開放と終焉

tefnen 作
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「どういうこと…?契約って…?」

由里は恐怖でうろたえながらもフリードリヒに尋ねた。

「師弟の契りを交わし、私の道具として働いてもらうのです」
「そんなこと、できないよ!絵美、拓也くん!」
「おや、今その二人に近づくと…」

由里はフリードリヒの脇を通り過ぎ二人の元に走り始めた。すると、二人の体に変化が起こる。拓也はスキー場
で変身したような巨乳少女の姿になり、絵美ももともと大きい乳房が着ていたシャツを横に引き伸ばし始めた。
しかし、由里はそれに気づかず走り続ける。

「だめぇっ…!由里ぃっ!」

絵美が叫ぶと同時に、シャツは張り裂け、ブルンッと乳房が飛び出した。それで由里はようやく気づいて、立ち
止まった。拓也の方も服が限界に来ているようだった。

「な、なんで…絵美に触ってないのに大きくなってるの?拓也くんはまた女の子に…?」
「それは、私の…いや、マスターに私が頼んで掛けていただいた呪いのせいです…由里さんが近づけば近づく
ほど、乳房が大きくなるという、簡単なものですが、マスター以外には解けないようになっています。さぁ、
由里さん、私と契約…を…?」

由里の様子がおかしい。立ち止まったまま手はダランっとし、下を向いて、動かない。

「おや…これは…」

急に地響きがし始めた。それと同時に、由里は顔をフリードリヒに向けた。その瞳には、少しの光もなく、
暗黒だけが広がっている。

「やってしまいましたか…」
「そうだよ…私の魔力が回復しているのに、私を怒らせるなんて…馬鹿みたいだよ!あーはっはっはっ!」

爆発音がし、由里の周りの地面が衝撃波を受けたように剥がれた。由里の声は元々の可愛らしいものだが、その
高笑いは悪魔のようであった。

「言ったよね、私…あなたを破裂させてこの世から消すって…」
「消すとは、言ってませんでしたがね」

フリードリヒは多少焦っているようだがそれでも冷静な口調で答えた。

「あれぇ、そうだっけぇ?まあ、言ったか言ってないかは、関係ない…よ!」

由里が言うとフリードリヒの手足を何かが拘束する。

「このような手枷…転移すれば…」

しかし、フリードリヒが何かを念じても、何も起きない。

「おや…私の転移魔法が効かないとは…」
「効いてるよ?転移したとたんに私が戻してるんだよ。無駄だから、逃げようとしないでね?まずは…」

由里が何かを念じ始めた瞬間。

「フリードリヒを、いじめちゃだめぇ!」

バーンッ

不意に先程から唖然としていたハンナが由里に雷撃を食らわせた。元々の由里であればひとたまりもないで
あろう。だが、

「痛いよ…」

由里は、雷撃の電気をそのまま身にまとったまま、言った。

「な、なんで!私の…」
「というとでも思ったの!?」

その電気は、数倍の大きさになってハンナに襲いかかった。ハンナは直撃を受けて吹っ飛んだ。

「きゃぁぁあ!」
「さて、どうしようかな〜、あ、そうだ。ちょっと、変身魔法、教えてよ」
「そんな知識、今のあなたには、要らないでしょ!…あ、あなたなにを…わ、私の魔力が!」

遠距離にいたはずの由里はいつの間にかハンナのそばにいた。そして、ハンナの頭に手を当て、それを通して
何かを吸い取り始めた。ハンナの体は、それと同時にだんだんと小さくなっていき、元の幼女の姿にもどって
しまった。

「あ、あなたハンナさんだったんだね。気づかなかったよ…少し眠っててね」

由里はその少女の顔を見て、一見無邪気な、しかし奥底に暗闇を感じさせる声で言った。

「さ、今度こそあなたが消える番だよ」
「む…」

フリードリヒは由里がハンナに注意を逸らしていたにも関わらず、束縛から脱することができなかった。

「でも、仕返しさせて。私だけじゃない、絵美、拓也くん、佳奈、それに先輩にしたことの!」

由里が叫ぶと、フリードリヒのローブがはじけ飛び、跡形もなく消えた。フリードリヒは身長180cmでFカップほど
の、しかしスタイリッシュな女性の体になっていた。

「これは、拓也くんの分だよ。わあ、やっぱり綺麗な人。でも…絵美を、否応なく太らせたよね…」

その肢体はボワンと膨らんだ。乳房とお腹はブクッと膨らんで垂れ、手足はだらしなく贅肉がついていた。
乳輪も横に潰れた楕円形に巨大化した。フリードリヒはアメリカにいそうな超肥満体の女性になっていた。

「それで、こんな風にした…」

お腹がギュッギュッと凹むと、その脂肪が移動したかのように、すでにそれぞれが頭より大きな乳房がボンッと
膨らみ、バランスボールくらいの大きさになり、その衝撃でバインバインと揺れた。ぶにゅっと潰れていた乳首
はツンッと立ち、その存在を主張した。垂れていた臀部も脂肪がつめ込まれ張力を取り戻した。さらに、手足が
先の方からギュッと絞られるように細くなると、絞り出された脂肪が胸と尻に入り込み、ブルブルとそれぞれを
揺らしながら大きくした。

「それに、逆にこんなに小さくしたし…」

もはやアダルトかホラー漫画の世界でしかありえないバランスになっていたフリードリヒの体は、逆に縮み始め
た。超巨大化した胸は特に縮み方がよくわかり、それは風船の空気が抜けていくようだった。
フリードリヒは
あっという間に由里の背を下回り、赤ちゃんを通り越して胎児の状態まで戻った。

「あはっ。いまなら、簡単に踏み潰せるね。でも、先輩の分が残ってるよ!」

胎児の状態から16歳位の少女の姿に戻ったフリードリヒに向かって、由里が言った。

「どうだった?死ぬのは怖かった?」
「由里さん、そろそろやめにしないと、後悔しますよ」
「今から消えちゃうあなたには、関係ないよ」

フリードリヒの胸が膨らみ始めた。それはすぐに先程のバランスボールのサイズを取り戻した。同時にすらっと
していた腹部も膨らみ始めたが、こちらは先ほどと違い、パンパンに張り詰め垂れることはなかった。遠目に
見ると、突起のついた2つの大きな球体と溝のついたさらに大きな球体がフリードリヒの体に付いているよう
だった。その球体はさらに大きくなっていた。それはやがてそれぞれに人一人、いや二人が入れるようになった。

「そろそろ、破裂しちゃってね」

由里が言うと、腹部が、縦に広がりきっていたへそから、左右にパカッと引き裂かれた…のではなく、開いた。

「な…」

そこから出てきたのは血ではなく、黒い光の粒だった。それが出てくるごとに、フリードリヒの体はしぼみ、
最後は皮だけが残った。大量に出てきた黒い光の粒は、由里たちの上空で固まり始めた。その姿は…

「まさか、本当に、悪魔…?」

黒い塊に煉獄の炎のように赤く光る目がカッと開かれた。トロピカルだった周りの風景は、地獄のような赤一色
にかわり、雲は煙へと姿を変えた。

「…フッフッフッ…よくぞ我が殻を破壊してくれたな!人間よ!よもやここまで力があろうとは!」
「あなた、何なの…?」
「我に名などない!しかし、この地の人間どもは、我のことを淫魔と呼んでいる」
「インキュバスってこと…?」
「そのようなこと、今は問題にあらず。お前のような、人間の中でもか弱い個体にも我が眷属となり得る力が
あるのだ。どうだ?我と共にこの「日本」と呼ばれる島々を、支配してみたいと思わないか?」
「私が、支配…?」
「そうだ、巨万の富、途方も無い力が手に入るのだぞ」
「そんな…私には…」
「お前には、頼りになるものなどないのだ。その空中に束縛されている二人は、お前に最も近い存在であり
ながら、我の呪いから守ることはできなかった。むしろ、お前が呪いから助けたのに、その見返りはあの巨大化
という「醜態」だった。それに海岸にいる二人は、お前が苦しんでいるのに情事にふけっていた」
「わ、私は…」
「お前の側にいるべき、「家族」と呼ばれるものも、お前を連れ回し、定住したいと申し出れば置いていった」
「…」
「我であればお前になんでも与えられるのだ。そうとなれば、答えは決まっておろう」
「分かりました…我がマスター…」
「契約は成立した。さあ、支配者にふさわしい姿になるのだ」
「はい、マスター」

由里の漆黒の瞳は赤く光りだした。右手の甲にあった呪いの紋章は消え、同時に指が伸び始める。背は190cm位に
なり、髪は黒から燃えるような赤に変わり、腰まで伸びる。胸はGカップまで膨らんだ。顔はこれまでのように
美しくなるとともに、目はキッと伸び、黒い刺青が全体に刻まれた。

「我の服を身に付けるがよい」

悪魔の一部分が分裂すると、それは由里の全身を包んだ。そして瞬く間に固形化し、黒い甲冑となった。

「さあ、行こうではないか、我が下僕よ」
「イェス、マイマスター」

二人はフッと姿を消した。

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すこし時間は巻き戻って、絵美と拓也が、我を失いハンナに電撃を浴びせるのを見ていた。

「よっしゃ、これであいつも一貫の終わりだ!」
「僕達、助かるのかな…」

ハンナはこちらの方に吹き飛んできた。そこに由里がフッと現れた。

「「うわっ…!」」

絵美と拓也の胸が一瞬のうちに近づいた由里に合わせて、ボムンッと10倍くらいに大きくなった。手足を拘束
され浮遊している二人から、突起のついた肌色のものが、足より下まで垂れている状態になった。

「由里っ…お願いだから離れて…」

すると、また乳房はするすると小さくなった。下を見ると、ハンナの体は小さくなり、すでに失神していた。
由里はフリードリヒに立ち向かっていく。

「ちょっ…由里ったらなにやってるの…」

フリードリヒの体がいきなり大きくなったり小さくなったりしている。そして、再び大きくなり、それが
終わった時…

「なに、あれ…」
「由里ちゃん…大丈夫かな…」

黒い粒子が噴出し、フリードリヒだったものの上空に固まった。そして、頭のなかにいきなり声が聞こえてきた。

『…フッフッフッ…よくぞ我が殻を破壊してくれたな!人間よ!よもやここまで力があろうとは!』
「あいつ、人間じゃなかったの?」

得体のしれない何かが由里に言う言葉が伝わってきているようだ。由里が何かを言っている。すると

『我に名などない!しかし、この地の人間どもは、我のことを淫魔と呼んでいる』
『そのようなこと、今は問題にあらず。お前のような、人間の中でもか弱い個体にも我が眷属となり得る力が
あるのだ。どうだ?我と共にこの「日本」と呼ばれる島々を、支配してみたいと思わないか?』
「ゆ、由里、そんな誘いに、乗ったりしないよね」

『そうだ、巨万の富、途方も無い力が手に入るのだぞ』
『お前には、頼りになるものなどないのだ。その空中に束縛されている二人は、お前に最も近い存在であり
ながら、我の呪いから守ることはできなかった。むしろ、お前が呪いから助けたのに、その見返りはあの巨大化
という「醜態」だった。それに海岸にいる二人は、お前が苦しんでいるのに情事にふけっていた』
「由里、そんな奴のいうこと聞いちゃダメ!」

しかし、絵美の言葉は届かない。

『お前の側にいるべき、「家族」と呼ばれるものも、お前を連れ回し、定住したいと申し出れば置いていった』
「家族の人も由里と別れたくないから一緒に連れて行ったんだよ!それに、一人暮らしは転勤が多い仕事だから
仕方ないって自分でも言ってたじゃない!」

『我であればお前になんでも与えられるのだ。そうとなれば、答えは決まっておろう』
「ダメ!由里!ダメーっ!」
『契約は成立した。さあ、支配者にふさわしい姿になるのだ』
「ゆ、由里ぃ…」

由里の姿が変わっていく。絵美は絶望感に打ち砕かれ、涙をながすことしかできなかった。そして、由里と
悪魔の姿は消えた。

「由里ぃ…どうしてぇ…」

佳奈が近寄ってきた。映子も必死になって走っている。

「絵美…」
「佳奈っ!どうして何もしなかったのっ!…おかげで、由里が…」
「絵美ちゃん…」
「私は、体が動かなくなって…」
「何とか出来たでしょっ!佳奈の馬鹿っ!」
「絵美っ!!!」

佳奈がその巨体で叫んだ。そのせいで辺りの海面が激しく揺れた。絵美は泣くのをやめた。

「落ち着いて!私だって悲しいんだからっ!」
「佳奈…」
「一番頭が良い絵美が取り乱してどうするの!由里を取り戻したいと思わないの!?」

大きな声で怒鳴り続ける佳奈。浜辺の砂にだんだん波紋が付いてくる。しかし、その目にも涙が浮かんでいた。

「それは、そうだけど!アタシたちには…」
「私が先輩に告白した時、どんなに勇気が必要だったか分かる?名前も知らない、恋人がいるかもわからない
先輩に、振られる覚悟がどれだけ必要だったか!」
「佳奈?」
「それだから、こんなになっちゃったけど、今でも先輩のこと好きなんだよ!」
「佳奈ちゃん…」映子が人知れず顔を赤らめた。
「だから、絵美も勇気を持ってよ…何でも試してみようよ…」
「佳奈…うん…分かった…」

「その意気ですよ…」
「ハンナっ!?」

絵美が下を見ると、ハンナがよろよろと立ち上がった。絵美の悲しみは吹き飛び、怒りがこみ上げてきた。

「魔力の源の大半を奪われてしまい、あなた方を解呪することはできませんが…」
「ふんっ!あんたなんて、誰が信用なんかするか!」
「わ、私はあの魔術師に洗脳を受けていたのです…」
「あいつは、あんたが自分で受け入れたと言ってたけど!?」
「し、信じてください。それとも、あなたは私よりあの悪魔を信じると?」
「ぐ…」
「私は、本国に救援を要請しに行きます。ただ、あなた達の助けがまた必要になります。あの悪魔もそれを理解
しているはずですから、気をつけてお過ごしください…」

ハンナの姿がフッと消えたかと思うと、周りの地獄のような風景が、由里の家の周りに変わった。佳奈はそれに
気づき自分のサイズを戻した。

「なんで、私達、外に」
「ハンナ、転移先の座標?みたいなの間違ったね…」
「恥ずかしいよぉ…」
「とりあえず、みんな由里ちゃんの家に入ろう!」

朝焼けの空の一片に、黒い雲が漂っていた。