因幡美香(いなばみか)の事について語りたいと思う。
それを語るには、あの日の出来事を話すのがちょうど良いだろう。
5月の半ば。午後の休み時間にて、僕は自分のクラスで机に突っ伏していると、近くの男子生徒達が因幡美香の事について、話しているのが聞こえた。
因幡美香という1学年上の美少女の名前には聞き覚えがあった。
有名な人物であったからである。
因幡美香。
僕達の通う旧国学園(きゅうこくがくえん)3年2組所属。役職、生徒会長。
170を超える女子としては高い身長と、クールな美貌が持ち味。
先生の評判も良く、学業優秀にしてスポーツ万能の彼女。
しかもGカップだと言われるほどの制服を押し上げる胸!
そんな彼女に交際を求む男子生徒は、数知れず。
それが僕、旧国学園2年4組、平凡を絵に描いたようだと言われる太刀打勲(たちうちいさお)が知っていた事前情報であった。
そんな彼女の事を、周りの男子生徒が噂していた。
混ざる気はさらさら無いが、僕も一男子としてあの胸に恋焦がれた身。
ちなみに勇気を出せずに、告白はしていないが……。
ここは話を聞いておこう。
話を聞いていると、因幡生徒会長が城ヶ咲譲(じょうがさきじょう)先輩の告白を断ったと言う話であった。
城ヶ咲譲。旧国学園3年2組所属。
イケメンで、サッカー部の得点王。彼女と同じクラスであるから、良く話している姿が目撃されており、彼と彼女は付き合っているのでは無いかと噂されるほどの仲だと言われている。
話を聞いてみると、
今日の昼休み、城ヶ咲先輩が因幡生徒会長に体育館裏にて告白している姿が、多数の生徒が目撃しているのだと言う。
城ヶ咲先輩の告白を、因幡生徒会長は受ける物だと皆、それぞれ思っていた。
しかし、彼女は「他に好きな人が居るから」とそっけなく答えて、城ヶ咲先輩をふったのだと言う。
こうなると、生徒の関心は『城ヶ咲先輩がふられた』よりも、『因幡生徒会長の思い人が誰か』と言う事にに変わった。
「いったい、どんな奴なんだ!」
「城ヶ咲先輩よりも良い男なんだろうなー」
「くそう!あんな巨乳の生徒会長様に思われている男子は幸せだなー。そして死ね!」
それぞれに思い思いの感想を言っていく。
僕も口には出さなかったが、同意見であった。
そんな幸せな状況に居ながら、その男子生徒は何をしているのだ。
全く幸せな奴め。死にやがれ。
そんな彼女居ない歴=年齢の僕は、まだ見ぬ思われ人の存在に唾をはきかけて、休み時間を睡眠に費やす事にした。
目を覚ますと、目の前には制服を押しのける大きな胸がでかでかと、その存在を強調していた。それに頭が何か柔らかい物に乗っている。
「起きた?」
胸の上から声がするが、胸が邪魔で顔が見えない。しかし、その声に聞き覚えがあったので、僕はその声の主の名前を呼んでみる事にした。
「因幡、生徒会長?」
「はい」
凛とした声で、声の主は答えていた。
生徒会長だと分かった僕は、急いで胸に触らないように飛び起きた。
外はもう赤く染まっていた。夕方である。どうやら寝過ごしてしまったみたいだ。
慌てて振り返ってみると、因幡生徒会長は教室の床に正座して座っていた。
あの僕が見た光景から考えると、僕が居たのは彼女の膝の上であったと分かる。
要するに、僕は因幡生徒会長に膝枕をされていたのであった。
おそらく彼女が放課後の教室の見回りをしている際に、僕に気付いてやったんだなとぼんやり思う。
良く椅子から降りて、あの体勢になるまで気付かずに眠っていられたな、と自分の睡眠に対する意欲に感心しつつ、
「し、失礼しましたー」
僕は鞄の脇にかけてある黒い鞄を持って、教室の外に出ようとするが、
「待って」
ガシ。ムニュ。
因幡生徒会長が僕の鞄を持っていない右手をしっかりと握り締めていた。逃がさないように。しかし、『ガシ』は分かるが『ムニュ』ってなんだろう?
どうやら説教をするまでは、逃がしてくれないらしい。
仕方ない。自分の睡眠欲に軽く怒りながら、僕は彼女の方に振り返った。
そして振り返って、僕はその光景を見て驚く。
僕の手は、彼女の大きすぎる胸に挟まれていた。
まだ僕は夢の中に居るのだろうか?
「えっと、因幡生徒会長?どうしてこのような状況に?」
「お仕置き」
「え?なんて?」
「だから、お仕置き」
再度彼女に聞くと、同じ言葉が返って来た。
お仕置き?授業をさぼって眠っていた事を怒っているのでしょうか?しかし、むしろこれはご褒美だと思うんですけどね。
とりあえず謝るに越した事は無い。僕は生徒会長に謝る事にした。
「は、はあ。すみません。今度からは眠らないように注意しておきます」
「そうじゃない」
「そうじゃない?」
はて?他に謝る要素があった事がありましたかね?
「……なんで告白してくれないの?」
「はい?」
「なんで告白してくれないのと、聞いているの」
「あの〜、因幡会長〜?そんな事を僕以外に容易に言っては駄目ですよ。
もしかして因幡会長が僕の事を好きだと勘違いされるのかも知れませんからね」
「勘違いじゃありません」
「え?え〜〜〜!?」
そう言うと、彼女は僕の腕から手を離し、僕に向き合った。
心なしか顔が赤くなっている気がする。
「私、因幡美香はあなた、太刀打勲さんが大大大好きなんですよ。
私はあなたと結婚を前提にしたお付き合いをしたいと思っているんですよ。
あなたの返事を聞かせていただきたく思います」
赤い顔をしながら、彼女は僕にそう告げていた。
僕は迷っていた。えーっと、この場合はどう返事をしたら良いんでしょうか?しかし彼女は可愛いし。僕も付き合いたいと思っているし。
ここは本当の事を言っておきましょうか。
「え、えっとぼ、僕も好きですよ。因幡会長の事は。
結婚は分かりませんが、付き合いたいと思っていますよ。
僕でよければ、お付き合いさせてい、いただきます」
少し緊張しながら、僕はそう言った。
そう言った途端、因幡会長が僕に抱き付いてきた。
「ちょ、ちょっと因幡会長!」
Gカップだと言われている大きな胸が、僕の身体に当たる。
む、胸が!胸が僕に当たっている!
「嬉しい……。これで私とあなたは、恋人同士ですね」
そう言って、彼女はさらにぎゅーっと抱き付いてくる。
こうして、僕と彼女は恋人同士になった。
クールな巨乳な彼女を手に入れた僕のその後の話は、また機会があれば話させてもらいましょう。
END