開放と終焉

tefnen 作
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「何、その条件って」

絵美が聞くと、フリードリヒは続けた。

「ユリさんの力でエイイチさんに呪いをかけることです」
「はぁっ?何冗談いってんの!?」
「そ、そんなこと…」
「おやおや、いいんですか?この交渉が決裂すれば、タクヤさんは我々が好き勝手にさせていただきますよ」
「先輩は、私が放さない」

佳奈が体を大きくして、フリードリヒに殴りかかろうとする。しかし、その拳はフリードリヒの体をスッと
通り抜けてしまった。

「なっ…」
「私を物理的に攻撃しようとしても、無駄ですよ。今あなた方に見せているこの私は、幻覚のようなものです
から。まあ、本体でも無理でしょうけどね」
「くっ…」

佳奈は元の姿に戻った。

「私、先輩にそんなことでき…」
「いや、由里ちゃん。俺は犠牲になってもいいぞ」
「先輩っ!」
「この場から逃げることは俺の信念に反する。それに、呪いでどんな姿になっても、佳奈は俺のことを愛して
くれる、よな」
「もちろん…でも…」
「だから!俺は拓也くんを救うため、呪いをかけられよう」
「ふふっ。交渉成立のようですね。それでは、由里さん、こちらへ」
「はい…」
「ちょっとあんた、ドサクサに紛れて由里に何かするんじゃないでしょうね!」
「まさか。ユリさんは既に私の理想の体型になっていますから、それに何かするなど勿体無い」

由里は体が大きくなったままだ。長身のフリードリヒよりも、背が高くなっている。胸もそれに比例して、いや
それ以上に大きい。

「さてと、では、この紋章を目に焼き付けてください」フリードリヒが紋章が書かれた紙切れを由里に向ける。
「え、うん。これくらいなら覚えられそう…」
「それでは、そのままエイイチさんの手を見つめてください。エイイチさんも、手の甲を差し出してくださいね」
「おう…」

英一が手を差し出し、由里がそれに意識を集中させると、英一の手が光りだした。由里の瞳も若干光っている
ようにみえる。

「うわっ、まぶしっ」英一は思わず目をつぶった。
「想像通り、ユリさんはこのような簡単な手段で、呪いがかけられるようですね」

フリードリヒが言った通り、光が収まると英一の手の甲には、先ほどの紋章と同じものが黒い刺青のように
刻まれていた。

「あれ、呪いがかかったのに何も起きてないじゃないか」
「それは、エイイチさんには魔力がほんの少ししかないせいです。魔力なしでは、呪いの効果などありえません。
それでは、次の段階に移りましょう。由里さん、これを」
「え?」

フリードリヒの幻像が、由里の手の上にその手をかざすと、緑の宝石のようなものが現れ、由里の手の上に
落ちた。すると、その石は由里の手に吸い付くように密着した。

「なにこれ…っ!…何かが、吸い取られてる…ぐっ…!」

由里の巨大な胸がブルンっと揺れるのが合図であるかのように、由里の体が縮み始めた。それと同時に、緑の
石に光が宿って行った。由里の魔力を石が吸い取っているようだった。

「やだ、やだぁっ!」

由里が自分の一部を吸い取られるのを感じ、恐怖のあまり叫んだ。由里が元の幼い体に戻ると、そこで変化が
終わった。すでに緑色の石は目がくらむほどの光を発していた。

「お、おわったぁ…」

由里は安堵のあまり床に崩れ落ちた。すると、手から緑色の石がポロッと落ちた。

「安心してください。ユリさんの魔力を吸い取らせていただきましたが、魔力の源を吸い取ったわけでは
ありませんよ。一日もすれば、もとに戻るでしょう。では…エイイチさん、その石を飲み込んでください」
「そんなもの、体に取り込んだら魔力の暴走とかで爆発しちゃったりしないの!?」
「ご心配なく、エミさん。カナさんの体で、それは実験済みです。カナさんは、同じ石を使って、体型の変化を
可能にしているんであうから」
「…っ、いつの間に」
「それは、記憶を消させていただきましたからね。あなたも、自分の意志で飲み込んだんですよ?さ、エイイチ
さん」
「分かったよ」

英一は強烈に光る緑色の石を、手を目にかざしながら拾い上げ、そのまま飲み込んだ。

「ん…こいつ、体の中に自分で入って…んぐっ!」

英一が叫んだ瞬間、上半身の服が吹き飛び、周りに突風のようなものができた。英一の腹部は緑色に光っていた
が、その光は全身へと広がり始め、指の先や、頭部を経て髪の毛の先まで広がっていった。次に、紋章が刻まれ
た手の甲が黒く光り始め…というより、そこだけ真っ暗で何も見えないようになった。するとまた強風が吹き
始めて、その場にいた全員が目をつぶってしまった。

「どうやら、成功のようですね」

フリードリヒがつぶやき、由里と絵美が目を開けると、そこに英一の姿はなく、英一が履いていたズボンだけが
置いてあった。

「あれ、先輩…どこに行っちゃったの?」
「まさか、先輩を透明にする呪いじゃないでしょうね!」
「がっかりですよ、エミさん。どうして私がそんな呪いをかけたいと思うでしょうか?それにほら…」

フリードリヒがズボンの方を指差し、二人がズボンの方を見ると、ガサゴソと動いている。そして、小さな女の
子がひょこっと姿を見せた。赤茶色の髪と、褐色の目をした、健康的な肌色の、元の由里より少し小さめの少女。
そして、か細い彼女は呟いた。

「あれぇ、私…どうしちゃったのぉ?」
「「まさか、これが先輩!?」」二人が同時に叫ぶ。
「そう、その通り…それはさておき、カナさん、いつまで目をつぶっているんですか?」

由里と絵美が佳奈の方を見ると、目をギュッと閉じたままの佳奈がいた。

「本当だ、佳奈、そろそろ目開けようよ」
「そうだよ、現実に向き合いたくないのはわかるけどさ」
「怖い…でも、二人は正しい…」

佳奈が目を開けると、先ほどの少女が目に入ってくる。

「私、小さくなっちゃったのぉ?怖いよぉ…」そして、先ほどまで英一だった少女は、泣き始めてしまった。
「せ、先輩っ!」佳奈は驚きつつも慰めようと体を絵美くらいに大きくして少女のもとに駆け寄る。
「グスン…か、佳奈ちゃんっ?私…怖いよ!」と少女は佳奈の大きな乳房に顔を当てるように抱きつく。
「先輩…?」戸惑いつつも少女を抱き上げた佳奈は、少女の体がブルブルと震えているのに気づいた。しかし、
それだけではなかった。
「う…いた…いよ…っ!」
「先輩…っ!?」
少女の体全体から骨がゴキゴキ言うような音が聞こえてくる。その赤茶のセミロングの髪の毛も、ざわついて
いる。
「うっ…きゃぁああっ!」
少女が叫ぶと同時に、今や佳奈を信じられない力で抱きしめている手のひらがミシミシと音を立てながらぎゅっ
と大きくなり、佳奈にかかる重さが増した。次に、佳奈が抱きしめていた少女の背中が、ところどころでポキン
と音を立てたりしながら徐々に大きくなり、汗ばんでいく。その音のたびに、少女はうめき声を上げる。
「先輩、どうしちゃったの?は、離して…」
佳奈は驚きのあまり、少女から体を離そうとするが、ぎゅっと背中を抱きしめられ、全然離すことができない。
骨がギシギシいう音がなくなったのに気づき、佳奈は少女の胸に手を当てて、押し離そうとしたが、佳奈の手は、
少女の胸が心拍以外の何かでぴくんぴくんと動いているのに気づいた。
「まさか…」
次の瞬間、佳奈の手に突起のようなものがギュッと押し返してくる感触が伝わってきた。それは、ビクンビクン
とさらに大きくなっていく。
「いたい、痛いよ!」
いつの間にか足も伸び、顔が佳奈と同じ高さまで来ていた少女はそれまで以上に佳奈をぎゅっと抱きしめる。
佳奈の手は、自分の乳房と、少女の胸板に挟まれて完全に動かなくなってしまった。少女の体から何か変な音が
し始め、体全体が蠢き始めた。
「せ、先輩っ!苦しいよっ!…?」
佳奈は少女の硬い肋骨に当たっていた自分の手が、何か柔らかいものに包まれていくのを感じた。それはギュッ
ギュッと大きくなり、指の間まで入り込んでくる。佳奈は自分の手を見ようとしたが、何もなかったはずの
少女の胸板に生えている乳房が、自分の乳房にぶつかり上下左右に潰れているのしか見えなかった。その瞬間は
少女の腕はか細かったが、乳房が更に大きくなって佳奈の乳房をも包んだと思えば、また小さくなると、そこ
から送り込まれたかのように脂肪がぎゅっと詰まった。
「おっぱい…から…はぁ…なにかが…おしりに…!」
乳房がまた大きくなり、くびれのできていた胴体が少し太くなると、少女の尻に脂肪がどんっと送り込まれた。
その脂肪は、足にも送り込まれ、太ももがギュッと上から詰まっていった。最後には、乳房と胴は少しすっきり
して、少女の体の蠢きが止まった。

「はぁ…はぁ…痛かった…どうしちゃったのぉ…わたし…」
「先輩、手、ほどいて…苦しいよ」
「ご、ごめんねっ…これ、私のおっぱい…?」

少女は体を話すと、大きくなった自分の乳房を手で触った。

「すごぉい…」
「英一先輩…」
「えいいち?何言ってるの、佳奈ちゃん?私は、映子、だよ?」
「えっ…?」
「私が、説明しましょう。この呪いは、自分より体の大きい人物や、それに相当するものを触ると、その体型に
痛みを伴いつつ変化する呪いです。これは、朝になるとリセットしますけどね。それにおまけとして、エイイチ
さんの社会的立場や、元の体型、性別、記憶も一辺に変えるものです。今の彼女はここにいる既に呪いを受けた
3人以外にとって全く新しい人物、「映子」です」
「なんて、酷い呪い…」
「それに、この呪いは解除不能です。少なくとも私の知る限りでは」
「え?」
「見てもらった通り、この呪いは強力な魔力を持っているユリさんに掛けられ、その強力な魔力すべてを用いて
発動しています。従来の、私たち、ただの上位魔術師が掛けた陳腐な呪いとは違うのですよ。由里さんは下手を
するとこの世の概念を変えかねない魔力を持っている。なぜそうなったかは、私の知るところではありません」
「そんな…」
「ふふっ、このような呪いをかけられたのは、タクヤさんをそちらに返すのと比較すると、私達にとってかなり
大きな収穫です」
「ま、まって…」
「なんですか、カナさん?」
「今の話だと、先輩、変身するとき、今みたいに痛い思い、しなくちゃいけない」
「そうですね。そこは私の嗜好によるものです。ご心配なく。変身後に精神力を少し回復してくれるという設計にしてあります。こんなに追加要素をつけて、実際に動作するとは思っていませんでしたよ」
「そんな…でも、先輩を誰にも触らせなければ…」
「それは無理です。もし…そうですね…大体3日、元のあなたより大きな体にならないと、呪いがあなたを食い尽くして、廃人状態になるでしょうね。そして、それは死に直結します」
「…」
「それは、私の設計ではありません。強力な呪いとはそういうものです。私の利益につながるのは間違いありませんが…」
「あんた、今度実体に会ったらぶっ倒してやる!」
「まあそんなに怒らずに、エミさん。そうですね、そろそろタクヤさんをお返ししましょう」

すると、天井に穴が空き、そこから拓也が落とされた。

「えっ…きゃぁあああ!」

拓也は映子の上にドーンと落ちてしまった。

「おっと、重力軽減魔法を掛けておいて正解でしたね。そうでなければ、間違いなくふたりとも大怪我でした。
それでは、そろそろお暇しましょう。またお会いする日まで」
「あっ、ちょっと待て!」

絵美が叫び終わる前に、フリードリヒはフッと消えた。

「あいつめ、女心と男の情熱をうまいように弄んで、次はないんだから!ん?」

絵美が拓也の方を見ると、拓也は映子を見て顔を赤らめていた。

「かわいい…それに、綺麗だ…」
「拓也くん…」

「あー、なんかこっちはまた厄介なことに…」
「拓也くぅん…」
「先輩、ひどい…」