猫の仇返し

tefnen 作
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そして、1月2日の朝。
由里は床の上で寝ていることに気づいた。

「いけないなあ、一人暮らしだから、気が緩んできちゃってるのかな」

いつもならこの辺りで、前日の事について思い出すのだが、

「あ、今日はみんなが来る日なんだっけ!ふふっ、腕に腕をふるって拓也くんたちをあっと言わせるぞ!」

由里は思い出さない。というより、思い出せないのだ。起こった事実を飲み込めないまま由里が眠った後、フリードリヒが由里の魔力への複雑な防御システムを掻い潜り、記憶を改ざんしてしまったのだ。しかも、「拓也に告白される」という目的も記憶に書き足していた。

「拓也くん、好きって言ってくれるかな!私、何でこんな大胆なんだろ!まあいいや!」

また「まあいいや」である。由里はそのまま料理をし始め、何の疑問も持つことなく、美味しそうなおせち料理を作り上げた。

「初めてにしては結構うまくできたな。これで拓也くんも…うふふっ」

と、踊りながら予め買っておいた重箱に料理を詰めていく。正直気持ち悪いほどテンションが高い由里。

そして、11時頃になって、呼び鈴が鳴る。

「はーい!」
「僕、拓也だよー!」
「あ、あたしもいっしょ」
「拓也くん、佳奈ちゃん!いらっしゃい!今開けるね!」

ガチャッ!

「おはよう、由里ちゃん、あけましておめでとう」
「おはよー!あけおめ!ことよろ!」
「ど、どうしたの、いつもより元気だね」
「そう!?そんなことないと思うけど」
「あーあと、この子がさっきから睨んでくるんだけど」
「え?」

佳奈の方を見ると、拓也を細い目でジーっと見ている。そして、その目はそのまま由里に向けられる。

「男の人。佳奈知らなかった」
「あー会ったことなかったっけ、この人は、拓也くんっていうの。クラスメートで、とても優しい人なんだよ」
「へぇー(ギロッ)」
「う、まあ、中には入ろうよ、ね、佳奈ちゃん、でいいかな」
「(コクリ)」

佳奈は、この上ないほどメールではテンションが高い。でもそれは、普段あまりしゃべらないで、その分、メールで発散しているためである。

「「おじゃまします」」
「さあ、入ってー。今お茶出すよ!」
「ありがとう、由里ちゃん」
「ありがと」

二人の返事を聞いて、台所でお茶を沸かしていると、また呼び鈴が鳴った。

「はーい!」
「おっはよー!」
「あ、絵美。おはよう」

つい、先日のことが頭をよぎって、暗い気分になってしまう。インターホンの向こうでそれを悟ったのか、

「なーに由里、拓也の前でノーブラって言われるのがそんなに嫌なんだ?」
「え、言うつもりなの!?」
「お、元気になった。冗談だよー!さ、寒いから早く中に入れて!」
「あ、ごめんごめん」

ガチャッ

するとそこには、なぜかいつも着ないセーターや、ロングスカートを履いた絵美がいた。

「あけましておめでとー!以下略!」
「はいはいおめでとう」
「むーっ、冷たいなー!あ、いい匂い!さすが由里、初めてのおせち料理も、うまく言ったみたいだね!」
「えへへっ、そうなんだ、拓也くんに美味しいおせち料理食べさせたくて」
「?(そこまで意識してたんだ)さ、中に入れろー!」
「うるさいって、いくら隣の人がいないからって…」
「おりゃー!(ドカン)」

無理やり中に入る絵美。

「こらー!」
「早く入れないからだよ、由里!お、佳奈じゃん!久しぶり!元気してた!?」
「ひさしぶり。万事順調よ。あなたは?」
「そりゃもーいつも前進全速だ!」
完璧に真逆の性格な二人であるが、コンビとしては最高のようである。
「ひ、ひさしぶりだね、絵美ちゃん」
「あ、童貞さんおっひさー!」
「だから童貞言わないでって」
「仕方ないじゃん!事実だし」
「そ、そんなことより今日も元気そうだし、それに綺麗だね」
「そう?この服自分ではサイテー!って思ってるんだけど」
「え、そうなの!」
「まあ、褒めてくれたことは受け止めておくよ!」
「う、うん」
「さあさあ、みんな揃ったし、おせち料理、運んでくるね!」
「あ、アタシも手伝うー!」「わたしも。男の人は座ってて。落とされたらいや」
「うん、じゃあお言葉に甘えて」
「絵美、佳奈、ありがとう(ちぇ、拓也くんは手伝ってくれないのか)」
「お、拓也にも手伝って欲しいんだなその顔ー!」
「なっ!」
「ほらー手伝って欲しいってよー童貞ー」
「そう?じゃあ…」
「悪い童貞、このおせち料理2段しか無いんだ」
「箸と皿は私が持っていく。」
「え?」
「二人ともいい加減にしなよ。いいよ、拓也くん、座ってて」
「うん」

「ところで、この部屋少し寒いように感じるんだけど、どうかな?」
「アタシは厚着してるから分からないな」「私も。」
二人に攻撃されっぱなしの拓也は、薄着の由里に助けを求める。
「由里ちゃんはどう?薄着してるし…あ、暑がりだったっけ」
「え?うん、普通だとおもうよ」
「そう」

そうこうしているうちに、料理の支度が整い、食卓に付く4人。絵美が計らってくれたのか、由里の真向かいに拓也がいる。ただ、拓也は隣にいる絵美のことが少し気になっているようだ。佳奈も由里も背が低いので、机を挟んで平均身長がかなり違っている。

「「「「いただきまーす」」」」
「ん、おいし〜い!やっぱり由里の料理は最高!」
「同感。いつも圧倒させられる」
「ほーら拓也!この料理、由里がアンタに食べてもらいたいって愛をこめて作ったんだよ?さっさと食いなって!」
「う、うん、どれから食べようか迷ってて…(パクッ)うん、おいしいね」

途端に顔が真っ赤になる由里。隠すために下を向いてパクパク食べ始める。

「どうしたの由里ちゃん、そんなに一気に食べると、からだに悪いよ」
「(あちゃー…こいつ、鈍感だなー…これだから童貞は)」
「絵美ちゃん、手が止まってるけどどうしたの?」
「あ、あー何でもない」

結局何も起きることなくおせち料理は空になった。

「ふーっ、美味しかった!アンタのような友達を持てて、アタシは幸せもんだ」
「あなたは、家でもっと美味しいの食べたんじゃないの?」
「それとこれとは違うんだよ、なんというか救われてる感じが…」
「私はあなたに巣食われてるよ」
「由里。それはネタなの」
「いいよ佳奈、由里にそんなこと期待してないし、返されても気持ち悪いだけだから」
「むーっ、なんかいやな事言われてる感じ」
「気にしなくていいよ、由里!」

「ね、ねえ」
気まずくなった拓也が切り出す。
「トランプでもしない?ちょうど4人いるし、色々できると思うんだけど」
「お、アンタにしては気が利くじゃん!」
「そ、そうかな」赤くなる拓也。
「私も賛成。カードゲームなら得意」
「拓也くんが言うなら…でも、まず食器を片付けてからね」
「「「はーい」」」

今度は拓也もハブられることなく、皿を拭く仕事を手に入れた。4人いれば片付けも早く、カードゲームはすぐに開始された。
まずは、ババ抜き。由里は、拓也が勝てるように表情を作った。しかし、拓也も絵美に同じことをしているようだった。結局、二人共佳奈に注意されて、それを契機に大富豪に移った。その後はダウト、佳奈が持ってきていたNUOなど、いろいろなカードゲームをしたが、その度、由里は拓也が勝てるようにずるをした。しかし、由里は、拓也が絵美に自分と同じことをしているのを、何回も見た。

(拓也くん、絵美の事がそんなに好きなのかな…絵美も拓也くんのこと好きだったらどうしよう…)

由里の中に暗い感情が積もっていく。そしてそれに悩まされ続け、外が夕日で赤くなっていることに、由里は気付かなかった。

「ねえ由里、そろそろ終わりにしない?」
(え…終わりってどういうこと?拓也くんを諦めろっていうの!?)
「ううん、終わりになんかさせない!したくない!」

暗い感情のせいか、絵美のアドバイスを曲解してしまう由里。もちろん、これは日の入りで変身してしまう由里への、絵美の助言であった。

「ゆ、由里、どうしたの?」
「由里。その熱意、受け取った。もう一勝負」
「うん(拓也くんが気づいてくれるまで、やめない!)」
「ちょ、ちょっと由里…」
「うるさい!」

絵美はかなり心配そうな顔をしているが、由里の目には入ってこなかった。拓也はオドオドして、何もいうことができない。
佳奈がカードを切り、NUOの勝負が開始された。最初は普通通り、全員が出せるカードを持っている状態が続いたが、途中で拓也がカードを山から引くだけになった。由里もどうしようもできないうちに、カードは溜まっていく。そして、逆に佳奈のカードが減っていく。最終的に、佳奈の手札は2枚になり、拓也はよほど運が悪いのか10枚位持っている。

「ゆ、由里、そろそろまずいって…」
「分かってる!黙って!」

絵美が再度警告するが、これも勘違いしてしまう由里。
そして、拓也がようやくカードを出した。次のプレイヤーに4枚山札を引かせるカードで、それは由里に向けられていた。

(よし…!これなら!)

由里は温存しておいた同じ種類のカードを出す。そして、佳奈は…

「ふん。これくらい、予想出来てるわ。ほら、絵美、12枚、NUO」
「「え!なんで!」」絵美と由里が同時に叫ぶ。
「と見せかけて…」ペラッ「ほら、拓也、16枚」
「えー、もう無理だよこれー」
「いや無理じゃないよ!」ペラッ

由里の出したカードは、場の色を変えるカードである。NUOでは、場と同じ色のカードか、前のプレイヤーが出したカードと同じ数のカードが出せることになっている。つまり、これで佳奈の持っていない色を選べば、佳奈は手札が出せずに、山札から一枚カードを抜かなければいけない。少なくとも2ターンは延命できるわけだ。

「紫色!」
「…残念ね。」ペラッ「あがり」

その瞬間、

バンッ!

由里の手が机に振り落とされ、綺麗に重ねられていた山札がバラバラになった。

「あちゃー!」絵美は、変身が始まったことを悟ったようだ。
「由里。やけになってはだめ。もう一度やればいいこと」
「由里ちゃん…?」

由里は机に突っ伏し下を向いたままである。次の瞬間、

ザラッザラッ

由里の髪の毛が伸び始めた。

「ひっ。あれ、動けない」

隣にいた佳奈がすぐに気づいて、由里から離れようとするが、足が動かない。カードゲームが得意な佳奈は座り方を心得ていて、足はしびれているわけではないのに、下半身はうんともすんともしない。

「ゆ、由里ちゃん。僕も動けない」
「あははー…私も」

「たく…や…くん…」
「ひっ」

髪が伸びた上で、首を下に向けつつ拓也を上目で見つめるさまは、まるで井戸から出てくる有名な怨霊のようである。

「わた…しを…見て」
「(由里の様子が変…?)」

絵美は違和感を覚える。
拓也は怖くなって、脇をむこうとするがなぜか首が動かない。

「な、なんで…」

そして、急に由里は背をのけぞらせる。バサッと髪が後ろに垂れ、由里の顔が見える。その目はどす黒いが、その他は元の由里と同じである。

「見てて…私の…おっぱい…」
「え…?」
「んっ…はぁっ…!」

由里が声を上げると同時に、胸の部分がムリッと盛り上がる。

「由里ちゃん…胸が…」
「まだ…まだ…」

胸は加速度的に大きくなり、シャツがビリビリと音を立て始める。そして、

「んん…はぁっ!」

と由里が声を上げると、シャツは破けてしまった。

「どうなって…」

すると、由里はすっくと立ち上がる。胸が大きくなっても他の部分はまだ元の由里だ。

「胸だけじゃ物足りないでしょ…」
「え……うん」
「拓也っ!?」

由里のあまりに不自然な言動を肯定する拓也に、思わず叫ぶ絵美だが…

「泥棒猫は黙ってろ!」

由里が叫ぶと、絵美の体は急に膨らみ、超肥満体になってしまった。

「いやぁっ!」

口封じでもされたのか、絵美はそれ以上喋ることができなかった。

「さあ拓也くん…私のお尻、揉んでみて…」
「うん、由里ちゃんをもっと綺麗にするためなら…」

いつの間に拘束が解けたのか、うつろな目になった拓也は立ち上がってテーブルをひっくり返した。
「ひっ!」まだ座っている佳奈が、小さく叫ぶ。
「ああ…佳奈ちゃん…これから私がなる姿が、男の望む姿なんだよ…」
「え…」佳奈は呆気にとられてしまう。

「さあ揉んで、揉み尽くして…」
拓也が言われるままに由里のズボン越しに尻を揉むと、段々尻は大きくなっていく。

「ああ…もっと…もっと…」

下着がビリッと破れる音が聞こえてくる。

「あぁん…このままズボンも破っちゃう…」

由里の言うとおり、ズボンは縫い目から避け、豊満になった臀部が拓也の手を包み込む。それでも拓也は揉み続ける。

「拓也くん…思ったより…大胆なんだ…」

バスケットボール並みになったところで拓也の手は止まる。

「次は…足を撫でて…揉んで…そしたら…手も…」
「いいのかい?」
「拓也くんが…望むままに…」

拓也がゆっくり足を撫でると、足がゆっくり伸びる。

「もっと速くしてもいいのよ…」

拓也の手が速くなる。足はグイッグイッと伸び、元々140cmの由里の身長は160cm位になり、拓也と同じくらいになる。

「同じ位の背がいいのね…」
「うん…そのほうが…抱きしめやすい」
「こんな短い手じゃいや…お願い…」

拓也は手を撫で始める。すると、手がするすると伸びていき、指も同時に細く長くなっていく。

「これで僕と同じくらいだね」
「由里…うれしい…」
「でも…もうちょっとおっぱい大きくしてもいい…?」
「拓也くんのエッチ…心ゆくまで揉んで…」

すでにJカップの胸を拓也はどんどんもんでいく。

「柔らかい…」

拓也が揉む度、グイッグイッと大きくなっていく由里の乳房。

「あぁん…」
「このくらいでいいかな…」
「拓也くん、私の事…好き…?」
「うん…好き…だよ…」

すると、パァーッっと光が溢れ、由里の体が小さくなり始める。

「え、なんで、いやぁ!」
「由里ちゃん!?」

乳房はどんどん小さくなっていき、乳首も元あった場所に戻っていく。手も足も短くなっていき、最終的には元の由里に戻った。そして、拓也の洗脳が解けた。

「ぼ、僕は何を…ゆ、由里ちゃん!なんでかわからないけど由里ちゃんに「好き」って言っちゃった。でも、僕は絵美ちゃんの事が好きなんだ!」

由里はぼーっとしているが、お構いなしに続ける。

「由里ちゃんとは、友達でいたいんだ!さあ、絵美ちゃん、行こう」

いつの間にか普通に戻っていた絵美は、拓也に連れられて帰っていった。

「拓也くん…」

そのまま由里は失神してしまった。
と、そこにポータルが現れる。由里と絵美が路地裏で見つけたマンホールのようなものが突如として現れたのだ。そして出てくる二人の影。
「いやぁ、まさかユリの魔力が覚醒してしまうとは、驚きの展開でしたね…一時はどうなることかと」
「しかし、俺の呪いも堕ちたもんだな、ニセの告白で消えちまうなんて、まあ本物の告白でも、普通の状態なら呪いは消えないがな!ちゃんと解呪の儀式を踏めっての!」
「いや、見てみなさい、彼女の手の甲」
「何も見えねえじゃねえか…ん、しかし微かに残っているな」
「この呪いは今は効力を失っているようですが、じきに回復するでしょうね。その時まで、ユリは成長しないだろうし…気長にまつとしますか…おや?一人残っていましたか」

「きゅっ!?」

台所に隠れていた佳奈が声を上げる。

「ほら、出てきなさい。大丈夫、傷つけたりしませんから…」
「信用…出来ない」
「あなたにも想っている人がいるようですね…さっきのユリさんみたいになりたくありませんか?」
「ユリ、怖かった、あれにはなりたくない」
「大丈夫、自我を保ったまま成長させてあげますから、まあコントロールはできないかもしれませんが」
「本当?」佳奈は台所から出てきた。
「本当です、ほらカッツェ」
「あんま乗り気じゃねえが、すまねぇな!」佳奈に跳びかかり、手の甲を引っ掻くカッツェ。
「痛っ」次の瞬間、佳奈の手の甲に、由里と同じような魔法陣がついていた。しかし、少し形は違うようだ。
「さ、これで全て済みました。私達は退散して、じっくりモニターさせてもらいましょうかね」
「ユリの記憶はどうすんだ?これだとこいつ、あれをヤリかねないぜ。片思いの人を洗脳して、好きだと言わせた上にすぐに振られるなんて」
「そうですね…この子のポテンシャルは捨てがたいですし…しかし、振られたことと、友達を傷つけたというところだけは覚えさせておきますか」
「おい、あんま変わってねえじゃねえか」
「この子のポジティブ志向ならなんとかなりますよ。それに、我々はいつでも介入できますし」
「うむ…で、カナは?」
「今日起こったこと、全て忘れてもらいます。さあ、カナさん、痛くないですから」
「ひっ、ひぃっ」

佳奈の悲鳴が夜空に響き、消えていった。