ゲレンデの騒動

tefnen 作
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翌日、拓也と由里は、現実逃避と言うべき状態で、スキーに臨んだ。絵美も前回のように転ぶのを避けるために
スキーを選んだ。由里と絵美と拓也は、3人で滑ったことで心がまとまったような気分になり、午後6時に訪れ
るであろう拓也の最大レベルの変身への、の準備が整ったつもりにはなることができた。そして、その日の夕方、
宿泊所の女子部屋。

「で、なんで僕、縛られてるの?」

拓也は、何をどうやったのか、天井から伸びる紐で両手を縛られ、壁に上半身を貼り付けて、畳の上に座らされ
ていた。

「いやー、あんたはいざキスしようとする段になって逃げそうと思ったから!」
「そ、そんなことしないよ…」
「それが分からないから、念のため縛ってる」
「そんな…由里ちゃんも何か言ってよ…」
「ごめんね、拓也くん。でも、私だってキスするの恥ずかしいし、拓也くんの立場だったら逃げちゃうかもって…」
「ほら、由里もこう言ってるし、だから大人しく縛られてて!」
「うう…」
「しっかし、拓也の体、細いねー!アタシだったらあんたみたいな奴とは絶対付き合わないわ!」
「よ、余計なお世話…っ!」

絵美の携帯がブーッっと音を立てた。それと同時に拓也の表情が苦悶へと変わった。

「拓也くん!」
「お、時間みたい」

最初に、手足に脂肪が付き、拓也の背がぼんっと尻が大きくなり、拓也を持ち上げた。

「うわ、ぼ、僕のお尻が…」

と言う拓也の声は一音一音ごとに高くなっていく。

「こ、声が高く…ぅ…」
「たく、や…くん…」バタン
「あーまた倒れちゃったよ…変身が終わったら起きてよねー、でないと次の一ヶ月間これだよ?」

と言っている間に、次の変化が起きる。拓也の髪が蠢き始める。

「頭、かゆいよぉ…うわっ!」

バサァッっと拓也の髪が腰まで伸びる。その勢いで顔が髪で隠れてしまった。

「か、髪が口に入ってくるぅ…」
「あーはいはい今どけてあげますからねーって…顔も変わってるし」

覆い隠されていた拓也の顔は、もとの男らしいものから、垂れ目でふっくらとした女性のものに変わっていた。

「しかもちょっと昨日と違うよね…可愛いって言うより、綺麗っていうかいやらしいっていうか…」
「そ、そうなのぉ…?」

そう言う間にも拓也の腰がギュッとくびれた。

「あんたそのしゃべり方気持ち悪い…って言っても呪いのせいだから仕方ないか」
「う…わたしの…おっぱいぃ…」
「ついにメインイベントだ」
「え…?っ…」

絵美が見ると、拓也の服の胸のあたりに2つの突起が出ている。それはどんどん大きくなっていき、絵美の親指
ほどのサイズになった。

「うう…はずかしいよぉ…」
「男子の胸に立っている乳首…キモいはずだけど、それ以外普通に女子の体だからそんなにダメージこないかな」
「なに、変なこと、いってるのぉ…」

ついに突起の周りが盛り上がり始めた。しかし、その盛り上がりは、30秒たっても少ししかなかった

「遅すぎじゃね…いくらアタシでも10分も人のおっぱいが大きくなるのを見続けるのは無理だよ…いや普通だっ
たらそんなに早く大きくなったら仰天ものだけどさ」

やがて成長が止まったように見えてきた。しかしまだ乳首が大きいだけで全体のバストはAカップほどである。
絵美は拓也の乳首に顔を寄せて、じーっと見た。

「おーいこれだけかー」
「う…ふぐぅ…」

拓也がうめき声を上げると、乳首がピクピクっと動いた。

「うおっ…嫌な予感。ちょっと離れとこうって…むふぅっ」

ボウンッと爆発するように胸が大きくなり、近くに寄っていた絵美を押し飛ばした。

「びっくりしたぁ…うわっ大きい…」

大きくなった胸は、拓也のシャツをおし上げるどころか、シャツを伸ばしきり、その下から少しだけはみ出して
いた。拓也はかなり圧迫されているうようだ。

「くるしいよぉ…」
「はーい今脱がせてあげますからねーっと…それっ!」

ブルンッ!

「うわぁ…これだけ大きいのは、由里も佳奈もなったこと無いんじゃないかな…」

拓也は今やOカップの乳房を携えていた。実際には、由里は魔術師2人にこれ以上に大きくさせられていたし、佳
奈も先輩に告白した日は、先輩に揉まれ続けてこれの2倍の大きさになっていた。

「そうだ、変身させるだけじゃなくって!ほら!由里!起きろー!」
「う、うぅ?」
「今キスしないと何回気絶しなきゃいけないか分からなくなるよ!」
「き、きす?うわっ、大きいおっぱい…あの時の私みたい…」
「た、助けてぇ…由里ちゃぁん…」
「拓也くん、Sじゃない女王様っぽいかも…」
「女王様っぽいかも…じゃなくて!ほら!」

絵美が無理やり由里と拓也の顔を近づける…

「拓也くん…キスしてもいいよね…」
「こうなったら、仕方ないわよぉ…」
「…じゃあ…」

チュッ

由里が拓也の頬にキスをした…が、何も起こる気配がない。

「頬じゃダメなのかな…ううっ…恥ずかしいけど」
「由里ちゃん…」

由里がイヤイヤそうながらも拓也の唇に自分の唇を合わせる。すると、拓也の体がわずかに白く光ったような気
がした。

「これで、治るの…?」
「かも…しれ…うっ」
「うわっ」

乳房がピクッと動いたかと思うと、ボワンと大きくなり、ボーンッっと、由里の体が突き飛ばされた。
拓也は呆然としている。

「な、なんで…さっきよりも、おっぱい大きくなってる…」
「ま、まさか口づけで魔力が移って呪いの効果が強くなっちゃったってこと?」
「そ、そんなぁ…」

拓也の乳房はもはや床にどたぷーん…っと横たわっている。由里は、思わず床にへたり込み、泣き始めてしまう。

「そ、それじゃぁ…グスッ…こ…んなの…やだ…グスッ…けど…く…悔しいけど…グスッ…え、絵美…」
「泣かないの!って…無理だよね…でも、まだチャンスは作れるよ!そのためにも、アタシキスするね…」
「グスッ…おねがい…」
「それじゃ、拓也!」
「は、はぁい…」

絵美は拓也にキスしようとするが、どうにも乳房が邪魔で、結局それに少し体重をかけながらキスすることにし
た。

「いやぁ…」乳房をつぶされた拓也が呻いた。
「うるさいっ!ほら!」

ブチューッ…

絵美がかなりぶっきらぼうに拓也にキスをする。すると、また拓也の体が光り始めた。

「それじゃ…やっぱり…グスッ…運命の人は……うわぁ〜ん!」
「いや、そう決めつけるのはまだ早いみたい…」
「え…グスッ…グスッ…あ…絵美…」

光り始めたのは拓也だけではなく、絵美もだった。

「あぁ…またこれか…うっ…」

ボンッ!プチッ!ビリリッ!

絵美の体は途端に大きくなり、その衝撃で服が破れて床に落ちてしまった。拓也の体は、由里がキスする前のも
のに戻っている。

「今度はアタシに魔力が流れたってわけね!ああもう!どうしろっていうの…」
「あ、あのぉ…二人が同時に…私にキスするっていうのは…どうなの?」拓也が言った。
「は、あんた何言ってるの!?」
「わ、わたし…由里ちゃんは私の事好きなんでしょ…?でも、私は、絵美ちゃんのこと諦めてないのよ…」
「しつこい、拓也!アタシはあんたの事恋人とは思えないって言ったでしょ!?」
「そう、なんだけど…そんなに簡単に忘れられないわよ…だから、試しにやってみよ、ね?」
「はぁ…うーん…納得行かないけど…由里、こっち来なさい!」
「グスッ…わ、分かった…拓也くんが…いうなら…」

拓也の左右に座る絵美と由里。

「じゃ、行くよ」
「うん」

チュッ

二人が左右から拓也の頬にキスをすると、先程よりも強く拓也の体が光った。特に右手は眩しくて見ていられな
いほどに。そして、次の瞬間には大きい乳房も、長い髪も、全て消えて、拓也は元の体に戻っていた。

「ま、まぶしかったぁ…」
「ほんと、魔法ってのは派手なものなんだね…」
「た、拓也くんは…元に戻ってる!よかったぁ!でも、気を失ってる…」
「もう、騒がせ屋なんだから…」

「ちゃんと、呪いを打ち消すことができたようですわね…」

押入れの中から聞いたような声がしてきた。

「え…?」

サーッっと押入れのふすまを開くと、そこにはハンナの姿があった。

「ハンナさん…」
「また変なところから…それで、結ばれる運命の人っていう話は何だったの!?二人も運命の人がいてたまるか!」
「落ち着いてくださいませ。語弊があった、のかもしれません…」
「どういうこと?」
「お二人は運命の人になる可能性が一番高い方、今は、その可能性がお二人で同じ程度なのでしょう。これから
の行動で、どちらが運命の人になるかは、変わってくるのです」
「そうなんですか…」
「もしくは、二人とも運命の人…なのかもしれませんね。フフッ…」
「はぁ?それって、私達二人共こいつのお嫁さんになるってこと!?」
「あくまで、可能性の話、ではありますけどね…それでは、また近いうちにお会いしましょう…」
「ま、また消えた…」
「面白い人だね」
「あ、うん…それでいいや…さ、拓也を男子部屋に運んでおこうか、もうこいつ、女子にはならないはずだし」
「う、うん…」

さて、こうして拓也の呪いは一件落着したが、夕食時にまた由里たちと会った拓也の話では男子部屋に戻ってき
た英一が拓也を見た時、これまで見たこと無いほどがっかりした顔をしていたという。それを聞いた佳奈は、
むーっと顔を膨らませ、同時に胸を膨らませて服の襟の部分から胸の谷間を英一に見せつけるという一発芸をか
ました。英一は顔を真っ赤にしたが、他の3人は呆れ返ってしまった。

次の日、昼までスキーを滑った後、5人は何事も無く、空港から飛行機に乗った。

「ほんと、今回はどうなるかと思ったよ…」
「拓也くんが女の子になっちゃうなんて、私変になっちゃいそうだった」
「由里はちょっと変になってたでしょ、年末年始くらいに」
「それはもう終わった話でしょ、忘れさせて」
「その話なんだけど…ちょっと右手見てみて」
「え?あ…ちょっとマーク見えてる、ってことは…」
「呪い、解けてなかったみたいね!こりゃあ夏が楽しみだな!」
「もう、拓也くんの呪いを解くのは必死だったのに…」
「え、それは…由里のためでしょ!恋人が定期的に女の子になっちゃうなんて嫌でしょ!」
「う…それは、そうだけど…絵美の様子、ちょっと変だなー」
「妙なところで疑り深いんだから!由里は、これからは自分でもアタック仕掛けなきゃダメだよ!」

「お客さま、もう少しお静かにお願い致します」

結構大きな声で喋ってしまったようだ。アテンダントに注意されてしまった。しかし、絵美は違和感を覚えた。

「ああ、すみません…(ん?どっかで聞いたような声…)」
「ご理解お願いします」
「(もしかして…)ハンナ?」コソコソ声になって絵美が話す。
「え!…だ、誰のことを仰っているんですか…」
「やっぱり…なんで変装なんか…」
「ひ、人ちが…もう、洞察力の高いお方ですね、あなたは…私に自分自身で日本を半分縦断する力は無いのです」
「はぁ?あんた、すごい魔術師じゃないの?」
「転移魔法は苦手でして…」
「へぇ…でも、アテンダントに化けて飛行機に乗るなんて、無賃乗車ってわけね…」
「こ、このことは誰にもおっしゃらないでください…」
「いいけど…それなりに対価がほしいね」
「分かりました…それでは私の正体について、お伝えしましょう」
「ふむ、構わん、続けろ…」
「??…私はドイツの魔術師協会から送られた、審問官、つまり問題因子の回収員というところでしょうか…と
りあえず、日本に流刑になっている二人の魔術師を連れ戻し、もっと厳重な監視下に置くことが私の任務です」
「うげ、あんな変態がドイツにはいっぱいいるわけ?…しかも他の国にも同じようなのがあるっていうの?」
「いえ、あのような残忍で、悪い趣向を持っているのはごく一部です。それに、ヨーロッパにはドイツにしか魔
術師協会はありません、多分、某童話の影響かと。それではそろそろ行かないと…」
「うん。何かあったら言ってね」

「あのアテンダントさん、知り合いの人?」
「あとで、説明してあげる。ちょっと疲れたから、寝てるね」
「うん」

そのまま、ハンナは立ち去っていった。その後は、絵美たちが飛行機を出るときにハンナがちゃっかり他のアテ
ンダントに混じって、乗客に挨拶をしているのを見かけただけだった。絵美たちは、到着ロビーで、解散するこ
とにした。

「さぁ、それじゃ、気をつけて帰ってね!家につくまでがスキー合宿だよ!」
「うん!絵美も気をつけて!」
「言われなくても、気をつける」
「由里ちゃん、絵美ちゃん、また…始業式で」
「う、うん、拓也くん…英一先輩も、大学がんばってくださいね!」
「おう、ありがとう、由里ちゃん、絵美ちゃんも、誘ってくれてありがとう!」
「はい!またお会いしましょう」

全員、笑顔で帰っていくが、由里、絵美と拓也の表情には影が落ちているようにも見えた。
遠くの方では、5人
をローブ姿の少女が見守っていた。