僕の両親は最悪の組み合わせだった。
父親は海外に出張に行くたびに変な物を買ってくる奇人。
母親はそんな父の言動を全て許す寛容さを持った麗人。
だからこそ、こんな最悪の図が完成してしまったのだろう。
「紹介しよう、今日から居候する事になったクー・マクマーニちゃんだ。仲良くしてやれよ、正」
北海道へ旅行に行くと行った父が、外人の金髪さんを連れて家に帰ってきてしまった。
(さすがに人は無いだろう。)
と僕、県立悠然高校(けんりつゆうぜんこうこう)の高校1年生である市井正は心の中でツッコミを入れた。
クー・マクマーニと紹介された彼女は、とても美しい美少女であった。
光沢を放つブロンドの髪、丸みを帯びた顔立ちと大きな丸い瞳。
背も高く、僕よりは少し低いけど女性としてはかなり高いだろう。やはり外人の血はさすがだと思う。
それよりも眼を惹いたのは、目視で100を超えるだろう大きすぎる爆乳と呼べし胸であった。外人の血を引くとしても、この胸は大きすぎるだろう。
そうこうしてるうちに、じっと見つめる彼女の視線に気付いた。
いつまで立っても胸に眼を向けているのは悪いので、僕は急いで彼女の顔を見る。
「えっと……マイ・ネーム・イズ・タダシ。ハロー?ワッツ、ユアネーム?」
持てる英語知識を総動員してみて、彼女に話しかけてみる。
お願いだ、通じてくれ。出来れば日本語が話せるならなお良い!
「Guten Tag.Ich sage mich, Koo.Ich bin ein Tadashi.(こんにちは。私、クーと言います。よろしくです、タダシ)」
……。
えっと、何語?少なくとも英語じゃないよな。
やばいなー、英語でも怪しい俺が他国語なんて理解出来ん。
「なぁ、親父。彼女、なんて言ったんだ?」
「……?さぁな。彼女が喋ってるの、ドイツ語らしいから。
同行者居ないと、分からん」
ドイツ語!?と言うか、自分で理解できない言葉を喋る奴を僕に押し付けるな。そして北海道で、なんで同行者が居るんだよ!
「……たく。変な父だ」
と言うか、彼女どうするんだよ。一緒に暮らすのに、言語理解不能って致命的だろ。
そんな事を考えていると、急に彼女、クーさんが僕の顔を両手で掴む。
それくらい近い距離なために、彼女の大きすぎる胸が僕の腹に当たっている。気持ちいいが、理解不能だ。
「えっと、クーさん?いきなり何?」
「Gibt es Tadashi, sie?(タダシ、彼女居るか?)」
え?だから分からないって。『タダシ』しか分からん。
良く分からないまま、彼女は詰め寄ってくる。
彼女の胸はさらに僕の腹に当たって、むにゅっとした感触を僕に伝えてくる。
「Ich, Tadashi-Enthusiast.Mogen Sie Tadashi, mich?(私、タダシ好き。タダシ、私好き?)」
これに至っては何の事かさっぱりだ。とりあえず『はい』とだけ伝えておこう。肯定されて悪い気はしないだろうし。
「イ、イエス?」
「……!Es, die Wahrheit!?(それ、本当か!?)」
えぇ!?なんでそんな真剣な表情でこっち見てるの!?
さっぱり理解不能だ。そしてなんで、さらに胸を押し付ける!?
「……Ich bin froh.(……嬉しい)」
そしてそのまま、クーさんは涙を流す。
「えっ!?泣かせた!?」
僕は状況と言語が理解出来ず、てんやわんやだ。
そして彼女はそのまま僕をぎゅっ、と抱きしめた。
行き場を失った胸は上へ下へと服を押し上げる。
結局、彼女との邂逅はさっぱり分からないまま終わってしまったのであった。