僕が目を覚ますと、縦にラインが入ったセーターを着た大きな胸が目の前にあった。巨乳と言うよりかは、爆乳と言うのが正しいと言えるくらいの、その大きな胸が目の前にあった。
「あっ、起きたみたいですね」
そう声をかけてくれるのは、あの時、僕を失神させた執事さんと共に居た女の人だった。どうやら僕は彼女の膝に膝枕と言う形を取っていたみたいである。彼女は心底嬉しそうな顔でこっちを見ていた。
「良かったよ。黒塚がちょっとやりすぎたんじゃないかと心配していたんだよ。黒塚はやりすぎる面があるからね」
……黒塚? 誰の事だろうと、僕はきょとんとした顔で彼女を見つめる。
「あぁ、そう言えば名前を言ってなかったね。君を当身にて失神させた執事、その名前が黒塚って言うんだよ。そして私の名前は、川萩志保と言うんだけれども……瑠璃から聞いていないかい?」
「川萩……?」
そう言えば、瑠璃さんが僕の家に泊まる際、家に「川萩さんの家に泊まる」と言って家に泊まりに来ていたとか言っていた気がする。もしかして、その川萩さんなのだろうか?
「どうやら瑠璃から、連絡はちゃんと言っているみたいだね。そう、瑠璃の親友の川萩志保だよ。君の事は瑠璃から、いや……家の者に頼んで調べさせたからだいたいの事情は理解しているつもりだよ」
「……!」
その言葉に僕は思考が固まる。知っている……とは言っているけれども、いったいどこまで……? いや、瑠璃さんに聞いているとしたら、多分僕達が姉弟だと言う事も……。
「……君はおばあ様と一緒に大変な事をしていたみたいだね。私の口から言えるのは、大変だったねと言う事と……」
そう言って、彼女、志保さんはいきなり僕の近くまで近付いたかと思うと、
ガシッ!
と、僕の身体を掴んでその大きな胸の中に押し込んだ。文字通り、押し込むと言う形だ。でも、嫌な感じとかではなくて、どちらかと言うといきなり胸に入れられて困惑したと言う表現が正しい。極楽浄土、天国と言った表現が正しい、そんな柔らかい、まるで母親に抱かれている感覚の胸だった。あまりの心地よさに溶けてしまいそうになる自分を自身で叱咤しつつ、僕はそこから抜け出た。
「うぅ……。やっぱり、瑠璃さんの言っていた通り……。凄いなー……」
「ん?」
何か、今。さっきまでの彼女と違う、子供っぽい声が聞こえた気が……。まぁ、子供らしい一面もあると言う事だろう。そう言う事にしておこう。
「まぁ……。そんな自己紹介はともかくとしまして、いきなり気絶させた事に関しましては、誠に申し訳ございません。あの場だとマスコミに嗅ぎつけられる場合がありましたからね。私の家に連れて来ました」
「川萩さんの家?」
そう言えば、この部屋……いつものぼろい部屋と違って何だか気品あふれる部屋である。調度品も高そうだし、床や壁も一つ一つに磨きがかかっていて、本当に良い部屋である。パッと見ても、それがどれだけ良い物なのかを分かるくらいである。
「で、どうして僕をこんな所に……?」
「それを話すには、私と彼女、宮本瑠璃さんの関係性を理解して貰える?」
「え、えっと……ただの友達なんでは?」
「それで語りつくせないのが、お金持ちの世界でね。彼女の家、宮本家は代々、歌舞伎で財を成した一族でね。長年の伝統があるんだけれども、やっぱり歌舞伎だから一般の人に対して有名ではないね。対して私の家、川萩家は宮本家と比較したら短いけれども、それなりに長く続いたアイドル育成一家ですよ。アイドルと言う言葉が世の中に浸透しだす数年前からアイドル育成と排出に手を入れていて、一般にも支持があり、規模も向こうより大きい。だから川萩家は年季こそない物も、確かな一般からの支持があると言う事なのですよ。
宮本家は年季と伝統はあるけれども、一般からの支持は少し低い。川萩家は一般からの支持と規模に理があるが、年季は短い。何かとマスコミから比較されがちな宮本と川萩なのですが、娘である私と瑠璃ちゃんは結構仲良しなんですよ。で、一部には2つの家で協力すべきだと言う意見もあって。ぶっちゃけ、今の時代だと私達のような家はお互い協力しないと、体裁を保てなくて」
金持ちって体裁を気にする、って言う事もあったみたいだし。とにかく、どうにかして交流を深めたいと言う事があったんだろうか?
「まぁ、そう言う訳でどうにかして2つの家を交流を持ちたいと思っていたんですけれども、その辺りは理解して貰えますか?」
「あぁ、なんとなく」
僕はコクコクと頷く。すると、志保さんはペコリと頭を下げる。そして胸の下から両腕を支えるようにして強調する。そして、一言。
「―――――――だから結婚して?」
「……はい?」
僕はきょとんとした顔をするしかなかった。