雨と執事

tefnen 作
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翌日、高木は本当にいなくなっており、絵美がインターホンのボタンを押すと、聞きなれない声が聞こえてきた。

「おはようございます、お嬢様。私、古井と申します。よろしくお願いします」
「そう、古井さん、よろしく…」
「おやおや、元気が無いようですね…」
「あんたに関係ないでしょ、とりあえず、門まで連れてってくれる?」
「かしこまりました。それでは、できるだけすぐに伺います」

その1分後、

「お待たせしました、絵美様」
「はやっ!」
「ふふ。仕事は徹底して、迅速に、が私のモットーですから」
「ふ、ふん?そうなんだ、さ、連れてってよ」
「分かりました、では」

家を出ると、複雑だった庭の構造が、かなり簡単になっていた。つまり、家から門が普通に見えた。

「なんだ、これならアタシ一人でいけるじゃん。じゃあ、帰っていいよ、またね」
「まあ、そう言わずに。一緒に門までお話しましょうよ」
「あんたに話すことなんて無いよ」
「…」
「…」

絵美は、この古井という男になぜか見覚えがあるような気がしたが、あえて気にしないことにした。

「さあ、門まで着いたから、帰ってよ」
「了解です、いってらっしゃい」
「はぁ…」

絵美は昨日と同じ道を使って由里の家まで歩き出した。途中に昨日異様な匂いのしていたマンホールを通りかかったが、臭いは消えていた。

「(本当にアタシの思い違いだったみたい…)」

そのまま由里の家に到着すると、呼び鈴を鳴らした。しかし、インターホンから声はしてこなかった。

「あ、いけない、今日学校じゃん!どうしよう…この体のままじゃ、学校にはいけないし…」

絵美はまた中学生の体に戻っていた。

「図書館にでも行くか…」

絵美は図書館に向かった。そこで絵美が見たものは…

「あれっ!高木こんなところにいたの!?」
「え、絵美さん…そうですよ、今日から図書館の司書です」
「絵美さんって…不自然だなー」
「それはさておいて、昨日私はあのようなことを言いましたが、絵美さんの呪いを解くことだけは協力しますよ」
「お、ありがと!」
「ただし恋沙汰は無しです、私よりもあなたに似合っている人は、本当に居ると思いますから」
「はいはい分かったよ、諦めりゃいいんでしょ、で、どうやって助けてくれるの?」
「そうですね、ここに置いてある資料の推薦や、一緒に考えるとか…そういえば、あなたのお友達の由里さんも、
同じような呪いに掛かったと言ってましたよね、その時はどうやって呪いを解いたんですか?」
「あー、あの子はまだ呪い解けてないみたいだね」
「え!」
「一回解けたように見えたけど、まだ残ってるみたい」
「じゃあその見えた時っていうのは…」
「片思いの人とキスした」
「…」
「あーそいつも呪い掛けられたんだっけ、その時はアタシと由里でそいつにキスしたんだ、呪いが全開になって
る時に」
「ふむ、キスは呪いを解くのには重要な行為のようですね」
「そうだね、運命の人とのキスが…」

言い終わる前に、絵美の顔がポッと赤くなった。

「高木…さん…もしも、もしも高木さんが運命の人だったら…」
「絵美さん、それは忘れるようにといったはずですよ」
「万が一の話だよ、私と、キスしてくれる?」
「ふむ…呪いを解くのを助けると約束しましたからね、一回だけなら、よしとしましょうか…」
「やった…っ…!」
「ただし、それで呪いが解けると分かったときだけですよ」
「っ…はーい」

絵美は家に戻ることにした。絵美の中では、もはや運命の人は高木に間違いなかったし、それなら魔術師の隠れ
家を探す必要もないからだ。家に到着すると、―絵美はガードマンなしでも門から家まで歩けるのだ―絵美は勉
強机で少し考えをまとめようとした。すると、いきなり後ろから古井の声がした。

「絵美様…」
「ひっ!あ、あんたどこから入ってきたの!」
「さあ、そうですね…そこの、緑の円から、と言いましょうか」

見ると、部屋の隅に魔法陣らしき緑の模様が書かれていた。瞬間、絵美は携帯で何かを打ち込んだ。

「おっと、連絡されては困りますね」

ガシャーン!と音を立てて絵美の携帯はガラスのように壊れた。

「あ、あんた…っ!…もしかして、変態魔術師!?」
「変態ですか、あながち、間違いではありませんね。そう、その通り、私はフリードリヒです。あなたには、私
の隠れ家に付いてきてもらいましょう」
「誰が行くかっていうの」
「おや、あなたは呪いを解いて欲しいのではないのですか?」
「う…分かったよ…その代わり、変なことしたらタダじゃ置かないからね!」
「変なこと、ですか…まあ、変なことではないですね」
「やっぱり何かするの」
「さあ、それは行ってから話しましょう」

とフリードリヒが言うと、二人の周りが光りに包まれ、その光が収まると、二人は石積みの壁で作られた部屋に
いた。見ると由里が壁に手足を鎖で繋がれている。

「あんたら…!」
「由里さんは登校中を捕まえました。あなたにも、ゆっくりしてもらいます」

フリードリヒが指を振ると、絵美は壁の方に飛ばされ、由里と同じように手足の自由を奪われてしまった。

「さあ、これで交渉の場が整いましたね」
「思いっきり不平等な場じゃない!」
「フリードリヒさん、何するの?」
「そうですね…呪いの移動、と言ったところでしょうか?」
「い、いどう?」
「そう、エミさんの元気な呪いの力を、ユリさんに移して、ユリさんの呪いを回復させるのです。その代わり、
エミさんの呪いは解除されます」
「そ、そんなことアタシが許すわけ…それに、あんた変なことしないって…」
「エミさん…」
「な、なに?」
「実は、その呪いは由里さんのものとは違って間違えれば死に至るものです」
「え…」
「そうです、呪いが全開になった時、あなたは新生児よりも年下、胎児になってしまいます。そして、胎児は母
親の胎盤からの栄養がなければ行きていけない。つまり、あなたは死んでしまうわけです。ユリさんのお腹の中
に入れることは私にはたやすいことですが、胎盤までは作れませんよ」
「そ、そんな…」
「それに、これは変なこと、ではありません、私の男としての欲求に従った、ごく自然なことです」
「…」
「さあ、どちらを選びますか、友人の「無害」な呪いを復活させて自分の致死性のある呪いを解くか。あるいは、
自分を犠牲にするか。しかし、ユリさんの呪いは自然に復活しそうですからね、エミさんの無駄死にになるで
しょう。あなたも分かるでしょう?もう結論は出ていますよ」
「うぅ…」
「さぁ、早く言うのです、「私の呪いをユリに移してください」と」
「わ、私は…」
「さぁ!」
「そこまでだ!」
「えっ!?」

絵美はいきなり第三者の声が聞こえ、驚愕した。それは高木の声だった。

「おや、あなたですか」
「話は全部聞いたぞ!お嬢様に死の呪いをかけたお前は、俺が許さない!」
「おやおや、交渉決裂、ですか…それでは、絵美さん、また天国、いや私は地獄に行くでしょうから、もう会う
ことは無いでしょうね。あなたのような魅力的な女性を失うとは、惜しいことをしたものです…」
「黙れ!」

高木がフリードリヒに殴りかかったが、その腕はフリードリヒを通り抜けてしまった。

「それでは、私はここで…」

フリードリヒは一瞬のうちに消えた。

「高木!」
「お嬢様!」

高木は二人をつないでいた鎖を断ち切ると、絵美を抱きしめた。絵美は悲しい表情で言った。

「わ、私死んじゃうの…?」
「言ったでしょう、私がそんなことは起こさせないと」
「じゃあ、どうすれば…」
「お嬢様、お嬢様の呪いを全開にする方法はありますか?条件として、ごく短時間で」
「私に死ねっていうの!?」
「いいえ、違います。保険として、昨日のプールの横で行います。それに、あなたのもう一人のご友人が呪いを
解いた時、呪いが全開になっていたとお嬢様がおっしゃいました」
「だから、私の呪いも全開にしないといけないのか」
「それに、胎児にも口くらいはあります、私は、お嬢様が胎児でも愛を持ってキスする自信があります」
「高木…うん、分かった。呪いを早く強くするには…由里!」
「うん!また手を繋げばいいんだね!」
「正解!」
「では、ここから出ましょう。幸い、テレポート用の模様はまだ動いているみたいですから」

絵美たちはプールに向かった。すると、プールの底には大きなヒビが入り、雨水はさっぱり無くなっていた。
ゴムプールもあちこちが破け、破壊されていた。絵美はゴムプールの上に立って言った。

「どうしよう…」
「お嬢様、また雨が降った時にしましょうか」
「ううん、結局アタシは呪いを解かないといけないし、由里と高木がいる今が一番いいよ!」
「そうですか、では、由里さん、お願いします」
「はい」
「高木…」
「何でしょうか、お嬢様…」
「愛してるよ」
「はい、私もです」

と言って、二人はキスをした。由里は顔を赤らめて目を背けてしまったが、羨ましそうでもあった。

「ありがとう、高木」
「こちらこそ、さあ、はじめましょう」
「絵美、行くよ」
「うん」

由里と絵美は手を繋いだ。すると、絵美の背はガクン、ガクン、と下がっていく。絵美の腕は服の中に埋もれて
いき、髪も背に合わせてどんどん短くなっていく。小学1年生くらいになったところで、絵美が言った。歯は
永久歯が引込み、どこから来たのか乳歯が生えている。

「由里、ちょっとまって」
「何?」
「服、脱がないと、小さくなりきった後じゃ遅いかも」

といって、ぶかぶかになった服を丁寧に脱いだ。

「じゃあ、お願い」
「うん」

二人が手を繋ぎ直すと、更に絵美は小さくなり、2歳位になったところで尻を付いた。おなかはだんだん出始め、
目の位置もかなり低くなって幼い丸っこい顔になっていた。由里は手を離し、後頭部に手を当てた。それでも
同じように絵美は小さくなっていった。髪の毛が段々薄くなり、最後には頭皮の中に入っていった。絵美の目が
閉じ、産声を上げ始めたところで、高木が絵美の顔に自分の顔を近づけていった。産声がやんだ瞬間、二人は
くちづけをした。

すると、絵美の体からまばゆいばかりの光が発せられた。拓也の時と同じように、特に右手が強く光っている。
絵美の体は急激に大きくなり、10秒ほどで体の大きさと顔つきは元の高校2年生に戻った。ただし、胸は出て
いないし、手足は丸っこく、腰にはくびれがあるどころか少し出ていた。まるで赤ん坊の体が伸びて大きく
なっただけのように。

だが、次の瞬間、

「うっ…!」

と気絶している絵美が呻くと、絵美の体は目に見えてドクン、ドクンと震え始める。乳首がブルン、ブルンと
立っていき、出ていたお腹がビクン、と震えると、ギュッギュッっと縮んでいき、そのたびに胸がボンッと震え
ながら大きくなる。つぎに手足がビクンっと動くと、先からグッグッと絞られていき、胸の大きくなる度合いが
増した。胸はそのままバランスボール並みになったが、今度は逆に手足がガリガリになってしまった。

「…っ…おっぱい…から…なにか…くる…っ」

と絵美がうなされながら言うと、胸はシュゥーと小さくなっていき、代わりに太ももや尻など本来の場所に脂肪が
戻っていく。最終的に、絵美は普通の体、といってもHカップの巨乳美少女に戻った。

「良かった、お嬢様…」
「う…た、高木…?」
「お嬢様!おめざめになりましたか!」
「アタシ…生きてる…?高木!」

絵美は昨日と同じ裸のまま高木に抱きつく。そしてまた、熱い口づけをした。それを見る由里は、羨望の表情
以外の何者でもないものを浮かべている。

「由里もありがと!」

と、続けざまに絵美は由里に抱きついた、と言っても背の違いのせいで由里の頭は絵美の胸で包まれてしまい、
由里は息ができなくなってしまった。しかも、抱きついた瞬間、さらに絵美の胸が大きくなった。

「今度はこれか、また大きくなるのかアタシ!」
「むーっ!むーっ!」
「あ、ごめんごめん!」
「ぷはぁ…もう、しっかりしてよね」

離れた瞬間、絵美の胸は元に戻った。

「これであいつらの目論見も全部お釈迦ってわけだ!」
「そ、そうだね…」
「…と思ったけど…あんたの右手の甲のマーク、かなり濃くなってるね…」
「あ…あれ、前見た時はもっと薄かったのに…」
「ま、今日のところは一件落着だね!」
「うん!」
「お嬢様、早く服を…」
「あー悪い悪いー」
「私、一応学校にいくね、午後からでも行かないとまた置いてかれちゃう」
「そう?アタシはいいかなー」
「じゃあ、また明日」
「バイバイー」

由里は、そそくさと帰っていった。高木と絵美は家に戻り、絵美は自分の元の服を着た。

「高木、戻ってきてくれない?やっぱりアタシ、高木以外にあり得ない」
「そうですか、私でよろしければ」

翌日から、高木はガードマンとして絵美と一緒に暮らすことになった。それも、同じ部屋で。

「(私の、やっと見つけた運命の人…)」