猫の仇返し

tefnen 作
Copyright 2014 by tefnen All rights reserved.

時は12月も終わりの夕方,日が暮れてすぐのこと。
薄暗い路地を一人の少女が駆けてくる。白いセーターにスカート、紺のマフラーと、一見普通の、強いて言えば少し背が高めな女子高生である。
しかし、注意して見てみると、かなり異様なことがわかる。スカートは短すぎてこの寒い時期にしては足を出し過ぎだし、靴はつま先しか入っていない。一番おかしいと言えるのは彼女の胸で、セーターの上からでも見える人の頭ほどの大きさをした球体が、走る振動でゆさゆさと揺れている。セーターが白くて見えづらいが乳首も突き出すようにその存在を主張している。
「こ、こんなに大きくなるなんて…」と喘ぐように口走る少女の様子からも、この異常さが伝わってくる。

どうしてこんなことになったのか、事の発端は半月前までさかのぼる。

12月中旬の朝、同じ路地を、また同じ一人の少女が魚肉ソーセージをくわえながら駆け抜ける。しかし、少女の用紙のお陰でどこぞの忍者キャラのようなエロさはひとかけらもない。髪はボサボサ、背は小学生並みで制服がなければ高校生とはまず誰も気づくまい。当然胸も無いに等しい。顔もあまりパッとしないが、子供のあどけなさを残しており、ブスという言葉にはあてはまらない。付けられたあだ名がチビ○子で、彼女はこれが結構なコンプレックスになっている。
少女の名前は由里、地元の高校に通う、成績は中の上くらいの1年生である。転勤族であったが、夏から一人暮らしをしており、小さなアパートを借りて過ごしている。そのため、料理の腕前はピカイチで、高校でできた初めて長い付き合いができた友達を招待し、休日には昼食や自分で焼いたクッキーなどを振る舞ったり、平日にも夕食を披露したりしている。
前置きが長くなったが、今朝は、目覚ましから電子レンジまでありとあらゆる電機製品が故障し、予定が狂ったせいで、始業時間に遅刻しそうなのだ。

(はあ、今日は呪われてるのかな…)

そう思いつつ、いつも遅刻しそうなときに使う路地裏に駆け込む。ここは、人通りこそ少ないが、下水道に詰まりでもできているのか、マンホールからかなり酷い異臭が漂っていて、急いでいる時でないと通り道の選択肢にはいらない。一人暮らしを始めたての時はよくお世話になっていたが、久しぶりにここを通ることになって、すこし嫌な気分の由里であった。

(うわ、やっぱりくさっ…)

マンホールを睨みつつ走っていると、

ドサッ!

「え!何!?」

いきなりの異音と足への衝撃に思わず声を上げる。前を見てみると、見たこともないほど黒い猫が、倒れている。どうやら、よそ見をしている間に思い切り蹴りあげてしまったようだ。

(ど、どうしよう?もしかして…死んじゃった?)

猫は一向に動かない。あたふたしながらしゃがみ込み、手を伸ばしてみると、その手が猫に触れる前に、それは飛び起きた。そして、由里を黄色と青のオッドアイで睨みつけた。どういうことか、それが由里にはとても愛らしい顔に見えた。

(あれ、睨まれてるはずなのに…なんでだろう、か、かわいい!)

思わず微笑んでしまうが、それを見た猫は急に由里に跳びかかり、彼女の右手の甲を何回か引っ掻いた!そして、猫は由里が持っていたソーセージをかっさらうと走り始め、すぐに見えなくなってしまった。

「びっくりしたー。でも、引っ掻かれたはずなのに、全然痛くない。なんで?」

手の甲を見てみると、そこには某和製ホラーゲームのカルト集団が崇めるようなマークが、刺青のように黒く刻まれていた。

(え、なにこれ…って、いけない!遅刻遅刻!)

と、由里も走り始める。結局、授業には何とか間に合ったが、走った疲れで国語の授業で居眠りをしてしまい、放課後に職員室で説教をされることになった。帰る頃には、もう夕暮れ時になっていた。

「あの先生、いつも同じ話をずーっとするんだもん、嫌になっちゃう!だから寝ちゃうんだ」

とぼやきながら、教室の机に残したカバンを持ち上げる。

「早くスーパーに行って、帰ろっと。…うっ!」

ドクンッ!

いきなり心拍が強くなり、うろたえる由里。思わずカバンを落としてしまう。

「あ、いけない。」

と右手でカバンを取ろうとする。すると、由里は手の甲にある黒かったマークが淡い赤に変わっているのに気づいた。

(え…?!くっ…!)

ドクンッ!ドクンッ!

また心拍が強くなり、全身に軽い衝撃が走る。

(…ぐ…え?何?)

衝撃のせいで目を一瞬閉じた由里だったが、目を開いてみると手からカバンが少し遠ざかっていた。姿勢を直すと、いつもより自分の視線が高いのに気づいた。

ドクンッ!

もう一回衝撃が走った。すると由里の手がグッと伸び、指は伸びるだけでなくすらっと細くなった。いつの間にか、髪も少し伸び、癖がないストレートヘアになっている。

ドンドンドンドン

今度の衝撃は、一回では止まらなかった。由里は自分の胸が熱くなっているのを感じ、見てみると、衝撃が走るごとに胸がグッグッと膨らんでいるのに気づいた。

(え…え…?)

いきなりの変化への驚きと、コンプレックスだった体が成長していることの喜びに戸惑う由里だったが、胸は大きくなり続ける。最終的に、Dカップ程度の大きさになった。

(これが私…?)

1分前に140cm位の身長だった由里が、今は145cmくらいになり、大きくなった胸と長くなった手足を持っている。奇跡としか言い様がない。

「そうだ、鏡を見ればもっとわかりやすいかな?」

女子トイレに行き、そこの鏡を使って自分を見てみると、なんと顔つきまで変わっており、子役俳優の中でも綺麗な方に入るくらいのものになっていた。また、肌は日本人にしては真っ白になっていた。

「やったぁ、明日からチビ○子なんて言われなくて済む!」

由里は浮かれた気分でスーパーに寄って、帰った。スーパーのレジ係のおばさんには、すこし怪訝そうな顔をされたが、なんとか無事に済ませることができた。

宿題、夕食をさっさと終わらせ、翌日からの生活に妄想を膨らませている間に、気付かない内に眠りについた由里であった。