吾輩は猫である。名前はもうある。シロウである。ちなみにメスである。私はこのヒロシ様の飼い猫であり、ヒロシ様の事が大・大・大好きである。ヒロシ様は捨て猫だった私を拾って育ててくれました。その事もあって、私は今でもヒロシ様の命令には逆らいません。
毎朝必ず毛繕いをして身支度を整えて、ヒロシ様を起こす事は欠かした事はございません。勿論、食事をするのはヒロシ様が食べ終わるまで待っています。絶対にヒロシ様に迷惑をおかけしませんし、ヒロシ様がお帰りになる前には玄関にてお待ちしております。ヒロシ様もそんな私を見て、「シロウは賢いなー」と言ってくれまして、その言葉に私はいつも嬉しくなりすぎて困ってしまいます。
しかし、そんな私に困っている事があります。それは女です。ヒロシ様は御年12歳、下賤な話になりますが、性に興味津々なお年頃です。今日も道に捨ててあった『エロティックエスト』なる本を読書感想文にするだなんて言いだしました。そりゃあ、ヒロシ様は元々読書感想文が苦手でして、毎年読書する本もページ数が薄い本を選ぶ傾向がありましたが、今年は何でも選んでいいと言う事でそんな内容自体も薄い本を選んでも良いんですが、なんで私を膝の上に乗せて読み始めようとするんですか!
「シロウ〜。一緒に読もうね〜」
そ、そんな事を言われましても、ヒロシ様と一緒に女の本なんか見るだなんて、気持ち的に非常に気乗りしないんですが……。
「ん……? シロウがいつにもまして、不機嫌そうだな。調子が悪いのならば、病院にでも……」
びょ、病院!? ヒロシ様と離れる事になる!? そ、そんなのは嫌です。こ、ここは諦めて、大人しく見ておきます。
「あれ? 静かになった? じゃあ一緒に本でも読もうか」
と、ヒロシ様はそう言って、私を膝の上に載せたままページを開きました。
すると、いきなりまぶしい光が私とヒロシ様を包み込みました。
○
私が目を覚ますと、そこは真っ白な空間で、ヒロシ様が私の前で横たわっていました。
「ひ、ヒロシ様!?」
私は急いでヒロシ様を起こそうとしますが、ヒロシ様は目をつぶったまま起きようとはしません。ど、どうして動かないんでしょう?
「眠ってるだけですから安心していただいて結構ですよ」
「だ、誰ですか!?」
と、私がそう言うと、目の前に1人の少女が現れた。赤い血のような色のスーツを着た、金色の髪と緑色の瞳が特徴的な14歳くらいの少女である。その少女は私を見て静かに笑った。
「―――――初めましてですね。私の名前は恋愛悪魔のユーリエルと申します。この度は恋愛悪魔の小説をご利用いただきまして誠にありがとうございました」
「れ、恋愛悪魔の小説!?」
「いえ、この場合でしたら恋愛悪魔の読書感想文と言った所でしょうか。どうやらそこの主様は、読書感想文のためにこの小説を得たみたいですから」
そう言って、彼女、ユーリエルは私の主、ヒロシ様を指さす。
「ひ、ヒロシ様が?」
「あの『エロティックエスト』は私どもの商品、恋愛悪魔の小説でございます。まるで誰かが捨てたエロ本のように道に放置して、持って帰った人を永遠に覚めない桃色の楽園に招待すると言うのがこの恋愛悪魔の小説の実態でございます。しかし、まさか12歳の少年が拾って、読書感想文用に読むとは私どもも考えてはございませんでしたが」
「ひ、ヒロシ様はこれからどうなるの!?」
「『エロティックエスト』は名前の通り、エロティックで刺激的で、かつ平和的な冒険活劇なエロ本でございます。出会うモンスターや人々は全て美女で主人公の事が好き、ご都合主義なお話になっております。帰ろうと言う気すら起きない、永遠の女の花園ですね。とまぁ、本来であればこんな説明もないんですよ。聞くと帰りたがるお客様もいらっしゃるので」
じゃあ、なんで私にそんな事を言うのでしょう?
「まぁ、今回は特別大サービスでございます」
そう言って、彼女は私に牛乳瓶を取り出す。そして私の前にその開けた瓶を持ってくる。
「これは?」
「改良版、恋愛悪魔のシンデレラです。あなたがオスだった場合はあなた好みの天国をご用意する所なんですが、あの長塚博君が大好きなメス猫だった場合は話が別です」
「ちょt……!」
なんでそんなに早く私のヒロシ様への思いがばれているのかと言う問題より先に、私はその牛乳を飲まされました。すると、いきなり私の身体が熱くなっていく。
毛並がふさふさとしていた自慢の毛並みは消えて行き、代わりに透き通るような人間の肌が顔を出し、猫そのものの顔もあどけなさを持つ少女の顔に変わりました。そして身体がぐんっと伸び初めて、腕や足がスラッと伸びていく。そして女の象徴的部位である胸が初めは見る影もなかったのに、まるで空気を入れた風船のようにぐぐっと膨らみ初め、そのまま形を整えていく。その間、私は喘ぎ声を我慢しているが、身体の変化は終わらない。お尻は魅力的な豊満なお尻へと変わり、胸はどこまで膨らむか分からないくらいどんどんと膨らんでいく。そしてあまりの熱さのあまり、
「ニャ―――――――――!」
と、私ははしたない声をあげてしまった。そして胸は足の先が見えなくなるほどの、ヒロシ様のお母様が買ってきたバランスボールくらいの特大サイズまで膨らみ、最後に私の頭の上に猫耳、そして猫の尻尾が生えました。
私は、人間の、しかも魅力的な女性の姿になっていました。
「特別サービスです。そこの博君と永遠の甘い性活を送ってください。けれども、あなたのライバルが多い事をお忘れなく」
「ありがとう……。本当にありがとう……」
私のその心からの感謝の言葉に、ユリーエルさんはこう答えた。
「礼には及びません。冒険を楽しんで来てください、お二方」
そして私はヒロシ様と共に、新たな世界へと旅立った。