ここはある都会の中、ビルが建ち並び、昼にはせわしなくサラリーマンが働いているが、夜はもぬけの殻となっ
てしまう、少し不思議な界隈。夜、一人の少女が歩いていた。中学1年と間違えられてもおかしくないほど小さ
いその子は、少し急ぎつつ家に向かう途中だった。
「こんなに遅くなるなんて、思ってなかったよぉ…もう、誰も歩いてないし、怖い…」
か細い声で少女がつぶやく。彼女の歩いている道には、事務所が多く建ち並んでいるが、人は一人として歩いて
いなかった。
「あの大学の過去問、難しすぎるよ…気づいたら、塾が閉まる時間になってた。どんな人だったら分かるのぉ…
?」
彼女は実は高校3年生で、受験を間近に控えた理系女子であった。名前は千秋である。塾は駅前にあり、かなり
遅い時間まで自習室を開放していたが、それでも彼女には難しすぎ、時間が終わってしまったようだ。
「早く帰って、明日のお支度しないと…あれ、なんだろうあの光?」
彼女の前方に、眩しい光が見える。自動車のヘッドライトなら、こちらにそれなりの速度で動いてくるはずだが
、その光は千秋を待っているようにも見えた。
「怖いよぉ…」
千秋は怖がって足を止めてしまった。しかし、ずっと止まっているとそれを見兼ねたかのように光の方から近づ
いてきた。
「ふぇ!い、いやぁぁああ!あ、あれ!?」
千秋は逃げ出そうとしたが、足が動かない。その間にも光は千秋の目の前まで迫ってきた。
「お、お願い!食べないでぇ!」
<<食べたりしないよ!ボクはただ、キミにお願いがあって来たんだ!千秋、キミの助けが必要なんだ!>>
「へぇ?」
心のなかに直接、可愛らしい声が入ってきたような気がした。
<<今は何もわからないと思う。でも、付いてきて欲しいんだ>>
「あ、あなたは誰なの?」光の方に話しかける千秋。
<<ラクラク、と呼んで。>>
「ラク…ラク。分かった。」
千秋が了承した瞬間、彼女の周りの風景が一変し、暗かった路地は赤い光に包まれた、採石場のような所に姿を
変えた。千秋は、そこで戦っている一人の少女の姿を見た。その子は、子供の時に見たような「魔女っ子」の格
好をしており、「魔法の杖」と呼ばれそうな先に水晶球の付いた棒を持っている。そしてその視線の先には、名
状しがたい怪物のようなものが蠢いている。その気持ち悪さに一瞬吐き気を催す千秋。
「ごめんね、最初に見せるディケイがこんなに人間の価値観の合わないものになっちゃって」
隣から先ほどの声が聞こえた。そちらを見ると、小型哺乳類のように可愛い、しかし何か違和感がある生命体が
こちらを向いている。
「ディケイって?」
「敵さ。この世の中を支配しようとしているモノ。こいつらは周りのものを食い尽くし、増殖を繰り返している
んだ。」
「あの子は?」
「魔法少女、と君たちの世界では呼ばれている。ボクと契約して、一つの願いと引き換えに戦ってもらっている
。ノルマが達成できれば、もっと願いを叶えられる。そんな、素敵な契約だよ」
「魔法、少女…」
と、二人がしゃべっている間にも、魔法少女は、戦い始めていた。彼女が杖を構えると、その先から光線のよう
なものが出て、怪物に当たり、それをひるませた。そして彼女は大声で何かを叫ぶと、杖が光りだし、剣のよう
な形になった。といっても、千秋にはその声はなぜか伝わってこなかった。少女は、その剣を怪物に向け、走り
だした。怪物は触手を伸ばして対抗しようとするが、少女は剣を巧みに動かし、全て切り捨てていく。
そして、
グシャァアア
と言わんばかりの勢いで剣が刺さり、蠢いていた怪物は動かなくなった。と、そこでまた周りの風景が変わり、
元の暗い路地に戻った。ラクラクは光の姿でそこにいたが、少女と怪物はどこにも見当たらなかった。
<<どうだい?キミも魔法少女になって、世界を救ってみない?でも、願いを見つけるのは大変だろうから…>>
「願いなら、あるよ?」
<<へぇ。どんな願いだい?>>
「体を、大きくして欲しいの」
千秋は、半分冗談のような気持ちでそう言った。彼女の小さい体はかなりのコンプレックスになっていて、その
せいで高校では友達も少なかった。そのせいで、「願いを叶える」と言ったラクラクの言葉に、つい、後先考え
ずに「体を大きくして欲しい」と言ってしまった。
<<キミがそれでいいなら、そうしよう。じゃあ、ここにサインして>>
「え?本当に叶うの?」
<<もちろんさ>>
とラクラクが言うと、光の中から、羊皮紙のようなものと、光り輝くペンが出てきた。
「何か、携帯会社の契約みたい…」
<<仕方ないよ、これ以外に記録方法が無いんだから>>
「そうなの?」
と言いつつ、千秋は自分の名前を書き終えた。彼女の書いた名前はペンと同じように光っていた。
<<じゃあこれで契約成立だ、早速、明日キミの願いを叶えてあげるよ>>
「え、明日なのぉ…?」
<<いつもなら、その場なんだけどね、ちょっと特殊な願いだから>>
「わ、分かったよ…」
<<じゃあ、また明日>>
「うん、バイバイ」
千秋が光に向かって手を振ると、光は宙に舞い上がり、どこかへ消えていった。
千秋は自分が家に帰る途中だったことを思い出し、走って帰っていった。
家についた千秋は、色々と支度をした後、その次の日の事を考えながら、ベッドに横になった。
「(私が大きくなったのを見たら、みんなびっくりするかな?でも、本当に体、大きくなるのかなぁ?えへへ、楽しみだなあ…Zzz)」
---
次の日の朝。
千秋は、胸にかなりの重さを感じて起きた。
「あ、本当に大きくなったんだ!やったぁ!」
と飛び起きると、枕が吹っ飛んでいくのが見えた。胸のあたりに乗っていたようだ。自分の体を見ても、昨日と
変わらない、ぺたーんとした胸と幼児体型が見えた。
「…」
千秋は、恥ずかしさと落胆を感じて、黙ってしまった。
「やっぱり、そんなこと叶わないよね…あ、こんなことしてる場合じゃないよぉ…」
アセアセと朝食と支度を済ませ、千秋は学校へ向かった。千秋が駅に着くと、同じ高校の生徒がいたが、挨拶す
らしてこない。高校の校庭についても、誰も千秋に話しかけるものはなかった。
「(これも、いつものこと…あれ?)」
教室に着くと、自分の机に紙が貼ってある。見てみると、語彙の少ない人が思いつく限りの罵詈雑言を一生懸命
書いたようなものだった。そんな千秋をニヤニヤ見ている視線に彼女は気づいた。
「あー、今日は私の番か。あの人、物好きだなぁ…」
犯人の生徒は相当の変わり者で、毎日そのような紙を書いては誰かの机に貼っていた。千秋はその紙をポイっと
犯人に投げつけると、犯人はとても嬉しそうな顔をした。
「うわぁ…」
思わずドン引きしてしまう千秋。そんなこんなで、千秋は友達こそ少ないがいじめは全く受けていなかった。
そして、いつもの様に授業時間は過ぎていく。
昼休みも、いつもの様に一人で過ごすはずだった。しかし、給食を食べる千秋の前にいきなり光の玉が現れた。
「うわぁっ!」
いきなり大声を上げた千秋に少し視線が集まるが、それはまた散らばっていった。どうやら光の玉は千秋以外に
見えていないようだ。
<<おっと、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだ>>
「(ラクラク…なの?)」
<<そうだよ。キミの戦う番が来たから、伝えに来たんだ>>
「(え…今なの?放課後じゃダメ?)」
<<今じゃないと、願いは叶えられないよ>>
「(願い…あっ)」
<<そう、キミが言った、体が大きくなる願い。でもここじゃ人の目に付くから、まず女子トイレとか、人気の
ない所に行くんだ>>
「(女子トイレ?エッチ…)」
<<急がないと!>>
「(分かった。今行くよ)」
と心のなかで言って、千秋は女子トイレに向かった。
個室に入ると、ラクラクの声がした。
<<それじゃ、いくよ>>
「(うん)」
千秋が答えると、周りの風景が変わる。今度は、青い光に包まれた、野原のような場所だった。千秋はいつの間
にか、桃色のふりふりした服を着ていた。
「服、変わってる」
「キミのために用意した特注品さ!じゃあ、これ持って」
「なに、これぇ」
ラクラクの前に現れたのは、ミニガンだった。
「こんなの絶対おかしいよ」
「何を期待していたんだい?」
「ラクラクが見せてくれた子の、杖みたいなの」
「あんなに効率の悪い武器が好きだなんて、わけがわからないよ。普通だったら、これみたいな飛び道具じゃな
いと、倒す前にやられちゃうんだよ」
「それはそうにしても、どうやって持つの?かなり重そうだよ」
「そんなことないよ。さあ、持ってごらん」
ガシャッ
と千秋がミニガンを持ち上げた。
「ホントだ、私のかばんより軽い」
「さあ、準備はできたかい?そろそろ出てくるよ」
「うん」
すると、野原の一部が大きな音を立てて盛り上がり始め、土の大きな山ができはじめた。
「来るよ!」
盛り上がりが爆発するように飛び散ると、そこには、機械が何体もつながったような、身長が10mくらいの大きな
二足で立つロボットがいた。シューッっと蒸気を漏らしながら、千秋に近寄ってくる。その一歩ごとに、地面が
大きく揺れる。千秋は思わず口をポカーンと開けて硬直してしまう。
「千秋、早く撃って!」
「わ、分かったよぅ!」
千秋が引き金を引くと、ミニガンの砲塔が回り始め、同時に高速で弾丸を発射し始めた。普通の銃ならバンバン
という言葉を発射音に見立てるが、これは早すぎてもはやブブブブブブブという言葉のほうが見
合っている。そのような速度で連射するミニガンは、あっという間にロボットをボロボロに壊していく。
「いいぞ、千秋!」
千秋の足元に空の薬莢の山が出来上がる頃には、ロボットは鉄くずの山と化していた。
「やったぁ!」
「千秋、やったね、これで世界に貢献できるよ!」
「え?今のは貢献してないの?」
「ディケイを行動不能に持ち込むのはそのたった一部さ。これからキミの体を使って、世界に貢献してもらうん
だ」
「え…?」
「契約をしてもらって、ディケイを一体倒したキミには教えてあげよう。どうせ、もう後戻りはできないんだ。
ディケイは、この宇宙に住まう全ての知的生命体、あ、これには、地球人も含まれるよ。その全体が廃棄したエ
ネルギーや、物質の集まり。それが長い間捨て置かれることで暗黒エネルギーによって腐敗してできたものさ」
「じゃあ、これはゴミってこと?」
「いや、それ以上のものだよ。これには、元々の捨てられたエネルギーに加えて、暗黒エネルギーが含まれてい
る。しかも、ある過程を経ることで利用可能なエネルギーに変換できる。減り続けるエネルギーを回収するどこ
ろか、増幅することさえ可能なのさ」
「なに…その過程って…」
「まず、ディケイをある特定の手段で倒す。これは、今やってもらったことさ。その銃は、最先端技術で、この
目的のためだけに作られた武器なんだよ。これによって、ディケイに含まれていたエネルギーは活発に次の宿主
を探しだす」
「宿主って…まさか…」
「そう、今の状況だと、君しかいない。そして、宿主になった生命体は、ある器官を通して、利用可能なエネル
ギーを生み出すことができるようになる。ディケイから奪い取ったエネルギーが無くなるまでね」
「ある器官?」
「乳腺さ。自分の体にあるエネルギーを、簡単に貯蓄可能な液体として出してくれる、素晴らしいものだ。そし
て、乳腺、いやそれと等価な代替器官さえ、持っている種族は少ない」
「…」
「しかし、エネルギーを貯蓄する場所も必要だから、体も大きくなるよ。これで、千秋の望みは叶うわけだね」
「ま、待って…」
「「待って」って…もう遅いよ。キミはもう契約をして、ディケイを倒したんだから。ほら、そろそろエネルギ
ーが出てくるよ」
「なんで、こんなこと…っ!」
千秋は、ロボットの残骸から、黒い触手のようなものが無数に伸びているのに気づいた。触手は、ぴくっと気づ
いたようにその先を千秋に向けると、急に千秋の方に迫ってきた。
「きゃあああ…っ!」
千秋が悲鳴をあげるその口に、触手が飛び込んできた。千秋は衝撃で地面に倒れこんだ。口の中で触手が喉を通
って体の中に入っていくのを千秋は意識が薄れながらも感じていた。
すると、千秋のお腹の辺りがプクッっと膨れ始めた。それを見たラクラクは、あるのか無いのかわからない表情
を、少しも変えずに言った。
「うーん、千秋のエネルギー消化能力は思ったほど高くないみたいだね。服が破れちゃう」
ボタン留めの服は、どんどん膨れていき、ボタンの部分が引っ張られていく。そして、
パーンッ
と服が破れると、たまご型になった千秋の腹部が顕になった。触手の動きのせいで時折ボンッと揺れている。
「千秋、もしかして消化不良?何とかしないとな、腹部が破裂して死なれても、エネルギーがもったいない」
ラクラクは、触手が四半分も入っていかないのに気づいて、千秋に近づいていった。
「ほら、千秋、一回出すよ」
とラクラクが千秋のお腹に触れると、千秋の口に入り込もうとしていた触手はするすると出ていき、千秋から離
れた。
千秋の意識は朦朧としていたが、ラクラクのいう言葉を理解することはできた。
「苦しかったかい?ちょっとお腹の調子が悪いようだから、これ飲んでね」
いつの間にか取り出した試験管のようなものを、ラクラクは千秋の口に流し込む。千秋は、鼓動がいきなり速く
なったのを感じた。
「じゃあ、また行くよ?」
という言葉とともに、触手が千秋の口に突っ込まれた。
「ふぐっっ!」
千秋は悲鳴のようなものを上げるが、容赦なく触手は体の中に入ってくる。しかし今度は、千秋は体が急激に熱
くなってくるのを感じた。そして、触手がお腹を突き抜けて伸ばしていた足に貯まるような感触を受けると同時
に、足が先の方から服に圧迫される感触があった。そのまま触手は足に溜まっていき、パンパンになると、次第
に触手が腰の部分を広げていく。その次はお腹に。胸に、手に、と下からどんどん触手がパンパンになる。頭に
触手が溜まり始めると、髪がバサッと伸びた気がした。そこで触手の動きが止まった。
「(お、終わったの…?)」
千秋はおぼろげな意識の中、口にまだ触手が入りきらずに、少し出ていることに気づいた。
「ほら、千秋、起きて、寝たままじゃ絞れないから…」
というラクラクの言葉が聞こえると、いきなり意識がはっきりした。
「ふ!ふぐうふぐっふ!」
「死ぬかと思ったって?ボクがいなければ多分そうだったかもね、さあ起き上がって」
千秋は起き上がろうとしたが、どうにも体のバランスが悪い。自分の体を見ようとしても触手があってわからな
いので、手でお腹の部分を触ると、パンパンに膨れている。
「どうやら、キミの消化不良はすごいものみたいだね、ほら、見てごらん」
どこからともなく鏡が現れ、千秋は自分の体を見ることが出来た。
「ふぐう!」
身長は1.5倍近くになり、巨乳で、タイツはムチムチ、髪は膝辺りまで伸びている。腹部は妊婦のように出ていて
、口からは黒いものが伸びているが、それ以外は雑誌に乗っていそうなスタイルになっていた。
「さ、ここからはボクの仕事だ。ラクト・エクストラクター(搾乳者)のね」
「ふえ?」
ラクラクが千秋の体に触れると、もともと盛り上がっていた胸の部分が更に大きくなっていき、口に残っていた
触手が体に入りきる。胸がバスケットボールぐらいになったのを見たラクラクは、その耳を胸の先端に吸盤のよ
うにくっつけた。ラクラクの体重で胸はぽよんっと下がった。
「ひゃぁっ!」
「これをやると、なぜかキミたちは気持ちよくなるみたいだね」
ラクラクの耳は、そのまま動き始め、千秋の今や巨大になった乳房の先の部分を揉み始める。
千秋の胸は更に大きくなり、同時に張っていく。そして、その張りでラクラクの体が持ち上がる。
「も、もうだめっ!」
と千秋が叫んだ瞬間、ラクラクの耳がぽんっと膨らみ、同時にラクラクの体が大きくなり始めた。
「このエネルギーの質は、これまでにないほどだ!よくやった、千秋!」
「ふぇえっ!(恥ずかしいけど、気持ちいいよっ)」
千秋の方は、お腹が縮み、だんだんクビレができ始めた。完全に凹む頃には、小動物のようだったラクラクの体
は、人間ほどの大きさになった。千秋の胸は張りが弱くなり、普通のサイズまで戻った。
「ぷっきゅい!あとは、これを梱包して…よし」といったラクラクのお腹の部分から、ガラスの瓶のようなもの
が出てきた。中は白い液体で一杯だった。そして、ラクラクは耳を乳房から離した。
「はぁ…はぁ…」
「千秋、お疲れ様」
「ラクラク…」
「何だい、千秋?」
「すごく、気持よかったの…また、ディケイ退治、やらせてくれる?」
「もちろんさ!」
千秋は、念願のナイスバディを手に入れたが、同時に別の何かを失ってしまったようだった。
学校では体が変わったことには誰も疑問を感じなかったが、それ以降友達と、ファンクラブまでできた。千秋は
、世界を救うと同時に、幸せになることが出来た、と思った。