ボクってダメだよね。こんなんじゃマスターに消されちゃうかもしれないや。」

 哲史:「・・・・・・」

     あぁクソッ!

     いくらサキュバスでもこんな弱いとこ見せられたらほっとけないじゃないか・・・。

 哲史:「まぁ、そのっ、なんだ。」

     俺はタジタジになりながらも口を開いた。

 哲史:「お前はいままでマスターの為に自分を捨ててまで頑張ってきたんだろ。俺はそんなお前がクズなんかにはとても見えない。むしろ尊敬する。」

フィル:「えっ!?」

     フィルは目をまん丸にしてこっちを見る。

 哲史:「その・・・フィルはすごい頑張り屋だよ。うん。俺もあの必死なフィルの攻めにはビビったね。いやマジで。」

     って俺は何言ってんだぁぁぁ!
  
     こんなのフォローになってないじゃないかぁー!

     最低だよ最低!

     俺は恥ずかしさのあまり頭を抱えてうずくまる。

フィル:「哲史・・・」

 哲史:「ん?」

     俺が振り返ると・・・一瞬時間が止まった。

     フィルの目から大粒の涙が1つまた1つとこぼれ落ちていたのだ。

 哲史:(な、泣かせちまったー!!)

     心の中で激しく悶え苦しむ俺。

 哲史:「ご、ごごごごめん!そんなつもりじゃ・・・」

フィル:「ううん、違う。嬉しいんだ。」

 哲史:「え?」

フィル:「いままでボクの事をほめてくれた人なんていなかったから。ほめられるってこんなに嬉しいことだったんだね。」

 哲史:「あ・・・ああ・・・それはよかった。」

     俺たちはいつの間にか互いが違う種族だということも忘れて笑いあっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 哲史:「フィル・・・俺もお前に教えてほしいことがあるんだ。」

フィル:「なに?」

 哲史:「水春やタクの・・・俺の友達の助け方を教えてほしい。」

フィル:「友達って何?」

 哲史:「うーん、そうだなぁ。どんなことがあってもお互いを信頼しあって一緒に助けあったり、遊んだりできる仲間のこと・・・かな。」

フィル:「友達・・・」

     フィルは急に下を向いてもじもじし始めた。

 哲史:「どうした?」

フィル:「ボクも・・・」

 哲史:「ん?」

フィル:「ボクも哲史と・・・とっ、友達になれるかな?」

     フィルは頬を赤くしながら言った。

     俺の答えは決まっている。

 哲史:「当たり前だろ。」

フィル:「あっ。」

     俺はそう言ってフィルの頭をなでた。

 哲史:「俺はもう、お前を友達だと思ってるよ。」

フィル:「あ・・・ありがとう哲史。すごく・・・嬉しい。」

     フィルは照れくさそうに下を向いて笑った。

 哲史:「俺は友達を助けたいと思っている。たとえ自分がどうなっても。今、俺の友達が性魂のせいで苦しんでるんだ。
     だからフィルに俺の友達を救うための方法を教えてほしい。」

フィル:「分かった。それじゃあ地下牢にいこう!友達を助けに。」

 哲史:「いや、まずは水春の助け方を教えてほしい。性魂は成仏させたが体がもとに戻らなくて苦しんでるんだ。」

フィル:「だから地下牢に向かおう!」

 哲史:「いや、だからタクよりも水春を先に・・・」

フィル:「え?あの男の人『水春 タク』さんじゃないの?」

 哲史:「違う、違う。お前男の人の後に女の人に会ったろ?」

フィル:「ううん、ボクが会ったのは男の人だけだよ。」

     あれ?話がかみ合わないぞ?

 哲史:「え?だってお前女の人に性魂を飲ませたんだろ?」

フィル:「え?違うよ。ボクは性魂を作ることはできるけど取り憑かせることはまだできないんだ。それができるのはキュレルさん。」

 哲史:「は?」

     俺の中に嫌な考えが浮かんでくる。

 哲史:「・・・つまり、サキュバスはお前の他にもう一人いるのか?」

フィル:「うん、ボクともう一人キュレルさんって人がいるよ。・・・どうしたの?」

     俺の体が震えだす。

     俺は何て思い違いをしていたんだ!

     考えてみれば幽霊が一人しかいないなんて決まっているわけがなかったんだ!

フィル:「哲史、どうしたの?」

     俺は叫んだ。

 哲史:「みんなが危ない!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あずさ:「ふぅー!」

  麗:「ここからは交代で見張りをしましょう。まずは私が外で見張りをするからあなた達はここで休んでて。」

あずさ:「ありがとう。でも大丈夫?本宮さんも疲れてるんじゃ?」

  麗:「私のことは麗でいいわ。それに大丈夫。私はこういうのに慣れてるから。」

     バタン

     そう言うと麗さんは部屋から出て行ってしまった。

     あの幽霊から哲史のおかげで逃げ延びた私達は麗さんの案内で屋敷の隅っこの部屋に逃げ込んだ。

     麗さんが言うには、ここの監視カメラは壊れているから他の部屋よりは安全。とのこと。

     私達は哲史のおかげでこの部屋に逃げることができた。

     でも哲史はまだ戻ってこない。

あずさ:「哲史、大丈夫かな?」

     不意にそんな言葉を口走る。

     大丈夫であるとを信じていても最悪の展開の想像は心のどこかにいつもあった。

 美琴:「だ、大丈夫ですよ!秋山さんならきっと・・・」

     美琴がこちらからも分かるくらいオロオロしている。

     そりゃあそうね。だって美琴は・・・

あずさ:「あいつはね。昔っからああいう奴だったんだ。」

     私はどういう成り行きか分からないけど突然昔話を始めてしまった。

あずさ:「私がまだ中学生の頃ね。その頃も私は今のように生徒会長をやってたの。それでね。
     ある日私は本屋に言ったときに偶然万引きしている高校生の人達を見つけてしまったの。
     当時私は剣道もまだそんなにうまくなかったし、なにより自分なら何でも出来るなんて思ってしまってた。
     それで私はその人達を叱りつけてしまったの。そしたら私は当然返り討ちにあって路地裏に追い込まれてしまった。
     あの時は本当に怖かったのを覚えている。」

 美琴:「・・・・・・」

あずさ:「・・・でもね。その人達に襲われそうになったときに私の前に哲史がいきなり立ちふさがったの。
     だけど高校生3人相手にかなうわけもなくてボコボコにされちゃったの。その3人が立ち去った後、
     私が大丈夫って駆け寄ったら彼何て言ったと思う?『ケガがなくてよかった。』って言ったのよ。
     自分はボロボロなのに・・・哲史は昔から自分のことよりも人のことを優先する奴だから。
     その頃からかなぁ、私が剣道を真剣にやりだしたのは。あの時感じた自分の無力さが情けなかったのね。」

 美琴:「あのぅ・・・」

あずさ:「ん?」

     美琴が両手の人差し指をツンツンさせてもじもじしている。

 美琴:「あずさちゃんは・・・その・・・秋山さんのこと・・・」

あずさ:「・・・美琴とおんなじだよ。」

 美琴:「えっ!?」

     美琴の目がまん丸になる。

あずさ:「美琴も哲史のことが好きなんでしょ。」

 美琴:「えっ!そんな・・・ど、どうしてですか?」

あずさ:「美琴の行動見てたら分かるわよ。美琴があんなに隠れるのは哲史の前だけだもん。気づいてないのはあの鈍感だけ。」

 美琴:「えっと・・・それは・・・」

     美琴は恥ずかしそうに下を向いてしまっている。

あずさ:「・・・でも、それも今日までかなぁ。」

 美琴:「えっ!?」

あずさ:「私達はもうここから出られないような気がするの。・・・水春もこんな状態だし、入り口は開かないし。こんな所に隠れたって無駄なんじゃないかって。」

     心がだんだん闇に引きずり込まれていくのを私は感じていた。

 美琴:「・・・あきらめちゃだめだ!」

あずさ:「え!?」

     突然の美琴の大声に驚いてしまう。

 美琴:「・・・って秋山さんならそう言うと思います。・・・あずさちゃんの言うとおりです。
     私も秋山さんのことが好きです。でも秋山さんは私達がここであきらめたらきっと悲しみます。
     あずさちゃん。秋山さんと、いいえ哲史さんと一緒にここから出ましょう。
     そしてまたみんなで笑いましょうよ。友達として、ライバルとして。」

あずさ:「・・・・・・」

     私は今まで美琴の気持ちを知りながらも美琴のことをどこか妹のように思っていた。

     でも違った。

     美琴は私が思っていたよりもずっと大人だったんだ。

     ここで私が弱音をはいたら哲史に怒られちゃうな・・・。

あずさ:「そうね美琴。私達は友達で恋のライバルね。」

 美琴:「ハイッ!」

     美琴は嬉しそうにニコッと笑った。

あずさ:「・・・そういえば美琴はいつから哲史を好きになったの?」

 美琴:「えっ!?わっ、私ですか?」

あずさ:「いいじゃない、私も言ったんだから教えてくれたって。恋のライバルなんだから正々堂々、お互い隠し事ナシにしましょうよ。」

 美琴:「それは・・・その・・・ですね・・・」

     バタン。

  麗:「恋バナはその辺にして、そろそろ交代の時間よ。」

 美琴:「あっ!はい。次は私が行きますね。」

     麗さんが部屋に戻ってくると美琴は逃げるように部屋を出て行った。

  麗:「・・・さてと。」

     麗さんが私の前でゆっくりと腰をおろす。

  麗:「あなた・・・秋山君が生きて帰ってくると思う?」

あずさ:「えっ!?」

     いきなりずっと私の頭の中で避けていた話題をぶつけられて、私はうろたえてしまった。

あずさ:「・・・麗さんはどう思います?」

  麗:「・・・可能性はかなり低いわね。相手は私達の想像を根底からくつがえすほどの力を持っている。
     彼のデッキブラシじゃ万に一つも勝ち目はないわ。」

あずさ:「そんな・・・」

  麗:「・・・勝ち目『は』ないけどね。」

あずさ:「えっ?」

  麗:「さっきも言った通り性魂は頭の中が性欲でいっぱいにならないと作れない。
     言い換えれば性欲でいっぱいにさえならなければ性魂にされることはないわ。
     彼はあなたもよく知ってるようにあんな性格だから彼の理性がどこまでもつかがカギね。」

あずさ:「そ・・・そうよね。哲史なら・・・・・・不安だ。」

     私はガックリ肩を落とした。

  麗:「まぁ頼りないのは分かるけど、今私達にできることは彼の無事を願ってあげることじゃないかしら。」

あずさ:「・・・・・・」

     そうよね。

     今ここでジタバタしても意味ないよね。

     きっと哲史は無事に帰ってくる。

     だから私にできることは哲史が守ったみんなを今度は私が守ること。

  麗:「・・・もう大丈夫みたいね。」

あずさ:「・・・うん。麗さん、ありがとう。」

  麗:「さてと、そろそろ交代の時間ね。鈴原さんを呼んできてくれない?」

あずさ:「分かったわ。」

     私は立ち上がってドアを開ける。

     ガチャッ

あずさ:「美琴!交代の・・・!?」

     頭の中が真っ白になった。

     ドアの前に立っている筈の美琴の姿がどこにもない。

     ミコト?

     ミコトミコトミコトミコトミコトミコトー!!

     辺りを必死に見渡すが美琴の姿はどこにも見えない。

     代わりに美琴の持っていたライターと花火だけがポツンと床に残されていた。

あずさ:「うわあああああああああああ!!」

     私は絶叫した。

     哲史から託されたモノをいきなり1つ奪われてしまった自分への憤慨が私の心に深々と突き刺さる。

  麗:「桐生さん!どうしたの!?」

     麗さんが慌てて近寄ってくるがその声はもう私には届かない。

     美琴を奪われた。

     やっと本当の気持ちを言えたのに。

     許さない。

     許さない許さない許さない!

     ・・・そうだ。

     奪われたのなら奪い返せばいいんだ。

     フフフフフフフフフ。

     私は近くに落ちていた長い木片を握りしめて闇の中を歩き出す。

  麗:「待ちなさい桐生さん!1人じゃ危ない!」

     麗さんが何か言っているけどそんなことはどうでもいい。

     私は美琴を取り返す。

     どんな事をしても。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィル:「ちょっとどうしたの!?いきなり走り出してー!」

     俺は全力疾走で突っ走る。

 哲史:「サキュバスがもう一人いるならみんながソイツに襲われるかもしれないんだ!急がないとみんなが!」

フィル:「ボクもう疲れたよ〜」

 哲史:「飛べるクセになに言ってんだよ!」

フィル:「哲史には分からないだろうけど、飛ぶのって結構体力使うんだよ。・・・だいたいみんながどこにいるか分かってるの?」

     ピタッ

フィル:「ふにゃっ!!・・・い、いきなり止まらないでよ!うぅ〜鼻打った。」

 哲史:「そういや・・・みんながどこに行くか聞いてなかった。」

フィル:「じゃあ今までどこに向かってるのか分からずに走ってたの〜!?」

 哲史:「・・・わりぃ。」

フィル:「はにゃ〜〜〜」

     フィルはヘニャヘニャとその場に座り込んだ。

     ダメだ、落ち着け。

     今は一分一秒も無駄にはできないんだ。

     なにをすべきかよく考えろ!

フィル:「哲史〜!」

     考えろ!考えるんだ!

フィル:「さ〜と〜し〜!」

     どうする!どうすればいい!

フィル:「お〜い!」

    ・・・・・・・・・・・・

フィル:「・・・無視するなぁ〜〜〜(怒)!!」

     ガンッ

 哲史:「ぶほっ!?」

     フィルのデッキブラシの豪快なスウィングがクリーンヒット!

     俺はそのまま床にたたきつけられた。

フィル:「あっ!?大丈夫!?」

 哲史:「フィル・・・お前は今から『デッキブラシは凶器になる』ということを頭に叩き込んどけ。」

フィル:「了解しました!」

 哲史:「つぅ・・・でいきなりなんだよ。こっちは今大事なこと考えてんのに。」

フィル:「大事なことって?」

 哲史:「う・・・それは・・・」

     考えてはいるものの何一ついい案が浮かんでなかったので返答に困る。

 哲史:「い、いろいろだ、いろいろ!」

フィル:「なにそれ?哲史って変な人間だね。」

     フィルに悪気がまったくないのが逆に腹が立つ。

 哲史:「・・・で、お前の方はなんだったんだ。」

フィル:「うん。・・・あのね。別に大した事じゃないんだけど。」

 哲史:「言えよ、気になるだろ。」

フィル:「うん・・・さっき向こうで人間の女の子の『うわあああ』って叫び声がしたよ。」

 哲史:「・・・・・・ってなにぃぃぃぃぃ!!!???かなり『大した事』じゃないかぁぁぁ!」

フィル:「うるさぁ〜い!!」

 哲史:「あっ、すいません。・・・それで悲鳴は?」

フィル:「あっちから聞こえて来たよ。」

 哲史:「すげー、さすがサキュバスだな。」

フィル:「えっへん!」

     フィルは誇らしげにドヤ顔をする。

 哲史:「よし!じゃあ行くぞ!」

フィル:「あ!待って!」

     フィルが突然呼び止めた。

 哲史:「どうした?はやく行かねぇと。」

フィル:「もう疲れて動けないよぉ。」

     ズルッ

     俺は思わずずっこけてしまった。

     さっきのドヤ顔はどこいったんだ。

 哲史:「サキュバスのくせになに言ってるんだお前はー!」

フィル:「サキュバスだって疲れるもんは疲れるの!・・・そうだ哲史、ボクをおぶってよ。」

 哲史:「なにぃ!?」

フィル:「『大した事』教えてあげたからいいじゃない。」

 哲史:「ふざけるな!俺は早く行かなきゃ」

フィル:「おねがい・・・」

     う・・・・・・

フィル:「頑張って〜哲史!」

 哲史:「分かったから身を乗り出すな!」

     結局おぶって行くことになってしまった。

     あの両手合わせからのウィンクは反則だろ・・・

     それはともかくさっきから背中に柔らかいモノがプニプニ当たってきてるんだが・・・ってええい!煩悩退散!!

フィル:「哲史今エッチなこと考えてたでしょ。」

 哲史:「か、考えてねぇよ!」

フィル:「うそだぁ〜!だってボクのおっぱいに哲史の性欲が入ってきてたよ。」

 哲史:「・・・あんまり男の前でそういうこと言うな。ひくぞ。」

フィル:「ええっ!?やだぁ〜ひかないでぇ〜!」

     ギュ〜〜〜

 哲史:「だぁ〜!分かったから引っ付くな!(扱いやすいヤツ・・・)」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィル:「こっちこっち!」

 哲史:「分かった!こっちだな!」

     俺はフィルの言うとおりに無我夢中で走った。

     しばらく走っていると前方に人影が見えてくる。

     あれは・・・麗!

 哲史:「おーい!麗!」

     麗が驚いた表情でこっちを振り向く。

  麗:「秋山くん!あなた生きてたの!?」

 哲史:「勝手に殺すな!それよりみんなは?」

  麗:「まずい事になったわ。桐生さんが・・・」

     俺は麗からここで起きた事すべてを聞かされた。

 哲史:「くそっ、俺がもう少し早くついていたら!」

  麗:「秋山くんのせいじゃないわ。私が桐生さんを止めていれば・・・」

 哲史:「・・・・・・」

  麗:「何?」

 哲史:「いや、いつもなら罵ってくるのに珍しいなと思って。」

     麗の顔が赤くなった。・・・ような気がした。

  麗:「そんなことより秋山くん。それなに?」

 哲史:「それ?・・・あ!」

     麗の指は俺の背中で不思議そうに麗を見つめるフィルを差している。

     しまった!

 哲史:「ああ・・・こいつは・・・その・・・」

     う、うまい言い訳が見つからない。

  麗:「人間じゃないわね・・・。」

     麗の雰囲気が怪しくなってくる。

     ダメだ!早くなんとかしないと・・・。

フィル:「ねぇ哲史。」

 哲史:「なんだよ。」

フィル:「この人も哲史の友達?」

 哲史:「ああ、そうだよ。それがどうした?」

フィル:「アハハハ!」

 哲史:「!?」

     突然フィルが麗を指差して笑い出した。

  麗:「私の顔に何かついてるのかしら?」

     まずい、麗の雰囲気がますます怪しくなってきている。

 哲史:「お前!何いきなり笑ってんだよ。」

フィル:「アハハ・・・だってあの人の髪型まるでトイレの花子さんみたい!」

 哲史:「お前!バッ・・・」

     プッツン

     今何かが切れる音がしたような・・・

  麗:「秋山くん、その子『やる』からどいてちょうだい。」

     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

     まずい、あの目は本気だ!

 哲史:「だぁ〜〜〜!待て待て!」

     ・・・その後、俺はみんなと別れた後の事を麗に話した。

     なぜか正座したままだ。

  麗:「ふぅーん、私たちが逃げている間にあなたは第2の不純行為をしていたと。」

 哲史:「だからあれは泣いてせがまれたから仕方なく・・・」

     キッ

 哲史:「・・・すいません。」

     麗のガン飛ばし1つで俺の反論する勇気は消え去ってしまった。

     その後も麗の説教は続いた。

  麗:「ふぅ・・・まだ言いたいことは山ほどあるけどもういいわ。それより鈴原さんと桐生さんを探さないと。」

 哲史:「フィル、何か聞こえるか?」

フィル:「ちょっと待ってて、・・・・・・遠くで女の子の声が聞こえるよ。」

  麗:「・・・なんなのこの子は。」

 哲史:「説明はあとでするから。俺とフィルは2人を探しに行ってくるから麗は引き続きここで待機しといてくれるか?」

  麗:「分かったわ。必ず見つけてくるのよ。」

 哲史:「まかせろ!」

     俺とフィルは再び走り出した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 美琴:「う・・・」

     ここはどこでしょう。

     窓から月明かりが差し込んでいる。

     どこかの部屋かな?

     口の中がなんか生暖かい。

     確か私は部屋の外で見張りをしてて・・・

     そしたらいきなり誰かに襲われて・・・!!

     ハッと我に帰ると目の前にあの幽霊がこちらを見つめて立っている。

 美琴:「あ・・・あ・・・」

     怖くて息ができない。

     どうして?

     あなたがここにいるって事は哲史さんは!哲史さんはどうなったの!

     そう叫ぼうとしても声は喉元でかき消される。

???:「・・・アト、フタリ」

 美琴:(え?)

     そう呟くとその幽霊は頭からスゥーッと消えていってしまう。

 美琴:「ま、待って!哲史さんは!」

     やっと声が出たけれど、その幽霊は完全に消え去ってしまった。

 美琴:「そんな・・・哲史さん・・・ウッウッ・・・」

     床にポツポツと水滴が落ちる。

     どうする事もできない悲しみが私の心を締め付けていく。

     ドクン

 美琴:「ひうっ!?」

     突然私の体に衝撃がはしった。

     ドクン、ドクン、ドクン

     なにこれ!?体が燃えるように熱い。

???:「ふぅ〜!やっと出られたか!」

 美琴:「!!」

     何ですかこれ!?

     頭の中で声がする。

???:「あん?なんだこんなちっこいのが俺のウツワかよ!はぁーガッカリだぜ。」

 美琴:「誰?あなた誰なの?」

???:「お前に質問する権限はねぇよ。俺は筑前寺 翔馬(チクゼンジ ショウマ)享年25歳だ。」

 美琴:(・・・質問に答えてるじゃないですか。)

 翔馬:「性魂となってからこの10年間たまりにたまって俺の性欲!いまお前の体で満たしてやるぞ!」

 美琴:「やめてくださいチクショウさん!」

 翔馬:「勝手に略すな!しかし俺の性欲を満たすにはあまりにも貧相な体だ。」

     グサッ

     普段から自分の体にコンプレックスを抱えていただけにすごいショックです。

 翔馬:「まずは体を俺好みに改造させて貰うぞ!」

 美琴:「!!」

     私の頭に水春さんの姿が浮かんでくる。

     マズい!

     ドクン

 美琴:「ううっ・・・」

     さっきより強い衝撃が私の中に流れ込んでくる。

     ドクン!ドクン!

 美琴:「ああ・・・体が・・・体が熱い。」

     全身を駆け巡る衝撃に私の体は膝をついて座り込んでしまった。

     ぐぐっ、ぐぐぐぐっ

 美琴:(私の体が・・・成長してる!?)

     目を疑った。

     コンプレックスだった私の身長がぐんぐん伸びる。

     脚は細さを保ったままどんどん伸びていき、自分でも驚くほどのスラッとした綺麗な脚になる。

     そして手は指先からキュッと引き締まるとそのままスルスルと伸び、まるでモデルのような手になってしまった。

 美琴:「あああ・・・服が・・・キツい。」

 翔馬:「体の方はこれくらいがいいだろ。次は『ボンッ』の方だ。」

 美琴:「服を・・・服をなんとかしてくださ・・・ああっ!!」

     私がそう言い切る前にものすごい衝撃が胸に集中する。

     ぐぐぐっ、ぐぐぐっ

 美琴:「い、いやあああ!?」

     もともと平らだった私の胸がムクムクと丸みを帯びてきて私のブラにミチミチと詰め込まれていく。

 美琴:「い、息が・・・苦し・・・ああっ!」

     ぐぐぐぐぐぐっ

     ムクムクと膨らむ胸を締め付けるブラはまるで外側から押さえつけられるような圧迫感を私に感じさせる。

     ぐぐぐっ、ぐぐぐぐっ

 美琴:「ん・・・んんっ」

     ビッ

 美琴:(えっ?なに?今の音?)

     ビリビリッ・・・ブツン!

 美琴:「きゃっ!?」

     何かがはじける音がしたと思ったその瞬間、背中からブラのホックが弾け飛んだ。

     抑えを失った私の胸は、窮屈な服の中で大きくブルンと揺れる。

 美琴:「こんなの・・・こんなのいやあああ!」

 翔馬:「まだまだいくぞ!」

     ぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!

 美琴:(ま・・・まだ大きくなる!?)

     ブラという拘束具を失った私の胸は先ほどよりも勢いよく膨らみ、私の服がミチミチと音をたてている。

 美琴:「お願いです・・・止めてください・・・」

 翔馬:「誰が止めるかよ!」

     ムクムクムクムク!

 美琴:「ああ・・・ん・・・んんっ・・・ああああ!」

     パァン

     今まさに服の拘束を破ろうとしている私の胸が胸の先端にあるボタンを吹き飛ばした!その波紋は第2、第3のボタンへと広がっていく。

 美琴:「こ、これ以上はやめてぇ!いやあああ!」

     パァン!・・・パパパパァン!

 美琴:「ひゃああああ!?」

     ついに服のボタンが全て弾け飛び、私の胸がブルンと大きく飛び出した。

 美琴:「ハァ・・・ハァ・・・いやぁ・・・私の体がぁ・・・」

 翔馬:「よぉし、これくらいでいいだろ。もう揉みたくて魂がウズウズしてるぜ!」

     ガバッ

 美琴:「えっ!?・・・きゃあ!?」

     突然私の手がムクリと動くと私の胸につかみかかった!

     ムニュンムニュン

     美琴:「は・・・ん・・・ん・・・ああぁ!」

 翔馬:「さすが俺様だ。弾力も感度もバッチリだ。さて、もっと感じさせてもらうぞ!」

     モミモミモミモミ

 美琴:「いやぁ・・・やめてぇ・・・」

 翔馬:「ほぅ、ずいぶん色っぽい声だすじゃないか。そんな声出されちゃあやめられないな。」

 美琴:「そ、そんな・・・ひうっ!?」

     胸を激しく揉まれる度に頭の中が変になりそうになる。

 美琴:(だっ・・・だめっ・・・私おかしくなっちゃう。)

     だんだん頭がボォーッとしてくる。

     モニュンモニュンモニュン

 美琴:「はぁん・・・あっ・・・ん・・・んっ・・・あああ!」

 翔馬:「おお〜。なかなかいい反応だ。お前実は相当な敏感肌だな。」

     ムニュムニュムニュ

 美琴:「ふわあああん!・・・あっ・・・あああ!」

     胸がどんどん熱くなっていく。

     自分の胸が上下に揉まれる度に私の体はビクン、ビクン、と反応してしまう。

 翔馬:「はははは!なかなか心地よい快感だな!さて、ここを弄ったらどうなるかな?」

     そう声がすると私の手がスッと胸の先端に移動する。

     まさか・・・

     気づいた時には遅かった。私の手は先端に移動すると私のプルプル震える乳首につかみかかった。

     ギュッ!

 美琴:「ふわああああああああ!?」

     今までとはケタ違いの衝撃がまるで電撃のように全身を流れる。

 翔馬:「うおっ!?これは予想外の快感だ。こんなにすごいとは思わなかったぜ。」

     ギュッ!ギュッ!

 美琴:「あああああん!いやああああああああ!」

     乳首を激しく弄くられるとともに、ゾクッゾクッとした感覚が頭を突き抜ける。

     ムギュッ!ムギュッ!

 美琴:「ひゃあああああああああ(だっ、だめっ!これ以上やられたら私、おかしくなっちゃうぅぅぅ!)」

 翔馬:「そぉら!トドメだ!」

     ギューーーーーーー!!

 美琴:「あああああああああ!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィル:「ここ、ここ。この部屋から声がするよ!」

 哲史:「分かった!飛び込むぞ!」

     バンッ!

     俺達は部屋のなかへ突入した!

 哲史:「おいっ!大丈夫・・・!?」

     誰だ?

     まず最初にその一言が頭に浮ぶ。

     目の前ではまるでモデルのようなスタイルをした美女が自分の胸を弄くりまわしていたのだ。

     しかし顔立ちや髪型が美琴と同じ感じがする。

 美琴:(ハァ・・・ハァ・・・哲史・・・さん?)

 哲史:「美琴・・・なのか?」

     その美女は力なく頷いた。

 美琴:(そんな・・・だって哲史さんは・・・)

 哲史:「おい美琴!大丈夫か!しっかりしろ!」

 美琴:(これは・・・夢?・・・そう・・・夢よね。)

フィル:「哲史!まだ性魂が取り憑いてるよ!早く成仏させないと!」

 美琴:(そっか・・・これは夢なのね・・・哲史さん、夢の中にまで私を心配して来てくれたんですね。・・・嬉しい。)

 哲史:「分かってる!・・・だが症状が症状なだけにどうすれば成仏するのか・・・」

 美琴:(どうせ夢なら・・・私・・・哲史さんと・・・してもいいよね・・・)

     スッ

 哲史:「ん?」

     美琴の手が俺の手に重なる。

 美琴:(哲史さん・・・私・・・)

 哲史:「美琴?どうし・・・たぁ!?」

     美琴は俺の手を取ると、そのまま自分の胸に押し付けた。

     ムニュン

     美琴の胸が俺の手によってムニッと変形する。

 哲史:「み、美琴!?いったい何を!?」

     俺の問いかけをいっさい無視して美琴は俺の手をひたすら動かす。

 美琴:(さ・・・哲史さん・・・お願いします。この夢が覚める前に私と・・・)

 翔馬:(ほぅ、自分で揉むのもいいが他人に揉まれるっていうのもなかなか気持ち良さそうだ。どれ、しばらく好きにさせてやるか・・・)

     ムニムニムニムニ

 哲史:「あっ!あわわわわわ!?」

     美琴の方から仕掛けてくるというまさかの展開に俺の心は激しく動揺する。

フィル:「・・・よく分かんないけどチャンスだよ哲史!性魂の行動が止まってる間にはやく成仏させちゃおうよ!」

 哲史:「わ、分かっちゃいるけど・・・美琴、本当にいいのか?」

     コクッ

     美琴はハァハァ息をたてながら頷く。

 美琴:(さ・・・哲史さん、私の体を・・・)

     どうやら決断しなければならないようだ。

 哲史:「いくぞ。・・・美琴。」

     俺は美琴に囁くと手を握っている美琴の手をそっと引き離し、美琴の胸を揉みにかかった。

     フニュン

 美琴:「あうんっ!」

     美琴の体がビクンと反応する。

 哲史:(水春の時は俺が躊躇していた為に長い間水春を苦しめてしまった・・・美琴、お前はすぐに助けてやるからな。)

     俺は心にそう誓い、美琴の胸を揉み続ける。

 美琴:(ああ・・・私の胸が・・・今哲史さんに揉まれている・・・)

 翔馬:「!!なんだ!?この感じは!?」

     ムニュン、ムニュン、ムニュン

 哲史:(麗、今こそお前に教えてもらった・・・というより無理やりたたき込まれたあの技を使わしてもらうぞ!)

     俺は美琴の胸をギュッと両側から押さえつけると美琴のプックリとした乳首に吸い付いた!

     かぷっ

 美琴:「ひゃあああああああああ!」

フィル:「おおお!?哲史すごい大胆!」

     フィルが何か言ってるがムシだムシ!

     俺は美琴の乳首を舌で刺激しながら両手で胸を揉みしだく。

 美琴:(哲史さんが・・・哲史さんが私の乳首に吸い付いてる・・・なんででしょう?・・・さっき自分の手に弄られた時より・・・気持ちいい!)

 翔馬:「なんなんだ!?この快感は!?さっき俺様が弄った時にはこんなすごい快感はなかったぞ!?い、いかん・・・さすがの俺様もこの快感は・・・)

     ムニュッ、ムニュッ

     チュパッ、チュパッ

 美琴:「あうっ・・・ん・・・くっ・・・あああああ!」

 翔馬:「うう・・・もうダメだ・・・出ちまうぅぅぅ!」

     ぐぐぐっ

 哲史:「!!」

     美琴の胸が急激に張ってくる。

     俺は素早く口を離した。

 美琴:「んっ・・・あああああ!!」

     プシュゥゥゥゥゥ!!

     美琴の胸からついに性魂が噴射された!

     その白濁色のモヤは宙にフワフワ漂うと消えてしまった。

フィル:「哲史・・・」

 哲史:「ああ、やったよ。性魂は成仏した。」

フィル:「ほんとっ!?やったー!おめでとう哲史!」

     ガバッ

 哲史:「うおっ!?」

     フィルがいきなり俺に飛びついてきた。

     フィルはそのまま仰向けに倒れ込んだ俺の腹の上に乗っかってくる。

 哲史:「い、いきなりなにすんだよ!」

フィル:「だって、あんなに激しいの見せられたらうらやましくなっちゃったんだもん。哲史、ボクにもあんなすごいのやってよー!」

 哲史:「むっ、むむ無茶言うな!あんなのほぼヤケクソだ!何回もできるかぁ!」

フィル:「えー!?哲史のいじわるぅ!!」

 哲史:「あのなぁ・・・」

     俺はしばらくフィルにおねだりされたが断り続けた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 美琴:「・・・・・・」

     哲史さんの声が聞こえてくる。

     私はまだ夢を見ているんでしょうか。

 哲史:「美琴。」

     哲史さんが私を呼んでいる。

     哲史さん、私のわがままに付き合っていただいてありがとうございました。・・・どうか安らかに・・・

 哲史:「美琴!!」

     えっ?あれっ!?

 哲史:「美琴!よかった。気がついたか。」

 美琴:「哲史・・・さん?・・・生きていたんですか!?」

 哲史:「ああ、このとおりピンピンしてるぜ。」

     哲史さんが・・・生きていた。

     私の空っぽの心の中に嬉しさが込み上げてくる。

 美琴:「哲史さん!!」

 哲史:「うわっ!?」

     私は思わず哲史さんに抱きついてしまった。

 美琴:「よかった・・・本当によかった・・・」

     私の目から涙がこぼれる。

 哲史:「あ、ああっ、ごめんな、心配かけて。」

     哲史さんが私の肩に手を添える。

     哲史さんの手。

     あったかくて大きな手。

 美琴:「・・・グスッ・・・グスン」

     どうしようもない嬉しさから言葉が出てこなかった私はただ泣くことしかできなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 美琴:「あのぅ、哲史さん、そちらの方は?」

 哲史:「ああ、コイツはフィルって言うんだ。詳しい事は後で話すけど俺達の新しい仲間だ。なぁ、フィル。」

フィル:(ぶす〜〜〜)

 美琴:「?」

     あのフィルさんって人、なんであんなにふてくされているんでしょう?

 哲史:(おい、いつまでいじけてんだよ。)

フィル:(ふーんだ。)

 哲史:(ハァ・・・)

 美琴:「・・・・・・」

     哲史さんが生きているという事はあれは夢じゃなかったの?って事は私はさっき哲史さんと・・・

     私の成長した体が急に熱くなっていく。

 美琴:「あの・・・」

 哲史:「ん?」

 美琴:「哲史さん、私は・・・その・・・」

 哲史:「あっ、ああ、俺達が来た時にはもう性魂が消えていて美琴だけが寝てたんだ。」

 美琴:「えっ!?」

 哲史:「俺が呼んでも気持ちよさそうに眠ってたからしばらくそっとしといてあげたんだ。なぁフィル。」

フィル:「ほんと、けっっっしてエッチなんてしなかったよ!」

 哲史:「うおーーー!?」

 美琴:「?」

     哲史さんがフィルさんの口を慌てて塞ぐ。

 哲史:(お前ぇ!それは言わない約束だろ!)

フィル:(だって哲史がしてくれないんだもん!)

 哲史:(ハァ〜、分かった。ことが落ち着いたらしてやるから。)

フィル:(ほんとっ!?じゃあ言わないね!)

 美琴:「あの・・・」

フィル:「ううん、何でもない。本当に気持ちよさそうに寝てたよ。」

 美琴:「・・・・・・プッ」

     哲史さん達のあまりに白々しい演技に思わず笑ってしまった。

 哲史:「・・・美琴、俺たちは今からあずさを探しに行かなくちゃならない。美琴も一緒に行こう。」

 美琴:「・・・はい。」

     私達はそのまま一緒に部屋を後にした。

     哲史さんは私を性魂から助けるために私としてくれた。

     そして私の為にそれを隠そうとあんなに必死な演技までして・・・

 美琴:(・・・期待してもいいのかなぁ?)

     私と哲史さんとフィルさんは手を繋ぎながら一歩ずつ前へと歩いていった。