猫の仇返し

tefnen 作
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絵美は、由里との一方的な誓いを立てると、家の車を呼んで帰っていった。服が破れてしまったのだから仕方ない。

「まあ、◯子といちゃついてたら破れちゃったって言えば大丈夫だよ」
「え、何それ私も加害者なの?」
「だって実際そうじゃん、あんたが呪いを受けたがために、私は巻き込まれてこうなったんだから!プンプン!」
「ご、ごめん…」
「冗談だって冗談!呪いを解くためにあの魔法使いのところまで行くのを提案したのは私なんだし、まあ誰が待ってるのかは知らなかったけど」
「…」
「だから気にしないの!」
「分かった」

と、こんな時まで冗談を言えるほどお調子者の絵美である。由里は安心して絵美を送り出した。壊れたテーブルを片付けた後、由里は考えた。

(でも絵美ったら私が変身するときはいつもニヤニヤして…あの絵美を見るのはちょっと嫌だなあ)

親友として、絵美の変態行動を見るのは少し心が痛い。

(よし、次に絵美に会う前に自分だけで試してみよう!半袖で一日中ジョギングでもすれば、お日様がずっと当たってるから最大限まで成長するはずだよね!それで買う服のサイズとか決めておこう!)

由里にしては頭が回った方だ。これからの変身で服が破れるのを予防し、かつ成長時に裸にならないようにするためには、絵美にもらったような大きめのサイズの服を買うのが一番だった。

(よし、次の晴れの日はーっと、元旦か、少し遠いなあ、でも絵美、冬期講習で2日まで暇がないんだっけ…大丈夫か!)

ということで、元旦当日。某駅伝より1日早く、由里は走りだした。それも明け方、日の出のすぐ後である。

「うわっ寒い!…クシュン!でも、運動していれば段々暖かくなるよね…クシュン!」

と言いつつも、くしゃみが止まらない。元旦の朝早くから気丈にもティッシュを配っていたお兄さんから1袋ふんだくり、それが尽きる頃に体が寒さに慣れ、くしゃみが止まった。

(体が暖かくなった…)

時計を見ると、走り始めてから1時間が経過していた。

「これなら、風邪も引かずに行けそう!」

しかし、昼には気温が上がったのか、必要以上に体は熱くなり由里は汗だくになっていた。

「定期的に休憩しているんだけど…喉乾いたなあ…あっ!」
「いらっしゃい〜!冷たいスポーツドリンクはいかがですか〜!」

少ししわがれた声でおじさんがスポーツドリンクを売っていた。

「私、なんて運がいいんだろう、こんな時にこんなところで普通売ってないよね!」
「お、お嬢さん、結構汗かいてるね、健康的でなによりだ。ほら、これ持って来なさい。おじさんからのおごりだよ!」とスポーツドリンクを2本出してくる。
「え、いいんですか!」
「いいっていいって、この頃の若いのは寒いと行って家から出ようとしないからな、お嬢さんには感心したよ!」
「えへへっ!ありがとうございます!」

由里はもらったうちの一本をすぐに飲み干した。普通なら一気飲みはしないが、ジョギング自体も普通しないので、由里には当然のことのように思えた。

「お、いいね!もう一本持って行きな!」
「いや、これ以上は!」
「じゃあ、150円ね!」
「はい!」
「まいどありー!」

由里はまた走りだした。汗はすっと引き、こもっていた熱も消えた。なんとなく体が軽いし、上気してすこし赤みがかっていた肌も白くなった。

「わぁ、一気に気持ちよくなった!おじさん!…あれ?」

スポーツドリンクをおごってくれたおじさんにもう一回だけ感謝しようとして、後ろを見ると、すでに出店は販売人ごと消えていた。

「おじさん、どうしたのかな?まあいいか!」

この「まあいいか」で事を済ませたことで、これまでも由里は何度も痛い目を見てきた。しかし、学習する気は全く無いようだ。結局、スポーツドリンクもすぐ飲み干し、そのまま3時になるまで走り続けた。昼食はどこかでジュールメートを買って済ませようと思っていたが、スポーツドリンクに結構な栄養が含まれていたらしく、空腹になることはなかった。街をくまなく走ったおかげで、これまで気付かなかった道や路地裏を見つけることができた。

「はぁ、はぁ、今日は楽しかったな、あ、いっけない!明日は拓也くんに料理を振る舞うんだっけ!絵美も来るだろうし、佳奈ちゃんもくるかなあ、よしこのままスーパーに行って買い物してこよっと!」

佳奈とは、由里が入学式で体型が同じ、背が低くて胸もない同士で仲良くなった子である。クラスメートではなかったが、期末試験前は一緒に遊んでいた、由里にとっては絵美と同じくらいの親友である。
佳奈は由里と比べても試験勉強に没頭していた。どうやらそれは、片思いの男子がいるかららしいのだが、由里にそれが分かるわけがなかった。試験が終わった後も、すぐに帰省してしまい、話す機会がなかった。

スーパーに行って帰ってきた由里の両手には、かなりの大きさのスーパー袋がぶら下がっていた。しかし、こんなものはいつもの買い出しと同じで、由里にはなんでもないようだ。冷蔵庫に食材を入れた由里は、どこか満足気である。

「よし、これで明日の朝準備すれば、完璧なおせち料理が作れるな。佳奈ちゃんは無理かもだけど、一応連絡しておこう」

ケータイを取り出し、メールを打つ。このスキルも高校になってから習得したものだ。それまでは電話をする相手すら居なかったのだ。
(そろそろケータイにも慣れてきた、それ、それ!)

しかし友達がそれほど多いわけではない由里は、打つのにかなりの時間を要した。メールの内容はこうだった。

<佳奈ちゃんへ 明日来れますか?おせち料理食べよう 由里>

改行も何もせず、読みづらい。
(誰が来るか教えたかったけど、そうしてると夜になっちゃいそう)

そして履いていた短パンのポケットにケータイを入れると、由里はその日のことを反芻した。

「朝にあった男の人、カッコ良かったなー!でも、あれ、顔が思い出せない…どうしてだろう?でも、カッコ良かったといえば、あのおじさんもいい人だったな!お陰でいろいろな所に行けたし!あれ、私なんで今日走ってたんだっけ?」

ブーッ!ブーッ!
ドクンッ!

「びっくりしたっ!ケータイにかかってくるのまだ慣れないな…」

<由里ちゃん

分かったよ!実はいま帰ってきたところなんだ!
由里ちゃんと会うの久しぶりだから楽しみにしてるね!>

「やった!…うっ」

ドクンッ!

「そうだった、私、実験…してるんだった」

ドクンッ!ボンッ!

次の衝撃で、由里のお腹が少し膨らんだ。

「え…?」

ドクンッ!キュッ!

その次はお腹が縮んだ。それと同時に、胴がキュッと伸びる。

「な…なにが…ふぅっ!」

ボウンッ!

また腹部が膨らむ。今度は体が大きくなった分、膨らむのももっと大きく、バスケットボール並だった。

キュッ!

またお腹が縮み、胴が長くなる。

「私、どうなって…!」

ボワンッ!バリッ!

今度は膨らみはバランスボール並になり、服を吹き飛ばしてしまった。

ギュイッ!バイン!
「ふぐぅ!」

腹部の膨らみは胸に行き、由里の平らだった胸板に急にバスケットボール並みの球体が現れた。しかし、

シューッ…ググッ!

胸はすぐに縮んで、代わりに短い手が伸びる。
「こんなの…変…だよぉ…」

呪いに抵抗しているだけなら腹が膨らむ必要はないはずである。そんな事実など無視するようにまたお腹が爆発する。

ボワワンッ!ギュイッ!ボゥン!

今度はお尻が急に膨らみ、

シュー…ググッ!

それが足へと移動する。

お腹が伸縮する周期は心拍とともにどんどん短くなり、そのたびに胸と尻が出てきては消え、出てきては消えを繰り返している。

「激し…すぎ…っ!」

腹部が落ち着き始めた頃には由里の身長は200cmくらいになっていた。手足にも豊満な肉がつき、髪も膝辺りまで伸びている。そして、腹部の伸縮が止まった。

「これで…終わったの…?」

しかし、下を見てみると胸板はまっ平らである。由里に嫌な予感が走った次の瞬間、

バァン!

お腹がこれまで以上に大きく爆発をした。バランスボール2つ分はあるだろうか。衝撃で由里は後ろに倒れる。ただ、それで変化は止まってしまったようだ。

(え…これじゃ動けない!)

実際、大きくなった由里でも、このバランスでは立ち上がることもままならない。

(嫌、こんなの嫌!)

と、強く腹部を押さえる由里。すると、

ドクンッ!

とまた衝撃が走り、同時に腹部が少し縮む。

(やった!)

しかし、

ググッ!

胸部と腰が膨らむ。そんなことに気づかない由里は、どんどん腹部に掛ける力を上げる。

(これなら…っ!おっぱいが…こんなに…おおきく!)

まだ3分の1も縮んでいないのに、由里のバストはすでにGカップを超えていた。
手の力を緩める由里だが、そんなことには構わず腹は縮み胸は大きくなる。足に当たる尻の感触もかなり柔らかくなってきている。

(どこ…まで行くの…?)

ググッググッと大きくなる胸を見ながら、由里は呆然としていた。このサイズの服、ましてやブラジャーは日本の何処にも売っていないだろう。Pカップに達したところで、由里は成長を終えた。

由里は周りを見ると、着ていた服が散乱しているのが見えた。

(え…?え…?)

由里には絶望しか無かった。

そんな由里の家の屋根に、二人の人影があった。あの魔術師コンビである。

「おいおい、あいつ壊れちまうぜ?」
「そこですよ。しかし、後もうひと押しです。明日、ユリの想い人が家に来る。その前でユリは変身するでしょう。また、いくら事実を打ち明ける事ができたとしても、人は目の前で他人が変形するところを見れば、おのずと恐れおののくものです。」
「つまり、その想い人に振らせるってことか」
「その通り。ユリは心理的なショックを受け、精神が崩壊する直前まで行くことでしょう。そこに我々が付け込めば…あとは分かりますね」
「お前っていつもとんでもねえことを考えるよな…今朝だって太陽エネルギーの吸収を増強する魔法薬を入れたペットボトルを渡したりとか…それであんなに不自然な変身したけどな」
「ポケットティッシュも、彼女の肌の、太陽光を遮る物質を、くしゃみとして取り出す魔法陣を書いておきましたしね」
「正直、その才能をもっと他の所に生かせないもんかと思うよ」
「ウソを付きなさい。あなただってあの子の成長を見たがってるくせに」
「チッ」

かくして、魔術師たちの陰謀は、由里の知らないところで、着実に進んでいた。