ゲレンデの騒動

tefnen 作
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絵美が風邪を引いてしまったせいで、由里と拓也はスノボーをやめ、スキーをすることにした。拓也があまりに
頼りないせいだ。
ということで、もう一回インストラクターに付いてもらって、基本を教えてもらい、昼食の後で佳奈と英一に合
流した。
2人乗りリフトの上で、拓也は由里に謝罪した。

「ごめんね由里ちゃん」
「いいよ、拓也くん、インストラクターに教えてもらった時間が短すぎたんだよ」
「今度はうまくやれるから、さ!」
「拓也くん…それにしても、前の二人、仲いいな。あれ、また大きくなってる、佳奈」
「え?」

前のリフトには佳奈と英一が座っていた。英一よりかなり背が低いはずの佳奈が、英一と同じくらいの背になっ
ている。防寒具も明らかにサイズが小さくなっていて、お腹の部分に肌色が少し見えている。
英一の高所恐怖症を抑えようと、また佳奈が変身したのだろう。英一は、佳奈に向かってしゃべり続けている。
佳奈は前を向いているので分からないが、佳奈流の会話をしているようだ。
更に良く見ると、英一のスキーストックを持っていない、空いた方の手は佳奈の胸に伸びていた。

「先輩も、もうちょっと場をわきまえてほしいなあ」
「そ、そうだね」

と言いつつ、拓也は由里が暴走した時のことを思い出しているようで、顔がこわばっていた。

そして、リフト降り場に着いた4人。

「あ、佳奈、体戻ってる」
「当然。大きいままでは、滑れない」
「俺も、佳奈があんな体のままだったら、集中できないからな!」
「先輩…」哀れみの目で由里は英一を見た。
「おい、仕方ないだろ…それに、勝手に変身するのは佳奈の方なんだしな」
「先輩が、怖がるから…」
「まあまあ、後ろ詰まっちゃいますし、さっさと滑りましょう」と拓也が割って入る。
「そうだな!それじゃ一番遅い拓也君が先頭で滑ってくれ。その次に由里ちゃん、佳奈、俺の順で滑っていくか
ら」
「分かりました!」

拓也は、スノボーの時よりはかなりうまく滑れているようだった。今度は、問題は由里の方にあった。

ドサッ

カーブに差し掛かると倒れてしまった。

「うわぁん」
「由里、大丈夫?」
「うん、なんとか…あれ?拓也くんは?」
「おい、大丈夫か!?」
「はい!大丈夫です!」と言って立ち上がる由里。
「あれ、おかしいな、拓也君はどこに行ったんだ?」
「あ!あんな下に!」

見ると、拓也はかなり下の方に滑っていってしまった。しかし、滑ることに夢中で後ろがついてきていないこと
には気づいていなかった。

「あの人、進入禁止区域に…」

佳奈が行ったとおり、拓也は何を間違えたのか森の方に入っていってしまった。

「由里ちゃん、ちょっと待っていてくれ、拓也の所に言って、連れ戻してくるから」
「先輩、置いてかないで」
「仕方ない、由里ちゃん一人にするのは心配だが、佳奈は聞かないだろうからな…」
「いいです、一人で待っていますから」
「くれぐれも上から滑ってくる人には気をつけろよ!」
「待ってて、由里」

そう言うと、英一は斜面をまっすぐ、スピードを上げて滑っていき、佳奈はすこしジグザグしながら英一に付い
ていった。

「はぁ。拓也くん、大丈夫かな…それにしても、きれいな風景!」

由里の前には、晴れ渡った空と、どこまでも続いていきそうな山々の景色が広がっていた。

「一時は日光を浴びるのが怖かったけど、呪いが無くなってから気持ちよくなったなあ」

と独り言を言いながら、英一たちを待っていた。十分くらいして、佳奈と英一がリフトに乗っているのが見えた。
また佳奈は大きくなっているようだ。防寒具の上からも分かる大きな胸を膨らませて。

「もう二人とも、拓也くんのピンチなのに、ってあれ、拓也くんは?」

拓也がリフトに乗っている様子が見えない。数分後英一が上から滑ってきた。

「由里ちゃん、大変だ!」
「にしてはイチャイチャしてましたけど」
「うう、勘弁してくれよ!俺高いの苦手なんだ!そしたら佳奈が大きくなって…じゃなくて、拓也君が見つから
ないんだ!」
「え!」
「スキー場のレスキュー隊員にも知らせて、今探してもらっているが、いつ見つかるかわからない。由里ちゃん
は、宿泊所に戻って、レスキュー隊員からの知らせを待っていてくれないか?」
「分かりました!でも、また転んじゃうかも…」
「大丈夫、ゆっくり体のバランスを左右に動かすんだ、それに、体を後ろに傾けないこと」
「言われて分かるなら簡単ですよ…でも、やるしかない…」
「そうだ、由里ちゃん、佳奈も来たし、さあ行こう」
佳奈が上から滑ってくる。
「先輩、やっと、追いついた…」
「すまん佳奈、下まで由里を連れて行くぞ」
「は、はい」

英一に言われたとおり、由里は滑りだした。途中バランスを崩して何回か転んだが、そのたびに英一が引き起こ
してくれた。一度だけ、佳奈が転んで、

「佳奈が転ぶなんて」
「先輩…」
「お、おい…」

佳奈は転んだまま体を大きくしたようだ。髪がまっすぐ背中まで伸び、スキーウェアの胸の部分が膨らんでいる。

「か、佳奈…嬉しいけど…」
「(嬉しいの!?)」心のなかで突っ込む由里。
「今は由里ちゃんを下まで届けるのが先決なんだ。分かってくれ…」
「む…由里ばかり。ずるい、由里」と言って元の体に戻り、自分で立ち上がる。

そしてようやく、由里は宿泊所に着いた。部屋に戻ると、絵美が布団を敷いて寝ていた。

「絵美…」
「お、お帰りーどうしたの…ゲホッ」
「あ、起こしちゃった?」
「ううん、昼まで寝てらんないよー…何か英一先輩がレスキュー所に入っていって、その後隊員の人たちが大急
ぎで出て行ったのを見たんだけど」
「あ、それ!拓也くん、どこかに行っちゃったの!」
「あの童貞…やっと滑れたと思ったら今度は迷子か!うっ…ゲホゲホッ」
「だ、大丈夫?絵美」
「平気平気、でもこのスキー場の山は、周りを舗装道が走っているから、麓まで出ればそれにそって戻ってこれ
るはずだよ。ま、スキー靴じゃ大変だろうけど」
「そうなの?」
「そう、だから遭難で凍死する、なんてことはないから。それにアタシも子供の時に同じことやったし」
「そうなんだ…」
「それにしてもいい日差しだねー早く治して滑りに行きたいな」
「そうだね」
「ん…」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない(あれ、何か由里の右手の甲に灰色のマークが付いてる…呪いは消えたはずなのに。まあ
、それはそれで)」

「ね、テレビ付けて」
「うん、いいよ」

ピッ

「あー昼は何も面白いのやってないね…」
「ワイドショーくらいだね」
「アタシ、もうちょっと寝る」
「うん、おやすみー」

それから、由里はゲレンデを滑り降りてくる子供連れの家族や、カップル、ご老人の団体…いろいろな人を見て
、時間を潰した。

「(拓也くんと一緒に滑りたいのに…)」

と、

ドンドンドンッ

と扉を叩く音が聞こえる。

「あ、拓也くんかな、はーい!」

扉を開けると、拓也が立っていた。

「由里ちゃん、ゲレンデに戻ったら、英一先輩に由里ちゃんに話しに行くように言われてさ、でも、僕、何かし
たっけ?なんで由里ちゃんは部屋に戻ってるの?」
「え?1時間位迷子になってた…からだけど…」
「え、迷子?由里ちゃんとはぐれてから、5分位で先輩に会ったんだけど。それに今日は何故か分からないけど
、疲れちゃった…部屋で休んでるね」
「あ、良かったら私も拓也くんの部屋に行ってもいい?」
「いいけど、なんで?」
「絵美、寝ちゃってて…あまりうるさくできないし」
「じゃあ、スキーウェア脱いだら、また呼びに来るよ」
「うん」

数分後、由里はスキーウェアを脱ぎ、薄着になった拓也に呼ばれていった。拓也の部屋、というより男子部屋に
入ると、ゲーム機がテレビにつないであった。

「あー、これ、先輩が持ってきたんだ。それで、昨日はテニスゲームをやってたんだけど…由里ちゃんも、やる?」
「うん!」

その後、由里と拓也は隣同士で座り、食堂で買ってきたお菓子を食べながら、ゲームで遊んだ。

「(拓也くんと、二人きりなんて、一緒に滑るよりもうれしいな。ずっと遊んでいたい…けど、スキーもちゃん
とやらないと、ここに来た意味がないよね)」
「由里ちゃん、他のゲームもやってみる?」
「ひゃ、ひゃい!」いきなり喋りかけられてうろたえる由里。
「だ、大丈夫?」
「うん、でも、先輩のゲーム勝手にあさっていいの?」
「うーん、まあ、それもそ…うっ!」
「拓也くん!?」
「なんだ…これ…」

拓也は自分の手で胸を押さえる。

「拓也く…えっ!」

由里がよく見ると、胸の部分が盛り上がっていた。押さえる手の指も、段々細くなり、健康的だった肌が白くな
っている。次に由里の目に留まったのは、

「右手、光ってる!」

拓也の右の手の甲に、由里のものと同じようなマークがあった。由里は外を見てみたが、まだ外は夕暮れに少し
差し掛かった、位だった。

「(え、日没とは関係ないの?)」

その間にも拓也の胸は荒くなった呼吸に合わせて膨らみ続け、ぶるぶると震える。

「うっ…頭が」

そういって頭を押さえる拓也の声はかなり高くなり、もはや女性の声になっていた。由里が拓也の喉を見ると、
喉仏が見えなくなっている。次に髪が伸びてきて、ショート・ボブほどの長さになった。

「お、お腹きつい」

ウエストもギュッっと絞られるように細くなり、尻はすこしふっくらしている。全体の輪郭も、丸っこくなった。

「はぁ…なんだったんだ」
「た、拓也…くん…」バタン
「ゆ、由里ちゃん?」

由里が倒れるのも仕方ない。拓也の体は、完全に女性のそれに変わっていた。

「あれ、目に、髪が掛かってる?胸が、重い…??」

部屋の鏡が目に入る。鏡の中には、少女、しかし由里ではなくもう一人の少女が映っている。

「僕、女の子に、なって…う、うわああああああああああ」

現実が分かった瞬間、拓也は叫んだ。すると、

「この童貞がああああ!由里に何をするだァー!!」

と、箒を持って寝間着のままの絵美が飛び込んできた。そして、本能的に箒で拓也に殴り…かかろうとした。

「ってあれ?あんた誰?」
「ぼ、僕だよ。拓也…」といって顔を赤らめる拓也だった少女。
「は?あんたが…って…」右手の甲のマークが絵美の目に入った。「はぁ…またあの変態の仕業か…」
「え?信じてくれるの?」
「あー、あいつらが関わってるだけで分かるわ」
「あいつら?」
「由里に呪いをかけたやつ。ついでに私に魔法を掛けっぱなしだけど…ほら、あんたの右の手の甲にマークが付
いてるでしょ?それがあいつらがあんたに呪いをかけた証拠。由里も伸びちゃって、かわいそうな子だよ本当。
これは早急に解決してやらないと」
「え、絵美ちゃん…?」
「あんたも、元に戻る方法考えて!む、しかし今は太陽も出てるし、拓也は佳奈みたいに繊細でもない…」
「ちょっと傷つくよそれ」
「黙って。事実だし。うーむ…」と言って、絵美は部屋を出て行った。
「え、絵美ちゃん、大胆な格好してたなあ…」

拓也は、そう言って先ほどの絵美のノーブラ薄着姿を思い浮かべ、わざとではないが顔をニヤけさせていた。

「だけど、僕も今そんななのか……女の子のあそこってどういう事になってるんだろう」

と股の方に手を伸ばした瞬間、

「こんの童貞が!よりにもよって自分の体で童貞やめるなんてテンプレやろうとするな!」

という絵美の大声と同時に右ストレートを顔に決められた。女性の体になって軽くなっていた拓也は軽く宙に飛
んだ。

「ぶはぁっ!」
「たくもう…それで、今日の月の出の時間を調べたんだけど…ちょうど10分前だったよ」
「いったたたぁ…ど、どういう意味」
「言ったと思うけど、由里の呪いは太陽が沈んだ時に発動するものだったんだ。だけど、今は太陽は沈んでない
よね」
「うん」
「ただ、魔法が天体に関わるものだとすれば、太陽の次に一番身近なのは月だったから、調べてみたらちょうど
月が出てきたところみたい」
「それに合わせて、僕の体も変わったんだ」
「その通り。でも厄介だよ、月が出る時間なんて、月齢を知らないとわからないんだから、どこで変身するか分
からない」
「月齢…?」
「…つまり、月が新月になってから何日経ってるかってこと。0なら月の形はそのまま新月、3なら三日月、14
なら満月ってわけ。どこかで習わなかった?」
「うん、聞いた覚えがあるよ。で、今日の月齢はなんなの?」
「12だよ、だから月の出の時間は5時過ぎ」
「なるほど、確かに数分前だ」
「しっかし、そこまで分かっても、解き方が分からないとなあ…」

結局、戻ってきた佳奈と英一に事情を説明し、変身するのとされるのに慣れていた二人はすぐに納得した。由里
は夕食まで気絶したままだったが、その後はなんとか現実を受け入れた。

そんな宿泊所の上空。ローブに身をまとった、小さな少女が、その幼い顔に見合わない、妖艶な表情で宿泊所を
見つめていた。

「やっと見つけた…」

そう呟くと、一瞬のうちに少女は姿を消した。