寒空の下、女性をいつまでも外に放り出す趣味は無い僕は、雅を中に入れる。
雅は中に入ると、コートと帽子を脱ぐ。
その瞬間、綺麗な黒髪がさららと流れ、大きすぎる胸がボヨンと揺れた。
しかし、でかい。何、食ったらここまででかくなるのだろう。
J、いやKか?
「変態兄さん」
胸を見ている事を気付かれ、雅は不機嫌そうに眉を潜めて、僕にそう言う。
胸を両手で押さえているから、さらに胸が強調されているのに気付かないのだろうか?
「……うっ、すまん」
けれども、僕は普通の大学生。従妹の胸を見て、堂々としていられる人間ではない。よって、素直に謝る。
「まぁ、良いですけど」
素っ気無く言って、帽子をハンガーにかけてカーテンに吊るし、帽子をキッチンに置いた。
くるりと周りを見渡す雅。
「……手狭ですね」
「悪かったな」
男学生の1人暮らし。住居の大きさは必然的に手狭になってくる。
1人ならまだしも2人となると、少し狭さを感じるのは常だろう。
ちなみに友達を2人同時で泊めた事があるから、3人までなら寝る事も可能だ。
「……まぁ、これはこれで」
何かを小さく確認した後、雅の視線はテーブルの上の箱に行く。
「むっ、ケーキですか?」
「……ん?ああ、ああ。満腹堂って言うケーキ屋さんで買ってきたクリスマスケーキだ。
……ケーキ、嫌いだったか?」
親戚の集まりでは、大抵お寿司や中華を食べていたからケーキはあまり食べている姿を見てない。けど、おかしでケーキが出されても嫌な顔をしてなかったと思うのだが……。
「い、いえ。滅相も無いです。好きですよ、大好きですよ、ケーキ」
「そ、そうか」
そこまで好きだったか、ケーキ。
まあ、女性は甘い物を良く好むから可笑しな話でも無いか。
そこまで好きならば、僕が次に取る行動も自然とあれになるか。
僕はケーキを彼女の方が大きくなるように、2つに切る。比率で言えば僕がAで彼女がBだろうか。
そして、大きな方を彼女の皿にのせる。
「えっ……?こんなに、貰って良いんですか?」
「あ、ああ。僕は甘い物をそんなに多く食べたい訳じゃないからな。
どちらかと言うと、雅の方が好きそうな気がしたからあげたんだが……。迷惑、だったか?」
「いえ……ありがとうございます。兄さん」
そう言って、フォークを持ってケーキを突き刺す雅。そしてケーキを食べる雅。
「〜〜〜っ!」
頬を赤く染めて、目を閉じておいしそうにする雅は、とても可愛かった。
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ケーキを食べ終わった僕は、皿を洗って座布団に座る。
目の前には雅が居て、2人は向かい合った体勢になる。
「「……」」
……気まずい。さすがに5年も会わずに居ると、親戚と言うよりは数年来ぶりにあった友達に近い。
それに……とても女らしい身体つきになった雅に、少し赤面していると言う点もあるが。
「この身体……嫌いだったんですよ」
突然、話し出す雅。ただならぬ雰囲気を感じた僕は、黙って聞くことにした。
「中学2年生くらいから、ぐんぐん伸びる背と共に……お、おっぱいも大きくなっていきました。
服もブラもきつくて着れなくなったりして……。それよりも、嫌だったのが同級生の、いえ他の人の視線でした。
男子はいやらしい眼つきで、女子は嫉妬と羨望の眼差しで。
皆、そんな目で見てくるんです。
休日の街や、登校中の電車や、通っていた学校で。
それで、だんだん外に出るのが、人に会うのが怖くなって、部屋から出なくなっていきました。で、4年前もちゃんとお別れ出来なくて……後ですっごく悲しみました」
「……そりゃあ、すまん」
「兄さんは知らなかったんだから、気にしなくて良いですよ。
……で、今くらいの身長になると、人と言うよりは化物を見る目つきになるんですよね。
花で例えると、高嶺の花から品種改良された花を見る眼に変わった、と言うべきでしょうか。
『ありえない美しさ』から『驚愕の美しさ』みたいな。
で、私はその視線に耐えながら、いつしか慣れてしまったんですよ。
中学生の頃はアプローチとかされて困ったんですけど、人じゃなくて化物にちょっかいをする人は居ませんから」
「……」
……それは慣れじゃない。慣れざるを得なかったんだ。
自身を守るため、他人の視線を我慢したんだ。それはとても可愛そうだ。
本人も望んで、そんな姿になりたかった訳じゃないだろう。
化物と言われたかった訳じゃないだろう。
そんな彼女の事を思うと、自然と涙が出て来る。
そんな僕の涙を、雅は自分の胸に僕の顔を押し付ける事で、自分の視線から隠した。
とても暖かい気持ちが、彼女の胸から伝わってくる。
「……で、クリスマスプレゼントなのですが。
私、『私』をあげたいと思います」
……はい?ちょっと待て。
なんでいきなりそんな展開になるんだ?
「私、男の視線を感じながら思ったんです。
ーこの身体は、凄く男の人に好まれるって。
私、女の視線を感じながら思ったんです。
ーこの私より美しい人は、あまりいないって。
私、家で閉じこもりながら思ったんです。
ー兄さんだけ。私が欲しいのは兄さんだけって」
「ちょ、ちょっと待て!僕達は従妹なんだぞ!」
僕は彼女の胸から、顔を出して雅にそう言う。
「知っています。しかし、従妹と結婚しても法律上何の問題もありません」
「け、けどさ!」
「それに……。兄さん、私の身体で興奮したでしょ?」
ぎくり!
「胸を当てながら、兄さんの物が私に当たるのも確認済みです」
確信犯かよ!
「で、でも!」
「それとも……」
そう言って、雅は悲しそうに瞳に涙を溜めながら僕を見る。
「……こんな化物みたいな身体じゃ、怖い、ですか?」
うるうると涙を溜める少女の姿は、幼い頃に見た1人の妹となんら変わっていなかった。
ー身体は大きくても、心はまだまだ子供って事か。
「はぁ……」
「兄さん?溜め息なんか吐いてどう……むぐっ!」
言い終わる前に僕は彼女の唇を奪っていた。キスだ。
すぐに雅は口を遠ざける。
「な、な、な、何を!」
「お前の事は好きだよ、雅」
言語がふらふらしている雅に、僕はそう優しく言葉をかける。
「……兄さんのえっち」
そう言いながら、顔を横に向ける従妹の頬は赤く染まっていた。
クリスマス、僕には可愛くて大きい『彼女』が出来た。
A Happy Christmas.