「何か、手がかりを見つけないと」
昨日、母親にこっぴどく叱られたのは、弟ではなく佳奈だった。セーラー服を引き裂いた理由を探すのに、少し
失敗してしまったのだ。それでも母親に違和感を抱かせない言い訳を見つけたのは、佳奈の頭の良さのおかげだ
ろう。
「どうしたんですかー!佳奈さーん」
「あ、秋音。おはよう。何でもない」
「おはようございます!しかし、うーん?また何か隠してますね!」
「だから、何でもない」
「お、先生が入ってきた!じゃあ、また!」
「来世で」
授業中も、考え続ける佳奈。
(由里、どうしてるのかな…そういえば、こうなったのと、由里が不登校になったの、同じ時期…かな?そうな
れば、由里が何かを知ってるかも。…ううん、そんな訳ない。そうだったとしても、無理やり押しかけるのは、
いけない)
「おーいそこの、聞いてるか!」
先生の声が飛び込んでくる。思わず、佳奈は叫んだ。
「はい、ミソポタミア文明です!」
「お、さすが。よく勉強してきてるな!いいぞ、しかし、他の人の発言権を奪ってはいけないな」
「す、すみません…」
「仕方ない、加藤には…っておい!聞いてるのか?もしかして…ニヤニヤしてるのか?授業中に変なことを考え
るんじゃない!」加藤は、秋音の苗字である。
(秋音…)
「すみませーん!イインダス文明ですよね!」
「質問する前に答えるな!お前の質問はこれだ!」
(秋音、何をニヤニヤしてたんだろ…嫌な予感)
昼休み、秋音と一緒に、最前列の自分の席で弁当を食べる。
「お、どうしたんですかそのお弁当!見事な日本国旗ですね!」
「愛国心のかたまり。気にしないで」
「さては、お母さんを怒らせたんですね!佳奈さん、どんなことしたんですか!」
「うるさい。黙って」
「はいはい!」
言い訳に失敗したせいで、母親の機嫌は翌朝になっても治らなかったようだ。結局今日は家族全員、日の丸弁当
のようである。何もしていない父親に罪悪感が湧く佳奈だった。
しばらく黙々と弁当を食べていると、近くの席に4人グループが座り、話し始めた。
「だよねー臭いよねー!あ、ところであの先輩知ってる?ほら、あそこの野球グランドにいつもいる先輩」
「あの人、かっこいいよね!」
ギクッ!
(もしかして、先輩のこと…?)
佳奈の視線が定まらなくなる。
「そう〜?あの人相当な変態って聞くけど」
「へっ!?意外だなー」
「そうそう、誰かが言ってたけど、話しかけてきた女子が胸が平らなのを見ると他の人と話したがったりとか」
ムクッ!
佳奈の胸が膨らむ。しかし、佳奈は盗み聞きに夢中で気づかない。秋音はというと、気づいているようだが黙っ
ている。
「なにそれ気持ち悪!」
「じゃあ、絵美ちゃんみたいのがいいのかな」
ムククッ!
更に膨らむ佳奈の胸。セーターがパンパンになっている。
「いや、もっと大きい胸のほうが良いって言ったらしいよ」
「誰が聞いたの?」
「絵美」
ムギュッ!ビリッ!
(え?)
服が破れる音に、やっと佳奈が気づいた時には、セーターの上と下からおっぱいがはみ出していて、机の上の弁
当箱を押し始めていた。
(や、いやぁ…)
それでも女子の話はいろんな意味で膨らむ。
「それでムカついたのか、絵美がグラビア雑誌見せて、これならいいの!?って聞いたらしいんだけど」
「絵美も相当ね…」
「で、どうだったの?」
「もっと大きいほうがいいって」
「はぁっ!?」
ムリュッ…ブルン!
(あっ…)
セーラー服が完璧に破れたのか、セーターを下から押しのけて乳房が飛び出してくる。それは、いまやメロンの
ようになっていた。弁当が更に押しのけられる。「おっと!」と秋音が弁当箱を避難させる。そしておもむろに
立ち去っていく。
(秋音…置いてかないで…重っ…)
このせいで友達を失うのではと、焦燥感に駆られる佳奈だが、胸がおもすぎて急に立ち上がれない。
「じゃあ、スイカみたいに大きくないとお目通りに叶わないっていうの!?」
「さぁ?そうなんじゃないの?」
「漫画の読み過ぎじゃない、その先輩」
グイッ!
机の上で、言われた通りというようにスイカのサイズまで大きくなる。
「そうかもしれませんね!」
急に大声が加わったので振り返ると、秋音がいつの間にか会話に参加している。そして、手を大きく広げて
「ある漫画じゃ、こんなに大きな胸も普通扱いですからね!」
「なにそれ、あり得ないじゃない!」
「でもあいつならありそう」
(え、そんなに大きいの!?うっ…!)
ドクンッ!
おっぱいが一瞬脈打ったかのように震え、
ドーンッ!
爆発した、といっても過言ではないほど急激に大きくなった。
(うぐっ!あ、秋音…まさか…)
机の上は佳奈のおっぱいで埋め尽くされ、まるで小さな佳奈の体が肌色の球体にくっついているようになる。そ
れを見た秋音は、手を自分の身長くらいに上げて、
「じゃあこのくらいが先輩にとっての巨乳ってことになりますね!」
「それ、もはや胸じゃなくて、脂肪のボールね」
「おっぱい…いっぱい出そう」大人しめの子が一番大胆なことを言う。
(秋音…私の事…気づいたんじゃ…)
佳奈が前を見ると、乳房はまだ膨らんでいない。
(これが、限界なのかも)
と安心した瞬間、胸の至る所から血管のようなものが浮き出てきた。
(え…まさか…)
佳奈の乳房はブルンブルンと震えながら徐々に膨らんでいき、同時に張っていく。
「え、じゃあおしりもこんなに大きくなきゃいけないのかな」
佳奈のおしりが急激に膨らみ、学校によくあるパイプ椅子の骨格が、ギュッっと食い込んでいく。その間にも胸
はどんどん張っていき、机の上で潰れていた佳奈の胸は、ほとんど球体になる。そして…
プシャァアア
白い液体が急に飛び出すとともに、反動で佳奈の体が後ろに飛ぶ。
ガッシャーン!
「「「「えっ!?」」」」
「あっ!!!それで!!!!」
4人グループは音のした方を振り返ろうとするが、秋音が大声を出して注意をそらす。
「あの先輩のポジション、なんて言うんでしたっけ」
「え、外野手だけど、それが何か?」
(いたたっ…が、外野手…?先輩じゃ、無かったんだ)
事実がわかった瞬間、佳奈は元の体にもどった。
「いえ、何でも無いです」
「本当に変態な2年生ね、あんな奴とは付き合いたくないな」
「大丈夫、あなたの胸じゃきっと眼中にないわよ」
「ところで、佳奈さん大丈夫ですか!さっき大きな音がしましたけど!」
4人グループと秋音が佳奈のもとに駆け寄る。すると、佳奈は牛乳のような白い液体の上で、倒れてぼーっとし
ていた。白い液体は黒板にも掛かっていて、天井からも滴り落ちていた。
「佳奈、しっかりして!」
「あ、机がドミノ倒しになってる!」
一番前の席で弁当を食べていた佳奈だったが、その列の机が一番後ろまで倒れている。
「うぅ…私なら心配ない…牛乳に足を滑らせただけ」
「え?」
実際の所、大きく膨らんでいた尻がクッションとなって衝撃が和らいでいたのだが、普通の人間なら大怪我であ
る。
「そこの男子!牛乳こぼしたでしょ!おかげで佳奈が転んじゃったじゃない!」
遠くにいる男子グループに叫ぶ女子。しかし、事の次第を全く見ていなかった(まあDSDでゲームでもしていたの
だろう)男子は、いきなり倒れた机も相まって訳が解らないようだ。それに、この状況で「牛乳をこぼした」で通
るのもおかしいが、それには女子4人は気づかなかったようだ。
「さあ、佳奈さん、保健室に行きましょう!それに服もびしょ濡れだと風邪引きますよ!」
「え…うん」
そう言う秋音の顔は、かなりにやけていた。
保健室についた女子多数。
「じゃあ、秋音、よろしくね」
「はーい!了解です!」
元気よくお辞儀する秋音を後に、女子グループは去っていった。
「さ、佳奈さんお着替えお着替え!」
「言われなくても自分でやる」
「そんなこと言わずに!」
「あなた、私に起こっていること、わかってる」
「え!?」
「だからあそこまで話を、膨らませた」
「あっははー!バレちゃいましたか!ちょっと調べたら、それらしいのが図書館のすみに…」
「やっぱり。もう、仕方ないか」
「しっかし、あの外野手の先輩のことを勘違いして聞くなんて。佳奈さんらしくないですよ!勘違いは呪いには
含まれてませんよ」
秋音は、佳奈が例の先輩のことを想っていることにはとっくのとうに気がついていたようだ。佳奈もそれを悟っ
て、気にせず続けた。
「呪い、か。仕方ないでしょう。話を聴き始めた時、窓の外は見えなかった。先輩が…どんな体型が好きかもわ
からない」
「女のスタイルは男を惹きつける武器ですからね!」
「そう…でも、この呪いのことを知っておかないと、まずい気がする。まだ裏があるかも。誰にこの呪いをかけ
られたのかも、わからない」
「何かあてでも?」
「由里のところへ行く」
「でも、話してくれないんじゃ…」
「嫌だけど…力ずくで。秋音、少し、用意してもらいたいものがある」
「え?」
そんなこんなで二人の作戦は、日曜日に決行されることになった。