幻の姉 第3姉

帝国城摂政 作
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 ……最近、誰かに見られている気がする。とは言っても、誰か1人に見られていると言う事ではない。毎日のように見られている感じはするけれども、同じ視線ではなかった。ただただ、誰かに見られている感じが1週間ほど続いていた。


「なんなんだ、いったい……」


 あの寝泊りに宮本瑠璃姉さんが来た日以来、瑠璃姉さんは時間がないのか家には来ない。多分、僕に気を使っているか、それとも瑠璃姉さんの方で用事があって来れないかのどちらかである。とにもかくにも、僕はいつものように商店街の人の手伝いをしていた。今日は給料日であり、僕が待ち望んでいた日である。


「ほらよ、いち坊。給料だ」


「あ、ありがとうございます」


 僕はそう言いつつ、働き主である八百屋さんの人にそう声をかけられる。この八百屋の人は祖母が死ぬ前から良くして貰っているなじみの人であり、中学を自主的に退学している僕なんかを雇ってくれて本当に助かっている。


「えっと……なっ!」


 僕は八百屋さんから貰った封筒の中身を見て驚いていた。封筒の中身は5万円。10日間真面目に働いたとは言っても、中卒でもない自分を雇ってくれた僕に対してこの報酬はあまりにも破格すぎるのではないだろうか? ただでさえ、こっちは雇ってくれるだけでもありがたいと言うのに……。


「おじさん、これは……」


「良いんだよ、子供が要らぬ気遣いをするんじゃねえよ。お前はただ、子供らしくやってれば良いんだ。まぁ、これは大人な俺からのお前に対する正当な評価だ」


「おじさん……ありがとう」


 僕はおじさんに対して感謝の意を表しつつ、お金をありがたく貰っていた。
 5万円……。もっと長期的な感じでかかると思っていた僕の目的も、このペースで行けば早くに終わるんじゃないだろうか? とは言っても、そう簡単に成し遂げられるとは思ってはいないけれども。


「後、どのくらい必要なんだろうか」


 けど、立派な物を作ろうと思ったら、もっとお金が必要である。もっと……頑張らないと……。


「……ん?」


 そうこうしているうちに、家へと辿り着いたんだけれども、そのアパートの前に大きな黒い車が停まっていた。僕の古びたアパートとは似合わない、ただ豪華と思える黒い高級車。その運転席から年老いた老人執事さんが出て来て、その人が車の扉を開けると中から1人の美少女が出て来た。
 黒色の長い髪、青色の瞳は真っ直ぐにこちらを見ていて、瑠璃姉さんほどじゃないけれどもそれでも高い170cmくらい、隣にいる執事さんと同じくらいの身長。そしてその身体とアンバランスな大きい胸、着ているワンピースが普通の人だったら上半身を覆えるはずなくらいのワンピースは、その大きな胸のせいでへそがちらちらと見えていた。


(で、デカい……)


 僕は素直にそう思った。あんなに大きいのなんて、普通じゃお見かけできないから。思わずゴクリと喉を鳴らしてしまったくらいである。その音に気付いたからなのだろうか、こっちをただ茫然と見ていた彼女の瞳が、険しい表情へと変わる。そして車から降りると、一目散にこちらに歩いてくる。走っている訳ではなく、ただゆっくりと、それでいて静かに。


「え、えっと……その……」


 どう言い訳をしたら良いのか。その反応に僕は困った。
 見惚れてしまい、思わずゴクリなんて言ってしまったが、相手側からしたらそれは失礼な行為なのだろう。けれども、それは相手がそれだけ美人だったからであり、決して邪な感情で見ていたわけじゃあ……。
 ……いや、何を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。


(しょうがない、ここは素直に謝ろう)


 僕はそう思い、出来る限り失礼が無いようにと、背筋を伸ばし、ゆっくりと頭を下げようとして、


 タユン。


 と、その頭が彼女の胸に入っていた。


「……!」


 少女の声なき悲鳴が聞こえた気がするが、それ以上に僕は焦っていた。謝罪をしようとして頭を下げた先に、その少女のあの大きな胸があるってどう言う状況であろうか? 自分としては結構な距離があったはずだと思っていたのだが、それなのにいつの間にこんなにも接近を許していたのか。自分でも疑問だが、それ以上に弱った。
 このままの恰好で居たら、確実にあの執事さんか、本人の少女に怒られるだろう。


(でも……)


 顔を上げて謝罪をしようにも、今の僕はそれをする事が出来なかった。たゆんたゆんの、張りのある胸は僕の顔をがっしりと、覆いつつも逃がさないように掴んでおり、逃げようと言う気持ちすら起こさない心地よさが僕を掴んでいた。


(で、でも、このままじゃダメだ!)


 僕はそう言って、両手で胸を掴んでそのまま押す。たゆんと柔らかい、大きな胸の感触を受けつつ、僕は彼女から離れた。


「……! 凄い……」


 またしても驚いたような顔をする少女。何故か隣にいた執事さんまで驚いていた。


(なんだって言うんだ?)


「初めまして、三日月一君」


 と、そんな事を考えていると彼女が声を出す。
 透き通る、春風のような、柔らかく、そして心地いい声。すーっと耳を通って行く声をしている彼女が僕の名前を呼んで、


「―――――――――と言う訳で、連行します」


 そのままそんな物騒な言葉を言う。すると隣にいた老人執事が僕の肩を掴み、


「……すいません」


 と小さく言われた後、僕は疑問符を浮かべたまま首に手刀を喰らい、意識を手放した。