恋愛悪魔のシンデレラ 最終夜前篇

帝国城摂政 作
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 やっとだ。これでやっとだ。僕はベッドで倒れている妹、赤城日和を見てそう心に思う。『桁上がりの六名家』の6人を母乳を出した。その際、沢山の出来事があった。
 十城火花は運動場にて押し倒した。千街莉木と万門美金はアイドル場に潜入して倒した。百城水穂には泣かれたし。億階堂土岐はパーティーにて一悶着あったし。
一宮海月、彼女には色々と悪い気がした。二回もやってしまったし、それに彼女の告白も断っておきながら、「妹の友達になってくれ」と言うのも図々しいと思っている。けれどもそれも今日終わりを迎える。


「じゃあ、まずはこっちの方の薬を……」


 ゲーム・H・ラブリーはそう言って、『治療用』と書かれたアンプルを注射器で吸っている。そしてその注射器を日和の腕に突き刺して、中に入っていた物を注入していく。


「成分的にはこれで……」


 そう言って、ラブリーは注射器を取る。僕は妹の日和の様子を見る。日和の寝息は依然として安らかな物だが、そんな彼女の口から「う、うう……お、お兄ちゃん……」と言う声が聞こえてきた。


「おぉ……!」


 その言葉に僕は嬉しくなった。
 今まで日和の口からは静かな寝息しか聞こえなかった。けれども、今のは本当に意味のある言葉だった。彼女が病院で眠りについて、初めて聞こえてきた意味のある言葉だ。


「しばらくしたら、彼女も目を覚ますだろう。だいたい、1週間くらいだよ」


「1週間……」


 長いようで、いや今までの苦労に比べたら随分と短い。あと1週間もすれば僕はまたあの日和の姿を見られるのだ。妹が生きている姿を、こんな場所で留まっているのではない生きている姿を。


「でもまぁ、最後にこのゲーム・H・ラブリーの娯楽をやらせてもらいましょう」


 と、ゲーム・H・ラブリーはニヤリと微笑んでいた。そして『性行為用』と書かれたアンプルを持つ。


「それは……『性行為用』って?」


「勿論、『性行為用』だよ。これは君がやってくれた、『桁上がりの六名家』の母乳の中から『恋愛悪魔のホルスタイン』のみを抽出しておいた物です。所謂、6人分の母乳を混合した物です」


「何故、そんなものを……」


 と、僕が聞く。すると彼女は笑う。


「君は恋愛悪魔が慈善事業か何かだとでも、思っていたのかい? 残念ながらそうじゃない。私達は悪魔、人の法や倫理に乗っ取られない部分で生きる人外の存在。伸ばした君の手を掴み引き上げたのは、そう言った存在の私だ」


「……それに関しては感謝している。あなたのおかげで、皆に復讐出来て、さらに妹を助ける事が出来た。それとも、悪魔だからこう言った感謝の表現には慣れていないとか?」


「どう致しまして。別に悪魔の全てが感謝を受けるとジンマシンが出来て来ると言う体質ではない。稀にそう言った性質の悪魔がいるけれども、私はそうじゃない。
 それに感謝の言葉はいらない。無償の報酬ならば確かに感謝の言葉は貰ってもいいと思うけれども、私は無償の報酬ではなく、有償で報酬を貰いたいのだから。


 あぁ、そうだ。君には言ってなかったか。私はコレクションが大好きでね。特にシリーズ物は全部揃えたいと思うほどのマニアなんですよ」



 不味い予感がする。何が不味いかは分からない。けれども、とにかく何かが不味い……。


「『桁上がりの六名家』。一、十、百、千、万、億と桁が上がるかのようなシリーズ物の彼女達にはもう1つの特徴がある。そう、月火水木金土と1週間の曜日が名前に入っていると言うね。そしてそこに居る彼女の名前は……」


「ひ、日和……」


 日曜日……。


「もしかして、君は……!」


「そう。この6人の女性として男性に魅力的だと思われる部分を抽出して濃縮、このアンプルに入れた。このアンプルの中の物体を飲めば、どんな女性だろうともたちまち世界四大美女の称号でも手にするんじゃないかと豪語するくらいの逸品だ。これを日和君に飲ませる」


「……! 日和に……!」


「そして君に彼女とエッチしてもらう」


「……!」


 い、妹と性行為? この悪魔は何を言っているんだ?


「恋愛悪魔としての私のモットーは、厭らしく男性に女性との甘美なる色欲を。そしてコレクションマニアとしての私のモットーは、その男性の人選にはシリーズ物の採用を。
 君は私と契約している。契約内容は妹の復讐と言う名の恋人作り。残念ながら君は誰とも恋人との関係を結ばずに不完全燃焼状態だけれども、それでも任務はまっとうします。この際、君には妹と近親相姦の関係になってもらうしかない」


「や、止めろ……。僕はそんな事を頼みたかった訳じゃない……」


 妹の事は好きだが、そう言った感情は持っていない。ただ、兄として、家族として彼女の事を、助けようと思って……。


「もう終わった事さ。もし仮に、このアンプルを誰かが飲みたいと言った場合は上げるよ。勿論、女性しか利かない性能上、女性限定だけれども」


「うっ……」


「この場に女性は私、ゲーム・H・ラブリーと妹、赤城日和のみ。そして私は飲みたいと思わない。妹さんは無言で無記入投票。よって、妹さんにこのアンプルを―――――――」


 飲ませるとゲームさんが言おうとした時だった。


「私が飲みます!」


 彼女、一宮海月が入って来たのは。


「い、一宮……。どうして……」


「水穂さんが気付いたんですよ。あの悪魔が何を考えているのかを。そして病院を走っていたら、声が聞こえて来て……」


 内容を聞いて、名乗り出たと言う事か。


「でも、一宮……。お前が日和の代わりをする必要はない。今は居ないけれども、僕が彼女を作ってその彼女に頼んで飲んでもらうと言う方法が……」


「そんな時間は無いですよ、お兄ちゃん」


 それに、と彼女はこっちを向く。



「お兄ちゃんの彼女なら、私がなります。他の人には譲れません……これだけは譲れないんです」


「一宮……」


「お兄ちゃん。私はお兄ちゃんの事が好きです。
 そしてお兄ちゃんのために、私はえ、エッチだってしていいと思っています。それに、あの薬だって……の、飲んでも良いです」


「良いの? 私が言うのもなんだけれども、この薬は『性行為用』、つまりはエッチな身体になる薬。普通の生活には戻れなくて、桃色なバラ色な生活行きの薬だよ?」


 と、ゲームさんが言う。


 そう、彼女は現れた一宮海月に特に動揺も見せずに、逆に言ったのだ。
 これは『恋愛悪魔のホルスタイン』と一緒で永続的効果の薬、そしてこの薬は『性行為用』にチューンアップした薬で飲んだら最後、厭らしい身体つきになってしまう。普通の生活が送れない、そんな身体に。


「妹さんが飲んだのならば、私は兄である赤城凌のエッチを見届けた後、それなりに生活しやすい身体に戻す気はあった。けれども、それが他の人ならば別。戻しはしないし、多分今の生活とおさらばしないといけなくなるよ?」


 それでも良いの、とまるで止めて欲しいかのように、ゲームはそう言う。それに対して一宮は断固として抗議した。


「―――――――お兄ちゃんのためならば、今の生活を捨てても構いません」


 その言葉に「じゃあ、お願いするよ」と言ってアンプルを渡して、姿を消したのであった。


 一宮海月はアンプルをじっと見つめる。そんな彼女に僕は説得を進める。


「一宮……その……それを飲んでしまうと……」


「お兄ちゃん。分かってます。これを飲んだら、多分私は変わってしまうんでしょう。お父さんやお母さんから何を言われるか分かった物ではありません」


 一宮家は六名家の一を担う名家であり、一宮海月はその娘。彼女がこの薬を飲めば、もしかして彼女と言う肉体的特徴は何もかも消えてしまうかもしれない。それで『一宮海月』と言う人間だと認識して貰えなくなるかもしれない。僕が心配していたのはそう言う事だった。しかし、一宮海月はそれを物ともせずに、


「大丈夫です。お兄ちゃん、私にとって一番大切なのは――――――」



 ――――――お兄ちゃんですから。


 と言い、そのアンプルを口に入れた。