胸いっぱいのエレベーター

しゅんぎく 作
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それは一目ぼれだった。
 それまでわたしは色恋沙汰にはほとんど興味がなかったし、ましてや一目ぼれなんてするとは夢にも思っていなかった。容姿は悪くなかったので、視線を感じたり、実際に男子に告白されたりしたこともあった。それらも、わたしはほとんど相手にせず過ごしていたのだ。
しかし、高校二年の四月、クラス替えの時に堀川君のその横顔を見た瞬間、わたしは胸のあたりをわしづかみにされたような気がして、膝から崩れ落ちそうになった。当時のわたしにはよく分からなかったが、あれが一目ぼれだったのだろう。

それ以来、教室内で堀川君とすれ違うたびに、わざわざ自分とすれ違ったことに何か意図があったのだろうかと延々考えたり、誰かと楽しそうに喋っているのを見れば、その話している内容からその趣味嗜好を必死に探ったりしていた。さらに、一度彼から「次の移動教室どこだったっけ」と聞かれた時は頭が一気に沸騰してしまい、顔中に全身の血がまわってしまったかのように真っ赤になっていたのが自分でも分かった。その時、何と答えたのかはさっぱり覚えていないが、なにかしらの答えは出したのだろう。その直後「ありがとう」と言われたのは覚えている。その言葉を聞いた瞬間、冗談ではなく本当に倒れるのではないかと思った。それぐらいにわたしは堀川君に本気で惚れていた。


そしてわたしは、一目ぼれするという大きな心の変化とともに、体の方も大きく変化していった。むしろ、こちらの方が驚異的な変化といってもよかった。
 堀川君に本気で惚れてから一か月ほどたったぐらいからだろうか。それまでまったくふくらむ気配がなく、ぺたんこだった胸が大きくなり始めたのだ。しかも、ただ大きくなったのではなく、ブラジャーも一週間から十日のペースで替えなければならないほどの尋常ではないスピードだった。さらに、もう一つ変化があった。その胸から母乳が出始めたのだ。
 もちろんわたしは、妊娠などしていないし、その心当たりも全くないので、最初は乳首の先がわずかに濡れているのを見て、飛び跳ねた水か何かが乳首の先にかかったのだろうか、などと的外れなことを考えていた。
しかし、それからも母乳の量はものすごいスピードで増え続け、ブラジャー全体が母乳のにおいをぷんぷんさせつつ、濡れてしまうようになったかと思えば、あっという間に、一度にコップ一杯分出るようになり、さらには毎日大きなバケツ一杯分出るようになった。ここまで増えたことにも驚いたが、さらに、凄かったのはそこに至るまでの期間だった。わずか数週間でここまで増えてしまったのだ。そして、一か月たったころには、毎日二回、バスタブ一杯分に相当する量の母乳がでるようになった。それまでの自分からすると全く信じられない驚異的な変化だった。

さらに驚くべきは、完全に自分で母乳を出すタイミングをコントロールできる、ということだった。たとえどれだけ母乳がたまっても、出そうとしなければいくらでも我慢できるようなのだ。そのかわり、その分だけ胸がどんどん大きくなっていくのだ。ずっと母乳を出さなければそれこそ際限なく胸が大きくなり続けるので、結果的には定期的に搾らなければならないのだが。
一体、わたしの体に何が起こっているのだろう。全く分からなかったわたしは親に相談して、病院に行って診察を受けることにした。

やはり、というかなんとなく分かっていたのだが、堀川君に一目ぼれしたことが原因だったようだ。医者の診察によると、わたしは、激しい運動などをして心臓の鼓動が早くなることによって、要するに心臓がドキドキすることによって、乳腺が刺激され体が妊娠したという勘違いを起こし、母乳が出てしまうという病気らしかった。医者は、よほど激しい運動をしなければ、またよほど緊張するようなことがなければ母乳が大量に出る心配はないと言っていた。それを聞いて、親は安心していたようだが、わたしの不安はより一層強くなった。これからのわたしが体験するであろう、心臓のドキドキは激しい運動や極度の緊張などとは比べ物にならないと分かっていたからだ。


その後も胸が大きくなるスピードは全く衰える気配を見せることはなかった。そのせいか、わたしはいつしか男子はもちろん、女子からも不思議な目で見られるようになっていた。
特に、中学から一緒だった親友の由紀は、わたしの体に何かよくないことが起こっているのだと思ったようで、常にわたしのそばを離れず「何かあったら何でもいいからわたしに相談してね」と優しく声をかけてきたりした。わたしは、由紀のその優しさが逆に見ていられなかった。
そこで、五月も半ばにさしかかったある日、わたしは勇気を振り絞って由紀を自分の家に呼んだ。自分が堀川君に一目ぼれしていたこと、さらにそのせいで胸が大きくなっている、さらに母乳も出るようになってしまった。と打ち明けることにしたのだ。胸や母乳のことを話すのは少し恥ずかしい、と思わないこともなかったが、これまでも何でもお互いに相談できる親友に対して少しでも隠し事はしたくなかったし、そして何よりわたしは堀川君に一目ぼれしたことを話すのが一番恥ずかしかったので、胸や母乳のことは別に話しても問題ないと思っていた。

「えーっ!何それ?信じられない!どういうことなの!本当なの?」
 耳まで真っ赤にしてわたしの告白を聞いた由紀の第一声はこれだった。反応としては、予想通りだったが、それはわたしが堀川君に一目ぼれしたことに対してではなかった。
「おっぱいからミルクが出るってどういうことなの?理沙あんた本当に何も変なことしてないの?妊娠もしてないのに?」
「本当にお医者さんにも大丈夫って言われたの?私そんな病気全然聞いたことないよ。え、嘘。ほんとに信じられない。ミルクが出るなんて。ねえ理沙、『ドッキリでした』って言うのなら今だよ。私もう十分驚きつくしてるから」

由紀は、わたしの母乳について話すことを止めそうになかった。そこでわたしは、実際に自分の母乳を由紀に見せることにした。
「ちょっと待って」
そう言って、わたしは服を脱ごうとした。その途端「どうしたの?そこまでしなくていいよ」と由紀は止めようとしたが、わたしは構わず服を脱いだ。さらにブラジャーも外して、裸の胸をさらけ出した。
わたしの胸を見ていた由紀は無言だったのだが、しばらくして「…すごい。信じられない。きれい…」とぽつりと呟いた。
わたし自身も久しぶりに自分の胸を観察してみたのだが、確かに我ながらすごいと思った。
その胸は、全くたれる気配を見せることなく、しっかりと丸々とした形を保ちつつ、前に突き出していた。さらに、わたしの胸は体の胴体部分を完全に覆ってしまい、下半身や首のあたりまでも浸食しようとしていた。乳首もその圧倒的な胸の大きさからすれば、まだ小さく(それでも普通の人の何倍もの大きさだったが)きれいなピンク色をしていた。
そして、胸全体がつやつやできらびやかに輝いているようだった。わたしは、自分の胸がさまざま技術を融合させて究極の美しさを重ね合わせた一つの芸術作品として存在しているような気さえして、こんなにきれいなものが自分の体にくっついていること自体が申し訳なくなってくるほどだった。
由紀は、無言だったので何を考えているのかはよく分からなかったが、おそらくわたしと同じようなことを考えていたのだと思う。その、呆気にとられつつも、憧れを隠しきれないまなざしからも、それがよく分かった。

どれだけ、わたしたちは胸を見ていたのかよく分からない。ほんの三十秒ぐらいかもしれないし、十分ぐらい穴のあくほど見つめ続けていたと言われたらそれでも納得できたと思う。そんなわたしは当初の目的を一瞬忘れてしまい、ブラジャーを手に取った。
「おっぱい見せてくれないの?」
 ここで由紀の言うおっぱいというのが、自分の母乳だということを理解するのに少し時間がかかった。そこでやっとわたしは、自分が由紀に母乳を見せるために服を脱いだことを思い出し、あわてておっぱいを真ん中あたりを触った。もともと母乳はたまっていたのだから、少しでも刺激があれば充分だった。触ったその瞬間、わたしの大きな両方の乳首から、どばっと母乳が噴き出し、由紀の顔にかかった。
「ひゃっ!何これ!」
 あまりの勢いに驚いた由紀は、わたしの母乳から逃げるように顔を覆い、あわててよけた。
行き場を失ったわたしの母乳は部屋の壁まで到達し、その一帯に白いシミを作った。由紀は、ポケットから出した水玉模様のハンカチで拭きつつ「今のがおっぱい?」と聞いてきた。
「そう。変だよね。こんなにいっぺんに出ちゃうの。一気に出そうと思えばこれよりももっとすごい量が出るの」
 わたしはブラジャーとTシャツを再び身につけながら答えた。一回搾るだけで、浴槽を満杯にできるとまでは言わなかった。そこまで言うと、これまでの反応からして、余計に変な目で見られると思ったからだ。
「もっと出るの?本当に?すごいね」
 本当に今見たことが信じられないと言った感じだった。由紀はそれだけ言って、それ以上はわたしの母乳について追及しようとはしなかった。


三十分ほど時間を置いたところで、ようやく由紀は落ち着きを取り戻したようだった。びっくりした。おどろいた。とは言いつつも、そこには、いつも私に対して話すような気安さが混じっていた。
わたしは、結果的に由紀がわたしの体のことを受け入れてくれたのだと思って安心するとともに、本当に由紀に対して感謝したい気持ちでいっぱいだった。そしてわたしは、なかなか入ることのできなかった本題について、由紀に改めて「堀川君のことだけど、わたしどうすればいいかな?」と聞いてみた。堀川君のことを話すだけで、また顔が赤くなり、母乳が胸の中でたまっていくのが感覚で分かった。この恥ずかしさを思えば、由紀の前で服をはだけて母乳を実際に出したことなど、恥ずかしいことでもなんでもなかった。
「あ、それなら知ってたよ」
 由紀はそれに対しては、事もなげに答えた。その言葉を聞いた瞬間、今日一番の恥ずかしさでわたしは倒れそうになった。今日一番の自分にとっての衝撃の告白をこんな風に返されるとは思ってもみなかった。
「だって、親友だもん。理沙が何考えてるかぐらいは分かるよ。まあでも、堀川君のことに関しては親友じゃなくても、ちょっとあなたのことを見てれば分かるけどね。本当に理沙ったら、堀川君が近づいただけで、今みたいに顔が真っ赤になるんだから。本当に顔に出やすいからね、理沙は」
「みんな、知ってるの?」
わたしの声は消え入りそうだった。もし、クラスのみんなが知っていて、それが堀川君に伝わりでもしようものならと考えると、二度と出てこられない底なしの穴に入りたいような気分だった。
「大丈夫だと思うよ。他の人がそんな話してるの聞いたことないし。みんな、理沙の胸がどんどん大きくなっていくのに目がいってそんなこと気にしてないんじゃないかな」
「そんなことって…」わたしが抗議しようとすると、あわてて由紀は付け加えた。
「ごめんごめん。すっごく大事なことだよね。体がそんな風になってしまうぐらいのことだもんね。でもさ、今ならちょうどいいタイミングじゃない?もちろん、堀川君も理沙のこと気になってるだろうし。どこか遊びにでも誘ったらすぐOKもらえる気がするけど」
 わたしが堀川君を遊びに誘う。そんなこと今まで考えたこともなかった。しかし一度それを考えただけで、これまでにないほど胸がドキドキしてきた。さらに、ドキドキしすぎたからなのだろうか。今までにはないほどの圧倒的なスピードで母乳が増産されていくのが分かった。
「どうしたの?大丈夫?」
 突然うずくまってしまったわたしを見て、由紀が慌てて声をかけてきた。
「そんなの…無理だよ」わたしは必死になって言葉を絞り出した。由紀は、不安げな面持ちでわたしを見ている。
 母乳が勢いよくたまりすぎたせいで、胸が苦しくなってしまったのだ。それでも、出したくはならなかったが、胸が母乳の増産とともにものすごい勢いで膨らんでいくのが服を着ていても分かった。このままでは、由紀の目の前で服とブラジャーが破けてしまう。自分で服を脱ぐならまだしも、胸が膨らんで服が破けてしまうなんて、由紀には絶対みせたくなかった。ただでさえ、本当に恥ずかしい話を聞いてもらった直後なのに、これ以上恥ずかしい思いをするのは嫌だった。
「ちょっと、トイレ行ってくるね」
 わたしはそれだけ言って、由紀が何か言おうとしたのも構わず走り、トイレではなくお風呂場に駆け込んだ。このスピードで母乳がたまっていけば、どれだけ胸が大きくなるのか想像もつかなかったので、できるだけ大量に出してしまおうと思ったのだ。

お風呂場にたどり着くと、わたしはすぐにTシャツとブラジャーを外した。ほんの少し前にブラジャーを外した時は何も感じなかったのに、今外した瞬間はとてつもない解放感を感じた。明らかに先程より母乳が胸の中にたまって、胸全体が大きくなっているのだ。
 わたしは、両腕を伸ばして、胸の真ん中あたりを軽く揉んでみた。本当は、乳首のあたりを触りたかったのだが、今の大きすぎるわたしの胸では、どう頑張ってみても、腕が乳首に届きそうになかったのだ。
 しかし、乳首でなくとも、胸を揉んだだけで母乳を出すには充分だった。ぶるっと胸全体が震えたかと思うと、乳首の先から信じられないほどの量の母乳が、どばどばとあふれ出してきた。一気にお風呂場に濃厚な母乳のにおいが充満する。少しずつ、少しずつではあるが胸が小さくなっていくのが見てとれた。胸の中でたまっていく母乳と、今ここで出している母乳の量とを比べて、かろうじて後者が勝っているようだ。
しかし、これだけものすごい勢いで母乳を出しているのに、それに勝るとも劣らない勢いで、わたしの胸の中で母乳が増産され続けている。この事実が信じられなかった。そんなことを考えている間も、ますます勢いを増しながら母乳はわたしの乳首からごうごうと出続けた。もう、胸は全く触っていないにも関わらず、だ。

どれくらい時間が経っただろうか。ようやく胸が落ち着いてきた、と思った頃だった。
「理沙、本当に大丈夫なの?」
 心配してくれたのだろう。由紀がわざわざお風呂場までやってきた。そこで、母乳を出し続けているわたしを見つけて、すこしドキッとしたようだったが、改めて「ねえ、大丈夫?いつまでたっても戻って来ないからさ。私いてもたってもいられなくって」
 母乳を出しているので浴槽から目を離せないわたしは由紀の顔を見ることはできなかったが、本当に心配だったようでその声は、涙声のようにも思えた。
「大丈夫大丈夫、心配しなくていいよ。おっぱい出してただけだから」
 わたしの答えを聞いて、由紀がはっと息をのんだのが気配で分かった。そして、おずおずといった感じでわたしに声をかけてきた。
「何それ…ものすごい量…そんなことになってるんだ…」
 わたしは、また耳まで赤くなり、何も言えなかった。その間もおかまいなしに母乳は出続けた。


今のわたしは人生最大といっていいくらいにドキドキしていた。なんと、堀川君と二人きりで買い物に行くことになったのだ。
ことの始まりは、由紀の強引な計らいからだった。
 わたしの通う高校では、六月に学園祭が行われることになっている。わたしのクラスは洋菓子などをメニューに入れた喫茶店をすることになっていた。あまり凝った出し物でもないこともあり、飾り付けや、材料、調理器具の準備などなど、ほとんど大きなトラブルもなく当日を迎えようとしていた。
 そして、学園祭の前日、クラス全員で飾り付けなどの準備をしている最中だった。突然由紀が、用意してあるコーヒー粉がこの量では足りないのではないか、と言い出したのだ。クラスの皆は、なぜ由紀が今になってそんなことを言い出すのかが分からない、といった様子だった。食材の量も、クラス全員で話し合って、どんなものをどれぐらい買えばいいのかをあらかじめ決めていたのだ。
 クラスの人たちはもう決めたことだし、いいんじゃないか、と諭すように口々に言っていたが、由紀はそれに全く構わず、
「呼び込みの人員も多いし、予想よりも何倍も売れる可能性だってあるよ」
「もっと違う味があれば、お客さんも満足できるんじゃない?」
「足りなくなったらそれこそどうするの?」
 などと言い続けた。そして、困り顔を浮かべはじめた他のクラスメイトの返事も待たないままに、
「まだ時間あるから大丈夫だよ。そうだ、理沙がコーヒー買ってきてよ」
 と、突然わたしに告げた。わたしは、突然話を振られたことにびっくりして、何も言えずおどおどしてしまった。
「あ、それじゃあ堀川君も一緒についてってあげてよ。理沙と一緒に選んであげなよ」
と、堀川君にも声をかけたのだ。由紀の勢いに気圧されたのか、堀川君は「別にいいけど」と答えた。
 驚いたわたしは、慌てて断ろうとしたのだが、由紀は「じゃあ、それでいいよね」と言って自分の作業に戻った。クラスの皆も、由紀がもう文句を言わないと分かって、またそれぞれの作業に戻りはじめた。わたしは、堀川君と一緒に歩く姿を想像しただけで、胸がこれまでにはないほどドキドキしてしまい、母乳がこんこんとたまるのを感じつつも、半ば放心状態だった。
「じゃあ中瀬さん。行こうか」
堀川君がこちらを向いて声をかけてきた。わたしは、早くも制服が膨張し始めた胸でぱんぱんになりつつあるのを感じながらうなずいた。


 近くのデパートに歩いて向かっている間、互いにほとんど何も喋らなかった。堀川君が「まだ六月なのに暑いね」とか「さっきはびっくりしたんだけど、朝原さんって普段からあんな風なの?」などと話しかけてくれていたのだが、わたしは恥ずかしくて、ほとんど目も合わさずにうなずくばかりだった。そうしているうちに、堀川君の方も無言になって二人でただただデパートまで歩き続けた。
地下一階の食料品売り場でコーヒーを選んでいる途中、由紀からメールが来て「最高のシチュエーション作ってあげたよ。がんばれ!」と書いてあった。ただ、わたしはドキドキしっぱなしでこれが最高のシチュエーションであることを考える余裕もなかった。
さらに、胸が今までにないほどに膨らんでいるのを感じた。明らかに制服がきつくなっているのだ。いつもとは比べ物にならないほどの緊張で、母乳が胸の中で暴れださんばかりの勢いで増え続けているのが原因であるのは分かっていたが、分かっていてもどうすることもできなかった。
今トイレに駆け込んで母乳を搾ろうものなら、三十分はトイレから出てこられないだろう。堀川君をそこまで待たせるなんてことはできそうもなかった。何とか、無事に制服が破れることなく、学校に戻って母乳を搾ることだけを考えていた。
 そうこうしているうちに、買い物は終わった。もともとコーヒー粉を選ぶだけの買い物だったのだから、時間はほとんどかからなかった。

しかし、地下一階から上に行くためのエレベーターを待っている間、わたしはもはや学校まで我慢する余裕すらなくなっていた。母乳がたまり過ぎたせいか、体が鉛のように重くなりはじめ、制服もみちみちと音がし始めた。トイレに行きたいと言おうとしたが、ちょうどエレベーターが到着する「チン」という音がした。堀川君は、わたしが声をかける前にさっさとエレベーターに乗ってしまった。わたしは、一階に着いたらすぐトイレに行こうと思い、すでに相当重くなっていた体を引きずるようにして歩き、エレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターの扉が閉まった。そして、何の気なしに、といった風にわたしを見た堀川君の目が見開かれた。その時、わたしの胸は既に体からちぎれそうなほどに重くなっており、立っているのがやっとで、足はがくがく震えていた。制服は脇のあたりから、ちりちりと嫌な音がし始めていた。
「中瀬さん、だ、大丈夫?」
 堀川君が心配そうに、本当に心配そうに声をかけてきた。
 その時、わたしの胸の中で何かが弾けた。わたしが一目ぼれして、顔もまともに見られないほど大好きな堀川君。声を聞くだけで、ましてやどんな話題であっても話しかけられれば頭が沸騰しそうになってしまうほど大好きな堀川君。そんな堀川君がわたしのことを心配してくれている。その、まさにわたしにとって革命的な出来事は、わたしの母乳製造のペースをとんでもないものにし、わたしはその重さに耐えられず、エレベーターの床に倒れこみそうになった。
「危ない!」
 堀川君が慌ててわたしを受け止めようとしてくれたが、間に合わなかった。わたしはエレベーターの床に、頭から、ではなくその大きく突き出した胸から倒れこんだ。わたしが倒れた瞬間、床は激しい地震が起こったかのように左右に揺れ、がこんと大きな音を立てたかと思うと、そのまま動かなくなった。


 わたしは、つぶれて痛い胸をさすりつつ立ち上がった。そこで初めて、エレベーターが動いていないことことに気付いた。
「止まったの?エレベーター」
「そうみたい。冷房も止まったみたいだ」
 どうやら本当に止まってしまったようだ。わたしが倒れた瞬間、エレベーターが思いっきり揺れて、その直後に止まって…。考えてみると、わたしが、いやわたしの胸が重すぎたのが原因のようで、堀川君の目の前でそんな醜態をさらしてしまい、顔から火が出る思いだった。
 しかし、今はいっこうに胸の中で母乳が生産される気配はなかった。今の状況は、いつ動くかもわからないエレベーターの中で堀川君と二人きり、というわたしにとっては、想像もつかなかったほどのありえない状況だ。この状況に頭と体が驚いて、ある意味ショートしてしまっているのだろう。胸が母乳を生産しようとしないのと同じように、頭も妙なほど冷静にこの状況を受け入れているようだった。
 堀川君が非常用のボタンで、メンテナンス業者の人と話をしている。すぐに修理屋さんが来てくれるようだ。
「すぐに来てくれるみたいだから。ちょっと待てば何とかなるよ」
「う、うん…」わたしはそれしか言えなかった。いつ何時、胸がどうにかなってしまうかが心配でしょうがなかったのだ。大好きな堀川君と狭いエレベーターの中で二人きりということが嬉しくもあったのだが、数分たつと、わたしはそんなことを考えている場合ではないことに気付いた。
 暑かった。
 ただでさえ、その日は六月とは思えないほど暑い日だった。さらにこの密閉空間でクーラーも止まってしまっているのだ。汗かきのわたしにとってこれは一種の苦行だった。
 しばらくして、堀川君の目がわたしの胸を見続けているのに気付いた。いや、そもそも男子であればわたしの大きすぎる胸をちらちら見るのは全員同じなのだが、今の堀川君は完全にわたしの胸から目が離せないようだった。
 わたしは、自分の胸を確認して驚いた。白の制服が汗で水を被ったように濡れていて、その下のブラジャーがくっきり浮かび上がっていた。わたしは、胸を手で覆おうとしたが、その細すぎる手ではそれも無駄な努力だった。しかし、堀川君はわたしのその動きをみて「あ…ごめん」と言いつつしどろもどろになっていた。
 堀川君は、わたしの顔を見られないようだった。そして、恥ずかしかったのか、少し顔を赤くした。

今となっては、どうしてその瞬間だったのかはよく分からないのだが、その時、わたしの体の中で何かが弾けた。それまで生産されることのなかった母乳が、まるで埋め合わせでもするかのように、これまでにない勢いでたまりはじめ、そのあまりの勢いにわたしは息が苦しくなってきた。少しずつ、胸も大きくなってきているようだった。一刻も早く、母乳を出さなければ、わたしの胸がどうにかなってしまいそうだった。現に今もじわじわではあるが、胸が膨らみ始めていた。
「堀川君…」
「え、何?」
「これから、何が起こっても驚かないでね。わたし、このエレベーターが開くまで持ちこたえられるか分からないから」
 わたしは、堀川君に何か言わなければどうにもならないと思い、たまらずそう言った。本当に、しばらくエレベーターが開かなければ、わたしの胸はどうなってしまうのか分からない。しかし、そう言ってしまってから、心なしか胸の中で母乳が生産されるスピードが速くなったような気がした。
わたしの胸はすでにもう限界だった。制服のみちみちという音は、おそらく堀川君にも聞こえているだろう。その音は、制服の最後の断末魔のようだった。制服だけでなく、その下のブラジャーも限界のようだった。ホックが思いきり背中に食いこんでものすごく痛かったし、肩のストラップもぴりぴりとなにかが破けるような音を立てつづけていて、細くなっていっているのが何となく分かった。
このままだと、堀川君の目の前で、制服が破れてしまうのは目に見えていた。そうならないためには、つまり胸を大きくしないようにするためには、母乳を出すしかなかった。わたしはそれを想像して、おもわず顔を覆いたくなった。制服が完全に破けて裸の胸をさらけ出すか、それとも制服の上から母乳を出して、胸が大きくなるのを抑制するか。どちらにしても、わたしにとっては究極の選択だった。
今さらだが、わたしはどうしてこんなことになってしまったのかと思い返した。そして、そもそもこうなったきっかけも自分の胸だったことを思い、余計に恥ずかしくなった。その恥ずかしさは、よりわたしの胸を大きくさせていくようだった。
「持ちこたえるって何を…」
 堀川君は言いかけたところで、わたしの胸のあたりを見て驚いたのだろう。目を見開いて言葉を止めてしまった。

わたしは堀川君が言葉を止めてしまったのを見て、彼が驚いているのを知りつつも「驚かないでね」と言った。しかし、わたしがそう言う間もなく、すでに胸から白いものがエレベーターの床の上にぽたぽた落ちていた。わたしの先程まで感じていたドキドキや恥ずかしさは今はなくなっており、なぜか冷静な気分だった。堀川君に自分の母乳を見られている、ということが半ば信じられなくて、冷静になっているようだった。ドキドキや驚きが大きすぎて、一周まわってわたしを冷静にさせているようだった。
結局、わたしは制服の上から母乳を出すほうを選んだ。ただ、今はこれで何とかなっているが、エレベーターの修理屋さんが来なければ、そうも言っていられない事態に陥るかもしれない。現に、ぽたぽた落ちるわたしの母乳は、既にエレベーターの床に小さな水たまり(母乳たまり?)を作りつつあった。
「それ、何?」
 堀川君は不思議そうな目で、わたしが垂らした母乳を見ていた。わたしはもうここまでになってしまったらすぐにでも言わなければと思った。
「実は…わたし、胸から母乳が出るようになったの。堀川君に初めて出会ってから出るようになったんだけど。堀川君のことをずっと見ていたら、胸がはりさけそうになるくらいにドキドキしてきちゃって、どうにも止められなくなって、なぜか母乳まで出始めて…。それで…やっぱり…今でも堀川君のこと見ていたら、胸も母乳もどうしようもないくらいにいっぱいいっぱいになって、またそれでドキドキして…」
 顔が真っ赤になりすぎて、今にも爆発しそうな思いだった。ただ、それでもどこかに先程からの冷静な部分は確かにあり、その部分がわたしが次に言おうとしている言葉を言わせるための後押しをしてくれているような気がした。
「堀川君のこと…好きなんだ、わたし」
 わたしはそう言った。


 堀川君は、戸惑っているようだった。これだけ新しい情報を一気に与えられたのだから、そしてその挙句、好きだと告白されたのだから仕方ないだろう。わたしがそう思っていた時だった。堀川君がふっと嬉しそうな顔をした。
「嬉しいな…中瀬さんがそんな風に俺のことを思っていてくれたなんて」
 想像もしていなかった言葉だった。わたしは驚いた。何も言わないか、拒否されるかのどちらかの反応だと思っていたのだ。曲がりなりであっても受け入れてもらえるなんて思ってもいなかった。しかし、それだけで終わらなかった。その後の堀川君の言葉は驚くどころか、信じがたいものだった。
「俺も、中瀬さんのことは前から気になっていたんだ。信じてもらえるかは分からないけど、胸が大きくなり始める前から」
 堀川君は確かにそう言った。その時、なぜかわたしの胸から母乳は漏れておらず、胸が大きくなる気配も全くなかった。先程まであんなに暑いと思っていたエレベーターの温度も全く気にならなかった。堀川君の突然の告白にわたしが驚いたのは言うまでもないが、わたしの胸がその言葉に一番驚いて大きくなるのを忘れているかのようだった。
ただ、わたしはすぐに思い直した。そんなはずはないと思ったのだ。わたしが堀川君に惚れたのは完全な一目ぼれだったし、もしお互い知らない関係だったとしても、顔を見るなどの接点があればその時点でわたしは一目ぼれしているはずだ。しかし、高校一年の時にそんなことはなかった。高校一年の時は堀川君のことを全く見ていなかったのだろうか、それでいて相手の方がずっとわたしの方を見ていたのだろうか。そんなことがあるのだろうか。
「俺、高校に入った直後は、自分の見てくれなんか全然気にしてなかったんだ。ちょっと太めで、眼鏡もかけてて地味なやつでさ。それで、中学の頃からずっといじめられてたんだ。それで完全に自信がなくなって、高校は自分を押し殺して、できるだけ地味にしていたい、と思ってたんだ」
 堀川君にそんな過去があったなんてちっとも知らなかった。わたしは、一目ぼれしてからの堀川君しか見ていなかった。
「中瀬さん、入学直後に男子にいきなり告白されたの覚えてる?」
「…覚えてない」
本当に覚えていなかった。繰り返しになるが、そのころのわたしは本当に色恋沙汰に興味がなくて、適当に断ったのだろう。その程度の記憶しかなかった。
「その時に告白したのが俺の友達でさ、俺、その友達の告白がうまくいったのか見たくて、興味本位だったんだけど、分からないように陰から覗いてたんだ。その時君はこう言ったんだ。『わたしは、自分を持ってしっかりしてる人がいいの。あなたみたいな、陰でうじうじしてそうな人はあんまり好きじゃないから』って言ったんだ。完全に俺のことを言われた、って思ったよ。その時の中瀬さんの表情がすごく、真剣だったというか、しっかりしてるっていうか…凛としてたんだ」
「わたしが…?」
「俺は、その時に君にほれたんだ」

そうだ、思い出した。その時わたしは、適当に断る口実を探していていて、その男の子がなよなよして弱そうに見えたから、そんなことを言ったんだ。あれを堀川君が聞いていたとは。
「それから俺は、変わろうと努力した。容姿をできるだけ変えるのもそうだし、自分の気持ちを周りの人にぶつけようともした。初めて運動部にも入ったし、学級委員長なんかもやったりした。どこまで変われたかは分からないけど、今は自分自身に胸が張れるし、自信もある。そのきっかけをくれたのが君だったんだ」
 不意に堀川君の言葉が途切れた。エレベーターの中はしんと静まり返っていた。
 わたしが、男子の告白を適当に断ろうとして発した言葉に対して、こんなに感化され、さらには好きになってくれた人がわたしの目の前にいる。それは、信じられないことでもあったし、申し訳なくもあった。いますぐ謝りたくなったが、堀川君は続けた。
「それから、一年たって中瀬さんの胸が一気に大きくなり始めて、俺も本当に驚いたんだ。一年の時はまったく膨らむ気配なんかなかったのに、急に大きくなり始めたもんだからずっと心配していたんだ。大丈夫かな、大丈夫かなって。そうなんだ、ごめん驚いちゃった。おっぱいがそんな風になってたなんて。気にしないでよ。最初に、中瀬さんがどんどんおっぱいが大きくなっていくのを見た時よりは驚いてないから」
 わたしは、また驚かざるをえなかった。堀川君がわたしのこの変な体質を受け入れてくれた。その事実に気付いた時、そのことがたまらなく嬉しくなった。本当に嬉しかった。
「ありがとう。嬉しい…」わたしは呟いた。泣きそうだった。わたしの一目ぼれなんて、堀川君がわたしに対して抱いていた思いと比べたら、本当にちっぽけなものだったんだ。そう思うと、目から涙があふれそうになっているのに気付いた。
 そしてわたしは、また母乳の生産が再開されているのに気付いた。同時に、ずっと忘れていたエレベーターの暑さを思い出した。わたしは、汗が吹き出るのと同時に、母乳も吹き出るのではないかというくらい、乳首の先の近くまで母乳がたまっているような気がした。もう限界だった。もうわたしは、こう言うしかなかった。
「わたしのこと好きなら…わたしのおっぱい、飲んでくれない?」


わたしは、もう堀川君の前では何をしてもいい、という気になっていた。今の堀川君ならわたしのどんな姿でも受け入れてくれるだろう、と思ったのだ。案の定だった。堀川君は、ただ一言「分かった、いいよ」と言った。その目は真剣さと輝きを持っているように見えた。わたしはそれを見て何となく答えは分かっていたものの、巨大な胸を撫で下ろした。そして、堀川君の顔を見て、再びドキドキが高まってきた。このドキドキは堀川君が近くにいる限り、収まりそうになかった。
 わたしは服を脱ごうとした、その瞬間「ぴん」と音がして、制服のボタンが一気に三つか四つぐらい一気に吹き飛んだ。それらは、エレベーターの壁に跳ね返り「カチャン」と大きな音を立てて、床に転がった。そして、先程からみちみちと嫌な音を立てていた制服の脇のあたりが「びりびり」と破けたかと思うと、前の方も一気にハサミで裂いたかのようなスピードで破けて、ついには吹っ飛び、制服だったものはたくさんの布の残骸と化して、わたしの目の前でひらひら舞った。
ほぼ同時に、ブラジャーのホックが「びしっ」と音を立ててこれも同じく吹っ飛んだ。そして、ブラジャーがはらりと落ち、気づけばわたしは裸の胸をさらけ出していた。堀川君はさすがにその一連の流れに、一瞬目を見開いたが、間もなくゆっくりとわたしの胸に近づいてきた。
わたしはもう恥ずかしくなかった。ドキドキは止まらなかったが、今までのドキドキが緊張や不安からくるドキドキだったとすれば、今のドキドキは喜びや楽しみからくるドキドキだった。そのドキドキはわたしの中でさらに母乳を増やし、胸を大きくしていった。わたしの乳首は他の人のそれと比べて、かなり大きかったが、わたしの胸の大きさと比較してみれば全然小さい方だった。つまり、必死に口を開ければ、何とかくわえられるぐらいだった。

堀川君が口を精一杯開けてわたしの右胸の乳首をくわえた。その瞬間、わたしの体はびくりと痙攣した。あまりの気持ちよさに気が遠くなりそうだった。そして間髪入れずに、乳首から母乳が出始めた。しかし、その勢いはあまりに強かったらしく、堀川君はまもなくむせてしまい、たまらず乳首から口を離してしまった。
「あ…ごめん、大丈夫?」
「大丈夫。でも、もうちょっとおっぱいの勢い何とかできないかな?今のだと飲むどころじゃないからさ」
「でも…」わたしは再び赤面した。
「あんまり気持ちよかったから…いっぱい出ちゃって。あ、でもわたし頑張るからもう一回吸ってくれない?今度はゆっくり少なく出すようにするからさ」
 そう言って、わたしは堀川君に自ら近づき、そのまま、乳首を堀川君の口元に持っていった。堀川君もそれを躊躇することなく再び乳首をぱくりとくわえた。
 その瞬間、やはりわたしの体全体に恐ろしいほどの気持ちよさが津波のように襲ってきて、わたしの体は何度も痙攣した。しかし、今度はできるだけ母乳が出ないように必死に我慢し続けた。堀川君も汗をかきながら必死に飲んでくれているようだ。そして、全く触っていないのに、もう片方の乳首からも母乳が出始めた。
 そして、わたしの胸がまたもや大きくなり始めた。もはや、その巨大な球体は完全に床についてしまい、天井にも到達しそうな勢いだった。母乳を出しているのになぜ、と思ったが、堀川君のために母乳の出す量を抑えているからだと気付いた。実際に出している母乳の量より、わたしの胸の中で生産されている母乳の量の方が、圧倒的に多いのだ。
 もうわたしの胸が狭いエレベーターのうち三分の二を占めていた。それでも、わたしの胸は大きくなるのをやめようとはしなかった。どん、という大きな音がした。わたしの母乳を飲んでいる堀川君の体がついにエレベーターの壁にぶつかってしまったようだ。わたしの胸は、むくむくと音を立てて大きくなっているようだった。
もはや、エレベーター全体がわたしの胸と言って差し支えないほどの大きさになりつつあった。そして、天井がぎしぎし言いはじめた。胸が膨らもうとしているのを天井が必死に抑えているような感じだった。そんな、信じられない光景をわたしは横目で見つつも、体は何度も痙攣を起こしていた。堀川君は壁際に追い詰められているのにも関わらず、必死にわたしの母乳を飲んでくれていた。わたしはそれがたまらなく気持ちよかった。ただ、天井はわたしの胸の圧力を受けてメリメリと嫌な音を立てていた。

そして突然、バキバキとすごい音がした。ついに、膨らんだ胸が、エレベーターの天井の一部を突き破った。天井は、わたしの胸の弾力に勝てず、ワイヤーで吊っている部分を残して外れてしまい、それらはただの鉄の板となって落ちていった。そして、しばらくして、がらんがらんと大きな音がした。これだけのことをしても、わたしの胸は痛くなったり傷ついたりはせず、むしろ刺激を受けたことで気持ちよくなってしまい、母乳の生産に拍車がかかってしまったようだった。ここまで胸が大きくなってしまうと堀川君にとっての安全な場所は限られていた。
「お願い…。母乳はもう飲まなくていいから、上に乗ってくれない?肩車するから」
 そう言ってわたしはしゃがんだ。しゃがんでも胸はほとんど変わらずエレベーターの空間を支配し続けていた。堀川君は「分かった」と言って、堀川君から見て胸の反対側にいるわたしの方を目指して、わたしの胸を壁伝いにかき分けて来てくれた。そして堀川君はわたしの肩に乗った。正直、もっと重いものだと思っていたが、ほとんど重さは感じなかった。それ以上に重いものを抱え込んでいるからだ、とわたしは思った。そして、わたしは胸の上の方に重さと気持ちよさを感じた。堀川君がわたしの胸の上に乗ったのだ。
 次の瞬間、天井と同じようにわたしの胸は、エレベーターの横の壁を突き破った。そして、天井と同じように壁と壁、そして壁と床の繋ぎ目を完全に破壊してしまい、残ったのは骨組みだけとなった。そして間もなくその骨組みもわたしの胸に飲みこまれて、ばきばきと嫌な音がした。完全に折れてしまったようだ。そして、わたしから見たエレベーターの横の壁は、完全に外れてしまい、天井と同様にただの鉄の板となって落ちていった。こうして横の壁が跡形もなくなってしまい、エレベーターという空間に押し込められていたわたしの胸はさらに膨らんでいった。
 その時だった。際限なく大きくなっていく胸のためか、わたしの体は、先程壁が無くなった横の方に持っていかれてしまった。このデパートは地下二階まである。そして、バランスを崩したわたしは、いやわたしの胸は地下二階の地面に向かって落ちていった。
「中瀬さん、危ない!」
 堀川君の声が聞こえた。そして、わたしは胸から地下二階の地面に激突した。わたしの体は地面に激突せず、大きすぎる胸のせいで宙に浮かんでいた。堀川君はわたしの胸の上にいるようだ。「痛てて…」と声が聞こえる。無事のようだ。つまり、まともに地下二階の床に激突したのはわたしの胸だけということになる。
予想したより痛くなかった。それどころか、わたしは落下した時の衝撃よりも大きな衝撃を受けていた。それは快感だった。その衝撃がもたらした快感は、それまでの快感が前座だったかのような激しいものだった。そしてその後、わたしの胸の上に堀川君が乗っているという事実が一瞬、頭の中をよぎった。それがとどめになったようだ。母乳がわたしの大きな乳首から大量に出て行こうとしているのが分かった。その時のわたしは母乳が出そうになるのを我慢できなかった。胸にたまっている母乳の量は我慢できる量をはるかに超えていたのだろう。
「ああ、出ちゃう…」
 思わず呟いた。


「そんなことあるんだね。エレベーターが壊れちゃってその中で二人っきりになるとか。さすがの私でもそんなシチュエーションは予想してなかったな」
 由紀の言葉にわたしは苦笑いしつつうなずいた。あれから、二週間近くが経過していたが、由紀は、休み時間になるたびにわたしの席にやってきてこの話題を持ち出してくる。先日、わたしの身に起こったことが自分のことのように嬉しいのだろう。
わたしは、エレベーターで起こったあの出来事の詳細は由紀にも話していない。結局、あのままわたしも堀川君も学校に戻ることなく、学園祭も結局休んだ。体調が悪くなったとだけ、後日説明した。堀川君も学園祭は休んだようだ。由紀は、あの後何があったのかしつこく聞きたがったので、結局は事実の半分だけ伝えることにした。この前、母乳が出ることを伝えただけであれだけ驚いたのだから、これ以上親友を驚かせることをしたくなかったのだ。
あの時の母乳の勢いは半端なかった。わたしの母乳の水圧で、地下二階のドアは壊れてしまったのだ。地下二階は駐車場だった。そのうす暗い中をわたしの白い母乳が放物線を描いて飛んでいった。その大放出は何分続いたか分からない。それは永遠のように思えるほど長い時間出続けた。わたしは、頭の片隅で人が来たらどうしようかと考えていたが、それもこの気持ちよさの前ではどうでもよかった。
その後、母乳が止まってかなり小さくなったわたしの胸の上から降りてきた堀川君を見て、今さらのようにわたしは恥ずかしくなった。
「あ…服が…」
わたしは何とか言葉を絞り出して堀川君に告げた。上半身裸のわたしを見て、堀川君はわたしの意図を理解してくれたようだ。「ここのトイレに入ってて。早く、誰か来る前に」と言って、わたしがトイレにこもっている間に急いでデパートの上の階に行って、一番大きいサイズのTシャツとカーディガンを買ってきてくれた。そして、躊躇なく女子トイレに入り(周りはもちろん気にしていたが)わたしに服を渡してくれた。

その後、わたしは何を話してどう別れたのか全く覚えていない。気が付くと家に帰りつ
いて、ベッドの上であおむけになって胸の重さを感じつつも、呆然としていた。そして、恥ずかしさがまたもや襲ってきて、それからは学園祭の準備をしていたことも忘れ、布団を頭からかぶってじっとしていた。
「でも大変だったよね。エレベーターの中、暑かったんでしょ?ただでさえ暑いのにいくら好きな人と一緒だった、っていってもやってられないよね」
「そうかもね。本当に大変だったからね」実際に大変だった。後日、同じデパートに行ったが、エレベーターは未だに故障中で復旧のめどは全く立っていないとのことで、めちゃめちゃになったエレベーターは小さなニュースにもなった。なぜエレベーターは破壊されたのか。地下二階の駐車場一帯を濡らしたミルクとしか思えないものとともに、大きな謎として今も残っている。
「まあ、良かったじゃん。そのおかげで今があるんだから。でも、いきなり理沙が告白してそれでオッケーもらえるなんて思わなかったな。でもあれかな。吊り橋効果、ってやつ?なんかあるじゃん。ほら、男女が極限状態になると愛が芽ばえやすいっていうあれ」
 由紀は、ニヤニヤしている。「で、最近どうなの?ラブラブ?」
「いや、何というかつつましく…」そう、わたしは結局あの出来事以来、堀川君と付き合うことになったのだ。エレベーターの中で、互いに告白しあって成功したのだから自然な流れのはずなのだが、その後のことがあまりにインパクトが強すぎて、わたしはそんなことすっかり忘れていた。堀川君も同様のようだった。

実は、わたしは堀川君に逃げられるのではないかと不安だったのだ。わたしのせいであんなに怖い思いをさせてしまい、そのことがトラウマにでもなっているのではないかと思ったのだ。実際、最初のうちは堀川君はわたしに話しかけようとしなかった。それで、エレベーターでのことは由紀が言うように、単に極限状態が生み出したもので、今となってはなかったことになったのではないかとも思った。
 しかし、五日たってからだろうか、堀川君がわたしの席にやってきて「今日、理沙の家に行っていい?」と聞いてきたのだ。わたしは、自分が堀川君に理沙と呼ばれたことに衝撃を受けた。思わず「どうしたの?」と聞いてしまった。堀川君は「どうしたの、って?」と不思議そうな顔をして逆に質問してきた。そこでわたしは気付いた。あのお互いの告白は今でも続いているんだ。本当に本当にわたしと堀川君は付き合うことになったんだ。わたしのその巨大な胸いっぱいになるほどの喜びに包まれたような気分だった。
「あ、ごめんね。いいよ、親もいないし」
わたしの声はかすれていた。その後も、わたしは喜びのあまり放心状態に陥っていた。そして、それが冷めてくると今度はものすごい興奮に襲われた。あまりに興奮しすぎてその夜、自分から由紀にそのことを伝えてしまったぐらいだ。由紀は「おめでとう、すごいじゃん」と繰り返し、本当に自分のことのように喜んでくれた。
 その日以来、堀川君は毎日のようにわたしの家に来るようになり、仕事が忙しい両親が帰ってくる夜まで、わたしの家にいる。そして、今日も堀川君はわたしの家にやってくる。昨日の夜に「明日も行っていい?」と聞いてきたのだ。わたしは「うん」と即答した。今日も放課後が待ち遠しかった。本当に待ち遠しかった。
「どうしたの、理沙。そんなにニヤけて。また変な妄想してんでしょ。まあ、何考えてるのかはあえてツッコまないけどさ」
 由紀はそう言って笑った。嬉しそうだった。


放課後、堀川君がわたしの家にやってきた。この瞬間はいまだに慣れない。緊張と興奮で胸がドキドキする。わたしは挨拶もする間もなしに、さっそく聞いてみた。
「今日は何がしたい?」
「ええと、何だろな…。あ、そうだ。おっぱいを全身で浴びるとかできる?」
「できるよ、今日はいっぱいたまってるもん」
 最近はもっぱら、お風呂場でわたしたちは、主にわたしの胸を使って遊んでいる。遊びというのは、私が胸を膨らませたり、母乳をシャワーにしたり堀川君に飲んでもらったりといった遊びだ。堀川君は、わたしの胸のことがトラウマになるどころか、すっかりハマってしまったらしい。わたしはたまに、普通の遊びやデートもしてほしいと思わないこともないが、堀川君に自分の胸をいじられている時の快感はたまらないものがある。それを感じたくてしょうがないわたしは、最近では学校でも落ちつかなくなってきている。結局、わたしもこの遊びにハマっているのだと思う。胸に関しては、あのエレベーターの時ほどの急激な成長はさすがになくなっているが、胸自体を刺激されることが多くなった今もわたしの胸は成長を続けている。
「ねえ、堀川君」
 わたしは、部屋に上がってきた堀川君に声をかけた。
「最近、また胸の成長が早くなってきたんだけど」
「そうなんだ、もしかしたら今度はお風呂場も壊しちゃうくらい?」
「そうだね、また壊しちゃったらどうする?」
「そうだな、今度あんなことになっても俺は放っておくよ。外にいる人にも理沙のきれいで形がよくてつやのあるおっぱい見てもらいたいしな」
「バカ」
 また、胸がドキドキしてきた。