パスタ屋でカッツェに襲われてからは、由里は変身を抑えることができなくなっていた。日の入りになると、
どんなに頑張っても体が変化してしまうのだ。
「でも、おっぱいとお尻だけでしょ?変化量が少なければ、背が低いけどおっぱいは大きい子、って思われる
だけだよ?それに、変身するのは夜だけなんだし。むしろ、あいつとの夜のお楽しみに…」
「絵美!そこまで!」
二人は由里の家で、この事について相談していた。
「冗談冗談。でも、それ以外は完璧に制御出来てるんだから、ちょっとくらいは取り繕えるようになったって
ことだね」
「服が破れるほど大きくなったらおっぱいだけでも関係ないよ!」
「まあ、それはそうだけどさ。でも、由里、あれからそんなに家の外に出てないでしょ」
「だって、晴れてたらお日様カンカン照りだし、曇りの日はないし、一日出ただけでもまたバーンっておっぱいが
絵美より大きくなっちゃうよ」
「一日くらい、外に出よっ。今度、エンタテイメントパークにでも」
「遊園地のこと?やだよ、外にいる間に大きくなったら…」
「だーいじょーぶ!日の入りだってこの頃はものすごい遅いし、気をつけてれば家に帰るまで変身しないように
できるでしょ!」
「うーん、そうかなぁ…なんか、嫌な予感がするなぁ…」
「もう、由里らしくないなー、大丈夫だから!」
「そ、そうだね…うん、行こっ!みんなで!」
「あの二人も誘う?」
「佳奈と先輩のこと?もちろん、でも、二人が行きたいって言ったらね。無理強いは行けないと思う」
「いろいろあったし、アタシの方から誘ってみるよ!」
「うん、楽しみ!」
「そういえば、このごろ隣から壁を叩かれることなくなったよね」
「ああ、お隣さん、このまえ引っ越しちゃったの」
「なるほどね、じゃ、どんだけ大声出しても大丈夫だね!」
「うん…下の人もいなくなっちゃったみたいだし」
「よし、じゃあ行くところ決めよっか!」
「私、小さい頃にお母さんとお父さんと行ったISJがいいなぁ」
「え、それ遠くない?多分ホテルに泊まらないと無理だよ。って言っても、それくらい大きいと所にいくなら、
ホテル泊は必至か…じゃ、そこにしよっ」
「え、絵美はそこでいいの?」
「あー実はアタシは毎年違うところに行ってるけど、今年はISJに行ってみたかったんだ」
「そうなんだ!でも、私、そんなにお金持ってない…ホテルなんて…」
「それはアタシに任せて、多分うちの親に話せばいくらでも出してくれるよ」
「絵美んちってすごいねー」
「まあ、ね…」
「じゃあ、いつ行くいつ行く?」
「お、由里も乗り気になってきたね!それじゃあ、今週末くらいに行こうか、いくらなんでも明日から行って
きますっていうのは無理だし、あいつも、佳奈も先輩も予定があるだろうからね」
「あ、拓也くん…あの時のこと、まだ気にしてるかも」
「はぁ?ここまで来ておいて、まだそんなこと言うなら、ぶっ飛ばしてやるよ」
「やめてよ、絵美!」
「冗談だよ、あいつもそれなりに順応性高いから、まー今年はいろいろありすぎだけど、平気だと思うよ」
「そうかな…」
「じゃ、今電話してみ!」
「えっ?う、うん…」
由里はケータイを取り出すと、電話帳から拓也の電話番号を読み込ませた。しかし、発信ボタンがなかなか
押せない。
「由里、怖がってても、仕方ないよ」
「だ、だけど…」
「ずるずる引きずるよりは絶対にマシだから」
「わ、わかったよ…」
由里はボタンを押した。すると、ツーコールくらいで拓也の声が聞こえた。
『もしもし、由里ちゃん?』
「あ、拓也くん…こんにちは」
『こんにちは、この頃は大丈夫?…あの時のことは…いや、なんでもないよ』
「うん、元気だよっ!拓也くんこそ、ごめんね!」
『いや、こちらこそごめんね、あんな事になるとは思ってなくて…』
「でも、映画に誘ってくれたこと、本当に嬉しかったよ。だから、今度はこっちからお誘いしたいと思って。
今度、遊園地に行かない?…」
『…』
「拓也くん、やっぱりダメかな…?」
『ううん、そういうことじゃないんだ。ただ、由里ちゃんのことが心配なんだ』
「…ありがと、拓也くん…でも、今回は、大丈夫。多分、だけどね」
『…分かった。うん、喜んで行くよ!』
「わぁい!私、今から楽しみ!」
『それで、どこに行くのかはもう決めたの?』
「うん、今週末、ISJに行くの!」
『え、結構遠いところだね、お金はどれくらい持っていけばいいかな』
「絵美が、出してくれるって!」
『…それは嬉しいけど……』
「どうしたの?」
『うん、じゃあお世話になります』
「うん、じゃあまたね!」
『集合場所が決まったらメールして!』
「もちろん!じゃあね!」
『楽しみしてるよ、由里ちゃん!』
「はーい!」
プツッ
「ほらね、言ったとおりでしょ、大丈夫だって!」
「うん!」
「じゃ、私もあの2人、誘ってみるよ」
「お願い」
絵美は佳奈に電話し、2人も行くことになった。しかし、映子となった英一には少し不安もあるようだった。
「先輩、あれから毎日、痛い思いして成長してるみたい」
「大丈夫なのかな…」
「でも、先輩はむしろ滅茶苦茶行きたがっているみたいだよ」
「え、そうなんだ!」
「でも、とりあえず帰る時間には気をつけないとね」
「そうだね」
その後、絵美と由里は夕食を共に食べ、別れた。夕食中に由里が成長し始め、また一着服が使い物にならなく
なった事以外は、何も起きなかった。
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そして、当日。
5人は、ISJ行きのバスに乗っていた。女子4人は同じ行に座っていたが映子はスタイルのいい絵美からはできる
だけ席を離された。それでも時折、映子は不安そうな表情で絵美を見つめていた。
「大丈夫、先輩。私が、守る」
「佳奈ちゃんも、おっきくならないでね?」
「うん、気をつける」
絵美の方は、いつもよりも静かな声で由里としゃべっていた。
「待ち合わせ場所で会った時、ちょっと胸膨らんでたよね」
「仕方ないでしょ、日の出前だったんだから。早いバスに乗らないと、ホテルで2泊しないといけないって絵美が
言うから」
「ホテルで2泊したくないって言ったのは由里でしょ」
「だって、おうちの外で、おっきくなったまま過ごしたくないもん」
拓也は、その4人の後ろでぐっすりと眠っていたが、バスは大きな駐車場に入っていった。どうやら目的地に
到着したようだ。
「さっ、目一杯あそぼ!ほら、拓也も起きて!」
「う?う…うん。あれ、いつの間に寝ちゃってたんだろう」
「だらしないなー、ほら、そっちの二人も用意して!」
「ひぇっ!」
「絵美、先輩を驚かせないで」
「はぁ…分かったよ…でも、降りる準備はしておいてね」
「はいぃ…」
「先輩は、座ってていい、荷物も、私が降ろす」
「ありがと、佳奈ちゃん」
「二人は、仲良しだね」由里が微笑みながら言った。
「うんっ、佳奈ちゃん優しいんだよっ」
「先輩、恥ずかしい…」
「なんか、同性愛なはずなのに前よりバカップル度が増した気がする、この二人…」
絵美のかつての先輩を見つめる目は冷たかった。一方で由里は、慈愛の目を向けていた。
「先輩、かわいいな…」
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ISJでは、絵美、由里、拓也と、佳奈、映子のグループに別れて行動した。
「じゃあ、午後4時に、ここで待ち合わせね!」
「分かった。遅れるようなら、連絡する」
「さぁ、何乗りに行こうか!」
「あ、このスペース何とかって面白そう」
「いつの間にパンフレット見てるの!どれどれ…うーん、思ったよりもアトラクション多くないね…」
「そうなの?」
「あーいやいや、そんなこと無いよ…」
絵美はなにか取り繕ったようだが、由里は今回も気づかなかった。寝ぼけている様子の拓也は存在感が消えて
なくなっていた。
二人は、3Dシアターや、高くまで釣り上げられてから背中を向けて落ちていくライドを楽しんだ。
そしてあっという間に昼食の時間になった。
「そろそろ食べるところ探そうか、どれどれ…レストランは4つ…」
「私、ここがいいな、ピザが美味しそうなところ」
「よし、レッツゴー!」
「待ってふたりともー」
レストランに到着すると、3人は昼食にしては高価なメニューを物ともせずに入っていった。由里は絵美に甘え
ていたし、絵美もこれまであまり来たことのないであろうテーマパークを、存分に楽しませたがっていた。
席に座ると、メニューが運ばれてきた。
「いらっしゃいませー、メニューが決まりましたら、声をお掛けください」
「はい、ありがとうございます。さあ、何にしようか、アタシ、このスタジオーネってやつにしてみようかな」
「僕は、アンティパスト…」
「あんたそれ、前菜だけど大丈夫なの?」
「なんか、ここのメニュー高すぎだから…」
「ここで遠慮しても何も出てこないよ」
「じゃあ、カプリチョーザで」
「由里は?」
「うーん、あ、トマトスパゲッティにしよ!」
「そんなのパンフレットには…あ、本当だ、ある」
「私、このごろトマトスパゲッティにハマってて…」
「あんたの場合、お店で食べることより、自分で作ることにハマってそうだね」
「うん、そうなんだけどね」
「ん、どうしたの、拓也?」
絵美は、拓也の表情が不安に満ちているのに気づいた。
「え、うん…由里ちゃん、あのパスタ屋さんで食べたのも、トマトスパゲッティじゃなかったっけ?」
「え?そうだったっけ?忘れちゃった」
「そうだったよ…」
「でも私、どうしても食べたいの」
「…由里ちゃん…」
「ダメ?」
由里のねだるような顔を見て、拓也の顔が赤くなった。
「い、いや、そこまで言うなら、止め、ないよ…」
「じゃあ、頼もう!」
そして出てきた料理は、あまりも小さかった。3人はあっという間に、食べ終わってしまった。
「あぁ…予測はできていたけど、これほどとは…」
「テーマパークのレストランってこういうものだよね…」
「美味しかった!」
「「由里(ちゃん)…」」
白ける絵美と拓也をよそに、由里は輝くような表情になっていた。
「この子が幸せなら、いいか…」
「うん…」
「どうしたの、二人とも?」
「ううん、ちょっとまだお腹いっぱいにならないから、ファストフードでも食べようか」
「そういえば、まだ足りない気がするね」
3人はフライドチキンを食べて、ようやく満腹になった。その後は、1つのライドに乗る以外は、ギフト
ショップを回って楽しんだ。そして、午後4時になり、あとの2人と合流した。
「おーい、2人共!」
「あれ、先輩少し大きくなってない?」
「そういえば…」
映子の着ているワンピースは、行きのバスの中では、足の先まで丈があったが、今はひざまでになっている。
「佳奈、先輩…」
「あ、これ。先輩が、ジェットコースター、乗りたいけど、怖いって」
「佳奈ちゃんに大きくしてもらったの。痛いのは…やだったけど、ちっちゃいまま乗り物に乗るのも嫌だった
から」
「チャレンジングなんだか、怖がりなんだか…」
「でも、結局怖くて泣いちゃったの…」
「そうなんだ、でもよくやったね、よしよし…」
と絵美が手を伸ばすと、映子は飛びのくようにしてその手を避けた。
「いやっ!絵美ちゃん、きらいっ!…」
「あーごめんね、つい…」
「絵美、これだから不安だった」
「悪かったって…痛いのはやだよね…」
「うーん、実は、そうじゃないの。だけど、大きくなるのは、やだなの!」
「…?」
「絵美ちゃん、そろそろバス乗らないと…」
「あ、そうだね!ほら、みんなあのバスにダッシュ!」
5人はバスに乗り込んだが、中は貸切状態だったのに気付かずに、一番前の行に女子グループ、後ろに拓也が
座った。
「お客さん、シートベルト、締めておいてください、このバスは、一応高速走りますから」
座ってしばらくしてからもシートベルトを締めないのに気づいたのか、運転士が5人を諭した。
「あ、すみません…」
5人がベルトを締めると、バスは走りだした。次の交差点で停まった時、運転士が言った。
「しかし、珍しいですね、この時間にこの路線を利用されるなんて」
絵美が少し考えてから返した。
「いえ、一人、閉所恐怖症で電車とか混みあった乗り物に乗れなくて…」
実際は、映子がスタイルのいい女性に触れたら、映子の悲鳴やら変身後の裸体やらで酷いことになるからだった。
普段は、朝方に佳奈が大きくなって、映子を変身させるのだが、その日は絵美が映子の痛みを考慮して、変身
しなくてもいいようにしたのだった。
「そうなんですか」
「それが、どうかしたんですか?」
「単なる好奇心ですよ、さあ、動きますから。短い間ですけど、おくつろぎください」
「どうも」
数分後。
「ちょっと…何あれ…」
タンクローリーが横向きになって高速道路を塞いでいた。緊急車両はタンクローリーの奥にいるようだが、
タンクがひしゃげて2枚の側壁の内側に嵌ってしまい、どうにもこうにもできないようだった。
「お客様、申し訳ありません」
「運転士さんのせいじゃないですよ…」
「そうですか」
「いや、そうでしょ」
そうして、5人はバスの中で対処が終わるのを待った。後ろに下がろうにも、高速道路ではどうしようもない。
佳奈と映子はいつの間にか寝てしまった。そのうちに、1時間、2時間と時間が経ち、だんだん日が暮れてきた。
「絵美、どうしよう…」
「由里…運転士さん、毛布とかありませんか、この子が、寒気を感じてるみたいで」
運転士は、前を見ながら身じろぎもせずに言った。
「おや、エミさん…何をしようと言うんですか?」
「何って…この子の体を温め…なんで私の名前を!?」
「私のお気に入りの名前を、忘れるわけないじゃないですか…」
「まさか、運転士さん…いや、あんた…」
「そうです。もうこの展開もマンネリ化してるかもしれませんが」
運転士の制服が、ローブへと形を変えていった。
「そんなの問題じゃないでしょ!こんどこそ倒してやる!あれっ!?」
「シートベルトを外そうとしているんですか?無意味ですよ」
「このっ…このっ…卑怯だよ!」
「ふふっ。なんとでもお呼びください」
「はっ…この事故も…」
「私が手を打ちましたよ、先ほど謝罪したじゃないですか」
「あの時は、社交辞令かと思ったんだよ!」
「どちらにしろ、エミさんにも非があります。あなた、行き先を見ただけでバスに飛び乗ったでしょう?」
「え、そうだけど…この時間にバスがあるって言ってたし」
「のりばを確認しましたか?後ろにもう一台バスがいたのに気づきませんでした?このバス、色は塗ってあり
ますが、会社の名前は書いてないですよ」
「…ぐっ…このぉ…!」
「ふふっ、こんなにうまく行くとは思っていませんでしたよ」
「ち、ちくしょう…由里…ごめんね…アタシが誘ったばっかりに…」
「私の同僚にした仕打ちの見返りです」
そして、由里の変身は始まった。