由里は、次の日から学校に来たようだ。佳奈の所に伝ってくる話では、以前のように元気に生活できているらし
い。それに、拓也と一緒に学校から帰る姿も目撃されているらしいが、佳奈は、絵美のイタズラだと思った。
まず、絵美が、拓也にメールを送って昇降口まで誘い出す。しかし、同時に由里にも一緒に帰ると連絡して、同
じ時間に昇降口に来るように言う。集合時刻になって拓也と由里が会ったのを見計らって、急な用事ができたと
二人に連絡する。すると、住んでいる地域が同じ二人は一緒に帰らざるをえない。と、言った風に若干パターン
化したことをやったのだろう。
佳奈の日常も、それから先は安定して続いていった。茶道部にも普通に行き、授業も普通に受けた。ほかの生徒
が、女子の体型について話そうとすると、買ってきた耳栓を付けて、情報を遮断し、極限まで不要な変身を避け
た。(もっとも体型の話だと気づいた頃には、胸部が張っていたり、髪が伸びたり、背が伸びたりしていたが)
しかし、先輩が他の女子としゃべっているところを見かけると、どうしてもその女子の体型になってしまい、秋
音に胸を揉まれたり写真を取られたり(これは即消去したが)して、弄ばれてしまった。
そして、2月も近づいたある日のこと。佳奈と秋音は茶道部室に向かっていた。ちょうど野球グランドに差し掛
かるところだ。
「さあ今日は何の遊びをしましょうかねー!」
「今日は、こたつでみかん」
「寒くなってきましたからねー!」
「うん。あれ?」
「どうしました佳奈さん?」
「いや、先輩がいない」
「え、そりゃそうですよ!受験シーズンですよ!」
「そ、それもそう」
「佳奈さーん、さっさとしないと二度とあえなくなっちゃいますよ!そのまえに、ボンキュッボンのスタイル抜
群になって、告白しないと!」
「う、うぅ…」
ニヤニヤしている秋音の言っていることが、正論に聞こえた。
「情報は仕入れてきますから、お任せを!」
「え、どうやって」
「コネですよコネ、私学級新聞作ってるので、いつも取材している人に聞くんですよ!」
「いつの間にそんなもの。見たこと無い」
「ま、それはおいといて!早速今から調査開始してきますね!」
「あ、秋音!行っちゃった」
佳奈は部室で秋音を待ったが、結局秋音が現れないまま、佳奈は帰ることにした。
翌々日。佳奈の机に爆音を立てて置かれるバインダーの山。
「佳奈さーん!まとめてきましたよ!先輩のこと!」
「おはよう。で、なにこの分厚い資料」
「私が一晩でまとめました。いろいろ載っていますよ、先輩の名前から財布の中の所持金まで!」
「で、要点は」
「そんなこと言わないでくださいよ!これ作るのに徹夜したんですから!」
「それは言い訳にならない。概要が説明できないなら、まとめたことにならない」
「うぅ、ひどいなぁ。ま、佳奈さんのために、説明しますと!」
「ふむふむ…」
結果、先輩の名前は何というのか、何処に行けば先輩と会えるのか、先輩がどの萌え属性が好きなのか、という
ことがわかった。
(最後の、どうしろっていうの…)
「ということで、あとはご自由にどうぞ!」
「いきなり突き放さないで」
「佳奈さんなら大丈夫!私よりうまくやれます!じゃっ!」
「あぁ…」
佳奈は、これまで起こったことを繰り返し頭のなかで考えた。
(先輩は、私のことを好きになってくれるだろうか。私が変身した後で好きになってくれても、それは本当の私
じゃない。偽りの私。それに絵美が拓也のことを言ってたみたいに、体型は気にしない人なのかもしれない。で
も、怖い。でも、やらなくちゃ)
放課後、佳奈は秋音の情報にあった、先輩が通る路地に向かった。
(あと、5分で来てくれる。その時に、告白する)
その5分は、佳奈にとって悠久にも思える5分であった。そして、
(来たっ)
憧れの先輩が歩いてくる。
「せ、せんぱっ…!」
次に佳奈が目にしたのは、女子高生が後ろから先輩に駆け寄っていく姿だった。しかも、絵美よりも背が高く、
胸も大きい。
(え…)
途端に体が熱くなってくるのを感じる佳奈。しかし、
(だめ、ありのままの自分で、私の気持ちを伝えるだけでもしなくちゃ!あの人は恋人じゃないんだ!ただの通
りすがりの人だ!)
と、無理やり熱を押さえ、先輩に呼びかける佳奈。
「先輩!目黒先輩!」
「え?何?君…あ、もしかしていつもグランドの横を歩いてる可愛い子!」
自分のことを覚えていてくれた先輩。佳奈の心は喜びであふれた。
「そうです!それで…先輩のことはいつもお慕いしてて…」
「英一!なーにこの子!知り合い?」
女子高生が割り込んでくる。そして先輩の腕に抱きつく。喜びは一瞬にして消えてしまった。
(違う違うこの人は違うんだ!)
そう否定する佳奈は死に物狂いになっている。
「いや、違うよ。ところで、何の用かな?これから俺たち、行かなきゃいけないところがあるんだけど」
「そ、その、先輩のことが好きなんです!」
「えっ」
空気が凍る。だが、
「あっはは、何言ってるの!?英一は、こう見えてもおっぱい大好きなのよ!この前も…」
「黙って!」
女子高生が割り込んできた。限界に近づいている佳奈は、つい大きな声を出す。
「なに言ってるんだ、恭子!いくら後輩でも、言っていいことと悪いことがあるだろ!ねえ、君」
「はいっ!」
「俺を好きって言ってくれることは、とてもありがたいし、受け止めてあげたい。でも…」
「…」
「君の体は小さすぎる。もっと、俺よりも君に合った、素敵な人がまだいると思うんだ」
佳奈の頭の中で、何かがプツンと切れた。
「やっぱり、体型ですか」
「そうはいってないよ」
「言ってるじゃん!まだ隠し切れてると思ってるの、英一!」
「静かにしててくれよ!だから…」
「体型、ですよね。だったら、先輩の望む体型になる」
「え?」
「アンタにはまだ10年早いよ!あ、10年たったらもうおばさんか!残念でした!」
「いま、なる」
そういった瞬間、佳奈の体が恭子の背までぐいっと伸びる。
「きゃぁ、何この子」
「君…」
「先輩は、おっぱい好きなんですよね。じゃあ、その人よりも大きくしてあげます、好きな大きさになったら、
合図してくださいね…」
「何を言って…」
「あ、速くボインって大きくしてほしいですか?それとも、ゆっくりムクムク大きくして欲しいですか?」
「ゆ、ゆっくりで」
「英一!?」
「ふふっ、変態さん。じゃあ…恭子さんの大きさから」
ボンッ!
何も無かった胸板から、双丘が飛び出て、セーターを押し上げる。
「わ、学校一の私と同じ大きさなんて…」
「ふふっ明日からは違いますよ…じゃあ大きくしていきますね」
「うんっ」
「英一がこんな変態だなんて…」
つくづく変態しか登場しない。
佳奈が目を閉じて考え始めると、すでに盛り上がっているセーターがさらに盛り上がる。
「せ、先輩…胸、苦しい…」
「わ、わかったよ」
英一がセーターを下から脱がすと、形のいい乳房がボロンとでてくる。
「すごい…」
目に飛び込んできた乳を思わず揉んでしまう英一。
「やわらかい…」
柔らかさはどんどん増していく。
「先輩、これくらいがいいですか…?」
「いや、まだまだ…」
「英一、これ以上やると警察呼ぶよ!英一!?」
恭子の言葉は英一に届いていない。英一は構わず揉み続ける。
「もう、先輩ったら、大胆ですね…それっ」
ムギュギュギュッ
乳房の成長は加速する。
「俺、一生、このままでいたい…」
「先輩、私のこと、好きですか…?」
「す、好きだよ…」
「うれしい…」
それを聞いた恭子が泣き喚きながら走り去っていった後も、英一は佳奈の乳房を揉み続け、佳奈の成長は止まる
ところを知らなかった。
翌日。
「で、どうなったんですか!」
「成功。性格悪い女も追い払った」
「えっ!すごいですね!佳奈さんの知的センスは最高ですね!」
「いいえ、単に私の魅力」
「ああ、察しました」
「うふっ。今日も先輩のお相手してあげるの」
「あー!私の中の佳奈さんが壊れていくぅー!」
以降、佳奈が教室で成長することはなくなった。
(だって、今は私が先輩の理想の恋人だから…)