人間と言う物は記憶の中にある物を勝手に自分の都合の良いように変える生き物ではあるが、それにしても目の前に現れた彼女はどう見ても僕の知る彼女ではなかった。
「うぅ…………」
宮本瑠璃は涙目でこっちをずっと見つめつつ、隙あればどうやって僕の隣を取ろうかと狙いを定めている。初対面の時から今まであった彼女に対する年上的な要素はどこにも無かった。
「え、えっと……」
「一さん。話しかけないであげてくださいね。彼女のせいで話がややこしくなったんですから」
川萩さんはそう言いつつ、優しげな顔できついお言葉を瑠璃さんに浴びせていた。その言葉に瑠璃さんは「うぐっ……!」と一言声に出す。
「し、志保ちゃん……」
「あなたのせいで余計な手間と精神的な負担がある事は事実なんですからね。そっちから嘘を止めたら許してあげる」
嘘? もしかして、彼女が僕の家族であると言う事は全くの嘘で、彼女は赤の他人って事? こんな嘘を吐いて僕に近付こうとしたとは……。
「スパイを送り込むほどまでに、そんなにお父さんは僕の事を憎んで……」
「……! ち、違うよ!」
そう言って、立膝で移動したとは思えないほどの物凄い勢いで彼女は僕の横、川萩さんの居ない方にやって来ると、僕の手を取り、じっと見つめていた。
「わ、分かった……。言うよ、本当の事を。じ、実は……私、あなたの”妹”なの」
「はい?」
その事を聞いた僕の顔を僕は多分、一生忘れる事は出来ないだろう。
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話を整理すると、こうだ。
彼女、宮本瑠璃は僕の腹違いの1つ下の妹。かなり発育が良くて、年上に間違えられる事が多いけれども実際には中学2年生であり、同じように年上に見えていた川萩志保さんも妹と同い年、つまり中学2年生だと言う事。つまり、2人とも僕よりも年下だったのだ。
彼女は父親の書斎にて学生時代に僕の母親に当てたラブレターを発見した。そして自分に1歳上の兄、つまり僕が居る事を知った彼女はこっそりと会いに行ったみたいである。そして僕と出会って、その時に妹である事を言い出せなくなったみたいである。
「な、なんだか可愛くて、つ、つい……姉を装いたくなりまして……」
その時に「姉……多分」と言っていたし、一応の所は「姉ではないかも」と言う部分を出してはいたらしいんだが、僕は聞かなかったみたいである。そしてそのままズルズルと流れて行って、このような関係になったみたいである。
「だから私は、妹なんですよ。本当は。なんだか時間が経つにつれて言いづらくなってしまって……」
そう言いながら、瑠璃ちゃんはまるで子猫のように僕の膝に乗って丸くなり、嬉しそうな顔で眠りながらそう言う。本当は会った時からこのような感じで甘えたくて仕方がなかったらしいのだが最初に姉らしい風を装ってしまった分、今更妹みたいに甘えづらくなってしまったらしい。今はもう妹だと僕に知られたので思う存分、甘えているみたいだ。
と言うか、自分の目の前で190cmくらいの大きな胸を持った少女が、猫のように膝の上に丸まって自分に寄りかかる姿と言うのは、凄く意外である。と言うか、無駄にその大きな胸が強調されて膝の上からお腹へと当たっていて、かなり我慢している方としてはきつい光景なのだが。
「あぁ〜! お兄さん、また瑠璃ちゃんの方ばっかり見てますね〜」
そう言って、背中から悲しいよ〜と言いつつ、志保ちゃんも僕の背中から寄りかかる。彼女としては瑠璃ちゃんから兄である僕の事を聞いていて、僕の事を兄のように思っていてどうにかして会おうと思っていて何とか瑠璃のように妹として接しようとして、調べてみたら瑠璃が姉のようになっている事を知って、妹のように接する事が出来なかったと言う事だそうだ。
「まぁ、それも今となっては関係ないけれどもねー♪」
今では思いっきり甘えられて彼女も嬉しそうである。
僕は彼女の胸も背中から感じつつ、後ろを向く。すると後ろを向かれたとすねた感じで瑠璃が前を向かせようとする。
……全くもって、我が妹はややこしい限りである。