由里は寝る前に、絵美の言葉を反芻していた。
『ま、それにはもう一つトリックが…今日は日が出てた、で、チビ○…あ、チビじゃないね、もう。由里はずっと外に居たでしょう?それがヒント』
そして、由里が至った結論は、
『中にいればいい』
だった。安直な考え方だが、さっさと公共でのセクハラを終わらせたい由里は、次の日に早速行動に出ることにした。
朝。ふと目が覚めた。窓の外を見ると、まだ日は登っていないようである。由里は息苦しさを感じて、下を覗くとそこには大きな双丘があった。
(…夢じゃないんだ…)
と思いつつ、起きるのにはまだ早い時間であるので、再び眠りについた。
次に目が覚めた時、体は元に戻っていた。外を見ると明るい。どうやら太陽が出ているか否かが重要であることは間違いないようだ。
体が大きくなる事自体、家に帰れば問題無いが、その時の衝撃にはまだ慣れていない。この事が由里を家から出ることから遠ざけていた。しかし、家の中でずっと過ごしても暗い気持ちになるだけなので、すぐ近くの公共図書館で時間を過ごすことにした。
(まあ歩いてたったの15分くらいだし、外に出てもだいじょうぶだよね)
昨日は6時間も外に居たのだから比較にならないほど短い。そう思って、図書館に出かけていった。
(天気予報ではかなり寒いって言ってたけど、そんなでもないな、体がぽかぽかする)
と考えつつ、すぐに図書館に着いた。この図書館は並大抵でない量の書籍を貸し出しており、読むものに困ることはない。今日も、面白そうな本を見つけられた。
(さて、どこで読もうかなっと)
見まわすと、建物の2方向、互いに建物の反対側に窓があった。一方の窓からは日が照りつけているが、もう一方は日は差していないようだ。
(日が沈む時がわかりやすい窓際がいいな、でも中にいれば大丈夫、と思うけど、太陽が関係あるなら、日に当たるのは怖いかな)
そう思って由里は日差しが無い方の窓の傍に座った。
さて、本を読み始めるとこれが面白い。シリーズ物であり、昼まで時間が経つのを忘れるくらい由里は集中して読みふけっていた。読書から離れたのは暖房が強いせいか、途中汗ばんできたので上着を脱いだときくらいである。時間感覚を取り戻したのは、本に差す日光がオレンジ色に変わったのに気づいたときだった。
(いけない!さっさと家に帰ろう、でももうちょっとで読み終わるし、そんなに体も大きくならないはずだから、最後まで読んじゃおう!)
と、日光が赤くなるまでまた読書に没頭した。その頃には読み終わっていたようだ。
(わぁ、感動した!巨人化した彼女に、王子様が愛の言葉をかけて呪いを解くなんて素敵!)
読んでいたのはファンタジーものであるようだ。とその時、
「お、由里ちゃん、いたんだ!」
「拓也くん!こんにちは、こんな所で珍しい」
高校のクラスメートの一人である、拓也が近づいてきた。一回料理を披露したことのある男子で、学校でも結構話す、程度の友達である。
「いや、ちょっと調べ物をね」
「ふーん」
「あれ、由里ちゃん結構薄着だけど寒くない?」
「え?」
下を見ると、半袖のシャツと、スカート(と下着)以外何も身につけていない事に気づいた。
「え、なんでなんで!いや、恥ずかしい!」
と隣の席に掛けてあった服をセーターまで一気に着る。
「よほど集中してたんだね」
「でもこれは…」
「風邪には気をつけてね、いくら暖かいからといって半袖じゃ風邪引くよ」
「う、うん…」
拓也の優しさに今初めて気づいたような感じで体が火照ってきた。
「今度さ、また料理作ってよ、前のがすごく美味しくてさ、家の料理じゃ物足りないくらい…おっと、今のは母さんには内緒」
「ふふっ、いいよ!お正月にみんなでおせち食べよう」
「おお、いいね!でも俺の家族は多分帰省するから、もうちょっと後のほうがいいかな」
「そっか、じゃあ冬休み終わってからのほうがいいかな?」
と話が盛り上がってくる。が、しかし、
ドクンッ!
あまりにすごい衝撃に由里の体が飛び上がる。
「…え…なんで…」
「どうかしたの?大丈夫?」
「だい…じょう…くっ…ぶ…なはず!」
「救急車呼ぶ?」
「ううん…すぐ…おさまる…ぐっ」
今日は外に出ていないから大丈夫という思い込みから、拓也を説得しようとするが出てくるのは喘ぎ声だけである。そして、
ドクンッ!
「んあっ…!」
「え!指、伸びてるような」
拓也の言うとおり、由里の喘ぎ声と同時に指がぐいっと伸び、可愛らしい手は大人の手へと変身を遂げようとしていた。
(いけない…このままじゃ…!)
「たくや…くん…んぐっ!…トイレ…行ってくる」
「え、大丈夫?」
そう言う間にも指は伸びていく。
「だいじょうぶ!」
と言って、衝撃を抑えこみながら、トイレへ走って行った。
「明らかに大丈夫じゃなさそうだけど…」
障害者用トイレ。普段なら、使うのを避けたいところだが、今回は人に見られたくない。そこに由里は駆け込み、成長しきった指で自動ドアのボタンを押した。
「はぁっはぁっ…指…で良かった」
最初に胸が大きくなろうものなら即バレてしまうが、指なら誤魔化せそうである。
「なんで…?…くっ!」
ドクンッ!
手がぐいっと伸びる。これまで見たこと無いほど伸び、長袖のはずのセーターは今や半袖よりも短くなっている。
ドクンッ!ビリビリッ!
「あぁっ!」
今度は脂肪が送り込まれ、ググッと太くなった腕にセーターは袖の端から少し破れてしまった。衝撃は定期的に続き、今度は足がぐっ、ぐっ、と伸び始め、ロングスカートの先から膝がぐいっぐいっと出て行く。由里は手すりにしがみついて何とか立っている。
ゴツッ!
「いたっ!」
どうやらペーパーを置いておく棚に頭をぶつけたようである。一瞬意識が遠のくが何とか持ちこたえる。それで足の成長は止まり、またこの前と同じように足の付け根から脂肪が出るように足が太くなっていく。パンツは脂肪に食い込み、由里の体を締め付けていく。
途端に重くなった足でバランスを崩し、便器に座り込む由里。それでも成長は続き、脂肪が便器に押し込まれていく。
「お尻…きついよぉ…!あぁん!」
ビリッという音とともにパンツが破け、最初はロングスカートだった、今やミニスカートがぐいっと丸く形を変えた。
胴体はいつの間にか長くなっており、セーターとスカートの間にはくびれた腰が見える。
「ううっ!む…胸が…熱い!」
さっきの体の火照りが全部胸に集まったような高熱を感じる由里。ついに胸の成長が始まった。まずセーターの上からでも見える突起が出てくる。次にセーターの表面が全体的に段々膨らんでくる。
「うっ…くるしい…」
服を脱ごうとする由里だがセーターは胸につっかえ動く気配がない。その間にもどんどん胸は膨れ上がり、一番伸縮性のない半袖のTシャツがビリっと破れる音が聞こえる。すぐに続いてその上に着ていた服のボタンがプチプチ取れる音が聞こえてくる。その音のたびに、胸の膨らみは前へぼぅん!と飛び出し、由里の体は前後に揺れた。ふと下を見ると、セーターの首の部分から胸の肉がはみ出してきていた。いまやセーターは拘束具と化しており、由里からは見えないが下からも肉がはみ出してきている。
ここで、胸から熱が引いていった。成長が終わったようだ。
「はぁっ…拓也くんに見つかる前に帰らないと!」
と慣れない体を動かし、図書館から飛び出して、走りだす。
「こ、こんなに大きくなるなんて…」
長い足のお陰でかなり早く家に到着する。早速ハサミを取り出しセーターを左右に切断する。胸からの圧迫であまりに緊張したセーターは押さえることなく簡単にはさみで切ることができた。胸はセーターから開放され、どるんっ!っと由里の視線に飛び込んでくる。Lカップはあるだろう。また、身長も180cmを超えていて、いかにすさまじい成長だったかが分かる。
「なんでこんな大きく…あっ!」
由里は読んでいた本に日光があたっていたことを思い出した。本が日差しを浴びていたのなら、由里も同様である。どうやら、時間経過で太陽が動き、気づかないうちに由里は大量の日光を、半袖で浴びていたことになる。
「つまり、日光を浴びた時間で成長の度合いが決まる、日光を浴びてれば建物の中に居てもダメってことか…」
由里は明日からは窓から離れた所で本を読むことにした。
「とりあえず、服を着ないと…急宅便とか来たら困るし」
昨日絵美からもらった服を取り出す。
「ブラジャーが入らない…!ええい、いいやもう」
「え、この服まだオーバーサイズなの?」
と、愚痴を言いながら服を着ていく。服を着終わった所で、呼び鈴が鳴り、由里は飛び上がるほど驚いてしまった。着地した時の揺れは相当だった。すかさず壁ドン。
「ああ、もう仕方ないじゃない…あ、そうそう、はーい、今出まーす!」
ガチャッ
インターホンの受話器を取る由里。
「あ、こんばんは。由里ちゃん、拓也だけど、コートとカバン届けに来たよ。長い間戻ってこないから心配になって係の人に聞いたら女の人が飛び出していったって聞いたんだ。」
インターホンから拓也の声が聞こえてくる。
(どうしよう!拓也くんだ!この姿を見られたら…何とかごまかそう)
「あ、拓也くんね、妹から話は聞いていますよ。持ってきてくれてありがとう。あの子、相当おっちょこちょいで困っちゃうわ…」
「あ、お姉さんでしたか、てっきり由里さんは一人暮らしと思っていましたが」
「ええ、でも今晩だけ泊めてくれるように頼んだんです。仕事が近くであって…でもあの子まだ帰ってないんですよ」
「そうなんですか。お仕事お疲れ様です。妹さんがいらっしゃらないようでしたら、荷物はここに置いていきますんで、妹さんによろしく伝えてください」
「はい、またー」
ドキドキ
変身など関係なく動悸が激しい由里であった。しかし、何とかごまかせたようだ。拓也への、置いていってしまった上に、真相を告げず騙してしまった罪悪感に苛まれながら、その夜は過ぎていった。
由里は呪いの特徴を全て明らかにできたと思っていた。しかし、まだ奥があったのである…(続きは第3部で)