先輩の望むもの

tefnen 作
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そして日曜日。秋音と佳奈は、由里のアパートの前に立っていた。秋音は何かポスターのようなものを持ってい
る。

「おーこんなところに女子一人で住んでるなんて!立派なぼろ家ですね!」
「失礼よ。それに絵美だって、何も文句は言わない。むしろここが好きみたい」
「え!あの絵美さんが!?」
「そう。だから黙って、ついてきて」

由里の部屋の前に立って呼び鈴を鳴らす。

ピンポンピンポンピンポーン

「そんなに鳴らさなくても!」
「いいの。これが私の合図」

それに答えるように、インターホンから由里の声がする。

「佳奈ちゃん、いい加減にして。もう来ないで」
「由里、私、あなたと…」

ガチャッ

インターホンの受話器が置かれた音がした。

「あーこりゃ重症ですね!この扉も開きそうに…だからこれを作れと…」
「そう、ペイントストアーを持ってるあなたなら、簡単なはず」
「いやそれは簡単ですけど、これは嫌ですよこれは!」

といって、ポスターを広げると、爆乳女子ボディービルダーと先輩が手をつないでいる写真…といっても先輩の
方は明らかに写真から四角く切り取って貼り付けたのが分かる、不自然なものだった。

「なにこれ。不自然すぎる」
「そう言わないでくださいよ!これ作ってる時、どれだけ私の後ろのドアを気にしたことか!」
「仕方ない…あれ…?」

ポスターを眺めていると、背景が段々交わり、二人の格好が直って本当に手をつないでいるように見えてきた。

「作りなおした方がいいですか!?」秋音には元のポスターしか見えていないようだ。
「いや…待って…」
(これも、呪い?幻覚まで見えるなんて…でも、本当に仲良さそう…うっ…)
「佳奈さん!?こんなのでも行けちゃうタイプなんですか!?」
「いや、違う…これは…」

細かった腕の筋肉がビクッとしたと思えば、次の瞬間には筋肉が急激に太くなり、服の袖が引き裂かれた。

「うおっ!すごい筋肉!これで扉も」
「いや…まだ…体の重さが足りない」

と佳奈が言うと、体が大きくなり始めた。佳奈の小さな服は、すぐにやぶれさり、大きくなった佳奈の体があら
わになった。

「よし…これで…っ!」

バァンッ!

佳奈が勢い良く扉に体当りすると、外開きの扉の真ん中に、円形に穴が開いた。

「な、なに!?誰、あなた…っ!佳奈ちゃんなの!?」

と由里が飛び出してくる。顔で気がついたようだ。由里はだんだん佳奈に近寄っていく。

「そう…うっ…秋音…もうポスター…下ろして!」
「私がこのビルダーを選んだ理由、わかってないようですね!」
「えっ!」

佳奈のはだけた、筋肉ですでに盛り上がった胸が揺れる。次の瞬間には、ボウンッと胸が大きくなり、近くに居
た由里を押し倒してしまった。由里は倒れたまま、つぶやくように言った。

「そ、そう…佳奈ちゃんも、そんな変な体に…」
「う、うん…「も」、ということは、由里もなの?」
「今は違う…みたい、でももう大きくなりたくない…絵美にも、迷惑かけちゃった」
「それはどうでも…いや、絵美なら大丈夫だよ」
「絵美と話したの?」
「いや、由里が来なくなってからはまだ…」
「適当な事言わないでよ…許してくれるはずがないのに」
「何があったの…?由里の呪いは私のものと同じ?」
「今は昼だよね…っていうことは、違うみたい。でも、フリードリヒさんは佳奈にも魔法を掛けたって言ってた」
「フリードリヒ?」
「覚えてないみたいだね。じゃあ、自分で魔法をかけてもらいたいと言ったのも、忘れちゃったんだね」
「え…?」

すでに元に戻った佳奈の体に衝撃が走る。自分で、もっと大きくなりたいといった?今ならともかく体型のこと
は気にしていなかったはずなのに。

「佳奈は大きくなりたいんでしょ?だったら、いいじゃない。呪いのことなんて」
「…」
「さあ、わかったらもう帰って。これ以上、佳奈ちゃんを傷つけたくない」
「佳奈さん…由里さんもこう言っていることだし…帰りましょう」
「仕方ない…でも一回だけ絵美と話して」
「え…ヤダヤダヤダヤダ!さっさと帰って!そんなこと言うなら、帰って!」倒れたままジタバタする由里。
「か、佳奈さん!」

秋音に引きずられて、衝撃で動けなかった佳奈はなんとか家から出た。

「あの由里が、あんなになっているなんて」
「あれは、漫画でも見たこと無いくらいひどいですね…」
「絵美と話せば、何か分かるかも」
「え、よしましょうよ、これ以上ことを荒立てるのは…」
「友達を見捨てるっていうわけ!?せっかく手がかりがわかったのに!そんなの、絶対にしない!」
「佳奈さん!?」
「…ごめん。急に叫んで。でも、分かって」
「…」

感情を露わにした佳奈に、秋音も折れるしか無かった。

***

絵美宅。佳奈は、その荘厳な門の前に立っていた。考えてみれば、学校の外で絵美に会うときは、決まって由里
の家だった。ガードマンが近寄ってくる。

「何か御用で?」
「絵美さんの友達なんですが…」
「ああ、絵美お嬢様の…少し、お待ちください」
「はい」

秋音はポスターを処理するために帰っていった。それに、こういうところに秋音を連れてくると、その無作法さ
でどんな問題を起こすかわからない。

「お待たせしました。中で会いたいとのことですので、お入りください。ご案内いたします」
「どうも」
(でも、絵美の家ってガードマンを雇うまでは、裕福じゃない…どういうこと?)

立派な庭園の奥に、2階建てのこじんまりとした西洋風の家があった。日本の中では立派な家であるが、その庭
園と比べるとかなりちっぽけである。

「こちらになります。お上がりになって、客間でお待ちください」
「はい」

と扉をガードマンが開ける。すると、客間に行くまでもなく絵美が飛び出してきた。

「佳奈ーっ!ひっさしぶりー!」
「久しぶり、絵美」
「お、お嬢様、お言葉ですが…」
「うるさいセバスチャン!あんただってこれが全部パパのかっこつけたがりだって解ってるでしょ!」
「私の名前は…、いいでしょう、お友達との時間をお楽しみください。言っておきますが、後1時間で稽古の時
間ですよ」
「そんなの言われなくても解ってるよ、さ、佳奈、上がって上がって!」
「あ…うん」

佳奈は、扉を閉める間際のガードマンの「俺だってこんなのバカバカしいことくらい…」という言葉を、無視す
ることにした。

「ごめんね!こんな仰々しいの私嫌なのに…」
「うん…」
「でも、佳奈が来るなんて珍しいね!何の話!?あっ…」
「うん…由里のこと。今日、家に行った」
「あの子…私も、何回か行ったんだよ。でもいつも謝ってくるばかりで、私の話聞いてくれないの」
「そう…実は私、力ずくで家に入った」
「え…」
「手段は教えたくない…いや教えるべきかも」
「…」

佳奈は自分が呪われていること、でもその呪いは自分でかけて欲しいと頼んだらしいことを話した。

「でも、そんな覚え無いんだよね!」
「もちろん…」
「ふむ…ねえ、アタシも由里に会いたいんだけど…」
「いいよ」
「そうと決まったら!」

チリンっと壁にかけてある鐘を鳴らす。1分くらいして、ガードマンが入ってきた。

「アタシ、これから友達の家に行く」
「お嬢様、夜7時から空手の稽古が」
「(空手…?)」
「今日は休む」
「ダメですよ!」
「いいから!1ヶ月位何も起こさなかったんだからいいでしょ!」
「うう…仕方ないですね、付いてきてください」
「ほら、佳奈行くよ!」
「うん」

ガードマンは家の門まで二人を案内した。

「車は出しませんよ」
「いいですよーだ!じゃ、お留守番よろしく!」
「やれやれ…」

車など出してもらわなくても、由里の家までは20分ほどで着いた。

「絵美、この辺りよく知ってる。私、40分かかった。」
「まあ、愛する由里の家なら、通い慣れてるし!地図に載っていないところも通ってるしね!うわっ何あれ!佳
奈が開けたっていうのは聞いたけど、あんなに綺麗にドアが壊れるなんて」
「うん…」
「由里、いるんだよね」
「うん」

絵美は深呼吸して中に入っていった。

「お邪魔します」

佳奈も後に続く。見ると、由里が絵美を怖いもののように見て、部屋の隅に縮こまっているのがわかった。

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
「由里っ!」
「ゴメンナサイゴメンナサイ」
「由里ったら、もうっ!」

パァン!

絵美が由里を平手打ちした。

「う…やっぱり怒ってるんだ」
「怒ってない、怒ってないよ…でも、話を聞いて」
「絵美に、なんてことを…注意してくれたのに暴言を吐いて、しかもあんな体に」
「確かに、あれは少しきつかったけど…体はすぐに戻ったし、それに呪いのせいでしょ」
「違う、あれは私の意思だった…あんな汚いことを…」
「…恋っていうのは、そういうことも起こすんだよ」
「え…?」
「告白されるまで気づいてなかったけど、拓也は私の事あんな風に思ってたんだね。だから由里に嫉妬させちゃ
って…」
「うん…それからどうしてるの?きっと幸せにしてるんでしょ?」
「拓也のこと?当然振ったよ、あんな鈍感な童貞」
「え、どうして…」
「親友を差し置いて、幸せになんかなれない(し、ただ拓也が気に入らないだけかも)」
「絵美っ…」
「由里…」

立ち上がって、抱きしめあう二人。

「ごめんね…今まで勘違いしてた」
「もう、まあそれも由里らしいね」
「でも、絵美のスタイル、羨ましいな」

由里の胸板に絵美の乳房がグニッと当たって潰れている。

「うむっ!自慢の体だからね!でも、拓也は体型なんて気にしないと思うよ」
「そう?」
「そうだよ!あいつなら、そう!」
「絵美が言うなら…あれっ?」
「どうしたの…あっ」

絵美の背中に当っていたはずの手は、いつの間にか絵美の潰れた乳房を触っている。

「由里ーやっぱり気になるのー?」
「違うの、手が勝手に…!離れない!」
「え…由里から何か流れこんでくる!」
「絵美!」

ムニィッ

絵美の胸は大きくなろうとしているようだが、由里と絵美の体の間に潰され横に広がっていく。

(え…絵美まで大きくなるの)
そう思う佳奈をよそに、絵美は悪態をつく。

「ま、また…っ…あいつら…!」

二人の間だけでは収まらず、横からはみ出て次第に二人の体の前半分を包んでいこうとする。

「絵美!手を離して!おっぱいが当たって息苦しいよっ」
「う…うんっ」

絵美が手を離すと、絵美の乳房の弾力で、ぼんっと二人の距離が遠ざかる。すでに一つ一つがバスケットボール
のようだ。同時に、由里の手が付いている部分以外の服は破れてしまう。

「まだ…きてる…!」

ググッググッと大きくなっていく絵美の乳房。その勢いは止まらず、ついにバランスボールのサイズまで達した。

「絵美、手、痛いよ」

由里の手は離れず、由里は小さな腕で絵美の胸を抑えている。先端が離れない2つの球体は、レモンのように縦
に潰れている。

「く、苦しい!いつになったら止まるの!?…由里の魔力が尽きるまで…?」

しかし、絵美の心配をよそに、由里の腕に限界が来ていた。

「い、いた…ぁ…うわぁ!」

胸の張力が由里の手を押さえる魔力に勝ったのか、由里の手が離れる。

ボワァン!ドサッ…シュー…

途端に絵美の乳房は左右に飛び出すように離れ、床に落ち、そのまま小さくなり始める。

「お、終わった…く、くそっ!」
「絵美…ごめん、絵美に触れない、手も繋がないから…」由里はシクシク泣いている。
「なんでアンタが謝るの!?全部あいつら変態魔術師のせいでしょう!ちょっとぐらい大きくなるのは別に構わないよ!」
「そう?」
「そう!だから学校にも来てよ!由里が居ないと寂しくて仕方ないんだから!」
「わ、分かった…あと…」
「何?」
「勉強、教えて…こ、この前絵美が置いていった宿題、ね…全然わからなかったの」
「…もう仕方ないなあ!家に居ても勉強しなきゃダメなんだぞ!」
「ありがとう!(グスン)えへっ」
「守りたい、その笑顔」
「え?」
「さあ、それじゃあ明日から張り切っていこう!」
「絵美、少し、悪いけど」
「ん?なに佳奈?」

佳奈が割り込んできた。自分が変身するのと他人がするのでは、やはり違ったようで、これまで茫然自失として
いたようだ。しかしやっと落ち着き、発言できた。

「ドア…修理しないと」
「あ…私のお小遣いで、足りるかな…そこまでママに言い訳できないと思うし」
「破り方が、まずかった。けど、お金ない」
「3人で払おうよ。私を助けてくれたんだもん、私にも払う義務があるよ」
「いや、いいよ由里は!」
「いいの、払うの!」
「いいったら!」
「むーっ」
「…ハハハッ。わかったよ!降参降参!割り勘にしよ!」

(良かった…)

二人の様子を見て安心する佳奈だった。