恋愛悪魔のカメラ Photo.7

帝国城摂政 作
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 僕、二階堂匠が自宅に帰ると、そこに居たのは悪魔みたいな女性だった。


 夕焼けのように赤い髪に血のように紅い瞳。白いシャツの上に黒いエプロンのような物を身に着け、さらに赤いネクタイも着けている。極めつけは頭と背中から生える大きな黒い羽。
 妖艶さと甘美さが入り混じったような、本当に魅力的な女性だった。


「あぁ、お帰り。先に上がらせてもらっているよ。私の名前はオルジェラ・L・ラバー。あなたのそのカメラ、『恋愛悪魔のカメラ』の説明に来た者なのよな」


「『恋愛悪魔のカメラ』の説明……」


 悪魔? そう、まさしく彼女は悪魔みたいな女性だ。彼女を魅力的に思ってしまったが、しかし悪魔とはどういう事だ?
 その件については後で聞くとして、まずは他に色々と聞きたい事がある。


 カメラの撮影条件。謎の声。それに、変化などについて。


「ちょうど良い。色々と聞きたかったところだ、話してくれよ、オルジェラさん!」


「……確かに家に上がった事よりもそっちの説明の方があなたには大事な事なのね。でも、私が悪魔だと言う事は信用してくれないかもしれない。だから私の姿をカメラで見て見て。悪魔モード以外だと、私の姿は映らないはずなの」


「……分かった」


 僕はそう言い、カメラを見る。


(なっ……!)


 カメラを見ると可笑しな光景が僕の目に見えていた。


(服が浮かんでる!)


 そう、そこには彼女の姿は無く、彼女の服だけがぽっかりと浮かんでいた。まるでトリック写真。けれどもこれは現実だ。気を取り直して悪魔モードにするとちゃんと彼女の姿が映っていた。そして、【撮影対象はありません】の文字。
 やはりこのモードで映せる物の条件は女性ではないのか? この前、男の娘の京都よりは映せたし、性別は関係ないのか?


「どうやら嘘ではないらしいな」


「今回は早めにいただけたようです。ではまずはそのカメラのルーツを言いましょう。
 『恋愛悪魔のカメラ』、正式名称は『マルバスの鏡』と言う鏡がイギリスのとある貴族に渡された時の事」


「『マルバスの鏡』……」


 それがこのカメラの本当の名前……。僕はごっくりと息をのむ。オルジェラさんは説明していく。


「概略的に言うと、マルバスはソロモン72柱と言う悪魔の中でも強い悪魔で彼の司っていたのは、『疫病をもたらす力』、『それを治す力』、『工芸に関する優れた知識』、――――――そして『人の姿の変化』。
 工芸と人の姿を容易に帰る事の出来る彼はそのイギリスの貴族は彼にこう願った。
 『悪魔よ、どうか私の婚約者を私好みの爆乳レディーに変えてくれないだろうか』とね。
 そう、かの貴族は婚約者に胸を、母性を求めていた。
 かの貴族のように貴族は好みにうるさく、そしてその欲望は果てしない。しかし結婚する女性が全て彼の理想通りになるとは限らない。だからかの貴族は欲しがった。
 自分の女性を、自分の希望する姿になるよう願ったのだ。
 そして『マルバスの鏡』は完成しました。『マルバスの鏡』は所有者の欲望を映します。ロリコン、シスコン、マザコン。男性愛好家から自分好きなナルシスト。貧乳、普胸、美乳に巨乳になんでもあれ。
 普通の好みから異常な性癖まで。ありとあらゆる欲望を『マルバスの鏡』は叶え、『マルバスの鏡』で映し取られた者はその姿形を変えられ、その者を愛すようになる。
 そのカメラにはそんな『マルバスの鏡』が使われているんです」


 ……言葉にならなかった。つまり、今まで僕が有栖川姫野、金山凛香、そして京都よりを撮って姿が変わったのは。巨乳や爆乳になったのは、所有者である僕の欲望? 僕の欲望が彼女たちのその姿を変えてしまったと言うのか?
 僕は呆然と立ち尽くすしかなかった。何と言う事だ。僕は3人の人生を台無しにしてしまった。3人の姿を変え、自分の欲望まみれの身体に変えてしまった。


「気を落とさないで、匠君。次に来るだろう質問。謎の声。あの声は君の欲望。そのカメラは曲がりなりにも悪魔が作った。悪魔は人を堕落させる。人を誘惑する。人を魅了する。
 悪魔シリーズを使い続けた個人所有者の一部には、そう言った自分では考えられないような、悪に塗れた行動をする。私たちはそれを『真の欲望』と呼んでいるのですんで」


「真の……欲望……」


 つまり、あの声。僕に囁くように、僕に耳打ちするように、僕の行動を誘導し、誘惑し、その行為をするのを手助けしたのは、僕自身の『欲望』……。
 彼女は僕の近くに来て、僕のカメラ、『恋愛悪魔のカメラ』を取り上げる。


「ちょ……!」


「凄いですね。まだこのカメラに未練でもあるのでして? しかし私は別にこのカメラを取り上げるつもりはありませんわ」


「取り上げるつもりは、無い?」


 何を言っている? 現に確かにその手に持つカメラを……その2つのカメラを……。


「え……?」


 あ、ありえない。なんで? どうして?
 なんで彼女の手の中には、“2つのカメラがある”!? 彼女の手には僕のカメラ、そして同じ形をした灰色のカメラが握られていた。彼女は僕に僕のカメラを返す。


「多分、びっくりしてます? 私も悪魔。こんなカメラを複製するくらいの力は出来るのですし」


「カメラの複製?」


「オルジェラ製、『恋愛悪魔のカメラ』。またの名を、『恋愛悪魔のスペアカメラ』と言うの。……あ」


 彼女はポン、と手を打つ。


「いけないわ。私には他に用事があったんだわ。失礼しますのでし」


 オルジェラさんはそう言って帰ろうとする。


「ま、待って……! まだ話は終わってない!」


 そう、終わってない。まだ『恋愛悪魔のカメラ』の悪魔モードの撮影条件について教えてもらっていないと言うのに!


「天気も良さそうね。私好みの良い夜空だわ。じゃあ、匠君。最後に1つだけ。
 これからあなたには沢山の困難が待ち受けると思う。けどあなたはその困難に打ち勝たないといけない。何でそんな困難があるのかって?
だって、私はあなたが好きだもの。私はあなたに惚れちゃったわ。私、あなたを私好みのさらに良い男にするために試練を与えるわ。あなたは私から逃げきれない。
 じゃあね、私の大好きな二階堂匠君? じゃあね」


 彼女はそう言って、帰って行った。
 ……え? 僕の事が好き? 愛してる?
 試練って何だ? 何が起こるんだ?


 僕はその時、とても困惑していた。そして次の日から僕はさらに困惑する事態へと巻き込まれていくのだった。